人口減少や少子高齢化が社会課題となる中、京都府では、行政サービスの維持・向上を目指し、生成AIを積極的に活用しています。今回は、京都府デジタル政策推進課の松井さんと指田さんに、お話を伺いました。

2040年の労働力不足を見据え、職員の負担軽減と行政サービスの維持と質の向上を目指す
Q. 京都府として、生成AIの導入を決めた背景や目的について教えてください。
松井さん:人口減少や少子高齢化が進む一方で、社会的課題の複雑化・多様化により、対応すべき施策は増え続けています。また、50代後半を中心とする職員の大量退職の到来と若手職員の採用が進む中、より一層、生産性の高い業務推進体制の確立が急務となっています。
こうした状況のもと、若手職員を早期に育成し即戦力として活躍させていくとともに、業務を効率化し行政サービスの質の向上を図るため、職員一人ひとりが主体的にデジタル技術を活用することが喫緊の課題となっているところです。
このため、京都府ではRPAをはじめ様々なデジタルツールの活用を進めてきましたが、近年特に注目しているのが生成AIです。これまで導入してきたデジタルツールは一定の専門的知識がなければ使いこなすことが困難であるのに対し、生成AIは自然言語による対話形式で容易に操作でき、専門知識がなくても使い始められる特性や幅広い業務に活用の可能性があるといった利点があると考えております。
この特性を活かし、日常業務に生成AIを取り入れて、業務効率化や府民サービスの向上、さらにはデジタル技術を利用する意識醸成等を図るため、現在、全庁をあげて生成AI活用の推進に取り組んでいるところです。
2つの生成AIツールの活用が生み出す、行政ならではの確実な業務遂行
Q. 具体的にはどのようなツールを導入し、どのように使い分けているのでしょうか。
指田さん:京都府では2025年1月にマイクロソフト社の「Microsoft 365 Copilot Chat」を、同年4月末には、ユーザーローカル社の「ChatAI」を導入し、全庁的な活用を開始しました。Copilot Chatは我々が日常的に使用するOffice製品との親和性が高く、汎用的な作業に使用しています。

松井さん:ChatAIは、主にRAGの機能を活用するために導入しました。会計事務・文書事務の手引や旅費精算に係る資料等を生成AIに参照させ、職員が質問すると、分かりやすい回答とともに根拠となったPDF資料を即座に表示してくれます。行政として事務処理の根拠を確実に把握することは重要であり、該当ページをすぐに確認できるこの仕組みは有用性が高く、制度所管課における問い合わせ対応の負担軽減や上司や先輩職員が側にいないテレワーク中の職員の疑問解消にも役立っており、職員の働き方改革にも寄与しています。
| ツール名 | 主な特徴・役割 | 具体的な活用シーン |
| Microsoft 365 Copilot Chat | Office製品との連携、汎用的なチャット機能 | 文章の校正・要約、情報検索、アイデア出し、翻訳、Excel VBAのコード作成 等 |
| ChatAI | 複数LLMの選択、RAG(検索拡張生成)機能 | 会計事務・文書事務・給与事務等の手引などの庁内独自資料の確認 |
生成AIの活用状況(Microsoft 365 Copilot Chat)
Q. 実際の活用状況や、導入によって得られた具体的な成果はいかがですか。
指田さん:導入1年後に実施した職員向けの利用状況アンケートでは、非常にポジティブな結果が得られました。Copilot Chatを利用している職員は約6割であり、その業務時間削減効果を算出したところ、職員1人あたり年間で約96時間、日数にして約12日分の削減につながっていることが分かりました。毎日利用している熱心な層に限れば、年間約180時間、約23日分もの時間が創出されている計算になります。
また、Copilot Chatの利用満足度は約95%、継続利用意欲に至っては約99%と、アンケート回答者のうち、ほぼ全ての利用者が効果を実感しています。現場からは「他の職員に相談するほどではない業務に関する小さな疑問を、AIによって解消できており助かっています」という声や、「わからないことはまず、Copilot Chatに聞くようにしている」という意見も届いています。
庁内にとどまらず、府民サービス向上へと広がる生成AI活用
松井さん:こうした職員向けの業務効率化に加え、京都府では府民サービスの向上を目的とした生成AI活用も着実に進めています。
令和7年1月には、府民の利便性向上を図る取組の一環として、税に関する質問に24時間対応できる「府税チャットボット」を導入しました。
土曜日や日曜日、夜間など、開庁時間以外の利用件数も一定数あることから、府民の皆様の利便性向上に寄与しているものと考えています。生成AIを活用することで、よくある問い合わせに迅速かつ的確に対応できるようになり、府民の不安や疑問の解消につながるとともに、窓口・電話対応業務の負担軽減にも効果があるものと考えています。

「庁内通信」と「コミュニティ」によるツールの浸透
Q. 多くの職員が使いこなせるようになるまで、どのような工夫をされたのでしょうか。
指田さん:デジタル政策推進課の職員が作成したプロンプト集や、効果的な活用方法や利用情報を紹介する「AI News」を定期的に職員向けのポータルサイト等で発信するなど、AIに触れるタッチポイントを増やしていきました。併せて、初級者向けや中級者向け等のレベル別研修や体験ワークショップ等を複数回にわたって体系的に開催してきました。
また、Microsoft Teams内に職員同士が自由に情報交換できるコミュニティも設置しており、デジタル政策推進課から直接、生成AIに興味や関心のある職員に生成AIに関する情報を届けています。そうしたデジタル政策推進課からの発信だけでなく、意欲的な職員が「こんな便利な使い方を見つけた」とリアルな活用事例を投稿するなど、職員同士の利活用情報の発信の場や疑問解消の場にもなっています。
ベテラン職員のノウハウをAIで次世代へ。京都府が描く次なる展望
Q. 今後の展望や、さらに強化していきたい取り組みについて教えてください。
指田さん:現在はツールを使いこなすフェーズにありますが、今後は「AIエージェント」の活用に注力したいと考えています。AIは膨大なデータの処理が可能ですが、エージェントでは、多くのデータを与えるとエラーが生じて動作しないことがあります。本来であれば分野横断的に活用すべきところですが、エラー等の課題により分野特化型エージェントの活用に向けた検証にとどまっております。このような課題がある中でも、AIエージェントが自治体のどの業務に適しているのかを見極め、実務での活用に向けて検証を重ねていきたいと考えています。
松井さん:加えて、RAGの機能を有する外部の生成AIツールでは「ベテラン職員のノウハウ継承」に取り組むことを検討しています。長年の経験に基づく判断や対応方法といった「暗黙知」をTeams会議等を活用して録音し、その文字起こしデータや過去の対応記録を、RAGに登録していくことで、「属人化されたノウハウ」を組織の財産として活用できる仕組みを構築したいと考えています。
京都府では、自分たちが試行錯誤して作成したプロンプト集をホームページで一般公開しています。私たちの事例やノウハウが、他の自治体や民間企業の皆様にとって、AI活用のヒントになればこれほど嬉しいことはありません。
京都府様が公開されたプロンプト集はこちら