AIレコメンドエンジンで書店の売上向上へ。顧客体験を最大化する「空間×AI」の設計思想

株式会社ワントゥーテンは、BtoBtoC領域における“リアルな場でのAI実装”を、クリエイティブとテクノロジーの力で実行しています。

本記事では、KADOKAWAと共同開発した「AIレコメンドエンジン」において、店頭での売上増を実現した事例をご紹介します。さらに、シンガポール・セントーサ島で実施された、AI画像解析で人の動きを数値化し“何度訪れても違う演出”を生み出すプロジェクションマッピングの裏側に迫ります。

業務効率化の枠を超え、企業のビジネス課題とユーザーのエンターテインメントを両立させる、独自の体験設計と伴走型AIソリューションの全貌を、同社LBE部の部長 鈴木さんとエクスペリエンスLAB本部インタラクションデベロップメント部の部長 松井さんに伺いました。

AIレコメンドエンジンで書店の売上増を実現

Q. まずは貴社の事業内容と、お二人の役割について教えていただけますでしょうか。

鈴木さん: 私はLBE部の部長を務めております。LBEというのはロケーションベースエンターテインメントの略称で、リアルな場所に行って楽しむエンターテインメントを、私たちの得意分野である体験設計やデジタルテクノロジーを使って作り上げるという、新規事業や商品開発を担う部署です。その中で、現在受託でお受けしている生成AIのプロジェクトを、自社のプロダクトやソリューションにどう昇華していくかというミッションも担当しています。

全社的なお話をしますと、私たちはAIに特化した会社というわけではありません。空間全体をデジタルテクノロジーやデザイン、クリエイティブを駆使してどう見せていくか、ユーザーとの体験をどう作っていくかという点が大きな強みです。テクノロジーには創業当初から力を入れており、昨今では生成AIを空間内やユーザー体験にどう活用していくかという視点で、様々なプロジェクトに取り組んでいます。

松井さん: 私はエクスペリエンスLAB本部インタラクションデベロップメント部の部長をしております。私たちの部署にはAIエンジニアが在籍しており、Web制作を中心に会社全体のコンテンツに向けたAIエンジニアリングを担う制作部隊です。今回はその所管部長という立場で参加させていただきました。

Q. 受託開発で様々な生成AIプロジェクトを手掛けられていると伺っています。代表的な事例として、KADOKAWA様との取り組みについて教えてください。

松井さん: KADOKAWA様とは、AIをわかりやすく使ったレコメンドエンジンのプロジェクトを数年にわたってご一緒しています。当初、KADOKAWA様から書籍の売上や書店様の売上をどのように最大化していくかという大きな課題感をご相談いただきました。何を読んだらいいかわからないというお客様に対し、書籍を提案するAIレコメンドエンジンを通じて課題解決を図ろうとスタートしたのがきっかけです。具体的な仕組みとしては、書籍の情報を事前にいただいた上で、お客様にいくつかの質問を行い、その回答を生成AIにプロンプトとして連携します。そして、なぜその本をおすすめするのかという理由の生成も含めて、お客様に最適な書籍をご提案するというものです。

出力方法の制御で「リアルタイムな会話」を再現。ユーザーのUI/UXが向上

Q. プロダクトをリリースするにあたり、UI/UXの観点でこだわったポイントや苦労された点はありますか。

松井さん: 生成AIに詳細を投げた際、どうしても意図しないおかしな文章が出力されることがあります。そのため、最適なレコメンド文が生成されるようにプロンプトチューニングのトライ&エラーを繰り返しました。また、プロジェクト当初の2023年頃は生成に時間がかかるという課題がありました。ユーザーをできる限り待たせないよう、裏で生成タスクを回しながら、3冊おすすめするうちの1冊目のレコメンド文が完成した時点でまずは画面に表示し、2冊目、3冊目はできあがったものから順次表示していくというUIやUXの工夫に注力しました。

Q. 実際に書店やイベントで展開されてみて、どのような成果がありましたか。

松井さん: ニコニコ超会議というイベントで大きなサイネージを使ってお客様にレコメンドを体験していただいたところ、おすすめ対象の書籍のその場での売上が伸びるという傾向も見られました。そこから現在に至るまで、春と秋の「ニコニコカドカワ祭り」のキャンペーンのタイミングなどで、サイネージやタブレットを全国の書店様に置かせていただき、店頭でお客様に体験していただいています。

鈴木さん: 少し補足させていただきますと、使っていただいたタイミングで書店の売上が上がっているというご報告も受けております。また、原宿にある私たちのショールームにもKADOKAWA様のデモ機を設置させていただいており、実際にどのような体験ができるのかをお試しいただくことも可能です。ビジネスサイドの数字的な課題解決と、エンタメとしてのユーザー満足度の両立という点では、非常に手応えを感じているプロジェクトです。

「何度来ても飽きない体験」をAI画像解析で実現

Q. 続いて、もう一つの事例としてお伺いしたシンガポール・セントーサ島でのプロジェクトについて教えてください。

松井さん: 数年前の事例になりますが、シンガポールのセントーサ島で行われた「マジカルショア/Magical Shores」という大規模なランドアートイベントの制作を担当いたしました。シンガポール政府からの入札案件で、具体的には、浜辺にやぐらを組んで上空からプロジェクターで砂浜に映像を投影し、同時に設置したカメラでAIの強化学習モデルを用いた画像解析を行いました。その場の人数や動きの多さを「活性度」という数値パラメーターに変換し、それをリアルタイムにプロジェクションのプログラムに連携させることで、演出を切り替えるという仕組みです。

Q. 人が来るたびに演出が変わるというのは、非常に没入感のある体験ですね。このプロジェクトを通じて得られた知見はどのようなものでしょうか。

松井さん: タイムラインで進行するショーに対して、AIからの入力や各種センサーからのデータをリアルタイムで連携する基盤を社内で構築できたことが大きな成果でした。私たちはこのハブとなるシステムを「ブラックボード」と呼んでいますが、ここを起点にプロジェクションなどの演出へ連携させるという演出基盤が完成し、その後の様々なプロジェクトにも活かされています。

鈴木さん: セントーサ島の事例においては、政府側に「インバウンド観光客だけでなく、地元の人たちのロイヤリティを高めたい」という強い要望がありました。何回訪れても違う映像が展開され、常に新しい発見があるという可変的なアプローチをAIで作り上げ、体験設計として組み込むことで、その要望を実現できたと考えています。明確な統計を取っているわけではありませんが、ユーザーの満足度も非常に高いという評価をいただいております。

ビジネスの課題解決とエンターテインメントの満足度を両立させる、今後の展望

Q. 今後は生成AIをどのように自社のソリューションや展開に落とし込んでいく構想をお持ちなのでしょうか。

鈴木さん: 私たちがテーマとしている「空間」に対して、BtoBtoCの分野でユーザー体験とAIを掛け合わせ、価値を最大化していくサービスに昇華させたいと考えています。昨今はバックオフィスの業務改善や業界特化のファインチューニングといった用途が多いですが、私たちが提供するのは企業側の「これを届けたい」というニーズと、ユーザー側の「こんな体験をしたい」というニーズをつなぐ体験設計です。企業が得たいデータを自然に引き出せる会話設計や体験設計のモジュールはすでに蓄積されています。これを基盤に、ユーザーが思わず使いたくなるような、カスタマイズ可能なソリューションを展開していく構想を持っています。単純なパッケージのSaaSプロダクトを提供するのではなく、クライアントの課題解決に寄り添い、オーダーメイドで作り上げていける伴走型の支援が私たちの最大の魅力だと考えています。

松井さん: 技術的な観点で申し上げますと、昨今のメディア系AI、特に画像生成などの進化が本当に目覚ましいと感じています。かつて私たちがWebキャンペーンなどで、ユーザーの顔写真にフィルターをかけたり加工を施したりしてエンターテインメントとして提供していた仕組みが、今後はほぼAIの画像生成に置き換わっていくと社内でも議論しています。AIを活用したエンターテインメントという領域においては、メディア系AIの活用が中心になっていくと捉えており、私たちとしても画像生成などの技術開発にさらに注力していく方針です。

Q. 最後に、この記事をご覧の方へメッセージをお願いします。

鈴木さん: 私たちが目指しているのは、幅広い業界のBtoBtoC領域において、AIを使ってクライアントのビジネス課題を解決し、同時にユーザーのエンターテインメント体験としての満足度を高めることです。決まった形のツールを導入して終わりではなく、お客様のニーズに応じてスクラッチで作り上げるなど、独自の空間と体験を創り出すAIソリューションを提供していきたいと考えております。リアルな場での価値向上や新たなユーザー体験の創出をご検討の企業様は、ぜひご相談いただければと思います。

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