埼玉県が進める業務変革の現場では、今、生成AIが「頼れるパートナー」として定着しています。生成AIの活用により職員の方々の業務高質化を支援し、その分、研修や新たな企画立案といった「人間にしかできない創造的な仕事」に力を注ぐ。同県が掲げる「TX(タスク・トランスフォーメーション)」の根底には、職員一人ひとりの時間価値を高めることで、より良い行政サービスを届けたいという想いがありました。
今回は、埼玉県 行政・デジタル改革課 DX推進担当の池田さん、的場さんにお話しを伺いました。

DXの実現へ。職員の時間価値を高めるための挑戦
Q.なぜ生成AIを導入したのですか? プロジェクトが始まった背景についても教えてください。
池田さん: 埼玉県では、全庁でDXを推進しており、その一環として、民間企業でいうBPR(業務改革)のような取り組みに力を入れています。その中でも、生成AIをはじめとする様々なデジタルツールを駆使した業務変革を「TX(タスク・トランスフォーメーション)」と位置づけ、機械に任せられる仕事は機械に委ね、職員の力をより創造的で、人間にしかできない業務へ振り向けることを目指しています。
生成AIが注目され始めた2023年の4月頃、横須賀市様の事例等が大きく報じられたのを見て、我々も「これは自治体業務に非常に役立つものだ」と直感しました。早速、同年7月にはガイドラインを策定し、同年度の後半には生成AIを使って一部職員による実証実験を開始しました。当初は記者発表資料のタイトル作成などで試したのですが、行政の業務効率化にも非常に有効なツールであることが分かった一方、指示文(プロンプト)の精度によって回答が大きく左右されるなど、専門知識のない職員が使いこなすには難しい面があることも分かりました。
この実証実験を踏まえて、セキュリティが担保され、かつ誰もが使いやすいツールが必要だと考え、自治体向けのセキュアな生成AIツールの本格導入に踏み切りました。生成AIは「TX」を実現するための重要なツールの一つであり、効率化によって生み出した時間で研修や新たな企画立案を行うことで、最終的により良い行政サービスに繋げていきたいという思いから活用を始めました。
議事録作成が6時間→1時間に。アイデア出しのプロセスも変革
Q.現在、具体的にはどのような業務に活用されていますか?
池田さん: 最も効果が出ている分かりやすい例が議事録の作成です。別途導入した音声の文字起こしシステムと生成AIを併用することで、これまで5〜6時間かかっていた議事録作成業務が、1時間程度で完了できるようになりました。
庁内では、生成AIに「AI(アイ)タマちゃん」という愛称をつけていまして、庁内のあちこちから「ちょっと『AIタマちゃん』に聞いてみよう」という声が聞こえるようになりました。手軽に多角的な視点を得られるので、企画立案の質とスピードが向上しています。
その他にもデータ分析の用途では、回収したアンケートの自由記述や集計結果を生成AIに分析させることで、これまで職員が手作業で行っていた自由記述をネガティブなもの・ポジティブなものに分類する作業が効率化されたほか、分析の視点を生成AIにも提示してもらうことで分析品質の向上にも寄与しています。
また、政策立案等のアイデア出しの用途では、これまでは企画を考える際、担当者がゼロからアイデアを練り、会議で議論していましたが、今は担当者がまず「AIタマちゃん」と対話してアイデアのたたき台を作り、それを基に皆で議論するということができるようになりました。これにより、会議の時間が短縮されただけでなく、議論そのものの充実度も格段に上がったと感じています。
意外な使い方としては、職員がExcelやPCの基本的な使い方で分からないことを、ヘルプデスク代わりに「AIタマちゃん」に聞くという使い方もあります。
Q.生成AI導入の効果はどのように考えていますか?「何時間削減できた」といった定量的な効果を重視しているのでしょうか?
的場さん: もちろん職員の時間を生み出すことは大きな目的です。議事録作成で5時間以上の時間が削減されるなど、定量的な効果も出ています。しかし、「何時間削減したか」という数字そのものが最終ゴールではありません。むしろ重要なのは、生成AIの活用によって生まれた時間を、いかにして県民の皆様に提供する住民サービスの価値の最大化に繋げていくか、という点です。
生み出された時間を使って職員が専門研修を受けたり、新たな政策を深く検討したりすることで、結果的に住民サービスの質が向上する。そういった効果を期待しています。時間削減はその先にある価値創造のための手段と捉えています。
ログイン率6割を達成した「マクロとミクロ」の浸透戦略
Q.職員の皆さんへの活用や浸透のために、特に力を入れた施策はありますか?
池田さん: 他の自治体の方からも「そのアイデアは良いですね」と言われることが多いのですが、生成AIツールに「AIタマちゃん」という愛称をつけたことが、心理的な障壁を下げるのに大きな効果を上げていると感じています。システムが製品名の「exaBase生成AI」という硬い名称ではなく、親しみやすい「AIタマちゃん」というキャラクターとして認識されることで、職員が生成AIと会話をしながら業務効率化を進められるようになり、利用のハードルが大きく下がりました。
また、活用の促進にはマクロとミクロ、両方の視点からのアプローチが必要だと考えています。生成AIは便利ですが、「使わなくても業務は回る」ため、例えばチャットが来たら使わざるを得ないTeamsのような必須ツールに比べて、どうしても利用率が上がりにくい側面があります。
そこで、まずはマクロ的な取り組みとして、全職員に「一度は触ってみる」機会を研修という形で提供しました。その結果、職員のログイン率は約6割まで向上し、まずは「使ってみる」という土壌ができました。
一方で、そこから実際の業務で継続的に使ってもらうためには、ミクロ的なアプローチが欠かせません。「何に使えば良いかわからない」という声に応えるため、庁内ポータルで具体的な活用事例集を公開したり、毎週1回ブログ形式で活用法を発信したりしています。さらに、ツールの選定段階から「プロンプトテンプレート機能」があることを重視しました。これにより、専門知識がない職員でも簡単な操作で精度の高い回答を得られるため、利用のハードルを大きく下げることができています。個別の伴走支援も含め、こうした両面からのアプローチで活用の定着を図っています。
埼玉県全体の生産性向上に向けて
Q.最後に、記事をご覧の方々へメッセージをお願いします。
的場さん: 埼玉県は知事を筆頭に、生成AIに限らずDXの推進に非常に力を入れています。この記事をきっかけに、これまで生成AIを使ったことがない県内の企業の皆様にも、私たちの実績も参考にしながら積極的な活用に挑戦していただき、生産性向上に繋げていただけると、県としてDXを推進している甲斐があります。皆様と共に、埼玉県全体の生産性を高めていけることを願っています。