多くの企業が模索する、生成AIの組織的な活用。その最前線で「言行一致」を掲げ、自社の変革を通じて得たナレッジを顧客価値の創造へと繋げる株式会社リンクアンドモチベーション。しかし、その道のりは平坦ではなく、全社導入の大きな失敗から始まったという。今回は、同社の執行役員の河野さんと、エンジニアの髙草木さんに、失敗を乗り越え、今ではグループ全社員約1,500名がAIを日常的に使う組織へと変貌を遂げた軌跡、そしてその先に見据える未来について詳しく伺いました。
▼株式会社リンクアンドモチベーション 河野さん

▼株式会社リンクアンドモチベーション 髙草木さん

失敗から学んだ「言行一致」のAI活用。自社の変革が顧客価値創造の源泉に
Q.まず、御社の事業内容についてお聞かせください。
河野さん: 私たちは、基幹技術である「モチベーションエンジニアリング」を基軸にコンサルティングや研修などを通じて、企業の組織変革や個人の成長を支援している会社です。近年では、生成AIをはじめとする最先端技術を掛け合わせ、働き方や組織のあり方そのものを変革していくことにも注力しています。私たちが目指しているのは、ひとり一人がワクワク・いきいき働ける社会の実現です。世の中を前進させる変化を生み出したいと考えています。
Q.生成AIの導入はどのような背景や目的で始められたのでしょうか?
河野さん: 当初はプロダクト開発領域での活用からスタートしましたが、現在は組織全体・会社全体へと活用範囲を拡大し続けています。私たち自身がAIの活用を徹底的に進める中で得られるナレッジや成功事例は、同じように「DXがうまくいかない」「AIで価値提供の総量を増やしたい」と悩む多くのお客様の変革をお手伝いすることにも直結すると考えています。自らが実践し、その成果をもってお客様を導く。私たちはこれを「言行一致」という言葉で表現しており、この思想を胸にAI活用を推進しています。
全社一斉導入の失敗から学んだ「深く入り込む」戦略
Q.最初に組織へAIを導入された際は、どのように進められたのですか?
河野さん: 実は、私たちの生成AI活用は「膝小僧を擦りむきながら」進めてきた歴史があります。おそらく多くの企業様が通る道だと思うのですが、最初は全社員にGPTのアカウントを配布し、生成AIの基礎をレクチャーする研修を実施しました。しかし、実際のAI活用は一部のアーリーアダプターに留まり、組織的な活用率はほとんど上がりませんでした。一方で、開発組織ではAIを前提とした開発プロセスを構築するための「ブートキャンプ」を3週間から1ヶ月かけて実施するなど、組織的に深く向き合ったことで大きな変革が進みました。振り返ると、開発組織の取り組みに対して、全社的な取り組みはやや出遅れてしまった、というのが正直なところです。
Q.全社導入の失敗から、どのように立て直していったのですか?
河野さん: 全社に広く浅く展開するやり方から、まずは特定の領域に深く入り込み、そこで成果を出す戦略に切り替えました。開発組織では、現業務を数週間止めてAI前提の開発プロセスを学ぶ「ブートキャンプ」を実施するなど、先行してトランスフォーメーションを進めていました。また、「日本はいきなり全社導入して失敗。海外は個別の事業部門に絞り成功している」という調査結果も踏まえて、まず“狭く深く”成功事例をつくる方向に舵を切り直しました。全社展開のモデルケースとして先行したのが、コンサルティング部隊です。
この部隊で削減時間だけではなく、得たい成果を定め、事実情報をもとにしたモニタリングを徹底した結果、昨対比で従業員一人当たり売上140%増という明確な成果を出すことができました。この成功事例が全社的な注目を集め、「我々の部署にも導入したい」という声が各所から自然に集まりました。そこから一気に、全社活用へのモメンタムを生み出すことができたのです。「膝小僧を擦りむきながら」試行錯誤したからこそ、たどり着けた戦略だったと感じています。
Q.コンサル部隊の従業員一人当たり売上昨対比140%は驚異的な成果ですね。具体的にどのような課題を解決したのでしょうか?
河野さん: コンサルティング事業は、コンサルタントの人数が売上の主要因となるビジネスモデルです。そのため、一人あたりが担当できる案件数を増やすことが売上向上の鍵でした。業務を分析すると、メンバーが作成した資料をリーダーがレビューする工程に多くの時間と労力が割かれていることが見えてきました。
上司は期待している品質を伝えているつもりでも、メンバーはうまく解釈できず、成果物の品質にズレが生じる。最終的には上司が巻き取ってしまい、大きな手戻りが発生する。これはどの組織でも見られる「あるある」だと思います。私たちは、この上司と部下の間にAIを介在させられないかと考え、約1年間検証を続けました。例えば、AIが資料作成の品質を事前に高めたり、上司のフィードバックをメンバーに分かりやすく噛み砕いて伝えたりすることで、手戻りを劇的に削減し、品質基準を揃えることに成功したのです。これが生産性向上に直結し、売上増という大きな成果に繋がりました。
業務への深い理解から生まれたクリティカルなAI活用事例
Q.現在、社員の方々は具体的にどのような業務で生成AIを活用されているのでしょうか?
河野さん: 現在も特定の業務に深く入り込み、そこで得た知見を横展開するサイクルを回し続けています。特に注力しているのが「採用アウトソーシング業務」と「コンサルティング業務における資料作成」です。
採用アウトソーシング業務では、社内の採用管理システム(ATS)にAIやRPAを連携させ、人が介在しなくても進められるオペレーション業務の代替を進めました。これにより、オペレーション業務にかかる時間が約半分になり、1案件あたりの粗利率が劇的に改善しました。創出できた時間で、お客様の価値をさらに向上させるための提案活動や、新規顧客の開拓といった、より付加価値の高い業務に注力できるようになっています。
髙草木さん: コンサルティング業務では、クラウドで提供している組織診断サーベイの報告書作成の業務改革を進めました。診断結果の解釈は専門的な知見が必要で、ベテラン層に業務負荷が集中するのが課題でした。そこで、ベテランが持つ分析のナレッジをAIを使って構造化し、一つのワークフローとしてシステムに落とし込みました。これにより、誰が担当しても一定以上の品質で分析ができるようになり、クオリティの標準化と業務負荷の削減を実現しています。
| 業務領域 | 抱えていた課題 | AI活用による解決策 | 創出された成果 |
| 採用アウトソーシング | オペレーション業務の負荷が高く、高付加価値業務に時間を割けない | 採用管理システム(ATS)とAI/RPAを連携し、定型業務を自動化 | オペレーション業務時間半減、粗利率向上、提案活動などへの時間創出 |
| コンサルティング(報告書作成) | 担当者の経験によって分析の質にばらつきが生じ、ベテランに負荷が集中 | ベテランの分析ナレッジをAIで構造化し、誰でも高品質な分析ができるワークフローを構築 | 報告書作成業務の削減、品質の標準化、ジュニア層の早期戦力化 |
| コンサルティング(レビュー) | 上司と部下間での品質認識のズレや、手戻りによる非効率な業務プロセス | 上司と部下の間にAIを介在させ、品質チェックやフィードバックの解釈を支援 | レビュー工数の削減、コミュニケーションの円滑化、コンサルタント一人あたりの生産性向上 |
グループ全社員約1,500名のAI活用を達成した「TA制度」と「ギャル人材」という発想
Q.全社的にAI活用を定着させる上で、鍵となった取り組みはありますか?
河野さん: トップダウンとボトムアップの両輪を回す仕組みです。経営トップが旗を振るだけでなく、各部門に「TA(Technology Administrator)」という役割を設置したのです。50名程度の部門単位に1名アサインされたTAが、自身の部署のAI活用度を高めるためのトレーニングや啓蒙活動を推進する。外部のIT部門やDX推進部隊から「これをやってください」と言われても反発が生まれますが、内部の人間が働きかけることで、変革は一気に加速しました。この施策を通じて、AIを日常的に活用する文化が組織に根付きました。今ではグループ全社員約1,500名が、当たり前のようにAIを使っています。
Q.そのTAの人選で工夫された点はありますか?
河野さん: AI時代において重要なのはスキル以上に特性です。AIは日進月歩で変化するため、その変化自体を楽しみ、試行錯誤できる人。そして、得た学びを自分の組織に還元したいという貢献意欲が高い人。そういったタイプの方が適任でした。私たちは親しみを込めて「ギャル人材」と呼んでいるのですが、新しいものに臆せず飛びつき、周囲に「これ知ってる?」と明るく働きかけられるような人材をアサインしたことが、成功の大きな要因だったと確信しています。
AIを組織変革のOSへ。自社の成功モデルを社会実装し、日本の生産性向上を牽引する
Q.最後に、今後の展望についてお聞かせください。
河野さん: 短期的には「成果のスケール」をテーマに掲げています。これまでは各所で個別の成功事例を生み出してきましたが、今後はその成功モデルを仕組みに落とし込み、全社で同時多発的に成果を創出できる状態を目指します。
そして数年後の中長期的な視点では、AIを「組織変革のOS」として社会に実装していくことを見据えています。少子高齢化が進み生産性の向上が急務である日本において、テクノロジーの活用は避けて通れません。我々が自社の変革で培った事例やノウハウを、DX推進リーダーの育成プログラムや、株式会社松尾研究所様をはじめとするパートナー企業との連携を通じて広く社会に展開し、日本の生産性向上を牽引していく。ひとり一人がワクワク・いきいき働ける社会を実現するために、これからも挑戦を続けていきたいと考えています。