「生成AIツールを導入したものの、現場のITリテラシーが追いつかず結局使われなくなってしまった」「高額なシステム開発は、完成品が見えないまま発注するのが怖くて踏み切れない」。そんな企業のAI実装における“ラストマイルの壁”を打ち破るのが、株式会社アノテテです。
同社は、低価格なAIチャットボットと徹底した伴走サポートで現場の定着を実現するだけでなく、「実際に動くプロトタイプを見てから本発注できる」という画期的なAI受託開発サービスを展開しています。本記事では、ChatGPTの登場による独自の基盤モデル開発からの劇的な事業転換の裏側や、システム発注のブラックボックスを解消する仕組みを紹介。さらに、自社グループ200名へのAI導入で直面した「全方位からの要望に応えようとして形骸化した失敗」を、いかにして「数字に紐づけたスコープの絞り込み」で乗り越えたのか。代表の岸本さんに、AI導入を成功に導くリアルなノウハウを伺いました。

ChatGPTの登場で「基盤モデル開発」から撤退。企業のAI実装の“ラストマイル”を担うアプリ事業へ舵を切った
Q. まずは株式会社アノテテの事業概要と、プロダクト開発の背景について教えてください。
岸本さん: アノテテは2022年の5月に設立した会社です。設立前から日本語に特化した独自のAIモデルの開発を進めていました。GPTの2や3に対して独自のデータを学ばせ、第1弾のモデルが出来上がったのが同年9月のことです。そのまま第2弾をどうしようかと話していた矢先の11月に、ChatGPTのアプリが世に出始めました。
それを見た時、「これは基盤モデルを作っている場合じゃない」と痛感しました。資金力勝負の世界に入っていく中で、弊社の強みが活かせないと判断し、独自の基盤モデル開発を終了する決断を下しました。そこから、がっつりとアプリのレイヤー、つまりサービスレイヤーに事業を移行したという経緯があります。
単純に「ChatGPTが使えます」「AIのモデルが賢くなりました」というだけでは、企業へのAI実装は叶いません。だからこそ弊社は、企業のAI実装の「ラストマイル」を達成する部分を担う気持ちで、カスタマーサポート向けのAIチャットボット「Tebot」や、RAGプラットフォームの「ShareMind」、そしてシステム受託開発の「Boost Dev」という3つの事業を中心に、顧客のAI導入を実効性のある形で支援しています。
現場の「ITリテラシー不足」という壁は、低価格ツールと初期設定の“徹底した伴走サポート”で乗り越える
Q. カスタマーサポート向けのAIチャットボット「Tebot」や、RAGプラットフォーム「ShareMind」は、他社のツールとどのような違いがあるのでしょうか?
岸本さん: 当初、AIチャットボットのサービスは初期費用が数十万から数百万円、月額費用も数十万円かかるような領域でした。弊社はそこに対して、価格を抑えて提供することを前提にスタートしました。
お客様からよく評価していただくのは「使いやすさ」「コスト面」「サポート」の3点です。チャットボットという性質上、導入時にある程度の設定が必要になりますが、ITリテラシーがない方にとってはこれが大きな壁になります。IT業界で働いていると当たり前にできることでも、一般的な企業の中では難しいケースが多々あります。そこで、弊社では営業担当が初期設定などのサポートを徹底的に行っています。
価格が安いので試しやすく、サポートによってしっかり準備を整えた上で使い始めていただける。だからこそ、すぐに効果を実感し「使いやすい」と感じていただけます。また、弊社はUI/UXデザインに強みを持つ親会社から分社化したという経緯がありますので、「ShareMind」に関しても、ユーザーにとって使いやすく運用が簡単な設計には非常に自信を持っています。迷わず使いこなせるUIデザインに強いこだわりがあります。
高額なシステム発注の不安を払拭。要件を聞いて「実際に動くシステム」を見せてから本発注へ進む仕組みを開発

Q. システム受託開発サービスの「Boost Dev」は、完成品を見てから発注できる点が非常にユニークです。どのような課題を解決するためのサービスなのでしょうか?
岸本さん: 従来のシステム開発の手法では、提案書や仕様書といった紙ベースのアウトプットを事前に握り、その情報だけで数百万から数千万円の発注を行っていました。しかし、それだと発注側と受注側の間にITリテラシーや情報の差があり、お客様が不安を抱えたまま進めることになります。
そこで「Boost Dev」では、ご要件をお伺いした上で実際に動くものを用意し、それを見ていただいてから本発注いただく仕組みにしました。弊社内ではAIを用いた開発が当たり前になっているため、コストを抑えてスピーディに開発することが可能です。
例えば以前、「Googleドライブで帳票を管理しているが、既存のSaaSツールだとAI OCRが入っていなかったり、Googleドライブと連携できなかったり、あるいは価格が高すぎたりして、痒いところに手が届かない」というお客様がいらっしゃいました。ただ、システム発注の経験が少ないため、どういうものが出来上がるか見ないと安心できないとおっしゃっていて。そういったお客様には、弊社のソリューションが非常に効果的に機能しました。

全方位へのAI導入は必ず形骸化する。経営課題と数字に紐づけ、スコープを一点に絞り込んで成功させる
Q. 企業がAIやDXを推進する中で、現場に定着せず推進担当者が孤立してしまうケースも少なくありません。導入においてつまずきやすいポイントと、その解決策についてどのようにお考えですか?
岸本さん: 弊社にはグループ会社が5社あり、全体で約200名ほどの組織なのですが、AIを開発している弊社がグループ全体のDX・AI推進を担うことになりました。組織文化も担当者も異なる5社にAIを浸透させるのは非常に難易度が高く、推進の難しさを身をもって経験しました。
一番つまずきやすいのは「スコープを決めること」。つまり、どこから始めるかの見極めです。事業を始めてすぐの頃は、まだ全員不慣れだったため、総務、エンジニア、営業など、あらゆる部署から上がってきた要望に対して場当たり的に対応してしまいました。しかし、新しいツールの使い方を覚えるのにはコストも時間もかかるため、結局は今までのやり方に戻ってしまい、形骸化してしまうんです。
もし当時の状況に戻れるなら、まずは経営陣としっかり議論をします。「今一番の経営課題や業務課題は何か」「それがPL(損益計算書)のどの数字と紐付いているのか」をリストアップし、優先順位をつけて可視化します。そして「ここに集中する」と全員で決めることが重要です。
例えば、外注費を削るという目標なら「エンジニアをAI人材に育成する」といったようにスコープを絞り込みます。システム開発であれば、外注に回している部分をAIで開発できるようになればいい。そのイニシアチブを取る担当者(エンジニアやディレクター)を決めるという意思決定だけを経営陣にしてもらいます。あれこれ手を出さず、短期的な成功の定義と、どこの数字が下がれば成功かを明確にしなければ、AI導入はうまくいきません。
現場のリアルな課題から「業界特化のAIエージェント」を共創し、パートナー企業と共に広く提案していく
Q. 今後の展望や、これからさらにシェアを拡大していくための構想についてお聞かせください。
岸本さん: 今後やりたいのは、業界や業務に特化したAIエージェントを作っていくことです。受託開発の「Boost Dev」を通して、お客様から業界特有の課題やAIの活用の仕方を教えていただきながら、一緒に「これは業界を変えられるよね」と言えるようなサービスを作っていきたいですね。早く開発して、早く動くものを検証し、お客様とパートナーシップを組みやすい環境を作っていきます。
弊社のように、SaaSのプロダクトと受託開発の両方をやっている会社は意外と少ないため、特に西日本の企業様からはパートナーとしてお声がけいただくことが増えています。DXやAIXの文脈でコンサルティングや顧問に入られているものの、自社で商材をお持ちでなかったり、他社との差別化に悩んでいたりする企業様がいらっしゃれば、弊社のSaaSとユニークな受託開発の仕組みを組み合わせて、一緒に広く提案していけると考えています。
また、社内でのAI活用の進化として、現在弊社のSlackには自社開発のAIエージェントが常駐しています。社員の会話をすべて収集し、ひとつの「脳みそ」として運用しながら、noteやSNSに自律型で発信を行う「AI社員(AI広報)」が稼働しています。この取り組みについては、生成AI活用普及協会(GUGA)でも講演させて頂き、参加者の皆様に大きな関心をお寄せいただきました。今後も技術を磨きながら、企業が本当に使いこなせるAIの形を追求していきたいと思っています。
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