全社参加型の「生成AI CoE」で利用の壁を打破。ぐるなびが目指す、AIによる“次世代の食体験”とは

飲食店情報サイト「楽天ぐるなび」を運営する株式会社ぐるなびは、「食でつなぐ。人を満たす。」というパーパスを掲げ、日本の食文化を守り育てるための多様なサービスを展開しています。同社は近年、生成AIの活用を社内外で積極的に推進しており、社内では「生成AI CoE(Center of Excellence)」を軸としたボトムアップでの文化醸成、社外では対話型AIを活用した新サービス「UMAME!」による新しい顧客体験の創出という、両輪での取り組みを進めています。今回は、その活用の中心を担う開発部門の金子結さん、田口芳樹さんに、具体的な取り組みの背景や推進の工夫、そして今後の展望について詳しく伺いました。

「楽しむ人」がいる部署は強い。ボトムアップで浸透させたAI活用推進の仕組み

Q.まず、御社の事業内容について簡単にお聞かせいただけますか?

金子さん: 主力事業は飲食店情報サイトの「楽天ぐるなび」ですが、近年は飲食店経営支援サービスにも注力しています。「食でつなぐ。人を満たす。」というパーパスのもと、日本の豊かな食文化を守り育てていくために、あらゆる側面から外食を中心とした食関連業界を支援しています。

Q.生成AIの活用を本格的に始められた背景や目的について教えてください。

金子さん: 社外のユーザー様に向けた「次世代の食体験」の創出と、社内に向けた「圧倒的な業務効率化」の2つのテーマを両立させることを目的として、全社的な技術革新とDXを加速させる「ぐるなびNextプロジェクト」が発足しました。特にユーザー様向けのサービスでは、従来のキーワード検索とは異なる、新しいお店の探し方、検索ではなく対話のような体験を提供できたらと考えています。

Q.社内への導入はどのように進められたのでしょうか。特に、利用を促進するための工夫があれば教えてください。

金子さん: 社内へ展開するにあたり、セキュリティ面で厳しく制限するのではなく、「どんな情報を入れても大丈夫」という環境を用意し、「こういうことは使ってはいけない」といった制限もほぼ設けませんでした。それよりも、社員に「AIを使ってみよう」という気持ちになってもらうことの心理的なハードルが一番高いと感じていたからです。そこで、私たちは「生成AI CoE(Center of Excellence)」という体制を作りました。具体的には、「AI CoE」のSlackチャンネルを立ち上げ、AI活用に関心のある部署の人たちに「どんどん入ってきてください」と呼びかけました。そして月1回開催する定例会で、CoEの中心メンバーから「こういうアップデートがありましたよ」といった最新情報を共有したり、参加メンバーに「使ってみてこんなことができました」という活用事例を発表してもらったりする場を設けています。コアメンバーだけが頑張るのではなく、参加者みんなで情報共有をしながら作り上げていく、そうした全社的な大きな組織にしたことが、推進における一番のポイントだったと考えています。

Q.部署によって活用の度合いに差はあるのでしょうか。また、活用が進む部署にはどのような特徴がありますか?

金子さん: はい、活用が進んでいる部署と、これからという部署があるのが実情です。まず、AIに対して少し距離を置いている人たちも一定数いますので、そうした部署には私たちCoEのメンバーが出向いて「こんなことができますよ」「他の部署ではこう使っていますよ」と伝え、まずは興味を持ってもらうところから始めています。
その上で、活用が進んでいる部署には2つの特徴があると感じます。一つは、AIを使って「こんなことができるんだ」と心から楽しんで、「こんなことをやってみました」と積極的に発信してくれる人がいる部署です。その人が楽しそうに生成AIを使う姿を見て、「自分もやってみようかな」と周囲に良い影響が広がっていくようです。
もう一つは、上司がAI活用に積極的な部署です。「やれ」とトップダウンで指示するのではなく、「現場でうまく何とかできないか?どんどん進めてほしい」という形で現場に任せている場合、メンバーは「よし、自分たちの部署でどうやったら活用できるだろう」と主体的に考え始め、「どうやって使ってやろうか」という高いモチベーションに繋がっているように感じます。

議事録作成からAI駆動開発まで。多岐にわたる現場での活用事例

Q.実際に、社員の皆様はどのような業務で生成AIを活用されていますか?

金子さん: 部署が多岐にわたるため本当に様々です。全社的に最も一般的に使われているのは、ミーティングの議事録作成です。文字起こししたテキストを要約してもらう活用は、「Geminiがまとめてくれるから」という感覚で広く浸透しています。Googleスライドを使った社内資料の作成にも、AIが活用される場面が多いです。
部署別の活用も進んでいます。例えば営業部には、過去の提案成功事例などのナレッジを共有するツールが元々ありましたが、AIを使ったものにパワーアップして提供し、似た事象を見つけやすくなりました。広報や開発部門のエンジニアブログなどでは、記事作成の補助や校正チェックにAIを用いています。また、規約のチェックの補助にAIをうまく活用したり、企画書作成の壁打ちに使ったりしている部署もあります。

田口さん: 開発部門での活用も特徴的です。開発の補助はもちろん、テストの設計やコード作成にもAIを活用しています。特にGitHub Copilotはよく使われており、テストコードなどは驚くほど簡単に作れるので非常に助かっています。中にはAI駆動開発を積極的に実践しているメンバーもいて、GitHub Copilotから社内のツールに直接コードを書き込みにいく、といった高度な活用も行われています。

Q.生成AIの導入によって、どのような効果や成果がありましたか?

金子さん: やはり、AI活用でよく言われる時間短縮や効率化の効果は大きいです。例えば、数時間かかっていたアンケートの分析作業が、数分で終わるようになったという報告も受けています。また、議事録作成が自動化されたことで、会議中は本来の目的である議論に集中できるようになったという声も多く聞きます。これにより、人間がやるべき本質的な業務に、より注力できる環境が整いつつあると感じます。すごく印象的だったのは、HTMLを書いたことがなかった営業担当の社員が、Geminiを使って営業情報をまとめたインフォグラフィックを作成し、Googleサイトに埋め込んで質の高い情報発信ページを自力で構築した事例です。このように、非エンジニアが自分たちの手でアウトプットを生み出せるようになったことも大きな成果です。

田口さん: エンジニアの話でいくと、活用が進んでいるメンバーは生産性が数倍になったり、すごい人になると実質2人分の開発業務をこなしている、といった話も聞きます。少し誇張して聞こえるかもしれませんが、中には1週間かかっていた作業が1日で終わった、というメンバーもいます。

金子さん: もちろん、これらの効率化を単なる「使ってよかったね」で終わらせず、会社の成果にどう繋げていくかという点は、これからさらに明確にしていかなければならない今後の課題だと認識しています。

対話で探す、パーソナライズされた飲食店マッチングアプリ「UMAME!」

Q.社外向け、つまり自社プロダクトにはどのように生成AIを実装しているのでしょうか。

田口さん: 2026年1月20日に「UMAME!」というサービスを正式リリースしました。このサービスでは、「次世代の検索体験」の提供に最も注力しています。

Q.「UMAME!」が提供する新しい顧客価値とは具体的にどのようなものでしょうか?

田口さん: これまでのお店探しは、「新宿 居酒屋」のように場所と業態のキーワードで検索し、そこから条件を絞り込んでいく方法が王道でした。しかし、その方法では「こういう雰囲気が好き」「友達と行くんだけど、ちょっと落ち着いたところがいい」といった、ユーザー一人ひとりの細かなニュアンスをうまく拾いきれないという課題がありました。「UMAME!」では、そこを生成AIとの対話を通じて解決します。まるで人と話すようにAIとやり取りすることで、ユーザーの好みやシチュエーションといった背景まで汲み取り、よりパーソナライズされた体験を提供できると考えています。

また、「UMAME!」ではユーザーがお店で撮った写真を投稿できるのですが、公共の場にふさわしくない画像(個人が特定できる顔写真など)が含まれていないか、すべてAIが判断し、掲載可否を判定しています。投稿された写真はユーザー自身の食の体験、食のジャーニーとして記録され、後から振り返ることもできます。

飲食店業界のAI活用を牽引する存在へ。CoEが不在でも自走する組織を目指す

Q.社内・社外の両面でAI活用を推進されてきた中で、今後の展望についてお聞かせください。

金子さん: 社内活用については、もっと私たち中心メンバーが置いてきぼりにされるくらい、各部署がそれぞれで盛り上がり、自走してくれる状態になるのが理想です。Slackでは今も活発なやり取りがありますが、最終的には私たちが不在でも、部署内で課題解決や情報共有ができる文化が根付くといいなと思っています。各部署の業務を一番よく知っているのは、やはり現場のメンバーですから。
そして会社全体の展望としては、飲食店業界において、ぐるなびがAI活用を引っ張っていく存在になりたいです。将来的には、飲食店様の経営を支える「AIエージェント」のようなものを開発し、パートナーである飲食店様に還元していくことを目指しています。私たちの役割は、飲食店様をサポートし、ユーザー様との最適なマッチングを実現することです。その両者にとって、まだ想像もしていなかったような新しい食体験を、AIを使ってどう創造していくか。常に考え、新しい価値を提供し続けていきたいです。

公式サイト:https://umame.gnavi.co.jp/