宮崎市がGoogle AIで実現する、新しい公務員の働き方

行政サービスの多様化・複雑化が進む中、多くの自治体が業務効率化を喫緊の課題として捉えています。宮崎市もその一つですが、同市は生成AIの活用を単なる業務効率化のツールに留めず、職員一人ひとりのマインドセットを変革し、「仕事を楽しむ文化」を醸成する起爆剤としています。Google Workspaceを基盤とし、GeminiやNotebookLMといった最新のAIを駆使する同市の取り組みは、まさに次世代の行政のあり方を示すものでした。

今回は、デジタル支援課の課長 堀口さんと、課長補佐 松浦さん、主任主事 川久保さんに、その先進的な取り組みの背景から具体的な活用事例、そして職員に生まれた大きな変化まで、詳しくお話を伺いました。

生成AI活用は必須。Google Workspaceを選んだ戦略的判断

Q.まず、宮崎市として生成AIの導入を検討し始めた背景や目的についてお聞かせください。

堀口さん: デジタル支援課は、市全体のDXを進めていく役割を担っており、各課から寄せられる技術的な相談への対応や支援も行っています。近年、行政業務が多忙を極める中で、生成AIを活用した業務効率化は必須であると考えていました。

松浦さん: 現在、主に活用しているのは、ソフトバンク様と共同で構築したGoogle Cloudの『Vertex AI』ベースのチャットボット。そして、Google Workspaceアカウントで利用できるGeminiやNotebookLMといったツール群です。これらを組み合わせて、庁内の様々な課題解決に取り組んでいます。

Q.様々なツールがある中で、Google WorkspaceやGeminiを全面的に活用されている点が特徴的だと感じます。なぜGoogleのサービスを選ばれたのでしょうか?

松浦さん: その背景には、以前からの課題意識がありました。従来の庁内のシステム環境では、職員が何か新しいことを試そうとしても、ネットワーク環境やセキュリティの制限などから自由度が低く、実現が難しいという状況がありました。そこで、より柔軟で創造的な働き方を実現できる環境への移行を模索する中で、Google Workspaceの導入を決定しました。セキュリティを担保しながらも、職員が自由にツールを使いこなし、新しい価値を生み出せる環境を整えたいという思いから、「それならGoogleだね」という流れで活用が始まりました。

議事録作成からアプリ開発まで。職員の手で広がる多彩な活用事例

Q.実際に、職員の方々は生成AIをどのような業務に活用されているのでしょうか。

川久保さん: 非常に多くの業務で活用されていますが、利用率が特に高いのが議事録作成の自動化です。Google Chat上に会議の音声データをアップロードするだけで、Geminiが自動で文字起こしと要約を行い、議事録を作成してくれます。これまで議事録作成に追われていた職員にとって、これは画期的なツールとなっています。

また、職員自らがGeminiの力を借りて業務改善ツールを開発する動きも活発です。従来、便利なツールを作成するにはプログラミングの知識が必要でしたが、Geminiにコードを書かせることで、専門知識のない職員でもPDFを編集・結合するツールなどを作成し、庁内ポータルサイトで共有しています。

Q.職員の方が自ら開発まで行うとは驚きです。他にどのような事例がありますか?

川久保さん: 手書きの申請書類を扱う業務の改善事例もあります。これは、手書き文字の読み取りに特化した『Gems(ジェムズ)』というカスタムAIを作成し、書類をデータベース化するものです。事前に読み取りのパターンや例を教師データとして登録しておくことで、表記の揺れなども賢く判断して正確にデータ化します。これは市の総合支所でも実際に活用されています。

他にも、秘書課では市長の定例記者会見の動画作成にAIを活用しています。長時間の会見映像をGeminiで要約し、そのテキストをGoogle AI Studioを使って音声合成することで、短時間で分かりやすい要約動画を作成し、YouTubeで公開しています。

松浦さん: GoogleのAIは画像や音声などを扱えるマルチモーダル性能に優れているため、職員から「これもAIでできるのでは?」というアイデアが次々と生まれています。ごみの写真を撮るとAIが分別方法と次の収集日を教えてくれるアプリを数分で作った職員もいるほどです。

活用事例 概要 導入前の課題 導入後の効果(定量的)
市民からの問い合わせ対応 NotebookLMに過去の問い合わせデータを学習させ、回答文案を自動生成。 根拠資料を探しながら回答を作成するため、時間がかかり、回答にもばらつきがあった。 回答作成時間が20分から10分に短縮(50%削減)
市長定例会見の要約動画作成 Geminiで会見内容を要約し、AI Studioで生成した音声と合わせて動画化。 長時間の会見の要約と動画制作に多大な労力がかかっていた。 制作時間: 40分→15分
編集時間: 3時間→1時間
視聴時間も15分から3分に短縮。
シェアサイクル利用状況の可視化 GeminiでGASのコードを生成し、データを自動集計。Looker Studioで可視化。 手作業でのデータ集約に時間がかかり、ミスも発生していた。 集計作業を自動化し大幅な時間短縮を実現。分析しやすいダッシュボードも作成。

「自分たちで変えられる」創出された時間と、職員に芽生えた前向きな意識

Q.素晴らしい成果ですね。時間削減といった定量的な効果以外に、職員の方々の意識の変化など、定性的な効果はありましたか?

堀口さん: はい、そこにこそ最大の効果があると感じています。AIの活用で業務が効率化され、時間が創出された結果、職員は多様化・複雑化する市民ニーズへの対応や、新たな政策立案といった、より創造的な業務に時間を充てられるようになりました。しかし、それ以上に大きな変化は、職員の意識です。これまでの市役所の仕事は、決められた作業をいかにミスなくこなすか、という側面が強かったように思います。しかし、生成AIという強力なツールを手にしたことで、「自分たちの手で何かを変えられるのではないか」と気づく職員が増えてきました。

松浦さん: これまでは予算を確保して業者に委託しなければ実現できなかったようなことでも、「少し頑張れば自分たちでシステムを作れる」というマインドが醸成されています。例えば、国から「山火事の警報を各市町村で判断して出しなさい」という指示が急に来た際も、以前ならシステム業者を探すところからでしたが、今では「自分たちで条件を考え、AIと一緒にシステムを作れるのでは」と発想し、実際に行動に移す職員が出てきています。

堀口さん: 自分たちの手で業務を改善し、それが目に見える実績となると、その成功体験が他の職員にも伝播します。そして、実行した職員は「もっとできないか」と次の挑戦を始めます。こうした好循環が生まれ、以前よりも職員が前向きな姿勢で仕事に取り組むようになったと感じています。

松浦さん: 「自分ごととして、自分でも何かできる」という手応えを感じられるようになったことで、すごく楽しんで仕事をする職員が増えている。これが何より大きな成果だと思います。

研修と「GWSお助け隊」が鍵。全庁的な活用を支える伴走支援体制

Q.多くの組織がツールの定着に苦労する中、宮崎市ではどのようにして活用を広めていったのでしょうか。

川久保さん: まず、昨年度に「そもそも生成AIとは何か?」という基礎から学ぶ勉強会を大々的に実施し、全職員がAIに親しみを持てる土台を作りました。ただ、研修だけでは一過性で終わってしまうため、「GWSお助け隊」という取り組みを始めました。これは、Google WorkspaceやAIの活用で困っている職員がいれば、私たちデジタル支援課の職員が直接駆けつけてサポートするというものです。今年度(2025年7月〜取材時点の8ヶ月間)だけで298名もの職員から予約があり、「NotebookLMの使い方が知りたい」「GASのコードをGeminiに書かせたい」といった初歩的な質問から、より実践的な相談まで、一人ひとりに寄り添う「伴走支援」を行っています。この仕組みが、庁内への浸透を大きく後押ししていると感じます。

EBPMの真のパートナーへ。宮崎市が見据えるAIとの未来

Q.最後に、今後の展望についてお聞かせください。

松浦さん: 二つの展望があります。一つは、EBPM(証拠に基づく政策立案)におけるAI活用の高度化です。今後は庁内のデータカタログと生成AIを連携させ、「この課題を解決するには、どういった証拠を採用すべきか、どのデータをどう分析すれば良いか」といった示唆をAIから得られるような、真の政策決定パートナーとしてのAI活用を確立したいです。

もう一つは、職員の働き方の変革です。生成AIを使いこなすには、自分が何をしたいのか、どこを目指すのかを明確に指示する必要があります。これは、与えられた仕事をこなす作業者ではなく、一つ上のマネジメント視点を持って仕事に取り組むことに他なりません。AIをパートナーとすることで、職員全員が思考する主体となり、楽しくやりがいを持って働ける組織を目指していきたいと考えています。

Q.素晴らしいお話をありがとうございました。最後に、他の自治体に向けてメッセージがあればお願いします。

堀口さん: 宮崎市としては、他の自治体様よりも先行して様々な挑戦を進めているという自負があります。本日の内容が、少しでも他の自治体様の参考になれば幸いです。そして、私たち自身もここで満足することなく、さらに先を目指してチャレンジを続けていきたいと思っています。

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