「自然なAI体験」と新ビジョン「Talent intelligence™」

タレントマネジメントシステム市場のリーディングカンパニーである株式会社カオナビは、近年「Talent intelligence™(タレントインテリジェンス)」という新たなビジョンを掲げ、AI活用を全社的に加速させている。その中核を担うのが、2025年に設立された「AI推進室」だ。同社は、いかにしてAI活用の壁を乗り越え、社内への浸透とプロダクトへの実装を進めているのか。今回は、AI推進室で室長を務める藤田さんに、AI推進の具体的な施策からプロダクトの未来、そして今後の展望まで、詳しくお話を伺いました。

タレントマネジメントから「Talent intelligence™」へ。AIを核とした新ビジョン

Q.まず、貴社の事業内容について教えてください。
藤田さん: 当社では、社員の個性や才能を発掘し、戦略人事を加速させるタレントマネジメントシステムを展開しています。昨年10月、タレントマネジメントを次のステージへ進化させるため、私たちは「Talent intelligence™」という新たなビジョンを掲げました。これは、企業の最も重要な資産である「人(Talent)」に、データとAIの力で「知性(intelligence)」をもたらすことを意味しています。自社サービスである『カオナビ』自体をAIで強化するだけでなく、マネジメントや育成といったあらゆる場面でAIを活用したソリューションを提供していく。それが、今まさに当社が取り組んでいることです。

Q.新たな事業構造である「インフィニットモデル」についても詳しくお聞かせいただけますか?

藤田さん: 「インフィニットモデル」は、私たちの新しいビジョンを実現するための事業構造です。このモデルは大きく分けて2つの要素から成り立っています。一つは、従来のHR SaaSである『カオナビ』にAIを組み込み、サービス自体をより使いやすく進化させていく「HR SaaS × AI」の領域です。そしてもう一つが、キャリア相談や1on1の質向上など、より汎用的な課題を解決する新たなソリューションをAIで創出する「HR Solution」の領域です。

この二つを繋ぐハブとなるのが、中央に位置する「人材データプラットフォーム」です。お客様が私たちの様々なサービスをご利用いただくことで、このプラットフォームにデータが蓄積されます。データが貯まることで精度の高い高度なソリューション提供が可能になる。そして、そのソリューションをご利用いただくことで、さらにデータが蓄積され、HR SaaS側にも価値が還元される。この好循環を生み出すことが、「インフィニットモデル」が目指す姿です。

属人的なAI活用から全社推進へ。スピードとガバナンスを両立する「AI推進室」の役割

Q.なぜ専門部署である「AI推進室」を設立したのですか?
藤田さん:AI推進室の役割は2つあります。まずは先ほどご説明した「HRSaaS」や「HRSolution」に対する直接的なビジネスモデルの構築。もう一つは、全社的にAIネイティブな状態を作ることです。社内のAI活用については、AI推進室の設立以前から、GitHub Copilotのような開発支援ツールをはじめ、AIを使っていこうという動きは常にありました。しかし、以前は各個人や必要としている部門が、それぞれで予算を取り、法務や情報セキュリティ部門と相談してツールを導入するというプロセスを踏んでいました。これでは、どうしてもスピード感に欠けてしまいますし、AIツールごとに予算の確保をすることも大変です。こうしたプロセスを全社で統一し、AI活用のスピードを上げていきたいという思いが、AI推進室の設立背景の一つです。

Q.AI推進室ができたことによる効果はありましたか?
藤田さん: 「AIのツールを使いたい」「AIでこんなことをしたい」と思った時、まず相談する先として「AI推進室」が社内に認知されてきています。「使えるかどうかわからないけど、とりあえず相談してみよう」という声が、様々な部署から集まるようになりました。情報が集約されることで、次に会社として何をすべきか、という優先順位を立てる際に、現場の声を加味した意思決定ができるようになったのが、現時点での大きな成果だと感じています。

浸透の鍵は「普段の業務への組み込み」ビジネスサイドにも広がるAI活用

Q.全社にAIを浸透させる上で、どのような工夫をされていますか?
藤田さん: 開発部門のメンバーは新しいツールを業務に活かすことに比較的抵抗がありませんが、ビジネスサイドの社員にとっては、新しいツールを今までの業務プロセスにそのまま適用することは難しいことがあります。開くこと自体が億劫に感じられることもあります。そこでAI推進室では、エンジニアだけでなく、企画、営業、カスタマーサクセスといったビジネスサイドの担当者にもメンバーとして加わってもらいました。まずはフロント部門の人たちと直接対話し、今何が課題になっているのかをヒアリングできる体制を整えました。そこから、ボトルネックになっている業務に対し、できるだけ現在の業務を変えない形でAIを活用できるように、開発を行なっています。

Q.「自然にAIを使える」状態を設計する上で、何が重要だとお考えですか?
藤田さん: やはり、普段の業務の中に自然にAIが組み込まれている状態でなければ、なかなか使われないだろうと考えています。例えば、営業担当者が普段Slackでコミュニケーションを取っているのであれば、商談が終わったことをシステムが検知してSlackに通知を送り、そこで簡単な操作をするだけで商談情報が自動で登録される、といった流れです。このように、普段の作業の中にAIが処理するタスクが組み込まれている状態が理想です。今やっている業務にプラスアルファで「これをやったら便利ですよ」と提案するのではなく、普段の業務を楽にしつつ、新しいことを意識させない。「普通に仕事をしていたら、いつの間にかAIを使えるようになっていた」という状態を目指して、仕組みを構築しているところです。

Q.活用の効果測定やKPIはどのように設定していますか?
藤田さん: 「AIツール導入で何時間の工数削減ができた」といった、コスト削減に直結するKPIは設定していません。それよりも、プロダクト開発やビジネスの現場で、メンバー全員がAIを使って何かを改善することが当たり前になる、という文化を醸成する方が重要だと考えています。KPIをあえて置かないことで、「AIをどう使えばお客様の価値創出につながるか」といった本質的な問いを追求することができます。一方、与えられたミッションをしっかり遂行するため、旗振り役として求心力のあるメンバーを部署横断で集めています。メンバーは「兼務」体制とし、「主務」の目標達成をサポートするための存在として、AI推進に向き合ってもらっています。

プロダクトに息づくAIと、新たな事業構造「インフィニットモデル」

Q.プロダクトでは具体的にどのようにAIを活用していますか?
藤田さん: 現在は、『カオナビ』の中に生成AIを使った機能を組み込み、順次リリースしています。例えば、アンケートで集めた数千人分の定性的な回答を分析する「インサイトファインダー」という機能では、生成AIによるポジティブ・ネガティブ分析などを可能にしました。他にも、人材データベースの情報を要約する機能や、目標設定や評価文のたたき台を作成するアシスト機能など、生成AIが得意とするデータの要約、変換、作成といった機能を実装しています。これらは、まさしく「インフィニットモデル」における「HR SaaS × AI」の取り組みの一環です。

「社内・プロダクト・コミュニティ」三位一体のAI活用

Q.社内・社外におけるAI活用の今後の展望をお聞かせください。
藤田さん: 社内活用については、まずは現在開発中のツールを完成させ、具体的なアウトプットを一つでも多く出していきたいです。また、AI推進室を、各部署が抱える課題をAIで解決するための窓口として、さらに機能させていきたいと考えています。
プロダクトに関しては、HR SaaSの部分は引き続きAI活用を加速させ、さらに使いやすいサービスへと磨きをかけます。そして来年度(2026年度)は「HR Solution」の領域にも注力し、カオナビが掲げるビジョン「Talent intelligence™」を体現する具体例を示せるようにしたいですね。

Q.最後に、この記事の読者へメッセージをお願いします。
藤田さん: これまでのカオナビはシステムを提供する企業という印象が強かったと思いますが、これからはAIを土台に据え、現場の課題に一歩踏み込み、人と組織に変化をもたらすパートナーという存在で、確かな価値をお届けしたいと考えています。

その一環として、ユーザー様同士が学び合うコミュニティ「カオナビキャンパスオンライン」においても、人事業務における課題をテーマとして挙げ、それをAIで解決出来ないかを共に考えるプロジェクトなど、新たな試みを始めようとしています。AIの時代がどうなっていくか不確定な部分も多いからこそ、私たちは常に変化に対応できる組織でありたいですし、同じように悩んでいらっしゃるお客様と共に考え、より良い人材活用を提案していける存在になれたらと考えています。多くの方を巻き込みながら、新しい時代を創っていきたいですね。

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