3日の仕事が2分に。KLab株式会社が独自の運用で拓く、人とAIが共に成長する未来

スマートフォン向けゲームを主軸に事業を展開し、近年ではAI関連の新規事業にも取り組むKLab株式会社。同社は、時代の大きな変化を捉え、全社的に生成AIの活用を推進しています。社員一人ひとりがAIの最適化を意識することなく、本質的な業務に集中できる環境を目指し、独自の運用OSを導入。そこから見えてきたのは、「数万%」という圧倒的な生産性向上の先に存在する、人とAIの新たな関係性と、「人間の成長」という根源的なテーマでした。

今回は、同社のKLabGames事業本部 執行役員/CGA(Chief Game Architect)の藤好さんに、KLab株式会社が描く生成AI活用の現在地と未来について、詳しくお話を伺いました。

時代の変化を捉え、生成AI導入を決断。KLab株式会社が挑む「人とAIの新たな関係性」

Q.まずは、御社の事業内容についてお聞かせください。
藤好さん: 我々KLab株式会社は、設立から27期目に入り、ゲーム事業を中心としながら、直近ではAI関連の新規事業も手掛けています。私自身は、ゲーム事業の責任者であり、かつ社内における生成AI導入の責任者も務めております。

Q.なぜ、社内向けに生成AIを導入しようと考えられたのでしょうか?その目的や背景についてお聞かせください。
藤好さん: 生成AIの導入に着手した一番のきっかけは、「時代がそのように動いているから」というのが最も正しい表現かと思います。もともと社内に新しい技術を積極的に取り入れようという風土はありましたが、今回の生成AIの登場は、それ以上の大きなインパクトとして捉えています。ITの歴史を振り返ると、ガラケーが登場し、スマートフォンが普及し、インターネットが高速回線になったといった大きな変化がありました。私たちは、生成AIをそれらと同等、あるいはそれ以上のインパクトを持つ変化だと認識しています。これは単なるインターネットの延長線上にある技術というより、コンピューターサイエンスにおける全く新しい潮流であり、世の中が根底から大きく変わりそうだと感じています。この大きな変化に乗り遅れないためにも、導入は必然でした。

全社員の活用を促す運用。壁打ち回数削減とハルシネーション抑制を実現

Q.時代の大きな変化と捉え導入を進められたとのことですが、現場の社員の皆様は実際にどのように活用されていますか?
藤好さん: 当社は基本的にGoogle Workspaceを中心に業務を行っているため、GeminiやNotebookLM、Gemini Advancedといったツールが活用の中心になっています。エンジニアはGitHub Copilotのようなコードサポート系のツールを開発に活用していますし、ChatGPTやClaudeも併用しています。何か一つのツールに特化しているというよりは、安定して使えるものを堅実に導入している状態です。ビジネスサイドの社員は、議事録の作成や、データ分析といった、一般的に知られているような用途で活用しています。

Q.一般的に、生成AIは導入しただけではなかなか全社に浸透しないという課題があります。御社では活用を促進するために、どのような工夫をされたのでしょうか?
藤好さん: 弊社も、当初はボトムアップで「ツールがあるので自由に使ってください」という形を取りました。しかし、それでは活用が進まないことが分かりました。そこで、トップダウンのアプローチも組み合わせたハイブリッド型に方針を転換し、私が責任者となって生成AIの導入を推進する専門チームを新たに立ち上げました。

現在、私たちが最も注力しているのは、独自運用方法の導入です。これは、Gemini Proをベースに、社員が生成AIをより効率的かつ安全に使えるようにするための、いわば中間的なソフトウェアです。社員には「素のGeminiは使わず、こちらのOSを通して仕事を進めてください」とアナウンスしています。この運用OSは、社員が生成AIの最適化を意識することなく、本来の業務に集中できる状態を目指して開発しました。

▼KLab株式会社様の生成AI運用事例

特長 具体的な内容
業務効率の最大化 Geminiの冗長な応答を省き、より端的な対話を実現。思考の壁打ちにかかる回数を大幅に削減し、目的達成までの時間を短縮します。
思考プロセスの可視化 「Chain-of-Thought」というプロンプト手法を活用し、AIがどのような順序で論理的に思考したのかを可視化。ブラックボックス化を防ぎ、利用者がAIの思考過程を学習できる仕組みに。
ハルシネーションの抑制 独自の制御を加えることで、AIが事実に基づかない情報(ハルシネーション)を生成する頻度を格段に低減。
専門性の付与 対話の内容に応じて、AIがその業務領域の「スペシャリスト」として振る舞うように制御。利用者は、より専門的な観点からAIと対話できます。

藤好さん: この運用を導入することで、社員はプロンプトエンジニアリングのような専門知識を深く意識することなく、より質の高いアウトプットを得られるようになりました。ガイドラインで厳しく縛るのではなく、使いやすい環境をシステム側で提供することで、活用の裾野を広げていこうと考えています。

「数万%の効率化」の先に見えた、新たな仕事と人の評価という課題

Q.運用OSの導入などを通じて、どのような成果が生まれましたか?
藤好さん: やはり、文章作成やコードレビューといった、いわゆる定型的な仕事のスピードは格段に上がりました。業界の一般的な水準で見ても非常に高い効果が出ています。時間という観点だけで見れば、具体的な数値として「数十万パーセント効率が上がりました」と言えるようなケースも存在します。例えば、これまで上司の確認に3日かかっていたような仕事が、AIとのやり取りでわずか2分で完了する、といったレベル感です。

しかし、ここで一つの課題が浮かび上がってきます。個々のタスク効率は劇的に向上しましたが、業務に関わる人の数が減ったわけではないため、会社全体の人件費が下がったわけではないのです。つまり、AIによって社員の「手が空いた」状態は作れたものの、その生まれた「余白」の時間を、いかにして新しい仕事や価値創造に繋げていくか。これは、多くの企業が今後直面する大きな課題だと考えています。

Q.導入を進める中で、何か興味深い発見はありましたか?
藤好さん: はい、非常に面白い発見がありました。それは、生成AIを上手に使いこなせる人材が、必ずしもこれまで「優秀」とされてきた人材と一致しない、という点です。
私はよく「向こう側」と「こちら側」という表現を使うのですが、AIの活用に苦戦している人は、AIをGoogle検索のような「向こう側」の道具として捉えがちです。自分のやり方や思考をAIにうまく説明できず、自分のやり方をAIに再現させようとして失敗し、結局「自分でやった方が早い」という結論に至ってしまいます。

一方で、非常にうまく使いこなす人たちがいます。「自身の業務を分析・言語化することに長けている人」「効率化が好きで、上手に依頼ができる人」こういう人たちは、「自分にはできないからお願い」と、自分自身の能力を超えたことをAIに委ねる力に長けています。このような人材がAIを活用すると、驚くような結果を引き出してくるのです。AIを単なる道具ではなく、自分にはない能力を持つパートナーとして捉える「こちら側」の感覚が、これからの時代には非常に重要になるのだと、実際に導入を進める中で強く感じました。

人は成長するのか? AIの能力と組織のスキルセットを巡るジレンマ

Q.今後、生成AIの活用をどのように発展させていきたいとお考えですか?また、現在の課題についても詳しくお聞かせください。
藤好さん: 現在、私たちが提供している運用OSは、意図的に「インプットにやや左右される」ように調整しています。例えば、「失敗したのでお詫びメールを書きたい」と入力すれば完璧なお詫びメールを生成しますが、「言い訳のお詫びメールを書いて」と頼むと、まるで弁護士が監修したかのような見事な言い訳をしてくるのです。本来、ビジネスで求められるのは信頼回復であり、まずは真摯に謝罪すべきですが、AIはそれを教えてくれません。そして、敢えて教えないようにしています。
なぜなら、今は社内にAIを浸透させる段階であり、「君のやり方は間違っている」とか「もっと良い方法がある」といった指摘は、AIに慣れていないスタッフが否定されたと感じたり、傷ついたりして、混乱を招く可能性があるからです。しかし、ここに大きなジレンマがあります。ツールが優秀になりすぎると、それを使った人の本当のスキルが全く分からなくなるのです。これは、部下を評価する上司にとって、非常に難しい問題を引き起こすでしょう。

Q.ツールを使う人間側にも、新たなスキルやスタンスが求められるということでしょうか。
藤好さん: まさしくその通りです。きれいに言うとそうなります。AIが生成するアウトプットは、一見すると非常に完成度が高く見えます。しかし、よく読むと論理がおかしかったり、重要な点が見過ごされていたりすることがあります。この違和感を見抜けないほど、アウトプットは綺麗に整えられてしまうのです。つまり、生成AIのアウトプットの良し悪しを正しく判断するためには、使う人間側により高いスキルが求められるようになります。個々の社員がどのようなスキルを持っているのかをきちんと把握し続ける仕組みがないと、組織全体として大きな課題になりかねません。AIの能力を最大限に引き出しつつ、人間の成長をどう促し、どう評価していくのか。これは実際にAI導入を深く進めてみて初めて分かった、非常に根深い問題だと感じています。今後はこういった課題にも取り組んで行きたいと考えています。

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KLabはAIを軸とした新事業を加速させています。

生成AIを活用したAIクリエイティブ事業として、AI VTuberとしても活動する「ゆめみなな」が所属するAIアイドルプロジェクト、「ゆめかいろプロダクション」の他、AIシンガーによる楽曲配信等、多様なコンテンツ展開を推進しています。

また「GPU AI クラウド事業」では、AI利用に不可欠な高性能サーバーの販売、運用、貸出しを一貫して行い、企業の技術基盤を支援します。