「RAGを構築したけれど、テキスト情報しか検索できずに図表やグラフの内容が無視されてしまう」
「PDF資料の中にある画像データを検索対象に含めるには、どうすればいいの?」
こういった技術的な課題や悩みを持っているエンジニアの方も多いのではないでしょうか。
従来のテキストベースのRAGでは、企業の資産である「図面」「グラフ」「商品画像」などの視覚情報を活用しきれないのが実情です。
本記事では、画像を扱うための「マルチモーダルRAG」の具体的な3つのアプローチ手法と、それを実現するための最新モデル、実装時の注意点について解説しました。
生成AIを活用したシステム開発支援を行っている弊社が、技術的な観点から実践的なノウハウのみをご紹介します。
開発のヒントになるはずですので、ぜひ最後までご覧ください。
RAGにおける画像処理(マルチモーダルRAG)の基本
ここからは、なぜRAGにおいて画像処理が重要なのか、その基本概念と技術的な背景について解説します。
- 画像データの検索ニーズ
- テキストRAGとの違い
- 技術的なハードル
これらを理解することで、これから構築しようとしているシステムの要件定義がより明確になります。
それでは、1つずつ順に解説します。
RAGで画像の検索や処理が必要になるシーン
企業内に蓄積されたデータは、テキストだけで構成されているわけではありません。
例えば、製造業における設計図面や仕様書には、テキストによる説明以上に重要な情報が図として記載されています。
これまでの検索システムではファイル名でしかヒットしなかった図面が、その中身の形状や特徴で検索できるようになれば、業務効率は劇的に向上します。
また、金融機関やコンサルティングファームで扱う決算資料やマーケットレポートも同様です。
ここには多くのグラフやチャートが含まれており、数値の推移やシェアの比率といった情報は、画像データとして埋め込まれているケースが多々あります。
これらの情報をAIが読み取り、回答生成に活用するためには、テキストだけではなく画像を理解する能力が不可欠です。
さらに、ECサイトにおける商品検索や、医療現場におけるレントゲン写真やCTスキャンの照合など、専門的な領域でも画像のRAG活用が進んでいます。
単なるキーワード一致ではなく、視覚的な類似性や画像内のコンテキストを理解した検索が求められるシーンは、今後ますます増えていくでしょう。
こちらはテキスト検索とマルチモーダル検索の比較を行った研究記事です。 合わせてご覧ください。 https://arxiv.org/html/2511.16654
従来のテキストRAGとマルチモーダルRAGの違い
従来のRAG(Retrieval-Augmented Generation)は、基本的にテキストデータをベクトル化し、ユーザーの質問(テキスト)と類似度が高い文章を検索して回答を生成していました。
この仕組みでは、PDF内に貼り付けられた画像は、OCRなどで無理やりテキスト化しない限り、情報のブラックボックスとなっていました。
一方、マルチモーダルRAGは、テキストだけでなく画像、あるいは音声や動画といった異なるモダリティ(情報の種類)を扱います。
最大の違いは、画像とテキストをどの段階で統合するかという点にあります。
画像をテキストの説明文に変換してから検索する手法もあれば、画像そのものをベクトル化して、テキストの質問と画像のベクトルを直接比較する手法もあります。
これにより、ユーザーが「この製品の配線図を見せて」と質問した際に、テキストの該当箇所だけでなく、実際の配線図の画像を提示しながら解説することが可能になります。
マルチモーダルRAGは、人間が資料を読むときと同じように、文字と図をセットで理解し、よりリッチで正確な回答を提供する仕組みだと言えます。
こちらはマルチモーダルRAGの最新動向をまとめた調査記事です。 合わせてご覧ください。 https://arxiv.org/html/2502.08826v2
画像データを取り扱う際の技術的な課題
画像をRAGに組み込む際には、テキストのみの場合とは異なるいくつかの技術的な課題が存在します。
まず挙げられるのが、情報の「意味」をどう抽出するかという問題です。
テキストであれば単語そのものが意味を持ちますが、画像はピクセルの集合体であり、そこから「これが猫である」「これは売上が上昇しているグラフである」という意味を抽出するには、高度なモデルが必要です。
次に、計算コストとレスポンス速度の課題があります。
画像データはテキストに比べて情報量が圧倒的に多く、それを処理するマルチモーダルモデル(VLMなど)はパラメータ数が巨大になりがちです。
そのため、すべての画像を詳細に解析しようとすると、検索や回答生成に時間がかかりすぎたり、API利用料やGPUコストが高騰したりするリスクがあります。
また、図表特有の難しさもあります。
例えば、棒グラフの色や凡例、軸の数値などを正確に読み取ることは、一般的な画像認識モデルでも難易度が高いタスクです。
これらの課題を解決するためには、適切なモデルの選定と、目的に応じたパイプラインの設計が非常に重要になります。
マルチモーダルRAGの性能とコスト効率は、基盤となるモデルの進化に大きく左右されます。こちらはGPT-5のリリース日、機能、GPT-4との違いについて解説した記事です。 合わせてご覧ください。
RAGで画像を検索・処理する3つの主要なアプローチ
ここからは、実際に画像をRAGシステムに組み込む際の主要なアーキテクチャを3つ紹介します。
- 画像をテキスト(キャプション)に変換する方法
- 画像とテキストを共通のベクトル空間に埋め込む方法
- マルチモーダルモデルで画像を直接処理する方法
それぞれメリットとデメリットが異なるため、自社のユースケースやコスト感に合わせて最適な手法を選ぶ必要があります。
それでは、1つずつ順に解説します。
画像をテキスト(キャプション)に変換して検索する方法
これは、画像を一度テキスト情報に変換し、従来のテキストベースのRAGの仕組みに乗せるという、最も実装ハードルが低いアプローチです。
具体的には、GPT-4oやGPT-5などの画像認識能力を持つモデルを使用して、画像に対して「この画像が何を表しているか詳細に説明して」という指示を出し、その説明文(キャプション)を生成させます。
そして、その説明文をベクトル化してデータベースに保存します。
この手法の最大のメリットは、既存のテキスト用ベクトルデータベースや検索ロジックをそのまま流用できる点です。
特別な画像検索エンジンを用意する必要がなく、データの管理もテキストとして統一できるため、運用が容易になります。
検索時も、ユーザーの質問とキャプションの類似度を計算するだけなので、高速なレスポンスが期待できます。
しかし、デメリットとして「情報の欠落」が挙げられます。
どんなに詳細な説明文であっても、元の画像が持つ全てのニュアンスや、複雑な図面の微細な情報を完全に言語化することは不可能です。
そのため、視覚的な特徴そのものを検索したい場合や、非常に複雑なグラフの数値を正確に問うようなケースでは、精度が落ちる可能性があります。
こちらはグラフをテキストや表に変換する技術について解説した記事です。 合わせてご覧ください。 https://arxiv.org/abs/2212.10505
画像とテキストを共通のベクトル空間に埋め込む方法
このアプローチは、OpenAIのCLIPなどに代表されるモデルを使用して、画像とテキストを同じ多次元のベクトル空間にマッピングする手法です。
この技術を使うと、「犬の画像」のベクトルと、「犬」という単語のベクトルが、空間上で近い位置に配置されるようになります。
これにより、テキストで検索して画像をヒットさせたり、画像で検索して関連するテキストを探したりすることが可能になります。
メリットは、画像の説明文を生成する必要がなく、画像そのものの特徴量を直接検索に利用できる点です。
「青い空と海が映っている写真」といった抽象的なイメージ検索や、類似画像の検索においては非常に高い精度を発揮します。
また、言語化しにくいデザインや雰囲気といった要素も検索対象にできるため、アパレルやインテリアなどの分野で特に有効です。
一方で、技術的な調整が必要になる場面もあります。
使用する埋め込みモデル(Embedding Model)の性能に大きく依存するため、専門用語や社内独自の図表などを扱う場合は、モデルのファインチューニングが必要になることがあります。
また、テキストと画像のベクトルが適切に整列していないと、全く関係のない画像が検索されてしまうこともあるため、閾値の調整などのチューニングが重要です。
マルチモーダルモデル(VLM)で画像を直接処理する方法
最新のアプローチとして注目されているのが、検索から回答生成までをマルチモーダル対応のLLM(VLM: Vision Language Model)で一貫して行う、あるいは検索結果として画像そのものをLLMに入力する方法です。
例えば、ColPaliのような最新のモデルでは、PDFのページ全体を画像として捉え、視覚的なレイアウト情報を保持したまま検索を行います。
そして、取得した画像をそのままGPT-5などのモデルに入力し、回答を生成させます。
この方法の最大の強みは、図表やレイアウトが持つ文脈を損なわずに処理できる点です。
グラフの数値や、文書内の配置関係(どの図がどの段落に対応しているかなど)をモデルが直接見て判断できるため、非常に精度の高い回答が期待できます。
特に、複雑なマニュアルや科学論文など、テキストと図が密接に関連している資料のRAGにおいては、この手法が最も強力です。
ただし、この手法はコストと速度の面で課題が残ります。
高解像度の画像を大量にLLMに入力するとトークン消費量が激増し、APIコストが跳ね上がる可能性があります。
また、処理自体もテキストのみの場合に比べて重くなるため、リアルタイム性が求められるチャットボットなどで採用する場合は、キャッシュの活用やモデルの軽量化などの工夫が必要です。
こちらはColPaliの技術詳細について解説した論文記事です。 合わせてご覧ください。 https://arxiv.org/abs/2407.01449
RAGの画像処理に活用される代表的なモデルと技術
ここからは、画像対応RAGを構築する際に選択肢となる、具体的なモデルや技術について紹介します。
- 画像検索モデル「CLIP」
- 文書画像検索「ColQwen2」「ColPali」
- OCR技術とLLMの組み合わせ
技術の進化は早いため、それぞれのモデルがどのようなタスクを得意としているのかを把握しておくことが重要です。
それでは、1つずつ順に解説します。
画像検索モデル「CLIP」の特徴と活用法
CLIP(Contrastive Language-Image Pre-Training)は、OpenAIが開発した、画像とテキストを関連付けるための基盤モデルです。
このモデルは、インターネット上の大量の画像とテキストのペアを学習しており、画像とテキストを同じベクトル空間に変換することができます。
RAGの文脈では、主に「画像検索」のエンジンとして利用されます。
CLIPを活用する最大のメリットは、その汎用性の高さと手軽さです。
ゼロショット学習能力が高いため、特定のデータセットで追加学習を行わなくても、ある程度の精度で画像を検索することができます。
例えば、「会議中のオフィスの写真」というテキストクエリを投げるだけで、データベース内の画像から該当するシーンを抽出することが可能です。
実装も比較的容易で、多くのベクトルデータベースがCLIPに対応しています。
ただし、CLIPは一般的な写真や物体認識には強いですが、文字がびっしりと書かれた文書や、専門的な図面の詳細な内容を理解するのは苦手とする傾向があります。
そのため、文書検索RAGというよりは、写真素材の検索や、製品カタログのビジュアル検索といった用途に向いています。
文書画像検索に特化した「ColQwen2」「ColPali」等の最新技術
2024年後半から2025年にかけて急速に普及したのが、ColPaliやColQwen2といった「視覚的文書検索(Visual Document Retrieval)」に特化したモデルです。
これらは、PDFやスライド資料を「テキスト」としてではなく、ページ全体の「画像(Visual Tokens)」として処理する画期的なアプローチを採用しています。
従来の手法では、PDFからテキストを抽出する際にレイアウトが崩れ、意味が通じなくなることが多々ありました。
しかし、ColPaliなどのモデルは、Vision Transformerを用いてページ全体をエンコードするため、見出しの大きさ、図の位置、表の構造といった視覚情報を保持したままベクトル化できます。
これにより、「右上のグラフが示している数値は?」といった、レイアウトに依存した質問にも正確に答えられるようになります。
これらのモデルは、特に企業のナレッジマネジメントにおいて強力な武器となります。
社内規定や技術仕様書など、複雑なレイアウトを持つ文書をRAG化する場合、テキスト抽出の工程をスキップして直接画像をインデックス化できるため、前処理の手間が大幅に削減されるとともに、検索精度も飛躍的に向上します。
こちらはColQwen2モデルの詳細について解説したページです。 合わせてご覧ください。 https://huggingface.co/vidore/colqwen2-v1.0
画像から情報を抽出するOCR技術とLLMの組み合わせ
最新のモデルが登場してもなお、堅実な手法として使われているのがOCR(光学文字認識)技術です。
ただし、単に文字を読み取るだけでなく、最近ではLLMと組み合わせた高度な処理が一般的になっています。
Tesseractのようなオープンソースエンジンや、Amazon Textract、Google Cloud Vision APIなどのクラウドサービスを利用して、まずは画像内の文字情報を徹底的に抽出します。
その後、抽出したテキスト情報の乱れや誤字脱字を、GPT-5などのLLMを用いて補正します。
2025年8月にリリースされたGPT-5は、複雑な推論能力と「思考時間」の自動切り替え機能を持っているため、OCRの結果が多少崩れていても、文脈から正しい内容を推測して構造化データ(MarkdownやJSON)に整形する能力に長けています。
この手法は、特に手書き文字が含まれる帳票や、非常に古い文献などをデジタル化してRAGに組み込む場合に有効です。
画像としての検索ではなく、あくまでテキスト情報として検索可能にすることを目的とする場合、OCRと高性能LLMのパイプラインは、依然として信頼性の高い選択肢と言えるでしょう。
画像対応RAGを構築するための実装ステップ
ここからは、実際に画像対応RAGを開発するための手順を解説します。
- 文脈抽出と前処理
- Embedding生成とインデックス
- ベクトルデータベース選定
- LLMの調整
各ステップで適切な処理を行わないと、検索精度が上がらず、使いにくいシステムになってしまいます。
それでは、1つずつ順に解説します。
画像データからの文脈(Context)抽出と前処理
画像対応RAGにおいて、最も重要かつ工数がかかるのがこの前処理のフェーズです。
PDFなどのドキュメントから画像を抽出する際、単に画像を切り出すだけでは不十分です。
その画像が「どの章にあるのか」「前後の本文では何が語られているのか」という文脈情報(メタデータ)を紐付けておく必要があります。
例えば、Unstructuredなどのライブラリを使用すると、ドキュメント内の画像要素とテキスト要素を分けて抽出できます。
この際、画像に対して前述のキャプション生成を行い、テキストデータとして付与しておく手法がよく取られます。
また、表(テーブル)に関しては、画像として扱うよりもHTMLやMarkdownのテーブル形式に変換した方が、後段のLLMが理解しやすい場合が多いため、データの種類に応じた振り分け処理を実装します。
画像の解像度やサイズも考慮する必要があります。
解像度が低すぎるとモデルが内容を認識できませんし、高すぎると処理負荷がかかります。
適切なサイズへのリサイズや、不要な背景のトリミングといった画像処理も、この段階で自動化スクリプトに組み込んでおくことが推奨されます。
画像のEmbedding(ベクトル)生成とインデックス作成
前処理が完了したデータに対して、ベクトル化(Embedding)を行います。
ここで重要なのは、テキストと画像を同じモデルで処理するか、別々のモデルで処理するかという戦略の決定です。
ColPaliのようなモデルを採用する場合は、画像化されたページ全体をそのままエンコーディングし、マルチベクトルとして保存します。
一方、テキスト検索と画像検索を併用する場合は、テキストにはtext-embedding-3-smallなどを、画像にはCLIP系のモデルを使用するといった使い分けが発生します。
この場合、データベース内でテキスト用インデックスと画像用インデックスを分けて管理し、検索時にハイブリッド検索(キーワード検索とベクトル検索の組み合わせ)を行う設計が必要になります。
インデックス作成時には、チャンク(分割)サイズにも注意が必要です。
テキストであれば文字数で分割しますが、画像の場合は「1枚の図」や「1ページ」が最小単位となります。
画像とその解説テキストが離れ離れにならないよう、親子チャンク構造(Parent-Child Indexing)を採用し、検索時には画像と関連テキストをセットで取得できるようにするのが定石です。
ベクトルデータベースの選定と構築
画像対応RAGを運用するためには、マルチモーダルデータに対応したベクトルデータベースの選定が不可欠です。
Weaviate、Milvus、Qdrantなどは、画像データのベクトル検索に早くから対応しており、バイナリデータ(画像そのもの)の管理機能や、メタデータフィルタリング機能が充実しています。
また、Azure AI SearchやElasticsearchなどの検索基盤も、ベクトル検索機能が強化されています。
選定のポイントは、スケーラビリティと検索速度、そしてエコシステムです。
大量の画像を扱う場合、インデックスサイズが肥大化するため、クラウドネイティブでスケールしやすいDBが有利です。
また、LlamaIndexやLangChainといった主要なRAGフレームワークとの連携がスムーズかどうかも、開発効率を大きく左右します。
特にColPaliのような新しい手法を採用する場合、その特殊なベクトル形式(1ページに対して複数のベクトルを持つ形式)に対応しているデータベースであるかを確認する必要があります。
無理に非対応のDBを使おうとすると、検索速度が著しく低下する原因になります。
こちらはQdrantを用いたColPaliの実装について解説した記事です。 合わせてご覧ください。 https://qdrant.tech/blog/qdrant-colpali/
検索結果をもとに回答を生成するLLMの調整
最後のステップは、検索によって取得した画像やテキストをもとに、ユーザーへの回答を生成する部分です。
ここでは、GPT-5などのマルチモーダル対応LLMのプロンプトエンジニアリングが鍵となります。
プロンプトには、「提供された画像を参考に回答すること」「画像内のグラフの数値を根拠にすること」といった制約を明確に記述します。
また、参照した画像の出典を明示させることも重要です。
「図1によると〜」といった形で回答を生成させることで、ユーザーは元データを確認しやすくなります。
GPT-5は思考モードを搭載しているため、プロンプトで「まず画像内のデータを分析し、次にその傾向を言語化し、最後にユーザーの質問に答える」というステップバイステップの推論を指示することで、複雑な図表解釈の精度をさらに高めることができます。
RAGの画像検索精度を向上させるポイント
最後に、構築したRAGシステムの精度をさらに高め、実運用に耐えうる品質にするためのポイントを紹介します。
- 図表認識の工夫
- ノイズ除去
- ハルシネーション対策
これらを意識することで、ユーザー体験は大きく向上します。
それでは、1つずつ順に解説します。
図表やグラフを正しく認識させるための工夫
グラフやチャートは、画像としてそのままLLMに渡すよりも、一度構造化データに変換した方が精度が上がることがあります。
例えば、棒グラフの画像をVLM(視覚言語モデル)に渡して「このグラフの数値をCSV形式で出力して」と指示し、そのCSVデータを最終的な回答生成用のコンテキストとして含める手法です。
人間が見ても判別しにくい複雑な図の場合は、画像をクロッピング(切り出し)して、注目すべき部分だけを拡大してモデルに入力するというテクニックもあります。
また、グラフのタイトルや軸のラベル文字が小さい場合、OCRの精度が落ちる原因になるため、前処理段階でコントラスト調整や超解像処理を行うことも検討すべきです。
「画像を見せる」だけでなく、「画像から情報を翻訳して渡す」という視点を持つことが重要です。
検索ノイズを減らすためのデータの扱い方
ドキュメント内には、検索にとって不要な画像も大量に含まれています。
例えば、企業のロゴマーク、ヘッダーやフッターの装飾、意味のないアイコンなどです。
これらが検索結果に混ざると、LLMのコンテキストウィンドウを無駄に消費し、回答精度を下げる要因になります。
これを防ぐためには、インデックス作成時に画像のフィルタリングを行う必要があります。
画像サイズが小さすぎるものや、アスペクト比が極端なもの(細長い線など)を除外するルールを設けるのが簡単です。
また、CLIPなどを使って「ロゴ」「アイコン」といったクラス分類を行い、情報の価値が低いと判断された画像はベクトル化しないという処理を挟むことで、検索品質を保つことができます。
回答のハルシネーションを防ぐための対策
生成AI特有の嘘(ハルシネーション)は、画像RAGでも発生します。
「グラフには右肩上がりと描かれているのに、AIが減少傾向と答える」といったケースです。
これを防ぐためには、GPT-5のような最新モデルの「推論能力(CoT: Chain of Thought)」を活用するのが有効です。
回答を生成させる前に、「画像から読み取れる事実のみを列挙してください」というフェーズを挟み、その事実に基づいて回答を作成させることで、思い込みによる生成を抑制できます。
また、回答に自信がない場合は「画像からは読み取れません」と正直に答えさせるような指示をプロンプトに含めることも重要です。
さらに、回答の根拠となった画像リンクを必ず提示させ、ユーザー自身がファクトチェックできるUIを提供することが、システム全体の信頼性向上につながります。
こちらはマルチモーダルLLMのハルシネーション修正について解説した記事です。 合わせてご覧ください。 https://arxiv.org/abs/2310.16045
従来のRAGは「図表」が見えていない?マルチモーダル化で実現する真のナレッジ活用
社内でRAG(検索拡張生成)を導入したものの、「期待した回答が得られない」「資料の中にあるグラフや図面の情報を無視してしまう」といった課題に直面していませんか?実は、従来のテキスト中心のRAGでは、企業の貴重な資産である図表データがブラックボックス化している可能性があります。最新の技術トレンドでは、テキストだけでなく画像を理解する「マルチモーダルRAG」の実装が、企業の意思決定の質を左右する重要な鍵となっています。この記事では、テキストのみのRAGと画像対応RAGの決定的な違いと、最新の実装アプローチを解説します。
【警告】テキストだけの検索は、情報の半分を捨てているのと同じ
「PDFを読み込ませれば、AIが全て理解してくれる」——。そう信じているなら、システムの見直しが必要かもしれません。多くの企業資料、特に製造業の図面や金融機関のレポートには、テキスト以上に重要な情報が「画像」として含まれています。
しかし、従来のテキストベースのRAGは、これらの視覚情報を読み取ることができません。その結果、以下のようなリスクが生じます。
- 重要な数値の欠落: 売上推移グラフや設計図の寸法など、画像内の数値が検索対象外になる。
- 誤った回答の生成: 図表に書かれた文脈を無視し、本文のテキストだけで判断するため、不正確な回答を導く。
- ナレッジの死蔵: 検索に引っかからないため、せっかく蓄積した図面やスライド資料が活用されない。
便利なAIを導入したつもりが、実は重要な情報を見落とす「片手落ち」のシステムになっている可能性があるのです。
引用元:
2024年後半から2025年にかけた生成AI開発の技術トレンドにおいて、ColPaliやGPT-5などのモデルの登場により、視覚情報を直接処理する「Visual Document Retrieval」の重要性が急速に高まっています。(最新のマルチモーダルRAG技術動向より)
【実践】AIに「目」を持たせる3つのアプローチ
では、どのようにしてRAGに画像を理解させればよいのでしょうか?成功している開発現場では、コストや目的に応じて最適な手法を選択しています。ここでは、今のシステムに「視覚」を与えるための代表的な3つの手法をご紹介します。
アプローチ①:画像を「言葉」に翻訳して検索する
最も手軽な方法は、画像を一度テキストの説明文(キャプション)に変換してしまうことです。GPT-4oなどのモデルに「この画像は何を表しているか?」と説明させ、そのテキストを検索対象にします。
これにより、既存のテキスト検索システムを大きく改修することなく、画像の概要をヒットさせることが可能になります。ただし、複雑な図面の詳細までは言語化しきれない場合がある点には注意が必要です。
アプローチ②:画像とテキストを「同じ物差し」で測る
「青い空」という言葉と「空の写真」をAIの中で近づける技術、それがCLIPなどを活用したベクトル空間への埋め込みです。
この手法を使えば、言葉で画像を検索したり、画像から関連するドキュメントを探したりすることが可能になります。アパレルやデザインなど、言葉にしにくい「雰囲気」や「形状」を検索したい場合に、劇的な効果を発揮します。
アプローチ③:AIに資料を「そのまま」見せる
現在、最も注目されているのが、資料を画像としてそのままAIに処理させるVLM(視覚言語モデル)の活用です。ColPaliなどの最新モデルは、ページ全体のレイアウトや図表の位置関係を保持したまま理解します。
「右上のグラフの数値は?」といった質問にも正確に答えられるため、複雑な仕様書やマニュアルを扱う企業にとっては、まさに最強のソリューションとなります。
まとめ
企業は労働力不足や業務効率化の課題を抱える中で、生成AIの活用がDX推進や業務改善の切り札として注目されています。
しかし、実際には「どこから手を付ければいいかわからない」「社内にAIリテラシーを持つ人材がいない」といった理由で、導入のハードルが高いと感じる企業も少なくありません。
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