【プロンプトではなく「対話」】職員の9割が活用する生成AI浸透

札幌市の隣に位置し、豊かな自然と都市部へのアクセスの良さを兼ね備える北海道当別町。人口約1万5千人、職員数約200人という小規模な自治体でありながら、生成AIの活用において全国の自治体から注目を集める先進的な取り組みを次々と打ち出している。

ChatGPTの登場直後から迅速に検証を開始し、わずか1年足らずで全庁的な本格導入と次世代技術の実証を推し進めてきた。しかしその道のりは平坦ではなく、利用率の伸び悩みという大きな壁に直面したという。その壁をいかにして乗り越え、職員の9割が利用する現在の状況に至ったのか。同町のDXを牽引するデジタル都市推進課の碓井さんにお話を伺いました。

スピード感を武器に「様子見しない」。前例のない挑戦を支えたDXの土台と導入コンセプト

Q.なぜ当別町では早い段階での生成AI導入が可能だったのでしょうか。

碓井さん: 当別町では生成AIに取り組む以前から、RPAやテレワーク、リモート相談といった施策を推進してきました。職員には1人1台ノートパソコンを支給し、どこからでもリモート接続できる環境を早い段階から整えており、ペーパーレス化や場所にとらわれない働き方が浸透しつつありました。こうした土台があったことも、迅速な挑戦を後押しした一因かもしれません。

生成AIについては、2022年11月にChatGPTが公開された翌月からすぐに検証と情報収集を始めました。2023年の春頃には、世間では「課題やリスクがある」という論調が強まり、私たちのような小規模な自治体では「他の自治体の動向を見てから」と様子見するのがありがちな判断だと思います。しかし、そうではなく、「生成AIを適切かつ安全に利用することを前提に、その可能性を最大限に引き出し、業務効率化への新たな道を切り開く」というコンセプトを打ち立てました。この方針を町長にも説明し、取り組みを推し進めてきたのです。

具体的には、まず職員向けの勉強会で生成AIの基礎を学ぶ機会を設け、同時にガイドラインの作成に着手しました。行政向けのセキュアな生成AIサービスが登場し、技術面・運用面でリスクを回避できる環境が整ったタイミングで、町長や議会に「実証を始めさせてほしい」と説明し、全庁的な実証へと駒を進めました。

「週刊マガジン」で利用機会を創出。地道な機運醸成が本格導入への道を拓く

Q.実証から本格導入に向けて、職員の皆さんに浸透させるためにどのような工夫をされましたか?

碓井さん: ツールを導入しても職員がすぐに使ってくれるわけではない、ということは分かっていましたので、機運醸成の施策に最も力を入れました。具体的には「職員説明会」「利活用研修会」「週刊マガジン」「プロンプト共有」の4つの取り組みです。

特に効果的だったのが「週刊マガジン」です。プロンプトの事例や生成AIを使いこなすテクニックを紹介するものですが、あえて「毎週」配信することにこだわりました。というのも、こうしたテクニックは一度にまとめて周知しても、日々の業務に追われるうちにすぐに忘れられてしまうと考えたからです。そこで、あえて情報を小出しにして毎週届けることで、職員が「今週も生成AIを使ってみようかな」と思うきっかけを、最初は強引にでも創出する必要があると考えました。

こうした地道な取り組みの結果、実証期間の最後に行ったアンケートでは、一定の利用数や業務効率化の効果が見られ、職員からの継続利用への意向や期待も非常に高いことが分かりました。この結果をもって再度、町長や議会に説明し、「2023年10月からの本格導入」を果たすことができました。

その際、単にツールを導入するだけでなく、3つのポイントを同時に進めることも約束しました。1つ目は、まだ活用できていない職員もいるため、勉強会などの機運醸成施策を継続すること。2つ目は、当時まだ珍しかったRAG(Retrieval-Augmented Generation)やAIエージェントといった新しい技術にも積極的にチャレンジしていくこと。そして3つ目が最も重要ですが、生成AIはChatGPTだけではないという認識のもと、技術の過渡期であることを理解し、その変化に適切に対処できる準備を進めていく、という点です。

利用率の壁を乗り越えた、ある職員の一言。「プロンプト」から「対話」への方針転換

Q.本格導入後の利用率は順調に伸びたのでしょうか?何か課題はありましたか?

碓井さん: 実は、本格導入後もしばらく利用率は伸び悩んでいました。いわゆる「使う人は使うが、使わない人は全く使わない」という二極化が進んでしまっていたのです。そんな時、ある職員から具体的な業務の悩みについて質問され、私が「それをそのまま生成AIに聞いてみるといいですよ」と答えたところ、「なんて生成AIに聞いたらいいのかわからない」という返答に、ハッとさせられました。

私はそれまで、マガジンなどを通じて「プロンプトをしっかり書きましょう」「条件や役割を与えましょう」といった周知をしてきました。一部の職員はそれを理解していましたが、半数近くの職員にとっては、それが逆に「プロンプトって書くのが難しい」「何を書けばいいか分からない」という高いハードルになってしまっていたのです

この出来事をきっかけに、職員向けの勉強会では方針を180度転換しました。「プロンプトの形式にこだわりすぎるのではなく、まずは会話をしていきましょう」と。「一度の指示で100点を求めるのではなく、生成AIと対話を重ねて100点を目指しましょう。たとえ90点でも十分です」と伝えました。そして何より、「頭の中で考えているだけでなく、やりたいことを言語化してAIに伝えることこそが鍵です」という点を強調しました

すると、伸び悩んでいた利用率のグラフが今年度(2025年度)に入ってから一気に伸び始めたのです。現在では、全職員の9割が一度は生成AIを利用した経験があり、月単位で見ると6〜7割、毎日利用するアクティブユーザーも2〜3割に達しています。約2年半かけて、ようやくこの状況に至りました。

AIが人に寄り添う働き方へ。AIエージェント「プロスケくん」が示す次世代の業務スタイル

Q.今後の展望についてお聞かせください。特にAIエージェントの活用について、どのような構想をお持ちですか?

碓井さん: エンジニアの世界では、開発環境にAIが統合され、シームレスに使えるのが当たり前になりつつあります。しかし、私たちの生成AIの使い方は、ブラウザを立ち上げ、サービスにアクセスし、プロンプトを書いて会話をし、結果をコピー&ペースト、編集する、という多くのステップを踏んでいます。私はこの働き方を一歩先へ進めたいと考えており、今「生成AIを軸とした、三層分離の先を見据えた次世代の働き方」というコンセプトを構想しています。

具体的には、業務データをクラウドストレージに集約し、生成AIがそれをシームレスに参照できる環境を整えたい。また、ExcelやTeamsといった日常的に使うアプリケーションの中にAIが搭載され、作業の流れの中で自然にAIを活用できるようにしたいと考えています。さらに、一部のタスクについてはAIエージェントを活用。人間がAIに合わせるのではなく、AIが私たちの業務背景や流れ、いわゆるコンテキストを理解して人間に寄り添ってくる世界を目指したいです。

その一例として、私がCopilot Studioで作った「プロスケくん」というAIエージェントがあります。これはプロポーザル(企画提案)のスケジュール案を作成してくれる簡易的なものですが、日付を入力するだけで、祝日や制約条件(例:「公示後〇日以上空ける」など)をすべて考慮したスケジュール案を自動で生成してくれます。こうした手間のかかる作業をAIが担ってくれるのです。

今後は、スケジュール作成だけでなく、実施要項や審査会設置要領の作成など、プロポーザルに関わる一連の作業をそれぞれエージェント化し、最終的にはそれらを束ねるマルチエージェントに指示を出すだけで関連資料一式が完成する、といった仕組みを各部署でどんどん作っていきたいと考えています。

Q.多くの自治体でLGWAN(総合行政ネットワーク)環境での利用が課題となりますが、どのように対応されているのでしょうか?

碓井さん: 当別町では、複数の生成AIサービスを導入しています。当初はLGWAN環境でも使える「LoGoAIアシスタント」を導入しました。その後、一部職員向けにインターネット環境で「Microsoft 365 Copilot」を、さらに「QommonsAI」も導入し、現在は3つのサービスを使い分けています。将来的にはネットワーク基盤の更改に伴いCopilotに集約していく可能性もありますが、現時点ではLGWANとインターネットの両環境で、それぞれの特性を活かした最適なツールを選択できる体制を構築しています。

Q.最後に、当別町の魅力を教えてください。

碓井さん: 当別町は札幌のすぐ隣にあり、JRで40分とアクセス抜群です。都会の札幌へ買い物やライブにすぐ行ける一方で、町に入るとのどかな田園風景が広がる、まさに「ちょうどいい街」なんです。緑あふれる環境で過ごしながら、都市の利便性も享受できる。スウェーデンヒルズのような美しい住宅街も人気です。

また、当別町にはチョコレートで有名なロイズの工場があり、ふるさと納税の返礼品としても大変ご好評をいただいています。工場見学もできますので、ぜひ遊びに来ていただきたいですし、ふるさと納税でのご寄付もいただけると大変ありがたいです。