今回は、認定NPO法人フローレンスでみらいのつながりはぐくむ事業部の大谷さんにお話を伺いました。同団体では、予期せぬ妊娠に悩む女性のための相談窓口にAIチャットボットを導入しています。しかし、そのAIは現在主流の「生成AI」とは一線を画すものだと言います。
命に関わる繊細な領域で、なぜその選択をしたのか。AI活用のリアルな課題と、今後の展望について、フローレンスみらいのつながりはぐくむ事業部の大谷さんに詳しくお聞きしました。
▼認定NPO法人フローレンス みらいのつながりはぐくむ事業部 大谷さん

予期せぬ妊娠に悩む人に24時間寄り添う。AIチャットボット導入の背景
Q.まずは、事業内容について教えていただけますか?
大谷さん: 私が所属する「みらいのつながりはぐくむ事業部」では、主に「にんしん相談」と「特別養子縁組事業」の2つを実施しています。
まず「にんしん相談」では、予期せぬ妊娠に悩む女性などを対象とした相談窓口「エナガさん相談室」というAIチャットボットの立ち上げと運営に携わっています。このチャットボットは、妊娠に関する相談や、私たちが取り組む「特別養子縁組」に興味を持った方への情報提供を主な目的としています。
そして、もう一方の事業が、産んでも育てられない事情のある方から生まれた赤ちゃんと、子どもを迎えたいと願うご夫婦とを繋ぐ「特別養子縁組事業」です。私は、育ての親(養親)を希望される方への研修なども担当しており、これら2つの事業を連携させながら、相談から縁組の成立までをサポートしています。
Q.チャットボット導入の背景には、どのような目的や課題があったのでしょうか?
大谷さん: 妊娠相談の現場では、これまでは常に人が対応することがメインでした。しかし、相談者が必要な時にいつでも情報を得られる環境が重要だと考え、24時間対応可能なチャットボットの導入を決めました。また、有人対応の工数を最適化する狙いもあります。このチャットボットが、相談員1人から2人分くらいの稼働を担い、より多くの困りごとを解決できる体制を目指しました。
大谷さん:特に妊娠に関する相談では、妊娠初期であったり、まだ妊娠しているかどうかわからない段階の方からのお問い合わせが約半数を占めます。そうした方々には、「まずはこのタイミングで妊娠検査薬を使いましょう」といった初期段階の情報提供をAIに任せています。そして最も重要なのが「振り分けの役割」です。チャットボットでのやり取りの中で、緊急性が高いと判断された相談者の方を、相談員が待機している有人のLINE窓口へスムーズに誘導する役割も担っています。
私たちの目的は単なるコスト削減や工数削減ではありません。AIを導入することで生まれたリソースを、より専門的な対応が必要な方への支援に注力し、「より多くの相談を受けたい」「必要な情報に正しくつなげたい」という思いが根底にあります。
「生成AIではない」選択の理由。命に関わる事業ならではのリスク管理
Q.現在のAIチャットボットにおける課題は何ですか?
大谷さん: 現在の仕組みで大きな問題は起きていませんが、やはり生成AIではないため、やりとりのスムーズさには課題を感じています。ChatGPTのような滑らかな会話とは異なり、あらかじめ用意された定型の文言を返す仕組みなので、時として会話がうまく成立しないことがあります。特に、相談者の方は金銭的な問題、家族関係、ご自身が未成年であることなど、複数の課題を抱えているケースが少なくありません。そうした複雑な状況が長い文章で寄せられた際に、一つの質問として切り分け、適切な回答を返すことが難しいと感じています。
Q.それでも生成AIではなく、現在の形式を選んでいるのはなぜでしょうか?
大谷さん: やはり、私たちが扱うのが「命」に関わる非常に繊細な相談だからです。AIが医療行為と受け取られかねない回答をしたり、踏み込んだアドバイスを自動で生成してしまったりすることには、非常に大きなリスクが伴います。万が一、AIが誤った情報で相談者を不適切な行動に促してしまった場合、取り返しがつきません。その点を考慮すると、現段階で生成AIにすべてを任せるのはまだ拭いきれない懸念がある、というのが正直な気持ちです。そのため、意図的にシナリオベースのAIを採用し、慎重な運用を心掛けています。
大谷さん: AI活用を大々的に打ち出すのではなく、あくまで支援のリソースを有効に使うための一つの手段として捉えています。
AIと共に生きる未来へ。組織としての向き合い方と展望
Q.団体全体としては、AIとどのように向き合っていますか?
大谷さん: 団体として「AIと共に生きていかなければならない」という基本的な考え方があります。システムを管轄する部署が中心となり、リスク管理を徹底しつつも「積極的に使っていこう」という方針を掲げています。例えば、「このツールは安全だから使っていいよ」「個人情報は入力しないで」といったガイドラインを全社に共有したり、AI活用専門のチャットグループで情報交換を行ったりしています。部署によっては、AIを業務に取り入れて効率化を図ることを目標に掲げるなど、組織全体で少しずつAIに慣れ、身近なものにしていく活動を進めています。
Q.今後、AIにどのようなことを期待していますか?
大谷さん: AI業界は進化のスピードが非常に速いため、乗り遅れないように情報のキャッチアップは続けていきたいです。今後の活用においても、やはりリスクとの戦いになるでしょう。現在、国レベルでも「相談事業に使うAIはこうあるべきだ」といった明確なガイドラインはまだ存在せず、手探りの状況です。今後、法整備などが進み、私たちがより安全に、そして安心してAIを活用できる環境が整うことを期待しています。その上で、AIには、本当に人の手による支援が必要な方へとスムーズにつなぐ「橋渡し役」としての役割を担ってもらいたいと考えています。対人支援の必要性は変わりませんが、そこに至るまでの道のりを、AIが支えてくれる未来に期待しています。
認定NPO法人フローレンスの取り組み
「こどもたちのために、日本を変える」。
フローレンスはこどもの虐待や貧困問題、育児の孤立・孤独など、こども・子育て領域の社会課題の解決を目指し、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組などの数々の福祉・支援事業を運営するとともに、政策提言や文化醸成などの活動を行う国内最大規模の認定NPO法人です。 今回お話を伺った「赤ちゃん縁組事業」では、予期せぬ妊娠に悩む方の相談支援と共に、さまざまな事情で生みの親が育てることができない赤ちゃんと、子どもを育てたいと願う夫婦を「特別養子縁組」でつなぐ活動を行っています。現在、フローレンスでは養親になってくださるご夫婦を募集しています。ご興味のある方は、まずは資料請求からご検討ください。