国内4万社導入のkintoneが挑む、AIリテラシーの壁を越えるチーム活用戦略

AIツールを導入したものの、「一部のITリテラシーが高い社員しか使いこなせず、現場に定着しない」という悩みを抱えていませんか?

国内約4万社に導入されているサイボウズ株式会社の業務改善プラットフォーム「kintone(キントーン)」では、現在「kintone AIラボ」として6つの生成AI機能をベータ版で提供しています。

同社のAI開発における最大の特徴は、個人のプロンプトスキルに依存しない設計思想にあります。一部の管理者が設定を済ませれば、チーム全員がAIを意識せずにその恩恵を受けられる「組織としてのAI活用」を追求しています。さらに、自社での機能開発にとどまらず、エコシステムパートナーと連携して専門的なAIニーズにも対応する独自の仕組みを構築しています。

本記事では、kintoneのAI機能の開発背景や設計思想、導入企業での具体的な成果、そしてAIエージェント時代を見据えた今後の展望について、同社営業本部 アライアンスビジネス開発部 兼 エコシステムAI PjM 佐藤太嗣さんに伺いました。

アジャイルに価値を届ける「kintone AIラボ」の6つの機能と開発背景

Q. 現在提供されているkintoneの生成AIソリューションの概要を教えてください。

佐藤さん: 2026年3月現在、我々は「kintone AIラボ」という名称で、大きく2つの方向性に基づいた6つのAI機能を提供しています。
  1つ目の方向性が「データ活用支援」です。kintoneはお客様のデータを貯める箱としての役割がありますので、そのデータを活用するための機能として、チャット形式でデータを探す「検索AI」、掲示板の長いやり取りをまとめる「スレッド要約AI」、そして表示されているレコード一覧から情報を分析する「レコード一覧分析AI」の3つを提供しています。

  2つ目の方向性が「市民開発支援」です。kintoneはノーコードでシステムを作れるのが強みですが、生成AIを使ってさらにハードルを下げることを目指しています。要望を対話で伝えるだけでアプリを作ってくれる「アプリ作成AI」、少しロジックが必要なワークフローを組める「プロセス管理設定AI」、そして会社のガバナンスやルールに即したアプリができているかを管理者が確認できる「アプリ設定レビューAI」の3つを提供しています。

Q. なぜ正式リリースではなく、ベータ版である「kintone AIラボ」という形式で提供されているのでしょうか。

佐藤さん: 生成AIの進化が非常に早く、数ヶ月や数週間で状況がどんどん変わっていくという時代背景があるからです。長い時間をかけて「これが最高です」というものを作って出しても、すぐ陳腐化してしまう恐れがあります。
  そのため、お客様が必要そうなものをまずは作って提供し、お客様からのフィードバックをいただきながら課題を見つけ、正式化に値するかを検証していくというサイクルを早める目的で、ベータ版として出しています。お客様は本番利用も可能ですが、そうした背景をご理解いただいた上でお使いいただいています。

「AIリテラシーに依存しない」設計思想とUI/UXへのこだわり

Q. 類似のAIツールや、外部から接続するMCP(Model Context Protocol)などと比較した際、kintoneのAI機能ならではの技術的・設計上のこだわりはどこにありますか?

佐藤さん: 我々もkintoneの外側に向けてMCPサーバーを提供する取り組みは行っていますが、ローカルでのインストールが必要になるなど、皆様に広くお使いいただける形にはなりにくい側面があります。また、個人が使う汎用AIチャットツールの場合、個々人がプロンプトなどのAIリテラシーを高めない限り、十分なアウトプットを引き出せません。結果として、使える人と使えない人の差が極めて大きくなってしまいます。
  我々はグループウェアを提供する企業として「組織で成果を出すこと」を重視しています。そのため、kintoneの画面の中から特定のアプリを指定するだけで、操作感や難易度を変えずに情報を探せるなど、AIリテラシーに関係なく価値を享受できるという点を非常に重視して開発しています。

Q. つまり、現場のユーザーは特別なプロンプトの知識がなくても自然にAIの恩恵を受けられるということでしょうか。

佐藤さん: その通りです。一部の管理者に該当するような方が一度設定を行えば、一般のユーザーはAIを意識せずともその価値を享受できる形にこだわっています。いくつかの機能において、この設計思想は一貫しています。
  もちろん、将来的には皆様にAIリテラシーを身につけていただくことも重要だと認識しています。しかし現時点において「それを学ばないとAIが使えない」という状態を放置するべきではありません。チーム全体の生産性を向上させるために、いち早くAIの効果を得られる仕組みを提供することが、今我々がやるべき最重要事項だと考えています。

営業管理からトラブル対応まで、AI導入がもたらす具体的な成果

Q. 実際に「kintone AIラボ」が提供する機能を活用している企業では、どのような成果が生まれているのでしょうか。

佐藤さん: 例えば、業務用の食品卸を手がける企業様では、営業管理(SFA)のアプリで「レコード一覧分析AI」をご活用いただいています。
  SFAに案件情報がすべて集約されていると、情報量が多すぎて全体像を把握するのが困難になります。そこで、表示されている一覧に対してAIに質問を投げかけ、各営業所の案件情報をスピーディーに抽出したり、重要案件やリスク案件をAIにピックアップさせたりして、リアルタイムで現場の状況を把握するという使い方で利便性を高めていただいています。

Q. データ活用支援の「検索AI」に関してはいかがでしょうか。

佐藤さん: レジャー産業を展開されている企業様の事例があります。本社と各店舗で構成されている業態上、本社が勤務時間外のときに店舗でトラブルが発生するケースが多々ありました。
  マニュアルやノウハウ自体はkintone内のどこかにあるのですが、店舗スタッフがそれを見つけづらいという課題がありました。そこに検索AIを導入していただいたことで、曖昧なキーワードでも必要な情報を検索できるようになりました。本社のサポートスタッフがいなくても、店舗側で迅速に問題を自己解決できるようになったという定性的な効果が出ています。

汎用機能は自社、専門領域はパートナー。エコシステムによる価値最大化

Q. kintone本体が提供するAI機能と、外部のAIベンダーとの連携によるエコシステムは、どのように棲み分けを行っているのでしょうか。

佐藤さん: そもそもkintoneは、非常に多様な業種・業態のお客様にお使いいただいている汎用的なプロダクトです。そのため、多様なお客様の多様なAIニーズを、kintone本体の機能だけですべて賄うことは不可能であり、最初からやらないと決めています。
  比較的汎用性の高い機能はkintone本体のAIが担い、専門性が高く高度な機能はエコシステムパートナー様のAIにお任せするという棲み分けを行っています。例えばアプリを作成するAIでも、本体機能だけでなく、より高度なものを作れるパートナー様の製品が存在します。2025年の「Cybozu Days」というイベントでは、全142のパートナーブースのうち、54ブースでAI関連の展示が行われるほどエコシステムが広がっています。

Q. パートナー企業とはどのように連携やビジネスの座組を進めているのでしょうか。

佐藤さん: 実は、AIプロダクトをお持ちのパートナー様側からアプローチをいただくケースが非常に多いです。AIを業務で活用するには必ず業務データが必要になりますが、そのデータが溜まっているデータベースとしてkintoneに連携ニーズを感じていただいています。
  座組としては、パートナープログラムの中で品質管理などの基準を満たした製品を「プロダクト認定」する仕組みを設けています。サイボウズの営業やマーケティングチームは、基本的にその認定プロダクトに限定して提案や紹介を行います。また、kintoneの販売の6割以上は販売パートナー様経由ですので、そちらのチャネルを通じて「kintoneとこのAIを組み合わせるとこんな価値が出ます」といった共同提案も仕掛けています。

今後の展望:AIエージェント連携と「人間とAIのチームワーク」の探求

Q. 今後、AI活用やプロダクト戦略において、どのような展望をお持ちでしょうか。

佐藤さん: これまでのデータ活用支援・市民開発支援という軸に加え、AIエージェントと呼ばれる自律自動化の技術への対応を進めていく必要があります。
  まず、外部のAIエージェントプラットフォームからkintoneを使ってもらうためのAPIの拡充を引き続き行っていきます。それに加えて、具体的なことはまだお話しできませんが、kintoneの中で動くようなAIエージェントの提供も計画しています。我々の企業理念にも即し、人間だけ、AIだけというのではなく、「人間とAIのチームワークを探求する」というテーマで展開していく予定です。

Q. エコシステムパートナーとの連携領域もさらに広がっていくのでしょうか。

佐藤さん: はい、AIエージェント系のベンダー様やプラットフォームと組んでいくことが非常に重要になってくると考えています。
  SaaSの機能的な価値がいずれコモディティ化していくと言われる中で、kintoneの「お客様の業務に合ったデータが溜まる汎用的なデータベース」という強みは極めて強力です。そのデータをAIエージェントに活用してもらうことこそが、今後の大きな勝ち筋になります。
  kintoneを使えば、社員全員がAIを懸命に勉強しなくても、自然とAIの恩恵を受けられる。そんな世界が当たり前になるよう、本体の機能とパートナー連携の両輪で引き続き追求していきたいと考えています。

×