「全員が空気を吸うように」AIを活用。CIO自ら推進するコロプラ流・浸透の秘訣とは

生成AIの活用が企業にとって不可欠な時代となる中、ゲーム業界のリーディングカンパニーである株式会社コロプラは、コンテンツ制作から業務改善まで、全社を挙げてAI活用を推進している。約2年前に弊誌の取材に応じていただいた同社に、その後の進化と最新の取り組みについて、CIOの菅井さん、広報部長の中嶋さんにお話を伺いました。今回は特に、生成AI大賞でグランプリを受賞した『神魔狩りのツクヨミ』の事例や、CIO自らが旗振り役となって社内浸透を加速させる独自の文化に迫ります。

AIを「日常業務の選択肢」に。活用率100%を目指し推進

Q.まず、貴社におけるAI活用の全体的な方針について、最新の状況を教えてください。

菅井さん: 私たちのAI活用は、まず土台として「AIを“特別なツール”ではなく“日常業務の選択肢に自然に入っている状態”にすることを土台にしています。狙いは利用率そのものではなく、業務プロセスに組み込み、モデルが進化しても運用が回り続ける仕組みを作ることです」という、100%活用を前提とした方針を掲げています。

AIの活用法は大きく2つあり、一つは『神魔狩りのツクヨミ』のようにAIでコンテンツをより楽しくするUXの向上、もう一つは業務改善を目指すDXです。これら両輪を回す上で、全社員がAIの存在を当たり前のものとして認識している状態が不可欠だと考えており、その基盤固めとして「100%活用」を推進しています。

Q.具体的な取り組みはどのように進めているのでしょうか。

菅井さん: 常に「ユーザー様にどのような体験を届けられるか」という視点を前提に考えています。

最近では、社内のSlack上で稼働するAIエージェントを複数開発したり、社内データへのアクセス方法を整備し、それを将来的にゲーム体験へどう活かせるかといった検証を進めています。もちろん、新しいモデルは早期に試しますが、重要なのは“モデルを固定しない設計”です。ワークフロー側に評価とフィードバックを組み込み、差し替え可能な形で継続改善できるかを見ます。

 AIで新たなユーザー体験を創造。IP・クリエイターとの合意形成を設計に組み込む『神魔狩りのツクヨミ』

Q.ユーザー体験の向上という点では、特にゲーム開発においてどのようにAIを活用されていますか?

菅井さん: 先日、ありがたいことに「生成AI大賞2025」でグランプリをいただいた『神魔狩りのツクヨミ』の事例が、私たちの取り組みを象徴しています。このプロジェクトでは、クリエイターである、金子一馬さんから正式に許諾を得て、その方の絵をAIに学習させ、新しいカードイラストを生成するという手法を取りました。

AI活用がなかなか受け入れられにくいゲームという領域において、その壁を一つ突破できた好例だと考えており、今後この成功事例をカードイラストに限らず、様々なクリエイター様との協業で増やしていきたいと模索しているところです。

▼『神魔狩りのツクヨミ』キービジュアル

Q.画像生成AIは著作権の問題が非常にシビアですが、クリエイターからの許諾を得る上で特に工夫した点や、大変だった点はありましたか?

菅井さん: 今回ご協力いただいた著名なゲームクリエイターである金子一馬さんがコロプラに在籍しているという環境も大きいですが、AIという新しい技術に対して非常に好意的で、「面白い」と受け入れてくださったことが大きかったです。もともと悪魔などをモチーフに描かれる方で、ゲーム自体のダークなコンセプトとAIというテーマが合致したことも、ご本人の快諾に繋がったのだと思います。

▼『神魔狩りのツクヨミ』にてAIが生成したイラスト

そのおかげで、取り組み自体は非常にスムーズに進みました。生成AI大賞をいただいた際も「難しい市況の中で生成AIと向き合った」という評価をいただき、先日もOpenAIとディズニー社の提携や「ビックリマン×AI」といった事例が出てきている中で、我々が「版元・IP・クリエイター×AI」という流れの先駆けとなれたことは、非常に価値ある一歩だったと振り返っています。

Q.このようなIPと生成AIを組み合わせる事例は、今後増えていくとお考えですか?

菅井さん: 社会全体がその方向へ変容していくことは間違いないでしょう。その変化の速度に対して、我々がどのように寄与し、関わっていけるかが重要だと考えています。様々な課題をはらみながらも、エンターテインメントをより楽しむという方向性は変わらないはずです。

また、AIは新しい体験を生むだけでなく、クリエイター自身の創作活動を支援する側面もあります。例えば、AIによってアウトプットのスピードが向上し、「もう遊べないと思っていたコンテンツが再び楽しめるようになった」とユーザー様に喜んでいただいたり、あるいは「少し描けなくなっていたけれど、AIの補助があればまた創作できる」といったポジティブな側面が広く認識されれば、こうした取り組みはさらに増えていくのではないでしょうか。

 ボトムアップとトップダウンの両輪で推進する、全社的なAI活用

Q.次に、業務改善という観点での社内活用についてお伺いします。どのようなツールや使い方をされていますか?

菅井さん: 弊社の業務環境はGoogle Workspaceがベースですので、GeminiやNotebookLM、Vertex AI Searchなどを土台に活用しています。それに加えて、自社チャットツール経由で複数LLMを使い分けています(ClaudeのOpus系など高性能モデルを含む)。用途ごとに最適なモデルを選びつつ、特定モデルへのロックインは避けています。アイデア出しの精度が格段に向上したことで、企画立案のスピードは飛躍的に上がったと実感しています。

私たちは特定モデルの性能を追うよりも、モデルを交換可能な部品として扱い、社内データへのアクセス、ワークフロー統合、評価、権利・来歴の管理まで含めた“制作・運用の仕組み”を資産として積み上げています。

カテゴリ 主なツール/サービス
基盤(モデル/ID/業務OS) Google Workspace(Gemini含む)、ChatGPT、Claude
オーケストレーション/エージェント ADK ベース の AIエージェント(社内開発)、自社製チャットツール(LLM接続のハブ)
現場ワークフロー統合 Cursor(開発支援)、Google Workspace上の業務フロー
知識アクセス/検索(社内データを活かす) NotebookLM、Vertex AI Search

Q.「100%活用」を支えるために、研修などはどのように行っているのでしょうか?

菅井さん: 人事部が主導する「まず触ってみましょう」という基本的な研修はありますが、現在はそれ以上に、各部署にピンポイントでアプローチする形を重視しています。例えば、私が担当するAIチームから経理や人事といった部署に直接出向き、「こういう使い方はいかがですか?」と具体的な活用法を提案しています。AIはあくまで増幅装置なので、その業務の専門家自身が使えるようになることが最も効果的です。そこで、まずは各業務にフィットした提案から始めています。

中嶋さん: 弊社の強みは、まずCIOである菅井が先陣を切って社内にAIを広めている点にあります。単にツールを導入するだけでなく、彼自身がSlackチャンネルで最新情報を分かりやすく、時には面白いサムネイルを付けて「こんなのあるよ」「こんな使い方ができるんだよ」と発信してくれるのです。現場の人間が「面白そう」「自分にもできそう」と思えるように翻訳してくれるこの活動が、社員とAIとの心理的な距離を縮め、社内浸透を加速させています。

そして、生成AI大賞を受賞できた背景にもある、経営層の「リスクを恐れず、やるべきことはやる」という強い意思決定力も、もう一つの大きな強みです。このトップのコミットメントと、先ほど申し上げた菅井が率いる現場の推進力が両輪となっているからこそ、弊社のAI活用は前進し続けています。この文化こそが、他社にはないコロプラの魅力だと自負しています。

Q.熱意のある社員を発掘してアプローチする、というお話もありましたが、具体的な事例はありますか?

菅井さん: はい。例えば、マーケティング部門から「ぜひAIを使ってみたい」という声が上がった際には、「では、担当者の方と一緒にCursorを使いながらAIエージェントを開発してみましょう」といった形で、伴走型の支援を行いました。こうした取り組みを通じて開発したツールは継続率が非常に高く、「もう手放せない」という声も聞かれます。エンジニア以外の職種にも、こうした成功体験が徐々に広がっている手応えがありますね。

 AI活用の現在地と、エンターテインメントの未来

Q.AI活用を進める上での現状の課題について教えてください。

菅井さん: 一番の悩みは、AIの性能評価の難しさです。例えば、新しいLLMが発表された際に「こういう性能です」と指標が示されても、実際の体感とはかなり異なることが少なくありません。「Geminiは優秀です」と言われても、用途によってはChatGPTの方が良いと感じる場面は依然としてあります。結局、どのAIが最適かを知るには実際に触ってみるしかないのですが、ゲーム開発には多種多様な職種が関わるため、検証すべきAIの種類も膨大になります。「職種×AI」の組み合わせで無数の最適解が生まれ、情報の更新速度も速いため、そのキャッチアップと適用範囲の見極めが大きな課題となっています。

Q.最後に、今後のAIに関する取り組みの展望と、エンタメ業界の未来についてお考えをお聞かせください。

菅井さん: やはり私たちは、AIがもたらす「体験の楽しさ」を追求し続けたいと考えています。イノベーション創出を担うKuma the Bear開発本部を中心に、AIを活用したプロダクト開発を加速させ、新しい体験をいち早くユーザー様にお届けしたいです。また、社内で効果が実証されたAIエージェントのような仕組みを、今後はユーザー様の体験向上にも繋げていきたいですね。

将来的には、AIによるリアルタイム生成がさらに進化し、よりパーソナライズされた体験が生まれると考えています。ユーザーの行動や感情に対するフィードバックの速度が、全く新しいエンターテインメントを創出する鍵になるでしょう。例えば、Deepmind の Genie のようなものがコスト低くリアルタイムのゲームが生成されるようになれば、様々な概念が変わるかもしれません。そうした未来の片鱗が、もうすでに見え始めていると感じています。