脱・属人化と分断。AI法務SaaS「OLGA」が描く、法務と事業部門が一体となる未来

近年、多くの企業でAIの活用が模索される中、特に専門性が高く定型業務も多い法務領域では、業務効率化への期待が高まっています。しかし、汎用的なAIツールを導入するだけでは、企業独自のルールや過去のナレッジを反映できず、実務に活かしきれないという課題も少なくありません。

今回は、法務案件のデータを構造的に蓄積し、AIの価値を最大限に引き出すSaaS「法務オートメーション『OLGA』」を提供するGVA TECH株式会社 経営企画部の板倉さんにお話を伺いました。同社がどのようにAIを活用し、法務業務の未来をどのように描いているのか、詳しくお聞きします。

企業の法務を支えるSaaS「OLGA」の全体像

Q.まず、御社の全体的な事業内容についてお聞かせください。

板倉さん: 私たちの事業は大きく2つに分かれています。一つは、企業の法務部門の方々にご利用いただくSaaS「法務オートメーション『OLGA』」の開発・提供です。契約書のAIチェックから法務の案件管理、契約書の管理まで、幅広い機能を提供しています。もう一つは、専任の法務担当者がいないような小規模な企業様向けに、法人登記や商標登録といった法的手続きをWeb上で簡単に行えるサービス群です。本日は、特にAI活用が進んでいる「OLGA」を中心にお話しさせていただきます。

Q.「OLGA」は具体的にどのような機能で法務業務を支援するのでしょうか?

板倉さん: 「OLGA」は、法務業務の一連の流れを包括的にサポートするため、大きく4つの機能モジュールで構成されています。まず中心となるのが「法務データ基盤」です。営業部門などから寄せられる契約書のチェック依頼やリーガルチェックの相談は、これまでメールやチャット、電話など様々な経路で来ていましたが、これを一元的に集約します。これにより、案件の担当者や進捗状況を可視化し、組織としてのナレッジを蓄積していくことができます。

この基盤の上で、具体的な業務を支援する機能が動きます。「AI契約レビュー」は、AIが契約書を読み込み、「この条文にはこういうリスクがあります」「こういう条文を追加してはどうですか?」といった提案を行います。また、締結済みの契約書を管理する「契約管理」機能では、書類をアップロードするとAI-OCRが契約相手や契約期間、自動更新の条件といった重要情報を自動で抽出し、瞬時に契約台帳を作成します。

そして、これらの機能を通じて蓄積された契約データや事業部門とのやり取りといったナレッジを最大限に活用するのが「AI法務アシスタント」です。AIが社内のQAデータベースを自動で構築したり、新たな相談が来た際に類似する過去案件を提示したりすることで、定型的な問い合わせ対応などを代替・サポートします。これらの機能を有機的に連携させることで、法務業務全体の効率化を実現しています。

モジュール名 主な機能
法務データ基盤 依頼受付の一元化、案件・進捗管理、ナレッジの蓄積
AI契約レビュー AIによる契約書のリスク分析、修正条文の提案
契約管理 AI-OCRによる契約情報の自動抽出、契約台帳の自動作成
AI法務アシスタント 蓄積データに基づくQA対応、類似案件の提示など

汎用AIとの違いは「構造化データ」と「企業ごとの基準」

Q.ChatGPTのような汎用AIでも法務に関する質問はできますが、「OLGA」との違いはどこにあるのでしょうか?

板倉さん: いくつか明確な違いがありますが、最も大きいのは、法務案件に関する情報を「構造的にデータベースとして整えられているか」という点です。単に様々な情報をAIに投入しただけでは、必ずしも正確な回答は得られません。「OLGA」では、サービス内でやり取りされる情報が構造化されたデータとして蓄積されていくため、AIが情報を高い精度で読み取り、活用することができます。これはSaaSという形態だからこそ実現できる強みだと考えています。

Q.企業ごとの事情に合わせられる、という点も重要になりそうですね。

板倉さん: おっしゃる通りです。例えば業務委託契約書のリスク判定を汎用AIに依頼しても、一般的な回答は得られるかもしれません。しかし、本当に重要なのは、各企業が独自に持つ基準やマニュアルに沿って判断することです。「業務委託契約なら、この条項はここまで譲歩できるが、この点は絶対に譲れない」といった企業ごとのルールにAIを準拠させるのは、汎用ツールでは非常に難しいのが実情です。自社で生成AIの活用を試みてもうまく使いこなせないというお話をよく聞きますが、その背景には、こうした企業独自のマニュアルや、それを反映させるためのプロンプト設計の難しさがあります。私たちのサービスは、そうした点も含めて支援できることが大きな価値になると考えています。

“AIありき”ではなく、法務業務の自動化から生まれた必然

Q.サービス開発の経緯と、AIがもたらした価値について教えてください。

板倉さん: 弊社は、代表の山本という弁護士が2017年に設立した会社です。2016年頃にAIが囲碁の世界チャンピオンに勝利したニュースを見て、「契約書のように定型化され、ルールに沿って作られるものはAIで代替できるのではないか」という着想を得たのが始まりでした。そのため、会社の原点は「契約書をAIでチェックする」というAI契約レビューにあります。

しかし、サービスを提供する中で、契約レビューは数ある法務業務の一つに過ぎないことに気づき、より幅広い業務全体を管理できる「法務データ基盤」へと展開しました。そして、そこにデータが蓄積されてきたことで、当初から構想していた「AI法務アシスタント」のように、AIを使ってさらなる付加価値を生み出すという現在の形に至っています。

Q.AIはあくまで目的を達成するための手段、ということでしょうか。

板倉さん: まさにおっしゃる通りです。私たちの根底には、法務業務に非常に多い定型業務をなくし、法務担当者のリソースを、より創造的で非定型な業務へ完全にシフトさせたいという強い思いがあります。この定型業務の撲滅は、SaaSの機能だけでは完結しない部分がありました。その最後のピースを埋め、業務を「丸ごと自動化」する上で、AIの存在は不可欠でした。AI技術の進化によって、私たちが目指す自動化が大きく加速したと感じています。

既存業務フローに溶け込む、シームレスな連携

Q.実際の現場では、どのように業務に組み込まれるのでしょうか?

板倉さん: 法務の業務は、法務部門だけでなく、契約交渉を行う事業部門や営業部門も深く関わっています。そのため、法務案件の管理と、営業が使うSFAや社内のワークフローといった既存ツールとの連携をどうスムーズにするかが、開発における重要なテーマでした。私たちの答えは、全社で使われている業務ツールと「OLGA」を連携させ、既存の業務フローの中に「OLGA」の機能が溶け込むようなプロダクト設計にすることでした。

例えば、Salesforceと連携させることで、営業担当者は使い慣れたSalesforceの画面から直接法務に相談を投げたり、「OLGA」を呼び出して「現在法務に相談中の案件の状況を教えて」といった指示を出したりできます。このように、ユーザーが一連の業務の流れを崩すことなく、自然に使えるシームレスな体験を非常に大切にしています。

AIエージェントが自律的に業務を遂行する未来へ

Q.今後のサービスの展望についてお聞かせください。

板倉さん: これまで法務データ基盤に蓄積してきた膨大なナレッジや情報を、生成AIを活用していかに実践的な「アプリケーション」として使える状態にするかが、今後より重要になってくると考えています。その中心的な取り組みとして、今期は特にAIエージェントの開発と活用に注力していく予定です。

Q.AIエージェントは、具体的にどのような役割を担うのですか?

板倉さん: これまでの「OLGA」を使った業務では、例えば契約書を作成する際に過去の類似案件を参照するなど、最終的な判断は人に依存する作業が残っていました。私たちが目指すAIエージェントは、こうした作業そのものを自律的に遂行する存在です。人間が介在せずとも、AIが業務を丸ごと引き受けてくれるような機能を、積極的に作っていきたいと考えています。これは、ビッグテックが目指すAIの理想像とも近いですが、私たちの強みは、企業内に蓄積された信頼性の高いデータと連携できる点にあると考えています。

法務のナレッジを全社に還元し、事業成長を加速させる

Q.サービスを通じて、最終的にどのような未来を実現したいですか?

板倉さん: 「OLGA」は法務部門の方々を中心に使っていただくサービスですが、その価値を法務部門だけに留めず、事業部門や営業サイドの方々にもメリットをもたらす存在にしたいと創業当初から考えています。多くの企業において、法務と事業部門は分断されがちで、法務が持つ貴重なナレッジが全社に十分に還元されていないという課題があります。

私たちは、法務部門で整備されたAIを事業部門のメンバーも使えるようにすることで、例えば事業部門側で契約書の一次チェックが自動で完結する、といった未来を実現したいのです。法務とのやり取りがスムーズになり、リーガルチェックの待ち時間がなくなることで、事業はより早く前進できるはずです。テクノロジーの力で部門間の壁を取り払い、会社全体の事業成長が加速していく。今年(2026年)は、その未来にさらに一歩近づける1年にしたいと思っています。