ITサービスを基盤に、金融、エンタープライズ、製造業など幅広い業界のDXを支援する株式会社クレスコ。
同社は2022年という早い段階から生成AIの活用に着手し、自社開発の生成系AIチャットサービス「CrePT(クレプト)」やMicrosoft 365 Copilotなどを全社規模で導入。現在では、全社員1600名のうち利用者が80%に達するなど、業界でも先進的な取り組みを推進しています。
今回は、同社のAI活用を牽引する生成AIビジネス変革研究室担当役員の村田さんと、同研究室のリーダーである青山さんにお話を伺い、競争力確保を見据えた導入の背景から、全社浸透を成功させた具体的な施策、そして未来の展望までを詳しくお聞きしました。

競争力確保を目指し早期に着手。顧客ニーズを捉えるため開発現場主導の体制を構築
Q.そもそも、なぜこれほど早い段階から生成AIの導入を検討されたのでしょうか?
村田さん: 生成AIは今後、ビジネスにおいて欠かせない存在になると考えていました。その中で最大の目的は、やはり「競争力の確保」です。我々が早期に生成AI活用へ着手することで、市場やお客様のニーズに対して、同業他社に先駆けてお応えしていくことが必要不可欠だと考えました。それが、全社で生成AI活用を推進する第一の目的となりました。
我々が検討を始めた2022年当時は、まだ生成AIの精度も十分とは言えず、具体的な活用方法を模索している状態でした。しかし、生成AIが将来的に大きな変革をもたらすことを見据え、いち早く取り組みを開始しました。
Q.推進体制にはどのような特徴があるのでしょうか?
村田さん: 弊社では、AI専門の研究組織を独立させるだけではなく、お客様と直接対峙している開発部門のメンバーが、生成AIの研究から実務応用まで一貫して担う体制をとっています。専門組織にしてしまうと、どうしても現場からの「また聞き」でニーズを把握することになり、お客様との距離が生まれかねません。お客様の状況を最もよく知る現場のメンバーが、直接ニーズを察知し、それをどう技術で解決していくかを自ら考えることで、よりお客様に寄り添った価値提供に繋がると考え、あえて現場主導の体制を優先しました。大変な面もありますが、お客様のニーズに敏感になれるというメリットは非常に大きいと実感しています。
全社員1600名が使える環境を整備。自社開発ツールとCopilotの併用でコストと利便性を両立
Q.現在、現場の社員の皆さんは具体的にどのような形で生成AIを活用されているのでしょうか?
青山さん: 弊社では、全社員が生成AIを当たり前に使える環境を整えることを重視しており、その基盤として、主に3つのツールを全社的に展開しています。
1つ目は、Azure OpenAI Serviceを利用する、自社開発した生成AIチャットサービス『CrePT』です。これは全社員1600名が社内ネットワークからいつでも利用できる環境です。
2つ目は、より高度な活用を目的とした『Microsoft 365 Copilot』で、全社規模で導入しています。こちらはMicrosoftの顧客導入事例としても我々の取り組みが紹介されています。
3つ目は、開発現場向けにコーディング支援ツール『GitHub Copilot』も早期から導入しています。
これらの社内標準ツール以外にも、プロジェクトの目的や用途に応じてGoogleのGeminiなど他のモデルを使いたいという要望があれば、リスクアセスメントなど社内審査を経て利用可能とするプロセスも整備しています。

Q.複数のツールがあると、社員が迷うこともあると思いますが、どのように整理されたのでしょうか?
青山さん: 社員一人ひとりに「この業務ではこちらを使うべき」という厳密な使い分けは求めていませんでした。全社員が生成AIに慣れていく途中の段階だったためです。私自身は「ドキュメントの体裁を整えるならCopilotよりCrePTの方が精度が高い」といった使いこなしをしていますが、全社的なメッセージとしては「どちらでもいいから、まずは使ってみてほしい」というスタンスでした。最優先に考えていたのは、生成AIを使うこと自体を当たり前の文化にしていくこと、その中で、個々人が自分に合った使い方を見つけてくれれば良いと考えています。
一方で、ツールを併用する背景には大きな戦略として「コスト最適化」もあります。Microsoft 365 Copilotは非常に高機能ですがライセンス費として固定費が発生します。対して自社開発の『CrePT』は従量課金制であり、使った分だけしか費用がかかりません。Copilotは利用頻度の高い社員に重点的に割り当てつつ、『CrePT』によって全社員が低コストで生成AIに触れられる環境を維持する。このハイブリッド構成こそが、全社規模での展開を現実的なものにしています。
| ツール名 | 特徴 | 主な用途・メリット |
| CrePT | 自社開発の生成系AIチャットサービス(Azure OpenAI Service利用) | ・API公開による自動化
・全社員が使える環境を従量課金で実現 |
| Microsoft 365 Copilot | Microsoft Office製品との連携に優れたAIアシスタント | ・Officeドキュメントの作成・修正、要約
・会議の議事録作成など、日常業務との親和性が高い |
全社利用率80%を達成した「5つの施策」。トップダウンとボトムアップの両輪で浸透を加速
Q.全社で80%という高い利用率を達成されていますが、ツールに不慣れな社員も含めて、どのようにして活用を浸透させていったのでしょうか?
青山さん: 単に生成AIの環境を整えて「皆さん、使ってください」と案内するだけでは、実際の活用にはつながりません。弊社では、長期間にわたり5つのカテゴリーで施策を分類し、継続的に取り組んできました。
| カテゴリー | 具体的な取り組み | 目的・効果 |
| 環境 | CrePT、Copilotなど複数のAIツールを全社に提供 | 全社員がいつでも生成AIを利用できる“日常的な使用環境”を整備 |
| ルール | 利用ガイドラインを早期に策定し、公開 | 「使って大丈夫?」という不安を解消し、安心して利用できる状態を構築 |
| マインド | 社長自らが全社に活用の重要性を発信 | トップダウンで「使うのが当たり前」という意識を醸成 |
| 教育 | ハンズオンセミナーやeラーニングを継続的に実施 | 社員の習熟を促し、“使い続けられる”スキルと活用方法を定着 |
| 状況把握 | 利用率などのデータを月次で取得し、全社に共有 | 活用の進捗を可視化し、次の施策への改善サイクルに繋げる |
青山さん: この5つをバランス良く、そして地道に続けてきたことが、現在の利用率80%という結果に繋がったと考えています。特に、トップダウンでの「マインド」醸成と、利用状況を継続的にデータで可視化する「状況把握」は大きな効果がありました。定期的にメッセージや利用状況が届くことで、社員も「会社が本気で取り組んでいる」という意識が高まったと思います。
また、ボトムアップの活動として、全社員が参加できるTeams上の「生成AIコミュニティ」も運営しています。誰でも自由に質問や活用アイデアを投稿でき、現在では全社員の約半数が閲覧する活発な場となっています。こうしたオープンな情報交換を通じて、一部の専門家だけでなく、会社全体で生成AIに向き合う文化が育ってきています。
開発工数90%削減や採用強化など多岐にわたる成果と、新たに見えてきた「人材育成」の課題
Q.これまでの取り組みを通じて、どのような成果や効果が生まれていますか?
青山さん: 特に開発プロジェクトにおいては明確な成果が出始めています。例えば、古いシステムの設計書を復元するリバースエンジニアリングの案件では、生成AIを活用することでドキュメント作成の工数を90%削減できることが実証されました。これまで膨大な工数がかかっていた作業が、AIによって劇的に効率化されています。
定性的な効果としては、採用活動への好影響があります。最近の学生は企業選びの際に「AIに積極的に取り組んでいるかどうか」を重視する傾向が強く、実際に「クレスコの生成AIに関する発信を見て入社を決めた」という新入社員もいます。先進的な取り組みは、優秀な人材を惹きつけるブランド価値にも繋がり、人材リテンションの観点からも大きな効果があると感じています。
一方で、活用が進んだからこそ見えてきた新たな課題もあります。それは「人材育成」の問題です。若手エンジニアが生成AIを使うことで生産性を上げる一方、AIが出力した結果を鵜呑みにし、自ら思考する機会が失われてしまうケースが見られるようになりました。単にツールを導入すれば生産性が上がるという短絡的な話ではなく、AIを使いこなし、その上で付加価値を生み出せる人材をどう育てていくか。これは、私たちが今まさに直面している新しいテーマです。
「使う」から「活用」、そして「創造」へ。生成AIと共に歩むクレスコの未来図
Q.活用が進んだからこそ見えてきた課題や、今後の展望についてお聞かせください。
村田さん: 我々は生成AIの利活用を組織としての成熟度に応じて3つのフェーズで捉え、推進しています。
| フェーズ | テーマ | 主な取り組み内容 |
| フェーズ1 | 使う | 【完了】個人レベルでの利用定着。全社利用率80%を達成。 |
| フェーズ2 | 活用 | 【現在】開発プロセスへのAI導入の本格化。レガシーシステムのDX化支援(リバースエンジニアリング、マイグレーション)をサービスとして展開。 |
| フェーズ3 | 創造 | 【未来】顧客の事業成長に貢献する新たな価値を創出。生成AIを用いた要件定義レビュー手法のサービス化など。多様な人材が活躍できる環境の構築。 |
村田さん: フェーズ1は、利用率80%達成により完了したと考えています。現在はフェーズ2の段階にあり、個人の業務効率化だけでなく、開発プロセス自体にAIを組み込み、お客様へ具体的な価値として提供する取り組みです。特に、コスト面から刷新が難しかったレガシーシステムを、生成AIを活用して低コストでDX化するサービスは、大きな柱になると考えています。
そして2030年に向けて目指すのが、フェーズ3です。ここでは、スキルレベルに関わらず多様な人材がAIを駆使して活躍できる環境を整えると共に、お客様の事業そのものを成長させるような、全く新しい価値創出に挑戦していきます。例えば、我々が持つAIの知見と、お客様が持つ専門的な製品知識を組み合わせ、プロダクトの品質を飛躍的に向上させる新たなレビュー手法をサービス化といった、価値創造の取り組みを加速させていきます。

Q.最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。
青山さん: 弊社の強みは、一部の部署だけでなく、経営層から現場まで「全社一丸」となって多角的に生成AI活用に取り組んでいる点です。システム開発業界は、生成AIによって最も大きな影響を受ける業界の一つだと言われていますが、我々はこの変革の波をチャンスと捉え、全社員で適応しながら会社としてさらにステップアップしていきたいと考えています。生成AIは、企業のあり方も、働く人の価値も大きく変えていく技術です。この記事を読んでくださっている皆さまにも、ぜひ前向きに生成AIと向き合い、自社ならではの活用の形を見つけていただければ嬉しく思います。クレスコも引き続き挑戦を続け、業界全体の進化にも貢献していきたいと考えています。本日はありがとうございました。