シンプレクスが実践する「AI駆動開発」とCoEによる組織的推進とは

シンプレクス株式会社では、2023年7月に専門組織CoEを立ち上げ、社内開発の効率化を目的とした「AI駆動開発」を組織的に推進しています。開発のほぼ全工程にAIを適用し、人員を追加することなくプロジェクトを安定的に完遂させるなど、着実な成果を上げています。

今回は、同社のAI活用を推進する氏弘さんに、いかにして「AIネイティブ」な開発体制を構築し、成果に繋げていったのか、詳しくお伺いしました。

金融領域の強みを活かし、まずは「社内開発の効率化」で成功モデルを作る

Q.まずは御社の事業内容について教えてください。

氏弘さん: シンプレクスは創業当初より、証券の取引システムなど、金融機関のフロントシステム開発をソリューションとして提供してきました。近年では金融以外の拡大にも注力しており、官公庁やメディアなど多岐にわたる業種に対し、システムによる業務効率化のコンサルティングやシステム開発などのソリューションを提供しています。

Q.生成AIの活用を開始された目的や背景、導入時の課題についてお聞かせください。

氏弘さん: 最大の目的は、社内の開発業務の効率化です。テックファームである当社にとって、開発業務の効率化は経営的なインパクトが非常に大きい領域です。当時、生成AIは最新のトレンド技術であり、世の中にまだ成功事例が少ない段階でした。そのため、いきなりお客様へ提供するのではなく、まずは自分たち自身が活用して成功事例を作り、そのノウハウをお客様へ還元していくという方針でスタートしました。

Q.組織的な導入にあたっては、どのような体制を構築されたのでしょうか?

氏弘さん: 生成AIの活用を個々の従業員に任せてしまうと、チーム横断的な連携やセキュリティ面での統制が難しくなるという課題がありました。そこで、安全な利用環境の整備や、効率的な検証、ノウハウの全社展開を推進するために、CoE(Center of Excellence)という専門組織を2023年7月に立ち上げました。このチームが中心となり、生成AIの普及推進活動を行っています。

Azure OpenAIから「コーディングエージェント」へ。開発全工程へのAI適用

Q.活用開始当初から現在に至るまで、導入ツールや技術はどのように変化してきましたか?

氏弘さん: チームを立ち上げた2023年7月頃は、ちょうどChatGPTが登場し、AzureやAWSで生成AIのAPIが開放されたタイミングでした。Azure OpenAI ServiceやAmazon Bedrockを活用して自社環境内にChatGPTのようなチャットアプリを構築して展開しました。

Q.現在はどのようなツールを使い、現場でどのように活用されているのでしょうか?

氏弘さん: 現在はツールの選択肢が増え、各サービスの品質も向上しているため、独自開発よりも既存のツールをうまく活用する方針にシフトしています。具体的には、CodexやClaude Codeといった「コーディングエージェント」と呼ばれるツールを主に使用しています。活用の幅も広がっており、要件定義からテストに至るまで、開発のほぼ全フェーズで生成AIを利用しています。各工程における具体的な活用内容は以下の通りです。

開発フェーズ AI活用内容
要件定義 お客様の要望をもとにした要件のピックアップ、整理
設計 設計書の作成、設計内容のレビュー
開発・テスト コード生成、レビュー結果の反映、テストケース作成

不安を払拭し、「AIネイティブ」な業務プロセスをデザインする

Q.現場の社員の方々から「仕事が奪われる」といった不安の声は上がりませんでしたか?

氏弘さん: 私が見ている範囲では、ネガティブな捉え方をしている従業員は少なく、基本的にはポジティブに受け止められています。会社として伝えているメッセージは、人を減らすことではなく、同じ人員でより多くの案件をデリバリーできるようにすることです。AIによって単純作業を効率化できれば、個人のスキルアップや、より技術的にチャレンジングな領域、お客様への価値提供に直結する業務に時間を割くことができます。このメリットを伝えることで、前向きな活用が進んでいます。

Q.社内への浸透策として、具体的にどのような取り組みを行っていますか?

氏弘さん: ボトムアップでの普及活動として、社内ポータルサイトでのノウハウ・成功事例の共有や、安全に使うためのガイドライン公開を行っています。また、Slackなどのチャットツールを活用し、いつでも相談できるチャンネルを用意してノウハウを投稿し合っています。さらに、CoE主催の勉強会に加え、チームや個人単位での勉強会も頻繁に開催されており、社内の技術イベントでは生成AI関連のセッションが多数行われるなど、注目度の高さが窺えます。ハッカソンなども開催し、実際に手を動かして業務効率化プロダクトを作る取り組みも行っています。

Q.生成AI活用による成果について、定量的・定性的な効果を教えてください。

氏弘さん: 定量的な効果としては、プロジェクトで当初計画よりも工数が超過しそうなケースにおいて、人の追加投入を行うことなく、当初の人員で安定的にデリバリーを完了できた事例が出ています。生成AIがなければリソース状況が悪化していた可能性が高く、余分なコスト増を防げた点は明確な成果です。現在は、過去の案件を「AIフレンドリーな開発プロセス」で再検証し、どれだけ効率化できるかを数値化する取り組みを進めています。このデータを基に、最初からAI活用を前提とした体制を組み、会社としての具体的な成果につなげることを目指しています。

AI時代の品質管理と人材育成、そして今後の展望

Q.今後、AIを前提とした業務構造を組む上で、どのような課題があるとお考えですか?

氏弘さん: 最大の課題は「レビュー」と「データ管理」です。AIの精度は100%ではないため、人間によるレビューとクロスチェックは不可欠です。AIによって成果物が大量に作れるようになると、その分レビューの負担が増大します。どの段階でレビューを挟むかというポイントの設計が重要になります。また、AIはインプットされた情報をもとに出力するため、AIが解釈しやすい形でノウハウやコンテキストを管理する必要があります。人間とAIの双方が扱いやすいデータ管理の仕組みや文化を醸成することが求められます。

Q.生成AIの進化に伴い、若手社員の人材育成についてはどのようにお考えでしょうか?

氏弘さん: AI活用には、シニアエンジニアの暗黙知を言語化してプロンプトとして与えるプロセスが含まれます。これにより、若手メンバーもベテランの知見にアクセスしやすくなるというメリットがあります。また、コードの理解やキャッチアップの時間を短縮できるため、より多くの経験を積むことができ、スキルアップの速度は向上すると考えています。一方で、AIの出力を鵜呑みにせず、内容を理解して説明できる状態で納品するというプロフェッショナルとしての基本姿勢は、従来の開発と変わらず徹底して指導していく必要があります。

Q.最後に、今後の展望についてお聞かせください。

氏弘さん: 大きく二つの展望があります。一つは、最新技術を迅速に検証するための「サンドボックス環境」の活用です。現在は制約の多い環境で検証していますが、AIの進化スピードに追従するため、より柔軟に最新ツールを試せる環境を来期から本格稼働させる予定です。もう一つは、社内で蓄積した成功事例をお客様へのソリューションとして展開していくことです。テックファームとして、最新のAIを安全かつ効果的に活用できる環境を整備し、そのノウハウを広く還元していきたいと考えています。