「CSの知見」がAIの強みに。Sprocket社が挑む、分析ノウハウを凝縮したAIエージェント開発の裏側

顧客体験 (CX)を改善するプラットフォーム「Sprocket」を提供する株式会社Sprocket。同社は顧客のWebサイトやアプリにおけるコンバージョン率向上などを、プロダクトと手厚い人的支援の両面から支えている。近年、多くの企業がその活用方法を模索する生成AIについて、同社は社内業務の効率化のみならず、自社の強みを活かしたユニークなAIプロダクト「SproAgent」を開発し、サービス提供を開始している。今回は、株式会社Sprocket代表の深田さんと、エンジニアリングマネージャーの泉さんに、AI活用の具体的な取り組みから開発の背景、そして今後の展望まで、詳しくお話を伺いました。

 人的支援で顧客体験を向上させるCX改善プラットフォーム「Sprocket」

Q.まず、御社の事業概要について教えてください。

深田さん: 弊社は、CX改善プラットフォーム「Sprocket」というBtoBのサービスを提供しています。クライアント企業様が運営されているWebサイトやアプリ内の顧客体験を向上させるご支援が主な事業です。例えばECサイトであれば、「初回購入を増やしたい」といったご要望をいただくことがよくあります。そのお題に対し、サイト上でどのような体験を用意すればよいのかを考え、実現していくのが私たちの役割です。具体的には、タグトラッキング型のプロダクトを導入いただき、お客様の行動データを分析したり、Web接客でポップアップを出したりといった施策を組み合わせ、ユーザー一人ひとりに合わせた体験を提供することで、初回購入を増やすお手伝いをしています。

Q.会社の規模感や組織の特徴についても伺えますか?

深田さん: 現在、社員数は80名ほどの規模で事業を展開しています。私たちの会社の大きな特徴として、カスタマーサクセス、つまり人的な支援に非常に力を入れている点が挙げられます。この種のプロダクトは、ツールがあるだけでは本質的な問題解決に至らないケースが少なくありません。むしろ、「それをどう使うのか」「どのような体験を作るべきか」「データからユーザーの状況をどう読み解くのか」といった活用ノウハウを合わせてご支援することに価値があると考えています。そのため、現在ではメンバーの約半数がカスタマーサクセス関連の業務を担当しています。

「我々しかできないAIとは何か」― 蓄積された分析ノウハウを結集した「SproAgent」

Q.生成AIの活用については、どのような取り組みをされているのでしょうか?

深田さん: AIは社内の様々な領域で活用しています。お客様にプロダクトとして提供しているものとしては、「SproAgent」というサービスがあります。SproAgentの第一弾プロダクトである「データ分析エージェント」は、まるでデータアナリストに話しかけるように自然言語で分析を依頼すれば、結果を返してくれるプロダクトです。これとは別に、社内業務でも非常に広い領域でAIを活用しています。セキュアな環境を整備した上で、データ分析はもちろん、施策のアイディア出し、さらには施策を実装するための簡単なコード生成など、多岐にわたる業務でAIの力を借りています。開発チームでも積極的に活用していますね。

Q.AIプロダクト「SproAgent」は、どのような課題を解決するサービスなのでしょうか?

深田さん: SproAgent(データ分析エージェント)は、SQLなどの専門知識がなくても深掘りした分析をできるようにするサービスです。「こういうデータが見たい」「これを出してほしい」と自然言語で依頼するだけで結果を出してくれるため、分析業務の生産性を劇的に向上させることができます。また、最近よく聞かれる声として、GA4(Google アナリティクス 4)が「見にくくなった」「使い方が難しい」というものがあります。SproAgentはそうした領域もカバーできるため、分析ツールを使い慣れていない方の学習コストを大幅に下げる効果も期待できると考えています。

製品名 SproAgent(データ分析エージェント)
概要 自然言語でデータ分析を依頼できるAIエージェント
解決できる課題 SQL等の専門知識がなくてもコードなデータ分析が可能

分析業務の生産性向上

GA4などのツール習熟コストの削減

主な提供価値 ①分析時間の大幅な短縮(例:数時間→数分)

②専門家でなくても、これまで見えなかったインサイトを発見可能

Q.「誰もがデータサイエンティストに」というコンセプトは非常に魅力的です。具体的にはどのような分析が可能なのでしょうか?

深田さん: 例えば、「ある商品を買っている人が、他にどのような商品をよく見ていますか?」とか、「うちのサイトはリピート顧客が多いですか、少ないですか?」といった具体的な質問に答えることができます。もう少し曖昧な聞き方も可能です。「ある時期に実施したキャンペーンと、その前のキャンペーンを比較して」と依頼すれば、AIが意図を汲み取って比較分析の結果を出してくれます。

特に面白いと感じたのは、仮説をぶつけるような使い方です。「今回のキャンペーン、参加者が飽きているような気がするんですけど、どう思いますか?」といった定性的な問いかけをすると、AIが「飽きている」という状態を「前回に比べて参加者が減少している」「反応率も悪化している」「リピーターの参加が少ない」といったデータに基づいて解釈し、分析結果を提示してくれます。それによって、「ああ、確かに飽きられているのかもしれない」と納得感のあるインサイトを得ることができるのです。

 構想を形にする難しさ。前例なきAIプロダクト開発の試行錯誤

Q.なぜ、この「SproAgent」を開発しようと思われたのでしょうか?

深田さん: 私たちのようなSaaS企業は、マーケティング領域に限らず様々なAI対応を進めています。しかし、多くのAIサービスが裏側で同じような基盤技術を使っている中で、どこで差別化を図るのかが大きな課題でした。そこで私たちは、「我々しかできないようなことをさせられるAIプロダクトとは何か」を突き詰めて考えました。

Sprocketでは、以前から社内のデータサイエンティストが分析用のSQL雛形を作成し、CSメンバーがそれを使えるようにする基盤を運用するなど、長年にわたって分析に関する知見を蓄積してきました。「サイト内の行動データなら、こういう視点で分析すべき」というノウハウが社内に豊富に溜まっている自負があったのです。であれば、この分析領域こそ、我々ならではのプロダクトが作れるのではないかと考え、開発に着手しました。

Q.開発において、特に大変だった点は何ですか?

泉さん: やはり、言葉や構想を実際のシステムの形に落とし込むプロセスが非常に難しかったですね。生成AIを使えば「こんなことができるといいね」と夢は無限に広がりますが、それをどのような仕組みで、どのようなシステムとして提供すべきかという点には、多くの困難が伴いました。特にこの領域はまだ前例がほとんどない世界なので、今もまさに試行錯誤を続けている最中です。ただ、最初の第一歩としては、とにかくシンプルに実現できる仕組みを作る、というところから一歩ずつ進めてきました。

 数時間の分析が数分に。自社活用で磨かれたAIがもたらす生産性革命

Q.社内ではどのようにAIを活用されているのでしょうか?

深田さん: 実は「SproAgent(データ分析エージェント)」は、お客様に提供を始める前に、まず社内で徹底的に活用していました。今では社内のCSメンバーもデータ分析を行う際は、まずこのSproAgentを使うのが当たり前になっており、分析業務がここに集約されつつあります。もともとCSメンバー全員がSQLを書けるわけではなかったので、以前はデータサイエンティストが用意したSQLの雛形を使う仕組みがありましたが、数が多くて「どれを使えばいいか分からない」という声も上がっていました。その点、SproAgentは自然言語で聞けば答えてくれるので、誰でも楽に使えるようになりましたね。

Q.SproAgentの導入によって、具体的にどのような効果が生まれていますか?

深田さん: 正確なデータはまだこれからですが、肌感覚として、これまで数時間かかっていたような分析が、わずか数分で完了するケースは当たり前に起きています。それくらいの時間短縮効果は確実にあると考えています。ただ、このサービスの価値は単なる時間短縮だけではありません。ツールを操作しながら「あれ、何を調べたかったんだっけ?」と目的を見失ってしまうことはよくありますが、SproAgentなら、返ってきた答えに対して「これってどういうこと?」と対話形式で深掘りしていけます。これにより、分析そのものの質と生産性が大きく向上したと感じています。気軽に聞けることで、今まで見過ごされていたようなインサイトが見つかるという価値も非常に大きいですね。

 顧客データを守るために。AI時代に求められる新たなセキュリティ設計

Q.顧客の重要データを扱う上で、セキュリティはどのように担保されているのでしょうか?

泉さん: セキュリティに関しても、まだ業界全体で確立された答えがない中で模索しているのが正直なところです。現状のSproAgentについては、私たちが用意したセキュアな環境の中でのみ動作するというポリシーを徹底しています。お客様ごとに裏側で専用のBigQuery環境を用意し、そこにデータを入れていただく形にすることで、セキュリティを我々がコントロールしやすいように設計しています。生成AIの特性上、「このデータを見て」という指示で、誤って別のクライアント様のデータにアクセスしてしまうリスクもゼロではありません。そうした事態を防ぐため、GCPの仕組みを利用して権限を厳格に管理し、意図しないデータにアクセスできないようガードを固めています。AIが生成したSQLが万が一誤っていたとしても、仕組みの側でしっかりと防ぐ。そうした地道な設計を一つひとつ積み重ねていく作業が不可欠でした。

 CSのノウハウをAI化し、開発もAIで。Sprocketが描く未来と求める人材像

Q.今後の展望についてお聞かせください。

深田さん: お客様の数を増やしていくのはもちろんですが、プロダクトとしては「回答の信頼性をどう高めていくか」が非常に重要なテーマだと考えています。AIの答えが本当に正しいのかを検証する、いわば「検算」の仕組みをプロダクト内に実装するなど、ユーザーが安心して使えるようにするためのアップデートを早急に進めたいです。また、今後は分析だけでなく、施策の「企画」を支援するような領域にもAI技術を応用できると考えています。私たちの強みである、カスタマーサクセスが培ってきた「Webサイト改善のPDCAの回し方」といったノウハウそのものをAIエージェントに落とし込むことで、さらに独自性の高いプロダクトを生み出していきたいです。

Q.開発組織としては、どのような未来を目指していますか?

泉さん: エンジニア組織としては、「AIを使ってどんどん開発していこう」というカルチャーが完全に定着しています。実は今、このインタビューを受けている裏でも、私はAIに別の開発作業をさせています。人間がソースコードを直接書く機会は減り、AIを使ってAIアプリケーションを開発することが日常になっています。AIプロダクトを作る上で、作り手自身が誰よりもAIを深く理解する必要があると考えているからです。このような環境で、自身のスキルを新しい方向にアップデートしていきたい方に、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。

Q.最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

深田さん: このようなAIプロダクトを作っていく上で、AIを開発するエンジニアはもちろん重要ですが、同時にビジネスサイドの知見が深い人も不可欠だと感じています。変な言い方かもしれませんが、「自分が持っている専門的なノウハウをAI化してみたい」と考えているような方がいらっしゃれば、ぜひ私たちと一緒に新しい価値を創造していきたいです。

泉さん: AIを使ってAIのアプリケーションを開発していくことに興味がある方、そういった環境に身を置いて自身のスキルをアップデートしたいと考えているエンジニアの方がいらっしゃれば、私たちの組織は非常に面白い場所だと思います。

Sprocketの詳細はこちら▼

https://www.sprocket.bz