生成AIが約8割の部門に浸透。トップダウンとボトムアップの両輪で生成AIを推進

2022年頃から世界的に注目を集める生成AI。多くの企業や組織がその活用方法を模索する中、行政機関においても業務効率化や住民サービスの向上に向けた取り組みが加速しています。今回は、全国に先駆けて生成AIの活用を推進し、約8割の部門で生成AIの活用が進んでいる静岡県庁のデジタル戦略課 主任の木下さんと西山さんにお話を伺いました。導入の背景から、全庁的な活用を成功させた秘訣、そして今後の展望まで、詳しく伺いました。

手厚くすべき業務への注力を目指し、生成AI導入を決定

Q.なぜ生成AIを導入されたのでしょうか?その背景や目的についてお聞かせください。

木下さん: 2023年にChatGPTが世間を騒がせた頃、静岡県においても行政業務に生成AIをどう活用していくか、という点が課題として上がりました。他の自治体様と同様に、静岡県でも、本来もっと手厚く対応すべき重要な業務になかなか十分な時間を割けないという課題を抱えていました。そこで、生成AIがこの課題を解消する一助となるのではないか、という期待から本格的な検討が始まりました。

Q.当初から現在と同じツールを導入されていたのですか?

木下さん:当初(令和5年度)は、まず「行政専用AIマサルくん」というツールを使ってAIの活用を開始しました。その後、県の業務に合わせた独自のカスタマイズ性や、より高いレベルの業務効率性を追求した結果、令和6年度からは専用ツールとして「exaBase」を導入し、現在に至ります。

議事録作成で効果を実感。全庁で進む業務効率化と質の向上

Q.現場の職員の方々は、生成AIをどのように活用されていますか?

木下さん: 企画のアイデア出しやブレインストーミングといった、ルーティン業務に限らない多様な場面で活用してもらっています。最近実施したアンケートで最も利用頻度が高かったのは「議事録の作成」でした。特に自治体の業務では、会議の内容を議事録として正確に作成し、保管することが非常に重要視されます。従来、特に若手の職員は文字起こしから始めて議事録を整え、上司に共有するという一連の作業に膨大な時間を費やしていました。生成AIの導入により、このプロセスが一気通貫で処理できるようになり、現場の職員からは「非常に効果が出ている」という声が上がっています。

Q.実際に活用されてみて、どのような成果や効果を感じていますか?

木下さん: 定量的な面では、先ほど申し上げた議事録作成をはじめとする様々な業務の時間が短縮されたことが挙げられます。また、定性的な成果としては、資料の質の向上が大きいと感じています。生成AIを使うことで、作成者の主観に左右されない客観的な視点での資料作成が可能になり、庁内で共有される資料の客観性や均一性が保たれるようになりました。

約8割の部門に浸透させた秘訣とは

Q.約8割の部門で生成AIが活用されているというのは驚異的な数字です。全庁的な活用を成功させた要因は何だと思われますか?

木下さん: 複数の要因が組み合わさっていると考えています。まず、もともと新しい技術やAIに興味がある職員は、自らアンテナを高く張り、情報を収集して積極的に活用してくれています。一方で、そうではない職員に対していかにアプローチするかが重要でした。そこで、新規採用職員研修のような必須研修の場で生成AIの活用を継続的にアピールしたり、職員が各自のタイミングで受講できるeラーニングの環境を整備したりと、地道な周知活動を続けてきました。

Q.トップダウンでの働きかけもあったのでしょうか?

西山さん: はい、それも大きな要因の一つです。昨年、副知事と各部局のデジタル推進官(部長代理及び次長クラス)で構成される「デジタル戦略推進本部会議」(現:静岡県LGX・デジタル戦略推進本部会議)において、副知事から「各部局で最低一つは、生成AIの利活用方法を探し発表するように」と指示を出していただきました。これにより、半ば強制的にではありますが、全庁的に取り組む機運が生まれました。「県の上層部が生成AIの活用を強く推進している」という明確なメッセージが職員に伝わり、それがきっかけでツールに触れてみた職員も少なくなかったと思います。

Q.研修も工夫されたと伺いました。どのように工夫されたのでしょうか?

木下さん: はい、階層別の研修を実施しました。例えば、一番最初に実施した管理者向けの研修では、具体的なツールの使い方というよりも、部下が安全にツールを使うためのガバナンスやリテラシーの部分を中心に、職員がどのような使い方をしているのかをまず知ってもらう機会としました。こうしたボトムアップとトップダウンの両面からのアプローチが、現在の活用率につながっていると考えています。

全職員の“当たり前”を目指して。今後の展望と課題

Q.今後、どのような点にさらに注力していきたいですか?

木下さん: 理想は、全職員にWordやExcelのように、生成AIを業務に不可欠なツールとして当たり前に使ってもらうことです。まだ利用に至っていない職員もいますので、そうした職員にいかに興味を持ってもらい、最初の一歩を踏み出してもらうかという点に、今後さらに注力する必要があります。そのために、具体的な成功事例の展開や、初級者向けの研修をより一層充実させていきたいです。その一方で、すでにツールを使いこなしている職員も一定数います。彼らに向けては、生成AIをさらに使いこなし、業務の質を上げるための専門的な研修やワークショップを実施していく必要があると考えています。そういった職員が各所属内でリーダー的な存在となり、周りを巻き込みながら組織全体が自走していく状態が理想ですね。

Q.具体的な機能面での課題や、今後活用していきたい部分はありますか?

木下さん: 生成AI全般に言えることですが、RAG(Retrieval-Augmented Generation)という、独自の文書やデータを参照して回答を生成する機能をまだまだ使いこなせていない点が課題です。生成AIのポテンシャルを最大限に引き出すためには、このRAGを使って既存の資料をいかに活用し、業務を効率化していくかが肝要だと考えています。そのための環境整備が、今後の大きなテーマになるでしょう。

「ためらわずに、まず導入を」他の自治体へのメッセージ

Q.最後に、同じように生成AIの導入を検討している他の自治体の担当者の方へメッセージをお願いします。

西山さん: もし導入をためらっている自治体さんがいらっしゃるなら、とにかく低予算でも良いので、まずは導入してみるのが一番だとお伝えしたいです。当県が令和5年6月に生成AIのガイドラインを策定した際、他の都道府県で策定しているところはほとんどありませんでした。それでも「世の中でこれだけ話題になっているのだから、まずはやってみよう」という精神で、前例のない取り組みに苦労しながらも挑戦しました。だからこそ、トライ&エラーを繰り返しながら、職員に使ってもらうためのノウハウを蓄積できたのだと思います。AIの技術は非常に速いスピードで進化していますので、乗り遅れずにぜひ今から試してみてはいかがでしょうか。