株式会社STRACTが提供するAIショッピングアシスタント「PLUG(プラグ)」は、独自のブラウザ拡張技術を活用し、ユーザーがECサイトを訪れるだけで提携する2,200以上のショップから最安値やクーポンを自動検知するサービスです。自動検知に限らず、商品ページのレビュー要約や代替提案などの機能を実装し、誰もが最適な買い物をできる体験を提供しています。
大手LLMベンダーの参入が予想される領域でありながら、同社は独自の設計思想に基づき、ルールベースとLLMを巧みに使い分ける技術力で差別化を図っています。本記事では、「PLUG」開発の背景にある課題意識から、類似サービスとの決定的な違い、現場でのリアルな実装の工夫、そして今後の展望まで、同社シニアプロダクトエンジニアの宇佐美さんに伺いました。

- 1 検索から決済までを自動化するAIショッピングアシスタント
- 2 購買前のありとあらゆる“手間”を省き、最適な購買体験をサポート
- 3 「安易にチャットUIにしない」ユーザー負担を最小化する設計思想
- 4 ユーザーの利便性向上がEC事業者のカゴ落ち防止に直結する
- 5 宇佐美さん: 提携している2,200社以上の事業者様には、PLUGを通じて適切なタイミングでキャッシュバックやポイントやクーポンなどのインセンティブを提示できることをお伝えしています。これにより、カゴ落ちの防止や、新規顧客の獲得単価(CPA)の抑制が可能になります。私たちが生成AIを使ってユーザーの利便性を改善し、ECの買い物体験を向上させることが、結果的にEC事業者様にとっても大きなメリットになるという点を常にお伝えしています。
- 6 「日用品の自動発注」まで寄り添うAIの実現と、組織全体のAIネイティブ化
検索から決済までを自動化するAIショッピングアシスタント
Q. 提供されているAIプロダクト「PLUG」の概要について教えてください。
宇佐美さん: STRACTは、独自のブラウザ拡張技術を使ったAIショッピングアシスタント「PLUG(プラグ)」を展開しています。ユーザーがECサイトを訪れるだけで、提携する2,200以上のECショップから、より安く買えるサイトや利用可能なクーポン、キャッシュバックを自動で検知して提示します。これにより検索の手間を減らし、誰でも最安値で買い物ができる体験を提供することが現在のプロダクトの軸です。
私たちはAIエージェントをフルに活用して、新しいショッピング体験を作りたいと考えています。従来は自ら検索して比較することが中心でしたが、そこからさらに踏み込み、決済の自動化や、購入直前の住所・決済情報の入力補助など、新しい体験の創出を進めています。すでに実装済みの機能としては、ユーザーが閲覧している商品ページでレビューを要約したり、代替商品を提案したりと、AIをフル活用してプロダクトを提供しています。
購買前のありとあらゆる“手間”を省き、最適な購買体験をサポート
Q.「PLUG」を開発された背景には、どのような課題意識があったのでしょうか。
宇佐美さん: ユーザーの手間を解消し、一番良いショッピング体験を提供したいという思いがすべての出発点です。私たちの強みは複数ECサイトをまたがった横断的な検索ですが、購入に至るまでには「複数のサイトで価格の比較をして、どこでいつ買うべきかを調べる」、「レビューをきちんと見ないと決められない」、「初めて購入するサイトだと名前・住所等の入力が面倒」といった手間やハードルが数多くあります。
そこで、大手ECモールも含めた日本中のECサイトの商品データを集め、ユーザーが欲しい商品が購入できるサイトをまとめて提示することで、価格比較のために複数のサイトを往復する手間を省きたいと考えました。また、これまで蓄積されたレビューを集め、ポジティブな反応とネガティブな反応をある程度まとめて提示することで、ユーザーの迷いを少なくしようとも考えました。どの商品がが自分に合っていて、どこが合っていないのか、欲しい商品はどのサイトで買うとお得なのかを判断しやすくすることを念頭に置いています。一番の目標は、ユーザーに最適なプロダクトを探してきてピンポイントで提案することですが、一足飛びにそこへ到達するには技術的な課題もあります。その第一段階として、レビューを集めて要約するなどの地道な機能から実装を進めているところです。
Q. 大手LLMベンダーもショッピング領域へ参入する動きがありますが、類似サービスとの違いや競合優位性はどこにあるとお考えですか。
宇佐美さん: 大手LLMベンダーがこの領域に参入してくる可能性は最初から想定しています。それでも、私たちの優位性は十分にあると考えています。LLMプロバイダーはマネタイズの一つの方法としてショッピング領域を捉えており、どうしても広告的な要素が強くなりがちです。そうなると、ユーザーにとって本当に最適なものを提案するという本質から若干ずれてしまいます。
私たちは最初からEC体験を大きく変えることを目指し、深いドメイン知識を持って開発に取り組んでいます。ユーザーの購買行動や、商品を比較して決める思考プロセスを深く汲み取れるよう、特化したAIエージェントを開発しています。たとえ大手が購買機能をつなげてきたとしても、私たちのほうがより深くユーザーを理解し、生活防衛にもつながるような良い体験を提供できると確信しています。そこまでの体験を作り込むということにLLMプロバイダーがフルベットしてくることはないだろうとも予想しています。
「安易にチャットUIにしない」ユーザー負担を最小化する設計思想
Q. ユーザーが利用するフロント面のUI/UXにおいて、こだわっているポイントを教えてください。
宇佐美さん: AI系の機能において、安易にチャット的なインターフェースにしないことにはこだわりました。生成AIを使ったプロダクトを企画する際、まずはチャットでユーザーと対話する形にしがちです。しかし、チャットインターフェースはスマートフォンユーザーにとって長い文章を入力する負担を強いる体験であり、決して良いものとは言えません。
最終的にそういった機能を作る可能性はありますが、まずはユーザーが気軽に利用でき、価値を感じられる機能を優先しました。例えばレビュー生成機能は、裏側でどのような処理が動いているかを意識させず、ワンタップで結果を出せるようにしています。チャット検索はうまく使える人とそうでない人の差が出やすいですが、私たちはどんなユーザーでも平等に恩恵を受けられるプロダクトを目指しています。
Q. 膨大な商品情報を処理する中で、LLMのコンテキスト長の限界といった技術的なハードルがあると思います。バックエンドではどのような工夫をされていますか。
宇佐美さん: おっしゃる通り、LLMにはコンテキスト長を含めさまざまな限界があります。そのため、生成AIに任せる部分は的を絞り、非決定的な振る舞いが求められる部分のみをLLMに処理させています。一方で、ルールベースで解決できる部分は徹底してルールベースで作り込んでいます。
今後LLMを活用する領域は増えていくと思いますが、切り替えをスムーズに行えるように設計し、必要なコンテキストだけを注入して不要なものは切り落とす工夫やテストを重ねています。ルールベースで対応可能なところは予測可能な形で実装し、LLMの限界による問題を最小限に抑えています。
ユーザーの利便性向上がEC事業者のカゴ落ち防止に直結する
Q. 提携しているEコマース事業者とは、どのようなコミュニケーションをとられ、どのような価値を提供しているのでしょうか。
宇佐美さん: 提携している2,200社以上の事業者様には、PLUGを通じて適切なタイミングでキャッシュバックやポイントやクーポンなどのインセンティブを提示できることをお伝えしています。これにより、カゴ落ちの防止や、新規顧客の獲得単価(CPA)の抑制が可能になります。私たちが生成AIを使ってユーザーの利便性を改善し、ECの買い物体験を向上させることが、結果的にEC事業者様にとっても大きなメリットになるという点を常にお伝えしています。
Q. セールの割引やポイント還元率など、リアルタイムな価格変動にはどのように対応して提案を行っているのでしょうか。
宇佐美さん: 価格情報は毎日、毎時間レベルで取得し、常に鮮度の高い情報を提示できるようにしています。現在リリースを控えている機能として「実質価格」の提示があります。例えば楽天市場のように、会員ステータスによって割引率やポイント還元率が変わる場合でも、ユーザーのステータスを加味して「実質的にはここで買うのが一番安い」と判断できるようにします。送料なども含め、ユーザーにとって真に最安値となる情報を提示することを目指しています。
「日用品の自動発注」まで寄り添うAIの実現と、組織全体のAIネイティブ化
Q. プロダクトとして、今後はどのような機能拡張や顧客価値の創出を目指しているのでしょうか。
宇佐美さん: 現在は商品を「見つける」「提示する」ことに重点を置いていますが、今後はEC体験のすべてを自動化・サポートできるように拡張していきたいです。具体的には、決済の完了までAIがサポートする機能や、ユーザーの行動に基づいた多軸での提案機能を実装する予定です。
さらに、日々の細々とした日用品の買い物において、「今日まとめ買いしておいたほうがお得なので発注しておきました」と提案できるレベルまで進化させたいと考えています。普段使いする中でどんどんお得になり、生活に寄り添って便利になっていく。PLUGをそんな存在に育てていきたいですね。
Q. ユーザーによっては「安さ」だけでなく、「出品者の信頼性」や「物持ちの良さ」を重視する方もいると思います。そうした個別の文脈を理解した提案もできるようになるのでしょうか。
宇佐美さん: おっしゃる通りです。例えばAmazonで買い物をする際にも複数のセラーが存在し、信頼できるセラーかどうかは重要な判断基準になります。現在は分かりやすいメリットとして価格という評価軸を中心に提示していますが、実際の購買行動につながる要素はそれだけではありません。
安心感や物持ちの良さなど、ユーザーごとに多種多様な評価軸が存在します。最終的な理想は、裏側でAIエージェントがユーザーの思考や購買軸を深く探り、その時々で最も信頼できる最適な商品を提示できるようになることです。現在提供している「最安値の提案」は、その第一歩にすぎません。
Q. 最後に、メッセージをお願いします。
宇佐美さん: STRACTはプロダクト開発を非常にスピーディーに進めており、現在エンジニアの採用を強化しています。代表の伊藤もエンジニアであることから求める技術レベルは高いですが、その分給与も〜3,000万円など業界標準としても高く設定し、優秀な人材が集まる環境を整えています。
組織全体としても「AIネイティブ」に本気で取り組んでいます。エンジニアの開発や運用オペレーションの大部分を自動化する議論を進めており、ビジネス組織側でもClaude Coworkなどをどんどん活用して業務の自動化を進めています。
AIエージェントがオペレーション業務を代行できるようにし、日々の業務時間を削減するなど、全社で生産性を劇的に高めるプロジェクトがいくつも動いています。現在の社員数は20人ですが、人員を増やさなくても100人規模の生産性を十分に達成できる手応えを感じています。次のクォーターからは、この方向性に組織全体で挑戦していく予定です。