AI食事管理アプリ『あすけん』を開発・運営する株式会社asken。累計会員数1300万人を突破し、多くの人々の健康的な食生活をサポートしています。同社は「ハイブリッドワークを極める」という方針のもと、生産性向上の鍵として生成AIの活用を全社的に推進。その結果、わずか数ヶ月で社員の7割が日常的にAIツールを利用する組織へと変貌を遂げました。今回は、同社の山口さんに、AIネイティブな業務改革の裏側にある戦略と、社内へ浸透させるための具体的な取り組みについてお話を伺いました。

【プロフィール】
山口達也さん
株式会社asken 事業企画室
大手臨床検査機器メーカーでウイルスなどの臨床検査用試薬の開発・製造移管、メガベンチャーでプログラム医療機器の検査ラボ立ち上げ、医療ビッグデータの法人営業とデータ品質管理などに携わった後、2023年9月にaskenへ入社。
現在は事業企画室で、全社横断のプロジェクトマネジメント、業務基盤づくり、AIやツール活用による働き方アップデートを推進中。
「スピードにこだわる」働き方の実現へ。ハイブリッドワークを前提としたAI導入
Q.まず、貴社の事業内容についてお聞かせいただけますか?
山口さん: 弊社のメインプロダクトは『あすけん』というAI食事管理アプリです。ユーザーさんが食事を写真で撮ったり、バーコードで読み取ったり、テキストで検索したりして記録すると、摂取したカロリーや栄養素が可視化される仕組みです。食事や運動の記録内容に応じて、管理栄養士監修のアドバイスが届きます。また、1日の健康度を点数でお伝えしたり、各栄養素の過不足をグラフで表示したりすることで、まずご自身の食事状況を客観的に把握していただき、そこから改善するというサイクルを回していただきます。これにより、ダイエットを目的に『あすけん』をご利用いただいた方も、ただ痩せるのではなく、食生活を整えながら、健康的に理想の体を目指していただくことをサポートしています。

現在、『あすけん』はおかげさまで累計1300万人を超える方にご登録いただいております。月間アクティブユーザーも132万人に達し、App StoreやGoogle Playストア合算の「Nutrition & Diet」では、ダウンロード数・売上・アクティブユーザー数で4年連続1位をいただいております。(2026年1月、Sensor Tower調べ)
その他にも弊社では、オンラインストア「あすけんSHOP」や法人向けの事業なども展開しています。
Q.それでは本題ですが、社内での生成AI活用は、どのような背景から始められたのでしょうか?
山口さん: 弊社では昨年度、多くの企業が出社回帰へ向かう中で、「ハイブリッドワークを続けていく」という意思決定をしました。その上で、いかに生産性が高く働けるかを検討するため、「asken work rules」という部門横断の有志社員によるプロジェクトを発足させました。このプロジェクトで、働き方の基本方針である「asken Standard」を策定したのです。
この基本方針には「ハイブリッドワークを極める」「スピードにこだわる」といった項目があり、その中の「スピードにこだわる」を追求するための一つの有効な手段として、AIツールを活用していくという方針を固め、社内向けに宣言しました。これが、生成AI活用が社内で本格化していくきっかけとなりました。
全社に複数ツールを開放し、ボトムアップでの活用を推進役が支援

Q.具体的には、どのようなツールを導入し、どのような体制で運用されているのですか?
山口さん: ツールはかなり幅広く使えるようにしています。もともとGoogle Workspaceを利用していたため、GeminiやNotebookLMなどはすぐに社内環境へ導入しました。さらに11月からはNotion AIも全社ツールとして追加しています。また、開発環境ではGitHub CopilotやClaude、Cursorなども利用可能です。
体制としては、大きく3つの方向性で同時に進めています。一つ目は、AIを活用した機能をプロダクトに適用していくこと。二つ目は、「AX推進部」という専門部署を設置し、プロダクト開発の加速化を図ること。そして三つ目が、開発以外の業務をアップデートしていくことで、こちらに私が推進役としてアサインされています。AIネイティブな業務改革をいかに進めていくかという部分を担っております。2025年9月時点のアンケートでは、開発以外の業務においても、全社員の7割超が1日1回以上AIを使っているという結果が出ています。徐々にAI利用時の質も上がっており、基本的な使い方しかできなかった層が、今では自分でプロンプトをカスタマイズしたり、それを部門内で共有したりする動きも増えてきました。
Q.社員の7割が日常的にAIを利用するまでに至った背景には、どのような取り組みがあったのでしょうか?
山口さん: まず、プロンプトの共有をボトムアップで行いました。AIを使いこなせる人が有用なプロンプトを作成し、それを部門内で共有します。また、NotionやNotebookLMといったツールにプロンプトをあらかじめ仕込んでおく形での共有も行っています。
私の役割としては、AIを使ってみたいけれどプロンプト作成までは難しい、という社員がいれば代わりに作成して提供するなど、ボトムアップの動きを手伝う形を取っています。
加えて、取締役から「AIによる事業成果の最大化」に向けたメッセージを全社に発信したこともAI活用が加速した要因だと考えています。単なる業務効率化ではなく、AIを活用して一人ひとりの社員がより大きな成果を生み出してほしい、という強い想いが込められたメッセージでした。
Q.素晴らしい成果ですが、一方で、導入や浸透の過程で課題はありましたか?
山口さん: やはり、AIに対して若干の敷居の高さを感じてしまう点や、業務内容によってはAIの活用方法を見出すのが難しく、活用の度合いが部門や人によって異なってしまう点は課題としてありました。そこに対しては、私のような推進役が各部署へ赴いてハンズオンを行ったり、社内の成功事例を全社会議やSlackで共有したりすることで、よりAI活用を促す雰囲気作りを意識しています。
弊社は約80名の組織ですので、トップダウンで発信するだけではなく、各メンバーにもボトムアップでの発信・活用に積極的に協力してもらいながら、ハイブリッドでのアプローチを行っています。加えて、社員それぞれが「asken Standard」という共通の指針を理解した上で、自分の業務を効率化したいという意識を持っているので、AIはそのための便利なツールの一つとして自然に受け入れてくれているのだと感じます。
「まずAIでやってみる」文化の醸成と、プロダクト開発への応用
Q.プロダクト開発においても、AI活用は進んでいるのでしょうか?
山口さん:はい、積極的に取り入れています。コーディングといった業務へのAI活用はもちろんなのですが、プロダクトでいうと、2025年9月に「AIおまかせ記録(β版)」という機能をリリースしました。これは、たとえば「朝ごはんにバナナと牛乳を食べた」といった内容を音声やテキストで入力するだけで、AIが自動で『あすけん』のメニューデータから検索し、食事内容を確認・記録してくれる機能です。食事記録をできるだけ簡単にして、ユーザーさんの健康的な食生活の実現を支えたいという想いから生まれました。
この機能は、非エンジニアのシニアプロダクトマネージャーがAIを活用してわずか4日間でプロトタイプを完成させたという経緯があり、AIによって開発スピードが格段に上がっていることを感じていただける事例ではないかと思っています。
また、以前から食事画像の解析にAIを用いていましたが、生成AIを最適化することで解析精度が従来比25%向上しました。さらに、市販食品の場合、食事写真から文字やロゴ情報を認識し、店名や商品名まで解析できるメニュー件数が増加しました。
Q.今後のAI活用の展望についてお聞かせください。
山口さん: 現在、弊社では「AIトランスフォーメーション」という言葉をキーワードにしています。これは、「既存の業務も、改めてAIで代替できないか考える」という業務の進め方に変えていこうという方針で、取締役からも示されています。例外はもちろんあると思いますが、あらゆる業務でまずAIを活用できないかを考えてみる、という働き方・考え方を標準にしていきたいです。
技術的には、より自律的に動いてくれる「AIエージェント」と言われる分野に個人的には非常に興味を持っています。さらなる業務効率化を目指す上で、重要な技術だと考えています。そのために、現在は社内の情報をNotionに集約し、AIがいつでも情報を参照できる環境を整えているところです。AIが読み込みやすい形で情報を蓄積していくための、フォーマットの統一や情報ガバナンスの強化が次のステップだと考えています。
Q.最後まで読んでくださった方に向けてメッセージがあればお願いします。
山口さん: 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
会社におけるAI活用の課題はまだまだあるかと思いますが、最前線で社内でのAI活用を推進してきた立場としては、全社でAI活用をする目的や共通の指針をすり合わせること、そして、トップダウン・ボトムアップの両軸でアプローチすることなど、当たり前のことかもしれませんが、これらの重要性を特に感じています。もしこの事例紹介がどなたかのお役に立ったのであれば、これほど嬉しいことはありません。
最後に、弊社では現在、一緒に働く仲間を募集しています。私たちの取り組みにご興味を持っていただけた方は、ぜひ採用情報ページよりご連絡をいただけますと嬉しいです。