代表自ら旗を振り 「AI活用がかっこいい」文化を醸成

弁護士業務における緻密さと、事業成長に不可欠なマーケティングの迅速さ。一見、相反する要素が求められる法律事務所の経営において、生成AIはどのように活用されているのでしょうか。

今回は、弁護士法人大地総合法律事務所の代表、佐久間さんにお話を伺いました。Webマーケティングからクライアント向けの文書作成、そして組織への浸透戦略まで、同事務所が実践する生成AI活用の現在地と未来への展望に迫ります。

Webマーケティングから文書作成まで。弁護士業務を支える生成AIの多角的な活用

Q.まず、読者の方へ向けて貴所の事業内容の紹介をお願いいたします。

佐久間さん:私たちは、主に詐欺被害の回復や、それに付随する債務整理といった案件を中心に取り扱っています。最近では広告代理店様からリーガルチェックのご依頼をいただくなど、企業法務の領域にも少しずつ関わらせていただいています。今後は、男女関係の問題や遺言、相続といった、より身近な法律問題にも力を入れていきたいと考えています。

Q.様々な業務がある中で、生成AIを導入しようと考えた背景や目的は何だったのでしょうか?

佐久間さん:生成AIの活用は、主にWebマーケティングの領域から始まりました。現在、ランディングページ(LP)の作成やリスティング広告の運用において、生成AIはなくてはならない存在になっています。例えば、広告のレポート抽出やデータ分析、LPのドラフト作成、さらにはデザインに使用する画像の生成まで、Claudeなどのツールを駆使しています。マーケティング業務に関しては、もはやAIなしでは成り立たないと言っても過言ではないほど活用が進んでいる状況です。

Q.現場の職員の方々は、具体的にどのようなシーンでAIを使われていますか?

佐久間さん:マーケティング以外で特に活用されているのが、クライアントに対する文書作成の場面です。法律の専門家として、正確さはもちろんのこと、お客様にとって分かりやすい丁寧な表現でお伝えすることは非常に重要です。そうした配慮が求められる文書を作成する際に、生成AIは非常に有効なツールとして機能しています。また、証拠の整理といった特定の作業には「言語革命」という専用ツールを使い、一般的な文書作成やリサーチには各自が持つChatGPTやGeminiのアカウントを利用するなど、用途に応じた使い分けを行っています。

AIは優秀な部下。人間はディレクターに徹し、マーケティングのPDCAを高速化する

Q.WebマーケティングにおけるAIの活用について、もう少し詳しくお聞かせください。

佐久間さん:Webマーケティングは少人数で担当しているため、LPのコピーを複数パターン用意してABテストを行うといった施策は、人的リソースの観点からどうしても後回しになりがちでした。しかし、生成AIを導入したことで、AIにコピーライターやマーケターの役割を担ってもらい、次々と施策の案を出させるのです。そして人間は、それらの案を評価し、方向性を決めるディレクターに徹するという役割分担が確立できました。

Q.広告運用後の分析もAIに任せているのでしょうか?

佐久間さん:はい。広告を一定期間運用した後は、そのデータをExcelに抽出し、そのままAIに渡して「このデータから読み取れる課題を教えてください」といった形で分析を依頼しています。これにより、人間の目だけでは気づきにくいインサイトを得ることが可能になりました。まさに、一人ひとりに優秀なコピーライターやマーケターといった「部下」がついてくれているような感覚で、広告運用における細かな改善サイクルを高速で回しています。現在は、AIが出した分析結果に対して人間が微調整を加えるという形で、非常に頼りにしています。

「0→1」の壁を取り払う思考の省略。AIがもたらした圧倒的なスピード感

Q.生成AIの導入によって、どのような成果がありましたか?

佐久間さん:最も大きな成果は、「思考のプロセスを大幅に削ることができた」という点に尽きます。これまで、何か分からない課題に直面した時、まず「何というキーワードで検索するか」を考え、次に検索結果の中から「どの情報が自分の目的に合っているか」を選別するという、一連の思考が必要でした。生成AIは、この中間プロセスをすべて省略し、問いに対してダイレクトに回答の候補を提示してくれます。もちろん、その内容を鵜呑みにすることはできませんが、この変化によってあらゆる業務のスピードが劇的に向上しました。

特に、仕事における「0→1」、つまり最初の一歩を踏み出す作業は最もエネルギーを要する部分であり、先延ばしにしてしまう原因にもなりがちです。生成AIを使えば、この初動を驚くほど簡単に行えるため、あとは出てきたものに対してピンポイントで思考を巡らせるだけで済みます。また、全く知識がない分野でも、AIを活用することでキャッチアップの速度が格段に上がるという実感があります。

Q.今後、AI活用の効果を定量的に測定するとしたら、どのような指標に注目しますか?

佐久間さん:タスクの処理速度、具体的には「いつアサインして、いつまでに完了したか」という時間は、生成AI導入の前後で比較しやすい定量的な指標になると考えています。逆に、「プロンプトを何回打ち込んだか」といった指標で評価することは適切ではないでしょう。プロンプトの質が低ければ、何度もやり取りが必要になるだけで、本質的な評価には繋がりません。最終的には、AI活用を個別のタスクの工数削減で測るのではなく、プロジェクト全体のKPIが向上した際に、その要因の一つとして「この局面でAIを活用しスピードを上げたから」と説明できれば、それが最も良い着地点だと考えています。

トップが率先垂範。「AIを使っている人が評価される」文化のつくりかた

Q.ツールを導入するだけでなく、組織に浸透させることが一番の難関かと思います。どのような工夫をされましたか?

佐久間さん:最も意識したのは、「生成AIを使っていることは、かっこいいことだ」という風潮を組織内に作ることです。特に真面目な気質の人は、AIのようなツールを「楽をするためのもの」と捉え、ショートカットに嫌悪感を抱く可能性があります。そこで、まずトップである私自身が積極的にAIを使い、プロンプトで生成したアウトプットをあえてあまり修正せずに全体に共有しました。そうすることで、見る人が「ああ、代表もChatGPTで作っているな」と認識し、「トップが使っているのだから自分も使っていいのだ」という空気感を醸成したのです。

それに加え、具体的な業務の局面で「こういう時は生成AIを使った方が効率的ですよ」と伝え続けました。そして、それを実践して良いアウトプットを出したり、業務時間を大幅に短縮したりした社員がいたら、その成功事例をきちんと全員に共有し、称賛するのです。こうした取り組みを続けることで、「AIを使っている人がきちんと評価されている」という状況を意図的に作り、少しずつ「自分もやってみよう」という雰囲気を広げていきました。最終的には、AIを使っている人といない人の間で成果に大きな差が生まれ、それが人事評価にも反映されていきます。そうなれば、自ずとAI活用が浸透していくと考えています。これは一朝一夕に実現できることではないため、トップが粘り強くメッセージを発信し続けることが何より重要です。

AIとの共存が当たり前になる未来で、いかにして「差」を生み出すか

Q.今後のAI進化を見据え、どのようなことに注力していきたいですか?

佐久間さん:短期的な課題としては、デザイン面でのAI活用です。LPのファーストビューなどをスピーディーに変更し、ABテストを高速で回したいのですが、現状ではまだ人力に頼らざるを得ない部分も多く、ここにAI技術を組み込んでいきたいと考えています。
より長期的な視点では、当事務所が独自に開発している顧客管理システムとAIの連携を深めていきたいです。例えば、システムに蓄積された案件の進捗データに基づき、生成AIがクライアントへの報告文を自動で生成できるようになれば、業務はさらに効率化されます。広告運用においても、いずれはAIが自律的に分析から改善までを行う、一人のマーケターのように動く世界が来るでしょう。

しかし、その未来では競合も同じようにAIを活用しているはずです。その時、「一体何で差をつけるのか」という新たな問いが生まれます。その未来の競争に乗り遅れないためにも、今はまず、私だけでなく全社員がAIを使いこなすための基礎的なリテラシーを身につけることが不可欠です。そのための取り組みを、日々淡々と続けていくだけです。

Q.最後に、この記事を読んでいる皆様へメッセージをお願いします。

佐久間さん:私たちが生成AIの活用に力を入れる目的は、業務効率化によってお客様へ提供できる価値を高めると同時に、事務所で働く社員一人ひとりの負担を軽減し、労働環境を向上させるためです。少ない労力で大きな成果を上げる、その実現に直結するのが生成AIの活用だと確信しています。これは、売り手、買い手、世間の三方にとって良いとする「三方よし」の考え方にも通じるものです。お客様への価値提供、社員の労働環境の適正化、そして社員個々のビジネスパーソンとしての成長。この方針に共感し、一緒に未来を創っていきたいと考えてくださる方からのご応募を心よりお待ちしております。