生成AIの活用は、今や多くの企業や自治体にとって避けては通れないテーマとなっています。しかし、導入したツールが思うように使われず、活用推進に苦心している組織も少なくありません。そんな中、奈良県生駒市では、特別なトップダウン施策ではなく、職員同士の自発的な広がりと、庁内問い合わせを効率化する「RAG」の活用をきっかけに、利用が少しずつ定着しています。利用登録者が400名を超え、日常的に活用する職員も100名程度に上っています。
今回は、同市のDX推進を担うデジタルイノベーション推進課の南さんに、導入の背景から具体的な浸透策、そして今後の展望まで、活用のリアルな実態について詳しくお話を伺いました。

業務効率化と新たな働き方を目指し、生成AI導入へ
Q. まずは、南さんの自己紹介と、市役所として生成AIを導入された背景についてお聞かせください。
南さん: 私は2024年4月に入庁し、3年目になります。当市ではDXを推進していくという大きなテーマがあり、その中で立ち上がったプロジェクトの職員募集に応募し、採用されたという経緯です。現在はデジタルイノベーション推進課に所属しています。
生成AIの導入背景としては、業務効率化や、これからの時代に求められる新しい働き方へ対応していく必要性を感じていたことが挙げられます。そうした課題意識から、具体的なツール導入の検討が始まりました。
LGWAN環境で使える「自治体AI zevo」を導入。議会対応から庁内問い合わせまで幅広く活用
Q. 様々なツールがある中で、どのようなものを導入されたのでしょうか?
南さん: 私たちが導入したのは、シフトプラス株式会社が提供する「自治体AI zevo」というAIツールです。自治体特有のネットワーク環境であるLGWANの中で安全に使えるという点が決め手となり、現在はこちらを活用しています。
Q. 実際に、職員の皆様はどのように活用されているのでしょうか?
南さん: 文章作成やアイデア出しといった用途が中心です。特に議会対応が重なる時期などは、生成AIの活用が増える傾向にあります。職員にとって、業務を支える実用的なツールになりつつあると感じています。
職員間での評判とRAG活用が利用の後押しに
Q. 2024年後半の導入から1年半弱で、職員の半数にあたる400名が利用されているそうですね。どのように活用を広げていったのでしょうか?
南さん: 特に2025年度以降、利用希望者の登録が増えてきたという実感がありますね。大きなきっかけが二つあったと感じています。一つは、職員同士の評判です。導入時から何度か研修も実施していますが、研修自体が直接的なきっかけというよりは、周りの職員が使っているのを見て「これ、便利だよ」「かなり使えるな」といった声が自然に広がっていった影響の方がむしろ大きいのではないでしょうか。
そしてもう一つが、2025年の秋から始めたRAG(Retrieval-Augmented Generation)機能の活用です。これは庁内の職員間での問い合わせ対応を効率化するための仕組みで、例えば人事、総務、契約関連などの総務系部署の情報をRAGに読み込ませました。これにより、職員はわざわざ電話やメールで担当部署に確認しなくても、AIに質問するだけで必要な情報を得られるようになりました。この仕組みが、新たな利用者を増やす一つのきっかけになっていると感じています。
時間削減効果の一方で見えた、「トークン数」「セキュリティ」などの課題
Q. 導入によって、どのような成果や課題が見えてきましたか?
南さん: 成果としては、先ほど申し上げたアイデアの壁打ちや文章作成など、様々な業務において時間が大幅に削減されていることは間違いありません。この効果を実感し、AIを積極的に活用する職員がさらに増える、という好循環が生まれています。これが最大のメリットだと捉えています。
一方で、いくつかの課題も見えてきました。一つはコストに関する「トークン数」の問題です。私たちの契約はトークン数に基づいているため、時期によって利用量に大きな偏りが生じます。例えば12月のように利用が集中する時期に、特定のヘビーユーザーがトークンを多く消費してしまうと、月の後半には他の職員が使えなくなる、という事態も起こり得ます。利用を「どんどん使っていこう」と推進している立場で、「あなたは使いすぎなので抑制してください」と言うのもおかしな話です。とはいえ利用環境には一定の制約もあるため、今後の利用推移を見ながら、少しずつ使える量を増やしていくなど、うまくバランスを取る必要があります。
また、セキュリティ上の課題もあります。現在は主にテキストベースでの利用が中心で、画像の読み込みといった一部の機能は制限しています。特に自治体は個人情報や機微情報の取り扱いに細心の注意を払う必要があり、その兼ね合いが難しいところです。業務負担を本当に軽減するためには、個人情報を多く扱う福祉系や教育系の部署でも活用できるのが理想ですが、現状では従来通りのやり方を続けざるを得ません。
さらに、AIモデルの進化が加速する中で、私たちのルールでは国内の法制度や運用ルールに沿ったモデルに限定して活用しています。そのため、最新の技術をすべて取り込めるわけではなく、活用の幅に一定の制約があると感じています。
個人のツールから組織のインフラへ。職員の活用事例を共有し、さらなる定着を目指す
Q. 今後、活用の幅をさらに広げていくために、どのような展望をお持ちでしょうか?
南さん: より多くの職員に活用してもらうための取り組みを進めています。その一環として、庁内で先行して活用している職員に、「私はこんな風に使っています」という具体的な事例を共有してもらう研修を実施しています。すでに使っている人には活用の幅を広げてもらい、まだ使ったことがない人には使い始めるきっかけとしてもらえる内容としています。
また、管理職向けの研修も必要だと感じています。「こういうツールがあるから、これを使って業務の効率や質を上げていこう」という意識を組織全体で共有することが重要です。今は使い方が個人に依存していますが、将来的には「この業務には、このプロンプトを共有して使いましょう」といった、組織としての共通のナレッジを蓄積していく必要があります。個人の便利なツールから、組織全体の共通インフラへと進化させていくことが、次のステップだと考えています。