生成AIを教育や公共用途で活用したいのに、資料の著作権や利用ハードルの高さに阻まれてなかなかプロジェクトが進まない——そんな悩みを抱えていませんか?
合同会社DRC総研は、一人会社でありながら国立国会図書館関西館での講座実績を持ち、デジタルアーカイブ(歴史的資料や公文書など)の活用教育と、教育現場から吸い上げた課題を政策提言へ昇華させるという独自の立ち位置を確立しています。
今回は、同社代表の寳德さんにお話を伺いました。一般ユーザーが抱く貴重な資料への「心理的ハードル」をAIでどう下げるかという現場の工夫から、数ページで数千円かかることもある「補償金の壁」の実態、そして現場の声を国を巻き込んだルールメイキングに届けるための挑戦について伺いました。教育・公共領域でのAI実装を模索する担当者や、新技術の法整備に関心を持つビジネスパーソンに向けた実践的なヒントをお届けします。

デジタルアーカイブ教育と政策提言を両輪とするDRC総研の挑戦
Q. まず、自己紹介と貴社が展開されている事業について教えていただけますでしょうか。
寳德さん: 合同会社DRC総研の代表を務めております、寳德と申します。私は元々、企業が持つ営業資料や社内報、自治体の文化施設における歴史的な資料や公文書といった「デジタルアーカイブ」をどう扱っていくかという領域の専門家として活動してきました。その経緯を踏まえ、昨年(2025年)の9月に起業し、データを活用した教育、とりわけデジタルアーカイブを活用した教育にフォーカスした会社を立ち上げました。当社の事業には、大きく分けて以下の2つの柱があります。
| 事業の柱 | 目的と内容 |
| 政策提言機能 | AIやその基盤となるデータをどのように活用するのが社会として最適か、ユーザー目線で政策提言を行う |
| 講師業(現場ヒアリング) | 公的な政策提言に活かすため、教育現場などで講師として立ち、現場のリアルな課題を直接ヒアリングする |
現在は私一人の会社ですが、私自身がキーマンとして現場での講師業を通じて得たリアルな課題や知見を、政策提言という形で国や社会に昇華させていくという、少し特殊な2本立ての体制で活動しています。
貴重な資料への”心理的ハードル”を生成AIでどう下げるか
Q. デジタルアーカイブの利活用において、生成AIをどのように活用すべきか、そしてどのような教育や研修をされているのでしょうか。
寳德さん: デジタルアーカイブで保存された貴重な書籍などは、通常、一般の方々がリアルで読もうとしたときに「自分にはハードルが高い」と敬遠されてしまうという壁があります。本当は面白いコンテンツなのに、アクセスへの心理的ハードルが高いために届かないのです。そこで、私たちはデジタル媒体と生成AIを通じて、そのハードルを下げる取り組みを行っています。例えば、生成AIを使って難読書を翻訳し、「自分が興味を持つポイントがないか」を調査することで、その本に自分の興味関心に合致する内容が書かれていることを発見し、没入体験することができます。現状は著作権保護期間が満了したコンテンツを教材としていますが、生成AIを活用することでコンテンツへのアクセスの壁を取り払い、その面白さを深く理解していただくための教育を展開しています。
国立国会図書館での講座事例と、参加者が得たAIのメリット・リスク
Q. 講座の具体的な事例や、どういった場所でどのような方に向けたものかをお伺いできますでしょうか。
寳德さん: 出せる事例はまだ限られていますが、つい先月当社が講座を提供して実施した国立国会図書館関西館での講座があります。詳細な概要は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
| 会場 | 国立国会図書館関西館 |
| 主催 | 公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構(「第56回けいはんな若手研究者交流会」内での特別講座として実施) |
| 使用教材 | 牧野富太郎著『植物記』(国立国会図書館デジタルコレクションが公開する、著作権保護期間が満了したデジタル文献) |
| 実施内容 | 万葉集に登場する植物に関する記述を生成AIに読み込ませ、クイズ形式で内容を把握・学習する |
この講座では、NHKの朝ドラの主人公にもなった牧野富太郎さんの書籍を用いました。参加者には書籍に関するクイズを解いていただき、その過程でコンテンツの内容を自然に理解できるような工夫を取り入れました。
Q. 参加者の方からはどのようなお声や成果がありましたか。
寳德さん: まず大前提として、国立国会図書館の会場をお借りしたこともあり、「国立国会図書館デジタルコレクションというサービスにこういうコンテンツがあったんですね」という気づきを得ていただくことが最大の趣旨でした。参加者からは、「オンラインで閲覧できるコンテンツがこんなにあるんですね」「こういう風に使えばデータもダウンロードできるし、生成AIを使えば内容も理解できて良いですね」といったポジティブな反響をいただきました。同時に、学習データが保持されないような基本操作の説明も行いました。一方で、参加者自身が「最終的にはどうしても嘘をついてしまうハルシネーションのリスクもあるため、興味を持った後は自分で原本を読むことが大事ですね」といった本質的なリスクに気づき、発言してくださったことも大きな成果でした。
日々の業務に追われる学芸員の壁と、資料価値の伝え方
Q. 司書や学芸員の方が業務の中で生成AIをどう活用し、効率化や価値創造につなげていくかといった講義もされているのでしょうか。
寳德さん: 現在、DRC総研として「生成AI×デジタルアーカイブ」の高度な利活用を支援するプログラムを鋭意準備中です。
私自身、これまで京都大学の学芸員養成課程などで産学連携の講義を担当し、デジタルアーカイブの最前線を伝えてきた経験があります。そこで痛感したのは、現場に就職しても日々の業務に手一杯になってしまい、情報基盤の構築や、それを資料価値の表現につなげるところまでなかなか手が回らないということです。
だからこそ、私の講義では単なるデジタル化の手法に留まらず、「デジタル化した資料を生成AIの力でどう価値に変えていくか」というアウトプットの側面に重きを置いています。生成AIを「業務の効率化」だけでなく「専門職としての創造性を解放する武器」として実装していく。それが当社の使命だと考えています。
教育利用を阻む「補償金」。ユーザー目線での政策提言に至った経緯
Q. 内閣府への「AI基本計画」見直しの提言について、その背景と、活動の中で直面した壁を教えてください。
寳德さん: こうした新しい技術の政策やルールが出来上がる際、最初は様々な人が自由に使い始め、次第にコンテンツの権利保護などの課題が浮上してルールメイキングが進んでいくという流れがあります。しかし、そのプロセスにおいて、コンテンツ保護を理解しつつも「こういう風に活用すべき」「学習や自己啓発に活かせる」といったユーザー目線の声が、なかなかルールメイキングの場に届きにくいという大きな壁がありました。これが、私が自ら政策提言を行うようになった最大のきっかけです。
具体的な壁の一つが、公共性の高い用途における「補償金」の問題です。例えば、教育機関などで国立国会図書館からまだ著作権が切れていないコンテンツのデータを取得しようとすると、数ページであっても数千円の補償金が必要になります。「それなら古本を買った方が安い」という事態になりかねません。結果として、公共性の高いプロジェクトでも資金がネックとなり、AI開発への活用やRAGの開発、子どもたちに提供する機会が大きく制限されてしまっています。もちろんコンテンツ保護の観点は重要なので、何でも無償にするべきだとは思いませんが、公共性の高い用途に関しては、著作権が存続していても補償金なしでデータを取得できるような法整備が必要ではないかと提言させていただきました。
Q. ご自身の講師業などの活動や日常業務の中で、生成AIを使われることはありますか。
寳德さん: はい、実演する際などは必ず使っています。そもそも受講者の方に使っていただく前に、私自身が深く理解していなければならないからです。日常業務でも活用しており、例えばGoogle Workspaceの連携機能を使い、GeminiとGoogleカレンダー、Gmailをつないで予定をすぐにカレンダーに反映させるといった業務効率化を行っています。また、新しいモデルはリサーチにも非常に便利ですので、日々の業務に欠かせないツールとして積極的に活用しています。
現場に立ち続け、AIの恩恵を安全に受けられる教育環境を目指す
Q. 最後に、今後の事業としての展望や強めていきたい部分についてお聞かせください。
寳德さん: 創立して間もない一人会社であり、公開できる事例もまだまだ少ない状況です。だからこそ、今後は学校教育、社会人教育、高等教育など、あらゆる教育現場にとにかく立ち続けていきたいと考えています。そこでビジネスとして現場のリアルな課題に直接耳を傾け、場数を踏んでいくこと。そのプロセスを疎かにしてしまえば、私たちの政策提言は宙に浮いたものになってしまいます。
現場で得られた知見やフィードバックを基盤とすることで、壁にぶつかりながらも提言をブラッシュアップし、誰もがAIの恩恵を安全かつ自由に受けられる教育環境の構築に貢献していきたいです。それは、すべての活動の基盤となっている「データの存在」、つまりデジタルアーカイブの重要性を世に知らしめることにも繋がります。
AIという光を当てることで過去の知恵を現代の武器として『再誕』させる。そのためのインフラを、私は現場と政策の両面から作り上げたいと強く思っています。