「実践」と「共有」のサイクルを回す、誰もがAIで課題解決できる組織文化

「生成AIを導入してみたものの、一部の得意な人しか使わない・・・」と組織全体への浸透に頭を悩ませてはいませんか?
『どう使えばいいかわからない』という現場の声と、会社としての推進方針のギャップをどう埋めるべきか、多くのリーダーが壁にぶつかっています。

今回ご紹介するのは、300名以上の業務委託スタッフを抱える組織でありながら、生成AIの利用率89%という驚異的な数字を叩き出した株式会社リモラボの事例です。導入初期に直面した『知識はあるが実践できない』という壁や、セキュリティ・著作権への懸念をいかにして解消したのか。

本記事では、同社の代表を務める小森さんと、AI推進の責任者として現場の課題解決を牽引する喜納さんに、組織全体を『AI使い』に変えた具体的なプロセスついて詳しくお話を伺いました。

▼株式会社リモラボ 取締役 小森さん

▼株式会社リモラボ DX推進担当 喜納さん

「ペイン起点」で進めるリモラボ流の導入アプローチ

Q.まず、貴社での生成AI活用の取り組みについて、全体像を教えてください。

小森さん: 株式会社リモラボは「ラボ」という名前の通り、オンライン業務の効率化を常に研究しています。その中で生成AIの登場は衝撃的で、ChatGPTが話題になり始めた2023年2月頃からすぐに活用を始めました。当初から、業務を効率化し、より高い成果を出すことを目的に、AI推進の責任者として喜納さんにもジョインしてもらい、マーケティングやバックオフィスといった領域を中心に全社的な活用を進めています。

Q.具体的には、どのようなツールをどのように活用されているのでしょうか?

喜納さん: 私たちは特定のツールに固執するのではなく、メンバー一人ひとりの業務内容や習熟度に合わせて、最適なAIツールを柔軟に使い分けています。AIライティングツールをはじめ、世の中にあるほぼ全てのツールを試していると言っても過言ではありません。重要なのは「何に使えるか」というツール起点の考え方ではなく、「何のペイン(課題)があるか」という課題起点の考え方です。例えば「この業務フローは時間がかかりすぎる」「ここの品質が安定しない」といった現場の具体的な課題です。特に、リーダー陣がメンバーの成果物を一つひとつチェックする時間に追われていたため、その時間を確保することを最初の目標に設定しました。このように、課題を中心に解決策としてAIを当てはめていった点が、私たちの特徴かもしれません。

Q.ツールありきではなく、課題解決を起点にされているのですね。

喜納さん: はい。全社的に「この業務にはこのAIを使おう」とトップダウンで決めるのではなく、まずはチームやグループ単位で、どこに一番のペインがあるのかを特定し、それを解決するための支援を行っています。もちろん、個人単位での個別相談にも別途対応しています。私たちの組織は、役員以外は全員がフリーランスとして活躍している業務委託メンバー約300名で構成されており、自律的に動けるプロフェッショナル集団だからこそ、このアプローチが機能している側面もあると思います。

利用率9割の秘訣は「縦・横・斜め」の繋がりが生む、風通しの良い組織文化

Q.過去の調査では利用率が約9割と、非常に高い水準を達成されています。その要因は何だとお考えですか?

小森さん: もともとAIに対する心理的な壁が低いメンバーが多かったことが大きな要因です。私たちが運営するオンラインスクールでは、早い段階から生成AIをテーマにした講義を行っていました。しかし、講義で使い方を知るだけでは意味がありません。そこで「実践会」という、みんなで実際にAIを触ってみる時間を定期的に設け、その日のうちに使えるようになる、という体験を重視してきました。現在リモラボの運営に携わっている主要メンバーの多くは、このスクールの出身者であり、AI活用の素地ができていたのです。

喜納さん: 私が途中から参画して感じた他社との一番の違いは、まさにその「AIに対する心理的な壁がほとんどなかった」点です。これは、代表の小森が常々「まずは行動ありき」というメッセージを発信し、自ら体現していることが大きいでしょう。また、学びや知識だけで終わらせず、実践とコミュニティによる手厚いフォロー体制があるため、誰も置いてけぼりになりません。多くの企業が「セキュリティが怖い」「何を入力すべきかわからない」といった懸念で立ち止まってしまう中、私たちは一人ひとりの課題感にまで寄り添ってサポートしてきた結果が、この高い利用率に繋がっていると考えています。

Q.トップダウンのメッセージと、ボトムアップの課題解決に加えて、横の繋がりも重要だったのですね。

喜納さん: まさにおっしゃる通りです。縦(トップダウン)と横(メンバー間の共有)、そして斜め(部署を越えた連携)が縦横無尽に機能しています。社内コミュニティ内では「こんな成果が出たよ」「こういう使い方が便利だった」といったナレッジ共有会が自発的に開かれます。自分とは違う部署のメンバーの活用法を知ることで、「そんなこともできるんだ」という新たな発見が生まれ、それがさらなる活用の連鎖を生んでいます。一言で言えば、「風通しの良さ」が私たちの強みです。メンバー自身が成功事例を積極的に発信し、組織全体でそれを取り入れようという文化が根付いています。

リスク管理と教育の両輪で、安全かつ効果的な活用を促進

Q.AIの活用が広がる一方で、セキュリティリスクへの懸念も高まります。貴社ではどのような対策をされていますか?

喜納さん: 基本方針として、無料版のツールの使用は避けるようにしています。また、各個人の運用では、アカウント設定でデータ学習をオフにすることを徹底しています。その上で、ChatGPTやClaude、Geminiなど、利用規約が明確で、かつ課金して安全に利用できるツールを基本としています。それでもなお、機密情報や個人情報を入力する際は、可能な限りマスキングするようガイドラインで定めています。また、出力された生成物の取り扱いにも注意が必要です。特に一部の画像生成AIでは、学習データに著作物が含まれている可能性もゼロではありません。そうしたリスク事例を共有し、「ここまでは安全に使える」という明確な線引きを示すことで、メンバーが安心して挑戦できる環境を整えています。

Q.メンバーへの研修や勉強会は、具体的にどのように実施されているのですか?

小森さん: 私たちは社内研修という形式より、スクールとしてのセミナーや企画が中心です。生成AIの専門家をお招きしたり、私自身が普段使っている様子を画面共有でお見せしたり、活用が進んでいるメンバーの事例を紹介したりと、内容は多岐にわたります。また、先ほどお話しした「実践会」では、メタバースオフィスなどに集まり、画面を共有しながらプロンプトやGPTsを一緒に作ります。その時間内に何かが「できた」という成功体験を積んでもらうことを何よりも大切にしています

株式会社リモラボの生成AI活用推進のポイント

観点 取り組み内容
導入方針 特定ツールに固執せず、メンバーの「ペイン(課題)」を起点に最適なAI活用を個別・チーム単位で支援。
浸透施策 代表からのメッセージ(トップダウン)、現場の課題解決(ボトムアップ)、コミュニティでの事例共有(横の繋がり)を推進。
教育体制 知識だけでなく、実際に手を動かす「実践会」を重視。未経験者でも心理的ハードルなく参加できる環境を提供。
活用事例 FAQボット「にゃっとGPT」による顧客対応の効率化、AIによる品質チェック、Slackと他ツールの連携自動化など。
ガバナンス データ学習オフの徹底、マスキングのルール化、IP関連リスクの共有など、明確なガイドラインを策定・周知。

業務のボトルネックをAIで解消。具体的な活用事例

Q.実際に、どのような業務でAIが活用され、成果を上げていますか?

小森さん: 最初に取り組んだのは、カスタマーサクセス領域です。私たちのスクールにはWeb未経験の方も多く参加されるため、手厚いサポートが不可欠です。そこで、スクールのマスコットキャラクター「りもニャン」が質問に答えてくれるFAQチャットボット「にゃっとGPT」というGPTsを開発しました。スクールに関する質問やツールの使い方などを案内してくれる、頼れる存在です。

喜納さん: 業務改善の文脈では、お客様対応の「スピード」と「質」の両方を向上させるためにAIを活用しています。「この件は上司に相談すべきか」といった判断に迷うような細かい点も、まずはAIに相談するというルールにしました。これにより、「業務について質問をする」ということの心理的ハードルが下がり、業務の迅速化と品質の安定化に繋がりました。また、ライティング業務では、AIを品質チェッカーとして活用し、上司の判断軸をAIに学習させることで、報告前のセルフチェックを効率化し、手戻りを大幅に削減しました。

他にも、フロー情報になりがちなSlackの自分宛てのメンションを、GAS(Google Apps Script)を使ってNotionに自動で転記・ストックする仕組みを構築したり、複雑なスプレッドシートの連携関係をAIで可視化したりと、人がやると面倒で後回しにされがちな「業務のボトルネック」を解消するためにAIを活用しています。

AIを「翻訳機」に。現場主導のDXで、社会全体の生産性向上を目指す

Q.今後、生成AIの活用をさらに推進していく上で、どのような展望をお持ちですか?

喜納さん: 今、非エンジニアのメンバーが自らAIを使ってGASやAPI連携のツールを作り、現場の課題を解決するという動きが自発的に生まれているのが非常に嬉しいです。この流れをさらに加速させたいですね。AIはDXのための一つのツールに過ぎません。今後は、AIを他の業務アプリや人と人を繋ぐ「翻訳機」のような存在として捉えてもらい、より広い範囲での業務改善を現場主導で進めていける状態が理想です。一方で、AIで100%対応できると判断した業務はAIエージェントで完全自動化を目指し、その成功率をいかに100%に近づけていくかという質の改善も同時に進めていきます。

小森さん: 私たちはスクールとして、在宅で活躍したい女性たちにAI活用法を伝えてきました。今後は、自身の業務で使うだけでなく、クライアント企業の課題をAIで解決できるような人材をどんどん輩出していきたいと考えています。そのために、私たち自身が現場で最先端の使い方を研究し、一次情報を発信し続けることが重要です。労働力不足が社会問題となる中、生産性を高めるリモートワークと生成AIの活用を広めることで、女性がより活躍しやすい社会を実現し、私たちのミッションである「リモートワークで社会全体の生産性をあげる」ことに貢献していきたいです。

Q.最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

小森さん: 最近、個人で生成AIを使う方は増えましたが、仕事での活用となるとまだハードルが高いと感じる方も多いのではないでしょうか。私たちは、キャリアアップを目指す女性向けに、仕事で使えるAI活用法をお伝えする無料勉強会を開催しています。一人で学ぶのは難しくても、勉強会に参加すれば活用のイメージが膨らみ、生成AIが転職や副業、独立といったキャリアの選択肢に繋がることを実感していただけるはずです。まずはご自身のキャリアアップの手段を知る、という気軽な気持ちで、ぜひ勉強会にご参加いただけたら嬉しいです。

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