ソフトバンクとの伴走で実現した全庁DX。RAG活用で庁内データを業務に活かす「Hyuga_AI」の挑戦

人口減少や少子高齢化、そして複雑化する行政業務。こうした厳しい社会情勢に立ち向かうため、宮崎県日向市はソフトバンク株式会社との連携のもと、市役所専用の生成AI「Hyuga_AI」を開発・導入しました。庁内に眠る膨大な議会会議録や例規集を独自データとして活用し、日々の業務効率を劇的に改善しつつあります。今回は、プロジェクトを推進する日向市総合政策部 行政改革デジタル推進課の平山さんに、導入の背景から具体的な活用法、そして今後の展望までを伺いました。

Q.なぜ日向市では生成AIを導入することになったのですか?
平山さん: 当市は、人口減少や少子高齢化、さらには業務の多様化・複雑化といった厳しい社会情勢に直面しています。これらの課題に対応するため、生成AIの導入は不可欠であると判断しました。具体的なきっかけは、2023年5月にソフトバンク株式会社との包括連携協定を通じて、MicrosoftのAzure OpenAIに関する情報を得たことです。この情報提供を受け、市が持つ独自データを活用し、安全で安心な環境で生成AIを導入するプロジェクトが本格的に始動しました。

Q.市役所専用の生成AI「Hyuga_AI」を導入するにあたり、どのような方針を立てましたか?

平山さん: 「Hyuga_AI」の導入にあたっては、いくつかの基本方針を定めました。まず最も重要なのは、個人情報や機密情報の適切な管理と保護です。そのために、外部とは接続されない閉域環境でセキュアに利用できることを必須条件としました。また、入力したデータがAIの学習に利用されない設定であることも、情報漏洩を防ぐ上で極めて重要なポイントでした。そして、ツールを提供するだけでなく、導入から活用までを支援していただくソフトバンク株式会社による伴走サポートも、プロジェクトを成功させるための基本方針として掲げました。

Q.導入はどのような経緯で進められたのでしょうか?
平山さん: 導入の道のりは、ソフトバンクとの連携から始まりました。まず2023年2月にDX推進計画に関する連携協定を締結し、同社からCIO補佐官とDX共創アドバイザーに着任いただきました。専門的な知見を持つ人材が加わったことで、プロジェクトは大きく前進しました。同年7月には共同研究の覚書を締結し、9月には予算承認を得ることができました。そして12月から第1次PoC(実証実験)を開始し、その後、第2次PoCを経て課題の洗い出しと改善を重ね、2024年4月から全庁での利用を展開するに至りました。現在では約676名の職員にHyuga_AIのアカウントを配布しています。

Q.「Hyuga_AI」の具体的な機能について教えてください。特に注力した点は何ですか?

平山さん: 「Hyuga_AI」は、基本的にOpenAI社のChatGPTモデルを利用しています。主な機能としては、データ分析や、Excel、Wordといったファイルを添付して分析・要約させるファイル参照機能、画像生成機能、プラグイン機能、そして外部サービスと連携するためのWEB APIを備えています。中でも私たちが特に注力しているのが、RAGを活用したプラグイン機能です。この機能によって、過去24年分の議会会議録や約1500ファイルに及ぶ例規集といった膨大な庁内データを「Hyuga_AI」に学習させ、その庁内情報に基づいた精度の高い回答を生成する仕組みを構築しました。

Q.RAG機能の開発では、どのような課題がありましたか?
平山さん: 例えば、RAG機能で適切な文書が検索されなかったり、議会会議録から議員名を正しく認識できない、和暦を正しく認識できないという課題もありました。これらの問題は、私たちのプロジェクトチームとソフトバンク、そして開発ベンダーであるJTP株式会社との緊密な連携によって一つひとつ丁寧に解消され、現在の安定した利用に至っています。

Q.RAG機能で利用するデータの管理体制について教えてください。
平山さん: 「Hyuga_AI」のRAG機能で利用するデータは、コンテナという単位で格納・管理しています。このコンテナは、全庁の職員が共通で利用できるもの(910種類)と、特定の部局専用で利用できるもの(18種類)に分かれています。各部局専用のコンテナについては、その部局の課長がデータの管理責任者となり、常に最新のデータに更新するなどの運用を行っています。職員は、プラグイン機能を選択することで、自身がアクセス権限を持つデータ範囲内の情報を参照し、業務に活用できる仕組みになっています。

Q.実際の業務での活用状況と、導入効果についてはいかがでしょうか?
平山さん: 実際の業務では、「誤字脱字のチェック」「イベントの挨拶文生成」「Web検索」が利用頻度のトップ3です。特にRAG機能を活用することで、単なる文章生成に留まらず、公文書に適した文言への修正を提案させたり、過去の挨拶文を参考にしながら市の状況に即した挨拶文を生成させたりすることが可能になりました。さらに、生成された回答の根拠となったデータ、例えば参照した例規集の条項などを直接確認できるファクトチェック機能も導入しており、信頼性の確保に努めています。導入効果は数値にも明確に表れています。

「Hyuga_AI」の主な導入効果 2026年1月実績

項目 数値・内容
月間利用率 約70% (全職員676名中470名が月1回以上利用)
月間総トークン数 4.68億トークン
管理職(部長・課長)利用率 100%
一般質問答弁作成における利用率 98.5% (直近12月議会)

市長が積極的に推進していることもあり、特に部長・課長といった管理職の利用率は100%に達しています。

※Microsoft Officeとの連携により気軽にOffice上からHyuga_AIが利用可能。

Q.プロジェクトを推進する上で、最大の課題は何でしたか?
平山さん: 一つは、初期のPoC段階で直面した技術的な問題です。当時のGPTのバージョンはまだ性能が低く、思ったような回答が得られなかったり、長文を入力できなかったりと、技術的な制約で難航したことが一番の課題でした。もう一つは、利用率の向上です。導入当初の利用率は30〜40%程度で、現場の職員からはAIの利用を「自分たちには関係ない」と感じる雰囲気もありました。この課題に対しては、ソフトバンクから派遣されたCIO補佐官が中心となり、各部署の業務内容に合わせた研修を継続的に実施しました。現場に入り込んだ丁寧な研修を粘り強く重ねることで、職員の意識が変わり、利用率が現在の水準まで向上していきました。

Q.最後に、今後の展望についてお聞かせください。
平山さん: 今後は、職員自身が所属部署の業務に合わせたAIアプリを作成し、自律的に改善していく流れを作りたいと考えています。すでに、プロンプト作成を支援するアプリや、若手職員の相談相手となるメンター役を担うチャットボットなどが職員の手によって作成されています。さらに、税務課の職員が確定申告の相談シミュレーターを作成するなど、所管課が主体的にアプリを開発する動きも出てきています。この流れをさらに加速させたいです。また、音声モデルを活用した会議録の自動生成や、市民サービスとしてホームページチャットボット、市長アバターなどを活用した情報提供の強化も展望しており、さらなるステップアップを目指していきます。