社員の95%超が活用。戦略チームが自ら実践する生成AIプラットフォーム浸透のリアル

AIを軸としたビジネス変革を牽引する日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)。

同社は顧客への価値提供を最大化するため、社内における生成AI活用にも精力的に取り組んでいる。その中核を担うのが、全社向け生成AI活用プラットフォーム「IBM Consulting Advantage(以下、ICA)」です。今回は、コンサルティング事業本部にてICAの社内推進をリードする久保さんにお話を伺いました。お客様向けのサービスで培ったノウハウを、どのように自社のAI活用推進に展開したのか。その背景から具体的な施策、そして見えてきた成果まで、詳しく語っていただきました。

▼日本アイ・ビー・エム株式会社 久保さん

より強固なコンサルティングサービスを提供するため、全社的な生成AI活用戦略を掲げる

Q. まずは、貴社の事業内容についてお聞かせください。

久保さん: IBMは、米国ニューヨーク州に本社を構えるAI、ハイブリッドクラウド、量子コンピューティングを活用してお客様の複雑な課題を解決し、ビジネス価値の創造とイノベーションを推進するIT企業です。その日本法人である日本IBMは80年以上にわたり、日本のお客様のIT変革やデジタル変革を支援しています。

展開する事業は、大きく3つに分かれています。ハードウェアやソフトウェア、IBMクラウドなどを提供するテクノロジー事業本部、私が所属しているお客様向けのコンサルティングを担うコンサルティング事業本部、そして量子や生成AIなどの先進技術を研究する研究開発部門です。

今回お話しするのは、このコンサルティング事業本部の中で、いかに生成AIを活用しているかという点にフォーカスした内容です。この「コンサルティング」には、お客様向けのシステム構築なども含まれており、多数のエンジニアも在籍しています。

Q. 続いて、今回のテーマである生成AI活用の全体像について教えてください。

久保さん: IBMは2024年に、従来の労働集約型から、AIを中核とするプロダクトやアセットを戦略的に活用した「Asset-based consulting」へと大きく転換する戦略を発表しました。これは、お客様に対して、より高い価値をスピーディーにそして再現性をもって提供するための変革です。

この大きな戦略の中で、生成AIの活用は非常に重要な位置を占めています。その主軸となるのが、本日ご紹介するコンサルタントのための生成AI活用プラットフォーム「IBM Consulting Advantage」、通称「ICA」です。ICAを社内で広く活用し推進していくことが、現在の大きな取り組みの一つとなっています。本日は、その具体的な取り組みをご紹介させていただきます。

Q. 顧客向けのソリューションでAIを提案する御社が、あらためて「社内での活用推進」に注力し始めたのはなぜでしょうか。

久保さん: お客様に生成AIを活用したサービスを提供していく上では、まず私たちが自らその価値を体現し、コンサルティングの在り方を変革していく必要がある、という考えが根底にあります。この背景には、IBMが昨年掲げた「The Science of Consulting(サイエンス・オブ・コンサルティング」があります。これは、単に人手を減らして自動化するのではなく、新しいテクノロジーの力を活用し、従来は実現が難しかったレベルの「標準化」と「高度化」を進めることで、コンサルティングそのものを進化させていこうという考え方です。

さらに生成AIの登場により、私たち自身の働き方や価値提供の形を抜本的に変革しなければならないという意識が、より一層強まったと実感しています。

データドリブンな施策と現場を巻き込む仕組みで、利用率95%超を達成

Q. 生成AIの活用を推進するにあたり、どのような組織体制で臨まれているのでしょうか。

久保さん: ICAを社内で推進している私たちのチームは、お客様向けに新規事業開発やプロダクト開発といったプロジェクトを担っている戦略コンサルタントで構成されています。

全体統括を担う社内外のDXを推進するリーダーと私、そして他3名のメンバー全員が、その専門性を活かし、今度は「社内」をクライアントとして、自分たちのためのAI活用プラットフォームをどう広め、どう改善していくべきかを担っているのです。専門家が自らの課題解決のために戦略を立て、実行・改善を重ねている、という点が大きな特徴と言えるかもしれません。

▼ICA推進チームの皆さん

Q. 社内への浸透は具体的にどのように進められたのでしょうか。

久保さん: 私たちの推進活動は、まず仮説を立て、それを実際のデータで計測し、結果に基づいて施策を打ち、優先順位をつけて実行していくというサイクルを基本としています。

単に計画を実行するのではなく、ユーザーの利用状況というファクトに基づいて常にアプローチを最適化している点が特徴です。例えば、ユーザーの行動を「AARRRモデル」のようなフレームワークで分析し、ログイン数(獲得)、機能利用率(活性化)、継続利用率(定着)といった段階ごとの指標を細かく設定し、それぞれのフェーズに合った施策を展開しています。

Q. 多くの施策を実施されていますが、特に重視している指標はありますか。

久保さん: やはり初期段階では、まずICAを知ってもらい、使ってもらうことが最重要でしたので、新規ユーザー数を重視していました。最近ではユーザー数も順調に増え、MAU(月間アクティブユーザー数)や休眠率といった、業務に定着しているかを示す継続利用(リテンション)に関する指標を重視するようになっています。

なお、ユーザー個人の利用状況だけでなく、実際にプロジェクト単位でICAが活用されているかという「導入済みプロジェクト数」も重要な指標として見ています。

Q. 効果的だった施策もあれば教えてください。

久保さん: ユーザー獲得の段階で施策として特に有効だったのは、地道なセミナー開催です。基本的な使い方や業務に役立つユースケースを、様々な部署や社内説明会の場で草の根的に説明して回ったことが定着につながったと感じています。

また、困った時にいつでも情報にアクセスできるポータルサイトや、気軽に相談できる社内Slackコミュニティーを整備したことも、利用のハードルを下げる上で効果的でした。

継続利用の促進という観点では、各組織にICAの利用促進を担うフォーカルメンバーをアサインし、現場で生まれたICAの活用事例をタイムリーに吸い上げ、それを全社に発信し横展開していく取り組みが非常に重要になっています。

Q. 「普段の業務が忙しくてAIに取り組めない」といった現場の抵抗もあったかと思います。活用が進まない、といった課題にはどう向き合いましたか。

久保さん: おっしゃる通り、ICAの価値を実感してもらい、実際に使ってもらうまでには大変な苦労がありました。そこで私たちが重視したのは、ユーザーが何に障壁を感じているのかを正しく理解するために、ユーザーの声を聞くことです。

実際にプロジェクトの第一線で活躍するリーダー層を対象にワークショップを開催し、「なぜプロジェクトでの活用に至らないのか」という本音の課題を洗い出しました。そこで挙がった課題の一つは、データ・セキュリティーに対する不安でした。お客様の情報を扱う上で、どのような環境・仕組みでセキュリティーが担保されているのかが不明確なため、利用につながらないという声が多かったのです。

これを受け、私たちはすぐにICAのデータ・セキュリティーに関してを解説する資料をまとめ、それを広く展開することで不安を解消していきました。こうした、現場の声をスピーディーに拾い上げ、対応する姿勢が肝だったと考えています。

ユーザーを「主役」に。ボトムアップとトップダウンを両立させる推進術

Q. 実際に、現場ではどのような活用事例が生まれていますか。

久保さん: お客様向けのプロジェクトでは多岐にわたる活用が進んでいます。例えば、グローバルに拠点を持つお客様のプロジェクトでは、ICAを使って多言語でのコミュニケーション、膨大なドキュメントの作成・要約、開発業務のサポートなどを行い、大幅な工数削減を実現しました。

また、S/4HANAの導入プロジェクトにおいて、エラー解析や要件定義書のレビューにICAを活用し、作業を効率化した事例も生まれています。社内業務に目を向けると、社外向けブログ記事の作成をICAで効率化し、私たちの取り組みをよりスピーディーに発信するなど、ブランディング強化にも繋がっています。

Q. ユーザーを巻き込むための、ボトムアップの取り組みも特徴的ですね。

久保さん: はい、ユーザー自身が楽しみながら参加できる仕組みを重視しています。Slackコミュニティーでの交流促進や、ICAへの改善要望を誰でも投稿できる「アイデアポータル」の活用を促すことに加え、我々自身でユニークなコンテストを企画しました。

「業務効率化に繋がった使い方」を募集する真面目な部門の他に、「仕事のリフレッシュにつながる面白い使い方」を募る大喜利のような部門も設け、優秀なアイデアを表彰したのです。このコンテストは社内で非常に盛り上がり、多くの社員がAI活用の可能性を再発見するきっかけになりました。

余談ですが、そのコンテストの大喜利部門で入賞した「ギャルトークのアシスタント」が、最新の利用状況レポートでもいまだに上位にランクインしているんです。意外と多くの社員が、癒やしを求めて使っているのかもしれません!

Q. トップダウンとボトムアップを両立させる「組織ごとの責任者任命」という施策について詳しく教えてください。

久保さん: やはり、自分と同じ組織の身近な人からの発信は非常に影響力が大きいと考え、各組織に「フォーカル」と呼ばれる推進責任者を任命しました。彼らには、私たち推進チームからの最新情報を組織内に展開するインフルエンサーのような役割を担ってもらうのはもちろん、逆に自組織で生まれた優れた活用事例を吸い上げ、私たちに共有してもらう役割もお願いしています。

フォーカルを通じて吸い上げられた事例が他の組織へ横展開されていくことで、全社的な活用の底上げに繋がっています。それぞれの業務に沿った具体的なレクチャーをしてくれました。再度になりますが、こうした地道な草の根的な活動が、利用のハードルを大きく下げ、全社的な普及を後押ししたのだと思います。

Q.これまでの取り組みによる定量的な成果や、社内の利用状況について教えてください。

久保さん: ICAはグローバル共通のプラットフォームですが、全体として約30〜50%の生産性向上が見込まれると報告されています。特にソフトウェア開発のようなタスクにおいては、約30%の効果が出ています。また、私たちが推進するコンサルティング事業本部内では、今や95%を超える社員がICAを利用しており、ほぼ全員がICAを前提とした働き方にシフトチェンジしていると実感しています。

Q. 最後に、今後の展望についてお聞かせください。

久保さん: おかげさまで多くの社員がICAを使い始めてくれましたが、今後はこれを一過性の取り組みで終わらせるのではなく、日常的に「使い続けてもらう」ための定着施策をさらに強化していきたいと考えています。生成AIを活用した業務の効率化・高度化は、いまやどの業界でも当たり前になりつつあり、社員がスムーズかつ安全に生成AIを使える体制や仕組みづくりこそが、その活用を成功させる鍵になると感じています。

ICAに限らず、我々推進チームがどのような想いで活動を進めてきたのか、そして、生成AIを社内で「当たり前に使う」ためにどのような工夫ができるのかを、今後もナレッジとして社内外に広く発信する機会を増やしていければと考えています。

本日はありがとうございました。