1人当たり週4時間削減の可能性。AI推進を社員の主体性に任せて全社浸透させた方法

ゲスト

教育と人材紹介のハイブリッドでAIを全社浸透!
株式会社ジェイック 池本さん

株式会社ジェイックは、主に企業向けに教育研修事業と人材紹介事業をハイブリッドで行っている。大学キャリア課や大学生協とのつながりを生かした採用支援や、「人を動かす」「7つの習慣」などの世界水準の教育コンテンツを持つのが強みである。同社でAI推進を牽引する池本さんは、推進者と現場の温度差に苦しみながらも、「あえて推進者が教えない」アプローチで全社浸透を実現。1人当たり週4時間の業務削減を達成している。

この事例のポイント

  • 1人当たり週4時間の業務削減を実現する方法: 調査、添削、スライド作成などでGeminiを活用し、月数千時間の削減を見込む。
  • 推進者と現場の温度差を埋める方法: 勉強会の講師を推進者から「使い始めた現場社員」に変え、当事者意識を醸成した。
  • 活用が進んだからこそ直面する新たな壁の対処: Claude Codeなど多様な新ツールの登場に対し、コストとセキュリティのリスク精査に取り組む。
  • AIで浮いた時間の使い道: 極限まで効率化した時間を、求職者との面談やフォローなど「人にしかできないコミュニケーション」に全振りする。

調査、添削、スライド作成。1人当たり週4時間の削減を生み出した具体的な活用法

Q. 現在はどのような業務でGeminiが活用され、定量的にはどの程度の効果が出ているのでしょうか?

A. 調査や資料作成を効率化し、月数千時間の削減を見込む

池本さん: 全職種にわたってさまざまな活用が進んでいます。例えば私が担当するIRの領域では、これまでは各社のホームページを巡回して新しいニュースや決算説明資料をチェックし、手作業でポイントをまとめていました。今では自然言語でGeminiに「この会社のポイントをまとめて」「売上高の推移を見せて」と投げるだけで完結します。必ず一次ソースの確認は行いますが、本腰を入れる手前の競合調査などはGeminiで十分に済むようになりました。

キャリアアドバイザーの業務でも、求職者へのメールの雛形作成や、履歴書・自己分析の添削に活用しています。修正してほしい体裁をGeminiに投げてテンプレートを出してもらい、最後の必要な部分、ラストワンマイルだけを人が手直しする流れになりました。営業の領域では、Google Meet等での文字起こしと要約の活用はもちろんのこと、提案資料や社内勉強会のスライド作成にNotebookLMやGeminiを使っています。スライドの土台やデータ、デザインを出してもらい、そのまま社内共有で使うことも増えました。スライド作成が苦手な社員でも短時間で高品質なものを簡単に出せるようになり、気合を入れて膨大な工数を割く必要がなくなりました。各事業部で特定の業務に特化した「Gems」を作成し、「この業務はこのGemsを使おう」といった草の根の共有も進んでいます。今月入社したばかりの新入社員16名に向けても、生成AIをしっかり使っていくための研修を実施しています。

定量的な効果も明確に出ています。これまでAIを使っていなかった社員を対象にAI研修を実施し、業務の棚卸しをして活用してもらった結果、約2ヶ月間で1人当たり週に4時間ほどの業務削減に成功しました。これは半日分の労働時間に相当します。もし全社員約230名が同じように活用すれば、月間で3,000時間以上の業務削減に繋がります。人がやらなくていい業務に労力を割かなくなることで思考もクリアになり、時間以上の労働生産性向上の効果があると見ています。

新しいもの好きの2人がトップダウンで始動。しかし現場からは「あの人たちだからできる」という壁

Q. AIプロジェクトはどのように始まり、現場へ展開する際にどのような反発や懸念がありましたか?

A. 推進者と現場の温度差が大きく、最初は普及に苦戦

池本さん: 最初は私を含め、ITや新しいものが好きな人間が2名おり、ファーストペンギンのようにGeminiなどが出てきたタイミングで触って「これはすごいね」と話していました。自身の業務に活用し始めた時に「これは全社で使った方がいい」と感じ、代表に「うちでも普及させた方がいい」と提案しました。代表自身も「人がやらなくていい仕事」を解決したいという思いをずっと持っていたため、生成AIでうまく解決していこうとトップダウンのメッセージも加わり、プロジェクトが始まりました。
しかし、現場に降ろしていく段階では壁がありました。私ともう1名の推進担当者は元々生成AIに詳しかったため、現場の社員からは「あの人たちだからできるよね」という反応もありました。私たちが勉強会等を実施しても、すぐには全社的な広がりを見せませんでした。

勉強会の講師を「生成AIを使い始めた社員」に変えて一気に全社へ波及

Q. その現場との温度差という壁を、具体的にどうやって乗り越え、浸透させていったのでしょうか?

A. 身近な同僚が活用事例を見せる。強制させない。適度に手を抜く。

池本さん: 普及のブレイクスルーになったのは、勉強会の主体を「私たち推進者」から「使い始めてだんだん慣れてきた様々な職種の社員」に変えたことです。普段一緒に仕事をしている身近な同僚がGeminiを使い始め、「実際にこういう業務をAIでやっている」という姿を目の当たりにすると、周囲も「私にもできるかも」「私もやらなきゃ」という気持ちになりやすいのです。トップダウンのメッセージと、現場の草の根からの広がりの両方が噛み合い、半年ほどかけて「会社の中でGeminiを使うのが当たり前」という雰囲気を作ることができました。

また、推進の勘所として「いかにうまく手を抜くか」も重要だと考えています。弊社のコミュニケーションはSlackがベースなので、「業務効率化」や「生成AI」のチャンネルを作り、そこでYouTubeの分かりやすいGemini活用動画を随時共有しました。「どう使っていいかわからない」という声に対して、「この動画を見ながらやればうまくいくよ」と案内するだけで十分です。
勝手にやりたい人はどんどんYouTubeを見て試してくれます。推進担当である自分がすべてを抱え込むのではなく、ツールや動画を活用して使いたい人にリーチしていくこと。そして何より、推進担当自身がAIを好きで楽しみながら、同じように盛り上がれる仲間を見つけてユースケースを共有していくことが、全社浸透への近道だと実感しています。

活用が進んだからこその新たな壁。Claude Codeの登場と直面するセキュリティのジレンマ

Q. 順調に浸透が進む一方で、推進にあたって「参ったな」と感じた瞬間や難しい課題はありますか?

A. 新ツール導入の要望に対し、コストとリスクの精査に苦慮

池本さん: まさに今、直面している課題があります。昨年(2025年)までは「うちはGeminiで行く」という明確な方針がありました。弊社はGoogleを基盤にドライブやGmailを使用しているためGeminiとの相性が良く、学習されない有料版を契約して個人情報の入力規定を定めることで、安全に運用できていたからです。

しかし最近になり、Claude CodeやGensparkなど多様なAIが登場し、様々な部署の社員から「これを使っていいですか?」という声が上がるようになりました。特に、私自身が個人的に私物のPCで導入し、色々テストをしているClaude Codeは労働そのものに対するゲームチェンジャーになり得るほどの力を持っています。ブラウザ上でコードを出力してコピペするGeminiとは異なり、ローカルで動いてファイルごと編集し、実行まで全てやってくれるという圧倒的な便利さがあります。

ただ、AIツールは様々出てきて便利さが増す一方、個人が趣味的に使う時とは異なり、組織で使う場合は大きなリスクも伴います。例えばインジェクション攻撃などが起これば、会社のデータが全て吹き飛ぶ可能性や顧客情報流出の危険性すらあり、一瞬で企業存続の危機に陥ることも考えられます。また、全社員が月額の有料ツールを自由に使えば莫大なコストになります。誰のどのような業務であれば利用を許可するのか。個人情報が入っていない特定のパソコンに限定してClaude Codeを許可すれば安全かといった点や、制度、セキュリティ、コスト、そしてツールの精度を天秤にかけながら、頭を悩ませて試行錯誤している段階です。

AIで極限まで効率化し、浮いた時間はすべて「人とのコミュニケーション」に充てる

Q. 今後、会社としてどのような生成AI活用の戦略や展望を描いているのでしょうか?

A. 定型業務を極限まで効率化し、生み出した時間を「人でしかできないこと」に全振りする

池本さん: 私が理想としているのは、SNSでも話題になっていたオープンハウスさんのあり方です。AIを極限まで活用して業務を効率化し、その空いた時間で何をしているかというと「駅前に立って人に声をかけている」というものです。AIの進化はあるかもしれませんが、現時点で人に声をかけることは人間にしかできません。

弊社で言えば、人にしかできない価値とは、求職者の方との面談やフォロー、気にかけて電話をかけるといったコミュニケーションです。AIを使って「このタイミングで電話した方がいい」というシグナルをキャッチすることはできても、実際に電話をするのは人間です。1日の労働時間のすべてを人と関わる時間に充てることが理想です。人との関わりこそが我々の介在する本当の価値であり、顧客満足度の向上に直結します。例えば1日5名の求職者の方を支援しているキャリアアドバイザーが、日程調整や面談記録の整理といった業務をAIに任せることができれば、求職者一人ひとりに対してより深いサポートが可能になります。

人間のコミュニケーションは、一見すると効果が見えにくく非効率に思えるかもしれません。しかし、中長期的に関係性を築いていくためには、そこに時間を割くことが何よりも重要です。私たちは人を大事にする会社であり、社員も皆、目の前の求職者や企業の皆様を大切にしています。だからこそ、AIで定型業務を徹底的に削減し、生み出した時間を「人でしかできないこと」に全振りしていく。これが、私たちのAI推進における最大のモチベーションであり、今後の方向性です。

×