“ワクワク感”から始まったAI推進。全社を巻き込み6万時間削減を達成した「3つの仕掛け」とは

株式会社wevnalは、AI接客ツール「BOTCHAN AI」や電話AIエージェント「BOTCHAN AICALL」を提供し、企業の顧客接点におけるDXを支援しています。

同社全社的なAI活用を推進し、わずか1年で6万時間もの業務削減を達成した背景には、「ワクワク感」の伝播から始まったユニークな取り組みがありました。この記事では、同社の生成AI活用の取り組みについて、BOTCHAN AICALL事業責任者・事業推進室室長・AI戦略室室長の森川さんへお話を伺いました。

“ワクワク感”の伝播から始まった、全社的なAI活用

Q.まず、貴社の事業内容についてお聞かせください。
森川さん: 私が管掌するプロダクトとしては、主に2つのプロダクトを展開しています。一つはオンラインAI接客ツール「BOTCHAN AI」で、こちらは累計100社以上のお客様にご利用いただいております。もう一つが、昨年9月にリリースした電話AI接客エージェント「BOTCHAN AICALLl」です。こちらは新しいプロダクトですが、既に約10社のお客様にトライアルでご利用いただいている状況です。これらのプロダクトを通じて、企業の顧客接点のDXを支援しています。

Q.早速ですが、社内で生成AIプロジェクトを始められた背景や目的について教えてください。
森川さん: 私たちの社内プロジェクトでは、現在約100個のGPTsが作られ、活用されています。その結果、総削減時間にして約6万時間という大きな削減効果を生み出すことができました。このプロジェクトは、最初から「業務時間を効率化する」という明確な課題があったわけではありません。始まりは、私自身が感じていた生成AIへの「ワクワク感」を社内に伝え、「これを活用して何か面白いことができないか」と、まずは相談を持ちかけるところからでした。

Q.特定の課題解決ではなく、自発的な動きから生まれたのですね。そこから、どのようにして全社的なムーブメントに繋げていったのでしょうか?
森川さん: 私が2025年1月に最初の研修を行ってから、同年2月にはGPTsを活用するためのナレッジベースを作成しました。3月にはSlackコミュニティを立ち上げました。プロジェクト立ち上げ後、すぐに別の社員が「新しいGPTs作ってみました」と報告をくれるようになりました。例えば、クライアントの要望をToDoリストに落とし込む作業を効率化する「要件定義サポーター君」が生まれたのも、そうした自発的な動きからです。

この熱量を全社に広げるために、私たちはコミュニティを形成し、そこでの情報共有を活性化させました。具体的には、定期的に「総削減時間330分達成!」「時給3000円とすると、66,500円のコスト削減ができました」といった成果を可視化して共有しました。誰がGPTsの利用回数に貢献しているかを表彰したり、新しく作られたGPTsとその作成者を紹介したりすることで、良い循環が生まれました。そこから、「この記事良かったです」と他社の活用事例がシェアされたり、「私も新しいGPTs作ったよ」と、次々に新しいアウトプットが生まれるサイクルを作り上げることできました。

重要なのは、コミュニティという箱を作るだけでなく、そこに定期的に有益なコンテンツを投下し、メンバーのリテラシーや知識を引き上げていくことです。そして、アウトプットがどれだけ成果に結びついているかを可視化することで、それが社員自身の評価、例えばOKRのKR(Key Result)達成にも繋がるという意識を醸成しました。外発的な報酬ではなく、貢献したい、もっと良くしたいという内発的な動機付けによってコミュニティが盛り上がっていったのが、私たちの取り組みの特徴だったと思います。

浸透スピードを加速させた、カルチャー・トップダウン・推進者の「三位一体」

Q.わずか1年で6万時間削減という成果は驚異的です。他の組織では浸透に時間がかかるケースも多い中、なぜこれほど早く実現できたのでしょうか?

森川さん: スピーディーな浸透には、3つの要因が噛み合ったと考えています。

1点目は「カルチャー採用」です。私たちは「CHALLENGER」「PROFESSIONAL」「HONESTY」「Team wevnal」といったバリューを掲げており、採用の段階から、過去の実績や役職だけでなく、そのカルチャーにフィットするかを重視しています。新しいことに挑戦し、+Oneの価値を創出したいというマインドセットを持つメンバーが集まっていたことが、自ら一歩踏み出す土壌になっていたのだと思います。

2点目は「トップダウンの号令」です。1月、2月とボトムアップで火を点けていきましたが、それだけでは全社への波及は難しいと感じていました。そこで、代表を含めた役員陣にプレゼンを行い、3月1日の全社発表で、会社のOKRのKR1に「生成AIを圧倒的に使いこなして業務時間を削減せよ」という目標を正式に設定して頂きました。ボトムアップで生まれた熱を、トップダウンで一気に全社へと広げられたことが大きな推進力になりました。

そして最後の3点目が、「エバンジェリスト(推進チーム)の設置」です。この取り組みが「森川しかわからない」という属人化した状態に陥らないよう、私以外に5〜6名のエバンジェリストを任命しました。彼らがコミュニティを盛り上げたり、具体的な課題相談に乗ったりすることで、「組織の縁の下の力持ち」としての役割を明確に担ってくれています。私が社員からの質問にすぐに対応することができなかった際、後で確認をすると他のエバンジェリストが既に解決してくれていたこともあり、このチームの存在は不可欠でした。この3つの要素が揃えば、どんな組織でも淀みなく成果に繋げていけるのではないかと考えています。

“習慣”に溶け込むAI。全業務に分散させる活用術

Q.社員の皆さんは、具体的にどのような業務で生成AIを活用されているのでしょうか?
森川さん: 特に多く使われているGPTsがいくつかあります。一つは、ミーティングの議事録作成をサポートする「議事録作成サポート君」です。オンラインミーティングとレコーディングが当たり前になる中で、録画された1時間の音声データを毎回聞くのは非効率です。そこで、ミーティングが終わると自動でGPTsが走り、議事録を生成する仕組みを整えました。

二つ目は、開発の要求定義をサポートする「助太刀マン」です。これはカスタマーサクセスチームが顧客から受けた要望を開発に伝える際に、手戻りが発生しないよう、エンジニアが必要とするドキュメント形式に自動で整えてくれるものです。

三つ目として、採用面接の評価コメント作成を支援するGPTsもよく使われています。面接後に評価コメントの第一案を自動生成してくれるため、書き漏らしや記憶の薄れを防ぐことができます。

Q.多様な業務で活用されていますが、そこから見えてきた「使われるAI」の共通点はありますか?
森川さん: ええ、2つの重要な学びがありました。一つは、活用が特定の領域に偏らず、ミーティング、開発、採用といった形で「ホリゾンタル(汎用的)に使える」ということです。もう一つは、最も重要なことですが、その活用が「皆さんの生活習慣、行動に組み込めているか」という点です。プロンプトを学ぶといった追加のタスクになってしまうと、結局は「自分でやった方が早い」となり、定着しません。

例えば議事録作成は、ミーティングが終われば自動でGPTsが動き、Notionに格納される。ユーザーは特別な操作を意識することなく、習慣行動を変えずにAIの恩恵を受けられる状態になっています。このように、既存の業務フローの中にいかに自然に、自動で組み込むかを設計することが、「使われるAI」に仕立て上げる鍵だと気づきました。

「使ってもらう」から「絞る」へ。柔軟なガイドライン設計思想

Q.全社で活用する上で、セキュリティやコンプライアンスに関するガイドラインはどのように整備されたのでしょうか?
森川さん: 縛りすぎると活用が進まないため、段階的なアプローチを取りました。まず最初は「生成AIは課金OK」と宣言し、使いたいツールは経費で使える状態にしました。その上で、唯一のルールとして「オプトアウト設定(入力データをAIの学習に使わせない設定)は必須」とし、徹底しました。

次に、利用が進む中で「これは組織として使うべきだ」というツールとしてChatGPTを選定し、法人向けのワークスペースを契約しました。これにより、SSO(シングルサインオン)を実装し、個人設定に頼らずとも組織単位でオプトアウトが担保される、よりセキュアな環境を整えました。

そして最後の段階が「絞る」ことです。様々なAIツールが乱立するとナレッジが分散してしまうため、我々の組織OSであるGoogle Workspaceとの親和性も高く、性能も向上してきたGeminiに一本化する意思決定をトップダウンで行いました。ナレッジの集約とコスト管理が目的です。このように、まず自由にばらまき、その後に効果的な形に絞っていくという流れで進めました。

業務効率化の先へ。全社で「事業創造」に挑む第二フェーズ

Q.6万時間もの業務削減を達成された今、次は何を目指していくのでしょうか?今後の展望についてお聞かせください。
森川さん: 昨年1年間は、まさに「業務効率性の向上」という組織変革を実現できたと振り返っています。生成AIを組織の血流にしっかりと流し込むことができました。

そして今年のテーマは、「事業創造」です。私が新規事業を作れるだけでなく、wevnalの他のキープレーヤーたちも事業を創造できる状態を目指します。そのために、事業部長やCXO、マネージャークラスを対象にノーコード研修を始めています。彼らがビジネスチャンスを見出し、ユニークな解決策をプロダクトという形に落とし込み、顧客に価値を問い、事業を育てていく。そのバッターボックスに立つ回数を最大化することで、年末までには「誰もが新規事業を作れる組織」を作っていきたいと考えています。

Q.最後に、読者の方へメッセージがあればお願いします。
森川さん: 昨年リリースした電話AIエージェント「BOTCHAN AICALL」は、まさに生成AI駆動開発した事業です。開発チームはCTOと私以外はグローバルメンバーで構成され、コードの8割以上をAIが書いています。この新しいプロダクトが順調に成長しており、現在カスタマーサクセスのチームを組成し始めています。

AI駆動型の事業開発や、その顧客成功体験の創造にチャレンジしたいという方がいらっしゃれば、ぜひカジュアル面談にお越しいただきたいです。コールセンターのドメイン知識は後からキャッチアップできます。SaaS業界での経験があり、論理的思考力とやりきる力があれば大歓迎です。一緒に未来を創っていけることを楽しみにしています。