自治体DXを推進したいものの、庁内独自のネットワーク制限(LGWAN)や、現場のITリテラシー不足に阻まれて定着しないと悩んでいませんか?
株式会社あるやうむは、全国約30の地域にデジタル人材を派遣し、地方のDX化を推進しています。本記事では、香川県琴平町で通算400名を集めるAI勉強会を実現した裏側や、最新ツールではなく「スマホ教室」から信頼を築く泥臭い浸透プロセスについて、代表の畠中さん、広報のたーなーさん(田中さん)にお話を伺いました。
▼畠中さん

▼たーなーさん

地域の商品開発から移住支援までを一気通貫で担う事業モデル
Q. まず、貴社の事業内容をご説明いただけますか。
畠中さん: 私たちは大きく2つの事業を展開しています。1つ目は、地域の商品開発を行ったり、地域の外の人たちのノウハウやその地域が好きな人たちのエネルギーを活用したりする取り組みです。現在は全国17の地域で支援を行っており、今年(2026年)の6月にはさらに10ほど増え、およそ30弱の地域で取り組みを進めています。
2つ目は、特典の事業です。例えば「その村に行くたびにおにぎりが毎回もらえる」といった地域の特別な体験や権利を設計し、販売やプロモーションを行っています。おにぎり屋さんと調整して実際の値段を決めたり、インフルエンサーを動員して広めたり、ECサイトを作って販売したりと、一番最初の上流から実装までをすべて自社で手がけています。
これら2つの事業に共通しているのは、企画から実装までを一気通貫で担う点です。移住者さんを呼ぶ段階からマーケティングや面談を行い、実際に現地を訪問してもらって移住につなげ、移住後も3年間にわたって地域のコミュニティを作れるよう伴走します。役場の職員の方々は非常に忙しいため、そういった業務を私たちが巻き取っています。株式会社あるやうむは、「地域おこし協力隊DAO」という地域のファンコミュニティ(関係人口)づくりと、特典などの裏側に使われているWeb3の技術を提供する会社です。
「地域おこし協力隊DAO」でデジタル人材を派遣し、地域固有の魅力を高めて差別化を図る
Q. 貴社の中でAIを導入・活用されているというよりは、生成AI人材を地域に派遣して支援をされていると伺っています。どのようなプロジェクトなのでしょうか。
たーなーさん: 私たちはAIを使って最先端のことをするというよりも、地域文脈の中で「公共とWeb3を滑らかにつなぐ」ことを合言葉にしています。景色や美味しいメロンといった一次産業的なもの、そして人といった地域の資源にデジタルが関わることで、より高付加価値にしていく全体イメージを持っています。
具体的には「地域おこし協力隊DAO」として、デジタルに聡いAI人材が地域外から着任し、現地でAI教室やワークショップを開くことで、地域の方たちのDXを進めています。
現在、どこに行ってもイオンやスターバックス、コストコができ、似たような町になっていく構造的な課題があります。しかし、AIの導入で様々な業務が省力化された時、その地域にしかない本当に大切なものを人間が担うことができるようになります。それが地域の差別化や魅力化につながり、結果的にファンがついて地域が盛り上がると考えています。そのきっかけとして、まずAIやデジタルが得意な人が地域に行き、イノベーションを起こすことを目指しています。
庁内システムの「LGWANの壁」を回避し、住民のデジタル活用に力点を置く方向転換
Q. 生成AI人材やデジタル人材を地域に派遣する際、自治体でDX推進に苦悩されている担当者を助ける意味合いもあるのでしょうか。
畠中さん: 役場のDX推進において私たちが直面したのは、LGWANと言われる自治体特有の特殊なネットワークの壁でした。一般的なネットワークとは仕様が大きく異なるため、自治体向けのシステム屋として歴史の浅い私たちが、いきなり庁舎内の基幹システムに入り込んでDXを進めるのは非常に困難でした。
そのため、私たちは無理に庁内システムを変えようとするのではなく、方向性を大きく転換しました。庁舎内のDXよりも「地域の人たちがデジタルツールをより使えるようになること」に力点を置くことにしたのです。
もちろん役場への支援を諦めたわけではありません。LGWANという特殊なネットワークを通さなくても使えるChatGPTやGemini、Claudeといったツールを活用し、プレゼン資料の作成など一般的な業務の効率化については、協力隊員が役場向けにセミナーを行うなど精力的にサポートを続けています。私たちが送り出している人材は、その地域において一番AIに詳しい人たちであると自負しています。
いきなりAIを押し付けないスマホ教室からの信頼構築と、通算300名を集めた地道なAI勉強会
Q. デジタル人材による支援とは、具体的にどのような事例があるのでしょうか。
たーなーさん: 推進の中で私たちが学んだのは、いきなり最先端のAIツールを持ち込んでも現場には浸透しないという壁でした。具体的な事例として、北海道余市町に着任したhiroさんの取り組みがあります。彼女は対面でのアプローチとして、まずは高齢者の方に向けたスマホ教室を開き、お孫さんとLINEで写真を送り合う方法を教えたり、Canvaで簡単な制作物を作ったりするところから始めました。そうした簡単で身近なアプローチを通じて、「この人はデジタルに詳しい、頼りになる人だ」という信頼を獲得するプロセスを何よりも大切にしています。この信頼の土台ができた上で、DiscordやLINEのオープンチャットを活用したオンラインでのコミュニティ運営へとステップアップしました。オンラインでは出たばかりの最先端のAIを触ってアプリを作ってみるなど、参加者のレベルに合わせて幅広いワークショップを展開しています。
一方で、最初からAI教室を開始して成功した事例もあります。香川県琴平町に着任したあっきーさんは、NFTやエンジニアリングの知識を持つリテラシーの高い人材ですが、毎週木曜日にコワーキングスペースで地道にAI勉強会を開き続け、なんと通算400名近くを集めることに成功しました。役場のDXにも深く関わっており、高齢の方が多い議会において、Plaud Noteを使った議事録作成の簡略化を直接サポートするなど、キーマンとして多大な役割を果たしています。
また、鳥取県佐治町では、インフルエンサーのイケハヤさんら日本有数のAI有識者を現地に招き、AIを使って公共施設のテーマ曲(ご当地ソング)をコンペ形式で作るイベントを開催しました。この企画には全国から30〜40名が集まり、代表の畠中も参加するなど大きな盛り上がりを見せました。
畠中さん: AIの活用は、移住者が現地のDXを推進するだけにとどまりません。移住者が作ったコミュニティに、地域の外にいるファンが集まってくる波及効果も生まれています。例えば、地元で開催する雪まつりのポスターをコミュニティにいる地域外の人が生成AIで作ってくれたり、地域の職員向けの研修を移住者ではなくコミュニティのメンバーが担当してくれたりする事例も出てきました。自分の技術で地域に貢献したい、研修実績を積みたいという外の人材と、知識を伝授してほしい地域とをマッチングする新しい関わり方が生まれています。
熱意ある自治体を支援し、人口数千人の町にまでDXを行き渡らせテクノロジー格差を縮める
Q. テクノロジーの伝播は東京が早く地方は遅れるという課題がある中、最終的に地方自治体や町がどのような姿になってほしいとお考えですか。
畠中さん: 一般的に「東京から地方へ伝播していく」と思われがちですが、実態は少し異なります。知識こそまだ少なくても、それを活用して進化していきたいという熱意や意思決定の速さにおいて、東京のスタートアップに引けを取らないスピードで動く自治体も存在します。私たちが成し遂げたいのは、そうした強い意気込みを持つ地域にソリューションと人材をいち早く提供し、先進的な事例を作っていくことです。
もちろん、お役所的な体質が残る地域もあります。しかし私たちが介入することで、東京から10年や15年遅れていたテクノロジーの導入格差を、3年や5年の遅れにまで一気に縮めることができます。すごい人材や熱意が東京だけに集中しているわけではないからこそ、私たちのソリューションが求められているのです。
そしてもう1つ大事にしているのが、日本の隅々のどこへでもDXを行き渡らせるということです。地域の事業者は車で2、3時間圏内でビジネスを完結させることが多いですが、私たちは違います。儲かりやすくて規模の大きい札幌市や浜松市のような大都市だけでなく、人口数千人や数百人の毛細血管のような場所にまで絶対に広げていくという強い意志を持って尽力しています。
地域の課題解決と先進事例の創出へ。来年までに支援地域を60〜70へと拡大する目標
Q. 今後の展望として、具体的にどのようなことに注力していきたいですか。
畠中さん: 抽象的な目標としては、人口数千人規模の地域も含めて日本の隅々までDXを行き渡らせることと、地域に点在するやる気のある方々にソリューションを提供して先進事例を作っていくことの2点です。
具体的なアクションとしては、地域に優秀な人材を送り込んでデジタルコミュニティを作り、DX化を進めるソリューションの営業活動に最も注力します。現在約30の地域で進めていますが、来年はさらに30地域増やし、1年後の6月には60から70の地域で展開できている状態を目指します。また、人を送り込むだけでなく、地域が困っている課題に対して私たちの持つ知見を惜しみなく提供し、今までのやり方にとらわれない方法で貢献を徹底していきたいと考えています。
Q. 最後に読者の方々へのメッセージがあればお願いいたします。
畠中さん: 読者の皆様に向けて、大きく2つの募集を行っています。
| 募集ポジション | 概要と支援内容 |
| 地域おこしDX人材 | 移住先でコミュニティを作りDXを推進する業務。月額約37万円の報酬。 |
| DXイベント主催者 | 移住者が作ったコミュニティでセミナーやイベントを開催。1回につき2〜3万円の補助(交通費・チラシ作成費等) |
私たちが採用において何よりも重視し、業界の壁として打ち破ったのが「履歴書による書類選考の撤廃」です。旧態依然とした書類選考の慣習を一切なくし、希望する全ての人と1次面談を実施しています。どんな人の話も聞き、なるべく加点評価で送り出していく方針へと転換しました。本業として月37万円ほどを得られる仕事として、日本で一番間口が広いDX人材の募集だと自負しています。また、移住が難しい方でも、現地でイベントを開いていただく形での関わりも大歓迎です。