長年にわたり実演販売業界を牽引し、数々のヒット商品と名物販売士を世に送り出してきた株式会社コパ・コーポレーション。同社は1995年のWindows95登場時になぞらえ、2025年を「AI元年」と位置づけ、生成AIの活用に全社を挙げて取り組んでいます。その中核をなすのが、同社が長年培ってきた「売れるトーク」のロジックを注ぎ込んだ「実演口上自動生成機」です。商品開発から販売まで、事業の根幹にAIをどう組み込み、新たな時代を切り拓こうとしているのか。代表取締役社長の吉村さんにお話を伺いました。

「Windows95の再来」— 2025年“AI元年”を見据えた変革
Q.まず、貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。
吉村さん: 私たちは、実演販売を通じて商品の魅力を直接お客様に伝える事業を主軸に、商品の企画開発から卸売、小売までをトータルに手掛けています。私たちの最大の強みは、この実演販売という業界において唯一の上場企業であるという信頼性です。これまで世に名だたる実演販売士を数多く育て上げてきた実績があり、「実演の極意」とも言える育成ノウハウのすべてが当社に蓄積されていると自負しています。
その上で、私たちは2025年を「AI元年」だと捉えています。これは1995年にWindows95が登場した時と同じような、社会を根底から変える現象が今まさにAIによって起きているという認識です。このAI時代に対応すべく、私たちの核である実演販売も、これからがらりと姿を変えていくのではないかと考えています。
Q.そのような認識の中で、生成AIの導入を決定された背景や目的は何だったのでしょうか。
吉村さん: まさに、実演販売のあり方をAIで自動化、進化させることが目的でした。具体的には、Webページ上でプロの実演販売士と全く同じようにトークを展開する「実演口上自動生成機」というシステムを開発しました。これは、ページに訪れたお客様に対して自動で商品を説明し、もしお客様から質問があれば一旦トークを止めて応対し、終わればまたトークを再開するという、まさに対面での実演販売を自動で行うものです。これが実現できれば、近年注目されているライブコマースも自動化できます。人間がライブコマースを行うと、コストや時間などの障壁があり非常に大変ですが、AIであれば24時間稼働させることが可能です。特に、声で操作することに慣れている高齢者の方々には大きなニーズがあるのではないかと考えており、この「AI通販」という形に面白さがあると感じています。
「トークが企画書」独自の開発プロセスをAIで加速させる
Q.商品開発の領域でも生成AIは活用されているのでしょうか。
吉村さん: はい。私たちの商品開発プロセスは少し特殊で、まず「このセールスポイントを伝えたい」という実演トークから発想するんです。つまり、企画書そのものが実演のトークスクリプトになっています。世の中にまだない商品を仮説ベースで作るために、まず売れる実演トークを組み立て、その企画書に則って「このトークを実現できる商品を作ってほしい」と工場に依頼する流れです。商品はモノとして存在するだけでは価値がなく、お客様に「これを使いたい」と思ってもらって初めて意味を成します。そのためには、心を動かすトークから逆算して作ることが何よりも重要なのです。このトークの組み立ては人間でもできますが、自動生成機を使えば、よりスピーディに、多様なパターンの企画を生み出せます。
Q.開発速度の向上が、事業全体に与える影響は大きいですね。
吉村さん: その通りです。開発速度を上げることで、「コパ・コーポレーションは毎年新しくて面白い商品を次々と出してくる」という企業ブランディングにも繋がります。そして、そのブランディング戦略の一番の中核を担っているのが、まさにこの「実演口上自動生成機」というわけです。お客様を惹きつけるトークを高速で生み出し、それに基づいて商品を開発するというサイクルを回すことで、事業全体の成長をドライブさせたいと考えています。
8万字のプロンプトに秘められた「売れるロジック」の重要性
Q.AIを使いこなす上で、特に苦労された点や重要だと感じたことは何ですか。
吉村さん: これだけは知っておいていただきたいのですが、ChatGPTやGeminiといった生成AIに、ロジックなくただ命令するだけでは、正直「自分で作った方が早い」というレベルの、とんでもない実演口上が出てきます。このAIに我々の意図を正確に理解させる「ロジック」をプロンプトとして組み込む作業が、本当に大変でした。最終的に「実演口上自動生成機」には、8万字にも及ぶプロンプトを読み込ませています。それだけの量を読み込める生成AIもすごいですが、やはりAIを真に使いこなすには、その領域における専門的なノウハウ、我々の場合は「実演販売の極意」というロジックを保有していることが決定的に重要になります。
Q.AIが理解しやすいようにデータを整形するノウハウも重要ですが、それ以前に「何を教えるか」という根幹のナレッジがなければ意味がないということですね。
吉村さん: そうですね。ただ、重要なのは「ナレッジ」というより「ロジック」なんです。ナレッジだと、AIに学習されて外部に流出するリスクがあります。一方、私たちが開発した実演販売のロジックは、プロンプトに組み込んだ私たち独自のもの。これが最大の強みです。最終的に、AIが生成する実演トークが「売れるトーク」でなければ意味がありません。巷ではAIによる接客が話題ですが、ただ応答するだけでユーザーの心に響かせるのは難しいと考えています。お客様の心にスッと入っていく、実演販売の極意に基づいたロジックがどうしても必須だったのです。売れるトークには「これ以上でもこれ以下でもない」という決まった型があります。それを読み込ませることで、人間が覚える手間なく、高精度なトークを瞬時に生成できるのです。
全社講習から評価制度まで。AIを「自分ごと」にするための環境づくり
Q.素晴らしいシステムですが、社員の方々への浸透状況はいかがでしょうか。
吉村さん: 「実演口上自動生成機」については、全社員が日常的に活用する段階には至っていませんが、この取り組みが起爆剤となり、業務でのAI活用そのものは、全社員に広く浸透しています。今や、AIを使わないと仕事にならない、というレベルには達していると思います。
Q.全社的にAI活用文化を根付かせるために、どのような教育やサポート体制を構築されたのでしょうか。
吉村さん: 2025年4月の段階で、AIが社会に与えるインパクトの大きさを痛感し、即座に全社員を対象とした「AI導入に向けてのワークショップを、約3か月にわたり実施しました。こうした教育の場を設ければ、必ずや高い適性を示す社員が現れると考えていましたが、予想通り、AIエンジニアに匹敵するほどのスキルを習得する者が2〜3名出てきました。
また、各部署でのAI活用事例を競うコンテストを開催し、報酬を用意するなどして、楽しみながら挑戦できる環境を整えました。さらに、人事評価制度においても「AIをいくつアプリ化したか」といった具体的な評価項目を盛り込んでいます。こうした施策を重ねることで、社員の間に「自分たちも使いこなそう」という前向きな文化が醸成されました。58歳のベテラン社員が自らアプリを構築するまでになった姿を目の当たりにすると、まさに誰もが技術を使いこなせる、劇的な時代が到来したのだと実感しています。
Q.社員の方々は、どのようなAIツールを使っているのですか?
吉村さん: 特定のツールに絞るのではなく、ChatGPTやGemini、Claudeなど、世の中に出ている様々なAIを、各自が自分の業務に合わせて使い分けている状況です。機密情報の取り扱いなど課題はありますので、ルールを整備しながら、個人やチームで最適なツールを選択しながら活用を進めています。
吉村さん: 私個人としては、最近はGeminiのバランスの良さを感じており、今後は社内のデフォルトツールとして検討しています。ただ、AIの進化は本当に速いので、常に最適な選択をし続ける必要がありますね。
AI時代の経営と、その先に見据える「AI通販プラットフォーム」
Q.AIの進化が加速する中で、経営者として今後をどのように見据えていますか?
吉村さん: 去年がAI元年だとすると、本当の意味での変革はこれから1、2年でやってくるでしょう。そうなった時に、今後の経営体制や人員計画をどうすべきか、真剣に考えなくてはなりません。私たちのようにリソースが潤沢ではない企業こそ、AIを積極的に活用すべきです。例えばシステム開発において、従来は要件定義書やワイヤーフレームだけでイメージを伝え、実際に開発が始まってから「思っていたのと違う…」というミスマッチが頻発し、コストが増大するケースが少なくありませんでした。しかし今は、自分たちでモックアップを作って「こういうものを作って」と依頼できる時代です。コストも工数も劇的に削減できるこの時代に、ビジネスはどうあるべきか、根底から考え直す時期に来ているのだと思います。
Q.最後に、今後の事業展望についてお聞かせください。
吉村さん: まずは、AI活用をしっかりと売上に繋げることです。そのために、この「実演販売自動生成機」を最終的にはプラットフォーム化したいと考えています。目指しているのは、実演販売士のアバターが常駐する商品ページ、ランディングページといった、新たな世界観です。メーカー様が商品情報を入力するだけで、当社のノウハウが凝縮された実演トーク付きの魅力的なWebページが自動生成される仕組みです。これが強力な広告宣伝となり、確実に売上を創出し、在庫を効率的に循環させる。そうしたサイクルを実現したいです。この構想を実現できるのは、長年の実績とロジックを持つ私たちしかいないと信じています。
Q.具体的なサービスとして、近々リリースされる予定はありますか?
吉村さん: はい。弊社が運営するECサイト「わくたんマーケット」を、まさにその「AI通販」のコンセプトでリニューアルします。具体的には、2026年3月中に、商品ページが自ら語りかけるように商品を説明してくれる機能を公開する予定です。
最初は弊社の商品でスタートしますが、将来的にはこの仕組みをプラットフォームとしてクライアント様に開放していく計画です。既存のECモールとは一線を画す「AI通販プラットフォーム」として「わくたんマーケット」を確立していきたいと考えていますので、ぜひご期待ください。