トップダウンではなく現場主導。全社フルリモート企業デジタルキューブの「ナチュラルボーン」なAI活用術とは

生成AIの導入が多くの企業で課題となる中、トップダウンでの一斉導入ではなく、社員一人ひとりが自律的にツールを選び、ごく自然に業務へ取り入れる「ナチュラルボーンデジタル」なカルチャーを持つ企業がある。Web制作からAWSホスティングサービス、そして上場準備支援SaaSまで幅広く手がける株式会社デジタルキューブだ。

2024年10月に東京証券取引所 TOKYO PRO Marketへの上場を果たした同社、その過程で感じた課題を解決するために自社サービス「FinanScope」を開発。そこにもAI技術が活かされているという。

今回は、FinanScopeの担当役員である和田さん、同社の広報を務めるタカバシさんに、社外向けサービスにおけるAI活用から、ユニークな社内でのAI活用文化、そして今後の展望まで、幅広くお話を伺った。

AWSホスティング事業を主軸に、以前からAI活用に積極的な開発体制

Q.まず、御社の事業内容と、生成AI活用に取り組むようになった背景を教えていただけますか?
タカバシさん: 私は株式会社デジタルキューブの広報を担当しております、高橋と申します。弊社の主な事業は、AWSのホスティングサービスをお客様に合わせてカスタマイズして提供することです。また、関連会社の株式会社ヘプタゴンは生成AIはもちろん、機械学習やディープラーニングといったAI技術を用いたサービスの開発やカスタマイズも手掛けてきました。そのため、会社全体としてAIの活用にはかなり以前から取り組んできたという背景があります。

Q.具体的なAIの活用事例として、まずは社外向けサービスについてお聞かせください。
和田さん: はい。私たちが開発・提供している「FinanScope(ファイナンスコープ)」というサービスに、生成AIの機能を組み込んでいます。このサービスは、主に株式上場を目指す企業が、その準備過程で必要となるガバナンス体制の構築や、膨大な書類・規程などを整備していくのを支援するものです。具体的には、準備の中で『どこが足りていないか』『どこが滞っているか』といった進捗を管理する機能があります。また、規程のテンプレートを元に自社用の書類を作成する際、会社ごとに異なる規模感や従業員・役職の呼称などを、AIを活用して自動で最適化し、作成の手間を大幅に削減するといった形で活用しています。

Q.なぜ『FinanScope』にAIを導入しようと考えたのですか?
和田さん: 実は、私たち自身が2024年10月に東京証券取引所のTOKYO PRO Market(TPM)へ上場したのですが、その準備段階での経験が大きなきっかけになっています。証券会社さんなどとのやり取りでは、「紙で提出してください」と言われたり、良くても「Excelで」というケースが多く、もどかしく感じることもありました。もっと楽に、デジタルで完結できるはずだという思いが、このFinanScopeというサービス開発の原動力になったのです。

“DX推進部”は存在しない。現場が自律的にAIを使いこなす組織文化

Q.社内業務においては、生成AIをどのように活用されているのでしょうか?
タカバシさん: 社内での活用法は、少し特徴的かもしれません。弊社では「全社でこのAIツールを使いましょう」といったトップダウンでの導入は行っていません。もともと5年ほど前までは10人程度の小規模な会社で、社長自身が「デジタルで全部やった方が効率的だよね」という考え方だったこともあり、「DXを推進しよう」と意識するまでもなく、ごく自然にデジタルツールを活用する文化が根付いています。いわば「ナチュラルボーンデジタル」な組織なんです。
そのため、生成AIについても、エンジニアはコーディングに、デザイナーは画像生成に、そして私も広報業務にと、それぞれの持ち場で必要なAIツールを当たり前のように検討・活用しています。

Q.全社で導入するのではなく、現場主導でAI活用が進んでいるのは非常にユニークですね。
タカバシさん: そうですね。ですから、社内に「DX推進部」のような専門部署もありません。また、弊社はフルリモートの会社で、私が沖縄県に住んでいる一方で、FinanScopeの担当役員である和田は香川県に住んでいます。物理的に離れていても、デジタルツールを駆使して連携するのが当たり前になっています。

社内の日常的なコミュニケーションはチャットになりますが、そこで日々、各々が使っているAIサービスやニュースなどをシェアしているので、社内の活用状況も把握しやすいです。もちろん、管理部や情報システムの担当者が、どのツールがどれくらい契約されているかといったコスト管理は行っています。しかし、そのツールが現場で具体的にどう使われているかという点については、各々の業務に溶け込みすぎていて、当たり前の光景になっていますね。

Q.現場主導での活用が進む中で、見えてきた課題などはありますか?
和田さん: はい、課題も出てきています。一番はコスト面ですね。スタッフがそれぞれ個人的な好みでバラバラのAIサービスを契約してしまうと、全体として費用がかさんでしまいます。また、次々と新しいAIが登場し進化を続ける中で、「年契約で安くなるけれど、本当にそのツールに決めてしまって良いのか」といった議論も起きています。今後は、こうした点を踏まえて、会社全体での最適化をどう図っていくか、どのツールと契約するのがベストなのかを話し合っている段階です。

地方中小企業のDX・AI推進にも貢献していきたい

Q.今後、AI活用をどのように発展させていきたいとお考えですか?
和田さん: 様々な場所で講演や登壇の機会をいただいています。最近も「IPO 準備企業のための生成 AI 活用術」というテーマで、ClaudeやChatGPT、Geminiといった各種AIの機能や得意分野をまとめた資料をベースに登壇しました。私たちは、自社のサービス提供と並行して、地方の中小企業様に向けて「TPMで上場しませんか」「ガバナンスをしっかり整備しましょう」といった情報提供や意見交換の機会を設けています。その中で、DXやAI活用の推進についても知見を一方的に提供するのではなく、地方中小企業の皆様と共に学び、共に成長していければと考えています。そうした活動を通じて、新たなシナジーが生まれることも期待しています。