電子部品、接合材料、光学材料などの機能性材料で世界的なシェアを誇るデクセリアルズ株式会社。
同社は、2028年度に売上を倍増させるという中期経営計画を掲げ、その実現の鍵としてDX戦略を強力に推進しています。「変化しないことこそが最大のリスク」という経営トップの強いメッセージのもと、全社的に生成AIを導入。単なる業務効率化に留まらず、社員を本来注力すべきコア業務へとシフトさせるための「起爆剤」と位置づけています。今回は、同社のDX企画推進部 統括部長 大河原さんに、生成AI導入の背景から具体的な活用法、浸透の秘訣、そしてAIと共創する未来の展望について、詳しくお話を伺いました。

中期経営計画の実現に向けたDX戦略と生成AI導入の背景
Q.まずは、貴社の事業内容と、中期経営計画について教えていただけますでしょうか?
大河原さん:
弊社は、「異方性導電膜(ACF)※1」「光学弾性樹脂 ※2」「スパッタリング技術で製造された反射防止フィルム ※3」といった世界シェア№1*の製品群を持っております。
*出典:富士キメラ総研「2025ディスプレイ関連市場の現状と将来展望」による2024年の金額シェア。
(同調査レポート上の市場区分※1 ACF ※2 OCR ※3 表面処理フィルム・ドライコート)
当社は今、これらの製品が使用される主力事業「コンシューマーIT」に加えて、「自動車事業」と「フォトニクス事業」を強化しています。「自動車事業」では、CASEの進展、「フォトニクス事業」では、生成AI普及の影響に伴うデータセンターの需要増加をそれぞれ背景に推進しています。。この2つの事業規模を「中期経営計画2028『進化の実現』」を策定したFY23に210億だったところから、FY28には450億に拡大していくことを目指しています。
これら成長分野での取り組みと、従来の強みである既存事業を合わせ、全社売上高を、FY23には、1,052億円であったところから、FY28では1,500億円規模を目指しています。
このような全社を挙げての大きな成長目標を達成するには、従来のやり方に加えた、新たな取り組みが不可欠です。そこで私たちは、その実現に向けた重要な鍵の一つとしてDXを位置付け、推進しています。
Q.そのような経営計画の中で、なぜ今回「生成AI」の導入を決められたのでしょうか?
大河原さん:DXをさらに推進し、全社員のデジタルスキルを底上げするためには、業務の質そのものを変えるようなインパクトが必要です。私たちは生成AIこそが、そうした変革をもたらす「起爆剤」になると判断しました。これまで解決策が容易に見出せなかったような複雑な課題に対しても、生成AIであれば解決の糸口を提示してくれるのではないか、という強い期待感を持って導入を決定しました。
「従来型AI」と「生成AI」の連携で、製造現場の課題解決を高度化する
Q.具体的には、どのような業務で生成AIを活用されているのですか?
大河原さん:全社的な活用としては、メールの作成や文章の要約といった汎用的な業務で利用できる環境を整えています。これに加え、製造、品質保証、開発、営業といった各部門においては、それぞれの業務特性に特化した生成AIの活用を進めています。特に開発部門などでは、特許情報や論文、技術レポートといった膨大な資料を読み込む必要がありますが、これらを生成AIに要約させることで、専門知識が必要かつ時間の掛かる情報収集作業の大幅な効率化が期待できます。
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Q.以前から取り組まれているAI活用と、今回の生成AI活用はどのように連携させているのでしょうか?
大河原さん:製造現場では以前から、製品の品質チェックや不良品の検知を行うために、いわゆる「識別系AI」を導入してきました。今後はこの識別系AIと生成AIを連携させる構想を持っています。具体的には、識別系AIが不良品の発生傾向を検知した際に、生成AIが過去の膨大なデータから「過去にどのような類似不良が発生したか」「当時の発生条件はどうだったか」「どのような対策が行われたか」を瞬時に参照し、対策案を提案してくれるような仕組みです。検知から対策の立案までをAI同士の連携で支援することで、現場の対応力を高めていきたいと考えています。
Q.現在利用されているツールはどのような形態のものですか?
大河原さん:全社員向けにはCopilotやChatGPTのような汎用的なツールを展開し、手軽に利用できる環境を提供しています。一方で、先ほど申し上げた開発や品質保証といった専門性が高い領域に関しては、外部ベンダーと協力し、それぞれPoCを行いながら、業務特化型の活用を模索している段階です。
トップダウンのメッセージと現場主導のコミュニティで、「使われる環境」を醸成する
Q.ツールを導入しても、現場への浸透には課題を抱える企業も多いです。貴社ではどのような工夫をされましたか?
大河原さん:おっしゃる通り、ツールを提供するだけでは利用率は上がりません。そこでまず行ったのが、経営層から全社員に向けた強力なメッセージの発信です。「変化の激しい時代において、変化しないことこそが最大のリスクである」と定義し、新しい技術を主体的に取り入れる姿勢が会社の成長を左右するのだと伝えました。その上で、具体的な利便性を伝えるために、ポータルサイトでの活用事例の紹介や、全社的なeラーニングによる教育を実施しました。
Q.プロンプトの作成など、現場社員が躓きやすいポイントにはどう対処されていますか?
大河原さん:ポータルサイトでのプロンプト集の公開はもちろん行っていますが、それだけでは部署ごとの細かなニーズに対応しきれません。そこで、各部署から「推進担当」を選出し、私たち推進チームとのコミュニティを形成しました。このコミュニティ内で、現場ならではの課題や成功事例を共有し合い、吸い上げた課題に対して解決策をフィードバックするというサイクルを回しています。トップダウンのメッセージだけでなく、ボトムアップで課題を解決していく体制を作ることが重要だと考えています。
「下準備」の時間を削減し、人間は「判断」というコア業務へ注力する
Q.取り組みの結果、どのような成果が得られていますか?
大河原さん:定性的な効果として最も大きく感じているのは、生成AIが「人の知識の幅を拡張してくれる存在」であるという実感です。これまで私たちは、資料のまとめや調査といった「判断の前段階」の作業に多くの時間を費やしてきました。生成AIがこれらを担ってくれるようになったことで、人間は本来やるべき「判断」や「次の取り組みの考案」といったコア業務に、より多くの時間を割けるようになってきています。定量的には、議事録や資料作成が数時間から数分に短縮されるといった事例が出てきています。
Q.今後、効果測定においてはどのような指標を見ていく予定ですか?
大河原さん:単なる利用時間や業務工数の削減だけでなく、「具体的な業務テーマにどれだけ落とし込めたか」を重視していきたいと考えています。そのため、システム的な利用時間や頻度の計測に加え、生成AIを用いて実行された具体的なタスクの件数などをモニタリングすることで、活用状況と効果を客観的に可視化していく方針です。
AIを「同僚」として迎える時代へ。パートナーと共に目指すAGIへの備え
Q.最後に、今後の生成AI活用の展望についてお聞かせください。
大河原さん:これからは、AIが単なるツールではなく「エージェント」として機能する時代になっていくと考えています。社員一人ひとりの隣に優秀な同僚がいるような感覚で、AIに指示を出せば複数のタスクを自動で連携・処理してくれる、そんな環境を構築したいです。そうしてAIと協働することで、社員がより創造的な価値を生み出せる時間を創出していきたいです。いわゆるAGI(汎用人工知能)が一般的になる未来を見据え、今からその準備を進めていきます。また、こうした高度な取り組みは弊社単独では難しいため、共に進めていただけるパートナー企業様とも積極的に連携していきたいと考えています。