人口約7万人、兵庫県の南西部に位置するたつの市。同市では現在、将来的な人口減少社会を見据え、業務改善と住民サービス向上を実現するため、生成AIの導入に向けた検討を進めている。大規模なプロジェクトとしてではなく、社会の潮流に対応する形で始まったこの取り組みは、現場職員の声に耳を傾けながら、一歩ずつ着実に歩みを進めているのが特徴だ。今回は、DX推進の中心を担う総務部デジタル戦略推進課の松本さんに、トライアルの現状から今後の展望まで、詳しくお話を伺いました。
※本記事は2026年1月時点での内容です。

業務改善と住民サービス向上を目指し、生成AI活用の模索を開始
Q. なぜ生成AIの導入を検討し始めたのですか?
松本さん: 生成AIの導入や利用が社会的に不可避な潮流となる中で、自治体としての業務改善や住民サービス向上に繋げるための使い方を模索し始めたのがきっかけです。明確に「プロジェクト」として発足したわけではなく、社会状況の変化に対応する形で、ごく自然に検討がスタートしました。
Q. 現在はどのような形で活用を進めているのでしょうか?
松本さん: 現在はトライアルの段階です。最新の生成AI技術と、自治体特有のネットワーク環境であるLGWANで利用できるツールを比較検討しながら、本市の業務における適合性を検証しています。このトライアルには、私たちデジタル戦略推進課だけでなく、実際に市民サービスなどを担う現場部門の職員に参加してもらい、操作性などに関するフィードバックを得て本格導入に向けた準備を進めています。生成AIの導入は、今年度(令和7年度)の予算化には至りませんでしたが、継続して来年度に要求したところ、来年度は予算化が見込まれています。そのため、来年度からは本格導入へと移行できると考えています。
現場主導のトライアルで見える、活用の現在地と今後の課題
Q. 現場の職員の方々は、具体的にどのように活用されていますか?
松本さん: 自身の業務を効率化するというよりは、何かを相談する壁打ち相手として使ったり、新しいアイデアを求めたりと、従来業務に新たな視点を加える活用例が多く見受けられます。「深津式プロンプト」のような高度なプロンプトの活用はまだ浸透しておらず、簡単な文章を入力するだけでも、AIの性能が向上しているため、十分実用的な回答が得られている状況です。より深いレベルで活用していくためには、今後、職員全体のスキルをさらに引き上げていく必要があると考えています。
Q. 職員への浸透に向けて、どのような工夫をされていますか?
松本さん: たつの市生成AI利用ガイドラインがまだ策定されていないため、私たちから職員に対して積極的な周知・啓発には至っていない状況です。ガイドラインは多くの自治体で作成が進んでいますが、当市でも今年度内には提供できるよう準備しています。ガイドラインが定まれば、生成AIを利用する際の遵守事項や禁止事項が明確になり、私たちも研修などを通じてより具体的な活用手法を提示しやすくなります。
ただ、生成AIに関する情報が全くない状態では活用は広がりませんので、昨年(2025年)10月から発行している「デジタルスキルアップマガジン」という庁内報を活用しています。このマガジンを通して、「このような指示をすると回答精度が高まります」といったプロンプトのコツや、便利な使い方、注意点などを発信しています。トライアルという限られた環境ではありますが、その中で職員がAIの使い方を習熟し、より高度に活用できるような基盤構築を進めているところです。
内部人材の専門性を活かした、地に足のついた体制づくり
Q. ガイドラインや教育体制はどのように構築しているのですか?
松本さん: ガイドラインはデジタル戦略推進課で作成しています。その背景には、兵庫県が比較的早い段階で、民間企業や弁護士といった外部の専門家を交えて非常に質の高いガイドラインを策定されていた点があります。この県のガイドラインを参考にすることで、当市単独でも作成が可能だと判断しました。また、デジタル戦略推進課のDX推進担当は、私を含めて4名が在籍しており、そのうち1名は元SE、もう1名はデジタル戦略監という専門的助言を担う立場の職員です。この2名の専門的な知見を活かしながら作成を進めています。
Q. 今後、本格導入に向けてどのような教育を計画していますか?
松本さん: すでにトライアル参加者からは、「生成AIに関する簡単な研修会を開いてほしい」という声が少しずつ寄せられています。本格導入の際は、ベンダーの方から直接研修を実施いただくことで、庁内への周知と効果的な活用手法の定着を期待しています。ただ、当市では研修費用に多くの予算を確保することが困難な状況にあります。そのため、サービス導入に付随する研修以外は、デジタル戦略推進課を中心に、私たち自身で研修を企画・実施していくことになる見込みです。
トライアルで見えた効果と、本格導入への確かな手応え
Q. これまでのトライアルを通じて、どのような効果や気づきがありましたか?
松本さん: LGWAN対応ツールが日々の技術アップデートに的確に追従できていることを確認できたのが大きな収穫でした。最先端のChatGPTやGeminiなどと比較しても遜色ないレベルで進化しており、性能面での不安を払拭できました。
一方、利用した現場職員は非常に興味を持っており、生成AIに対してポジティブな印象を持っているという手応えを得ています。 また、これは副次的な効果ですが、トライアルの参加者を募集すると、毎回同じような職員が集まる傾向がありました。これにより、DX推進に前向きなキーパーソンとなる職員を把握できたことは、今後の展開において大きな財産になると確信しています。
ツール選定からKPI設定まで。着実に見据える今後の展望
Q. 今後の展望やロードマップについて教えてください。
松本さん: 来年度の予算化を見据え、現在は入札に向けた仕様書の策定が目下の課題です。ちょうど今、2つの異なるサービスを同時に試せる環境が整ったので、この期間にさまざまな部署の職員に両方のサービスを使ってもらい、どちらの機能が業務に有用か、率直な意見を集めたいと考えています。市民と直接向き合う職員だからこそ見える視点を仕様書に反映させ、より質の高いものに仕上げたいです。入札となると価格が重視されがちですが、一度導入すれば長く使い続けるものなので、本当に必要な機能を過不足なく盛り込んだ選定基準を設けるつもりです。 サービス導入後の展望としては、利用状況を測定するKPIの設定を検討しています。多くのサービスが文字数による従量課金制を採用しており、管理画面で利用量が確認できます。トライアル環境ではまだ月100万文字程度ですが、利用文字数が増えれば、それだけ職員に浸透している証拠になります。文字数が全てではありませんが、業務削減効果と並行して、「活用を定着させる」という観点から、このような定量的指標を目標に設定することも有効な手段の一つであると考えています。
「AIを使いこなせないと、人が足りなくなる」自治体が今持つべき危機感
Q. 最後に、この記事を読む他の自治体の方々へメッセージをお願いします。
松本さん: 大手企業では生成AIの導入が急速に進んでいますが、本市のような中規模な自治体や、中小企業では、導入に至っていないケースも多いと思います。しかし、昨今のAIの進歩は極めて速く、この潮流への対応が遅れれば、将来的に深刻な人手不足に直面するという危機感を真剣に持たなければならないフェーズに来ています。この技術革新の重要性を理解し、自治体としてもAIをどう活用していくかを真剣に考えていく必要があります。この動きが、全国の自治体でさらに広がっていけばと願っています。