2022年末のChatGPT登場以来、多くの企業や自治体がその活用を模索しています。山形県南陽市は、いち早くその可能性に着目し、全庁的な導入に挑戦してきました。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。試行錯誤の連続。
失敗経験さえも「公共の財産」として公開し、未来を見据える南陽市の取り組みについて、みらい戦略課の仁瓶さん、小野さん、2022年より同庁においてAI導入を推進されてきた佐野さんにお話を伺いました。
▼写真左:みらい戦略課情報システム主幹 小野さん
写真右:DX普及主幹 佐野さん

「すごいものが出てきた」という衝撃。DX推進の先にあった生成AIとの出会い
Q.まず、南陽市で生成AIの活用を検討し始めた背景について、詳しく教えていただけますでしょうか。
佐野さん: 生成AI活用の取り組みは、今から3年ほど前、ChatGPT 3.5が世に出て一大ブームになった時が直接のきっかけです。初めて触れた時、「凄いものが出てきたな」と衝撃を受けました。当市ではそれまでDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む中で、人が機械をどう活用して業務に向き合うかを模索してきましたが、そこに革新的な技術が登場したのです。これを試さない手はないと考え、活用を検討し始めたという背景があります。
試行錯誤の全庁展開。失敗を乗り越え「共に育てる」文化へ
Q.当時は民間企業ですら手探りの状態だったと思いますが、どのように導入を進めていったのでしょうか? また、その過程でどのような課題がありましたか?
佐野さん: ChatGPTが登場した当初に衝撃を受け、まずは私が個人的に使い始めたのが全ての始まりです。そこから庁内での実証実験として、ASPサービスを導入して試用を始めました。最初は興味を持った職員が20名ほど集まり、「何か新しいことが始まったな」という雰囲気が庁内に生まれたと思います。そこから全庁に展開してみると反響は大きく、150名ほどの職員から「自分も使ってみたい」と手が挙がりました。
▼佐野さん実施の生成AIに関する研修会の様子

しかし、最初の利用は上手くいきませんでした。利用率が一度は伸びたものの、すぐに減ってしまったのです。ここで諦めるのは勿体無いと考え、先行して使っていた職員が作成した有効なプロンプトを共有するなど工夫をしましたが、それでも利用率は再び下がってしまいました。令和6年の8月には利用率が過去最低となり、150人いた利用希望者のうち、月間アクティブユーザーは22名ほどにまで低下してしまいました。
Q.利用者が激減する中で、どのようにして状況を打開しようとされたのでしょうか?
佐野さん: 発想を転換し、手を挙げた150人だけを対象にするのではなく、まだ興味を示していない残りの100名以上の職員にもアプローチしていくことにしました。具体的には、庁内の掲示板を使い、生成AIの具体的な使い方などを紹介するコラムを週2回掲載することにしたのです。この取り組みによって、利用者は少しずつ上向きになりました。
庁内でさえ普及させることがこれほど難しいのであれば、市民の皆様や企業も生成AIを導入する際には同様の壁にぶつかるだろう、地域のDX推進という観点からも、この経験は価値があるはずだと考えました。そこで、市役所での失敗も含めたノウハウを「プロンプト集」という形でホームページで全て公開することにしたのです。プロンプトの作り方がわからない、どう使えばいいかわからない、といった我々の失敗経験を世の中に出し、皆で一緒に進めていくことで、社会全体に「生成AIを使いましょう」という流れが生まれる。そして、その良いフィードバックが我々の庁内にも返ってきて、さらに普及が進めば良いな、という思いで現在も取り組みを進めています。
▼南陽市が公開した生成AIのプロンプト集のイメージ

活用の幅を狭めない。「自由な挑戦」を支えるガイドライン
Q.まだ国の方針も固まっていなかった当時、セキュリティや情報管理に関するガイドラインはどのように策定されたのでしょうか?
佐野さん: ガイドラインは、庁内展開する前の令和5年3月〜4月頃に作成しました。先行的に生成AIを導入していた自治体のものを参考にしましたが、内容は基本的に「気をつけて使ってくださいね」という程度に留めています。我々の考えとして、詳細すぎるガイドラインを設けてしまうと、どうしても動きが制限されてしまうという懸念がありました。ですから、とにかく事故が起きない範囲で職員に自由に使ってほしいという思いが強かったのです。
そのため、ルールを厳しくするのではなく、「やってはいけないこと」を明確にしました。具体的には、ハルシネーションが起きるので出力結果は必ず人の目で最終確認すること、AIに個人情報や機密情報は入力しないこと、といった内容です。それ以外はもう自由にやってください、というスタンスで、現在も同じ運用を続けています。
「土壌づくり」の現在地。成果を急がず、着実な一歩を
Q.現在、現場の業務では具体的にどのように生成AIを活用されていますか?
佐野さん: 正直に申し上げますと、「生成AIを使ってこれだけ業務が楽になった」という明確な成果はまだありません。やはり生成AIの活用は非常に難しく、職員によって捉え方も使い方もバラバラなのが現状です。もちろん、税金を使って取り組んでいる以上、最終的に目に見える成果は必要ですが、すぐに結果が出るものではないとも考えています。今はまず、活用を促進するための「土壌」を庁内全体で整備しなければならない状況です。
現在の主な活用法としては、検索の延長線上での利用が非常に多いです。「〇〇について教えてください」といった使い方ですね。その他には、会議の文字起こしデータから議事録を作成してもらったり、「挨拶文を作ってください」「こういう思いを込めた内容に文章を校正してください」といったドラフト作成に利用されたりしています。個人的には、こうした使い方は生成AIを使ってやれることのほんの数%しか引き出せていないとも感じています。局所的な活用に留まらず、組織として全体最適化を図る視点が必要だと考えています。
人とAIが協働する未来へ。目指すは「AIエージェント」を使いこなす人材育成
Q.今後、生成AI活用に関してどのような未来を展望されていますか?
佐野さん: 私の思いとしては、将来、人と機械が一緒に働く世の中が来ると思っています。俗に言う「AIエージェント」の世界です。人が目的を生成AIに伝えると、AIが自動で考えて作業を行い、その結果を人が判断して世に出す。人がどのように機械を使いこなし、仕事を分担していくか。10年後くらいには、そういった世界になればいいなと願っています。
しかし、その実現のためには幾つか課題もあると思っています。特に、初心者が生成AIを使ってみて、期待通りの答えが出てこなかった時が大きな分岐点になります。そこで「なぜだろう?自分のやり方が悪かったのかな?」と考え、対話を重ねていける人と、諦めてしまう人に分かれてしまうのです。この諦めてしまった人を諦めさせず、自分の思考を正しくAIに伝え、世に出せるレベルの結果を得られるように導くことが重要です。全職員がそれを当たり前にできれば、それこそがAIエージェントの実現に繋がると思います。
地方はこれから人口が減り、高齢化も進みます。それでも行政サービスは維持しなければなりません。その中で、生成AIを活用して人と機械が分業し、AIを的確にコントロールできる人材を育成する。それが私たちの目標であり、今後はそういった人材を育てていくことに注力していきたいです。