ゲスト
開発とAI推進の両輪を回す、プロダクト開発のキーマンたち
株式会社ウエディングパーク mieruupark(ミエルーパーク)開発責任者 南舘さん / バリューデベロップメント本部 本部長 小笠さん
南舘さんは2021年に新卒エンジニアとして入社。複数サービスの立ち上げやテック戦略室での組織施策に従事し、2024年4月より結婚式費用のシミュレーションサービス「mieruupark(ミエルーパーク)」の開発責任者を務める。小笠さんは2013年に営業職として入社。関西エリアの営業やデジタルマーケティング領域の営業責任者を経て、2021年よりDX推進室の責任者に就任。2024年からはSaaS事業を管轄するバリューデベロップメント本部の本部長を務める。
エンジニア全体でのAI本格導入からわずか数ヶ月で、開発工数の大幅削減や新規事業の立ち上げ期間の半減といった成果を創出している。
▼南舘さん

▼小笠さん

この事例のポイント
- 開発工数60〜70%削減を実現する方法:「mieruupark」の新機能「費用カルテ」において、設計から実装、テスト仕様書作成までAIを活用。エンジニア、デザイナー、ディレクターの3名体制で、通常2ヶ月以上かかる開発を1ヶ月程度で完了させた
- 生成AI推進室によるガバナンス体制の構築:社員のAI活用における不安を解消するため、情報入力の可否やユースケースを定めた全社共通のガイドラインを整備。また新たなツール導入やデータ活用時において推進室が確認するフローを確立した
- AI前提での期日設定による継続的な活用推進:一過性で終わらせないため、リリース日の目安を決める際からAI利用を前提とした工数出しを実施。「いつまでに出したいか」に対し「このAI活用なら可能」という形で、相互に期日を決める運用を行っている
- 「勝手に判断させない」プロンプト設計と要件定義の深掘り:ハルシネーションのリスクを抑えるため、AIに勝手な解釈をさせず人間に判断を仰ぐよう指示。また、人間側のドキュメントもマークダウンに寄せ、AIと対話しながら要件を整理するフローを組んでいる
新機能の開発工数60〜70%削減。新規事業の開発期間も1年弱から約5か月へ

Q. AI導入によってどのような定量的な成果が出たのか教えていただけますでしょうか。
A. 「mieruupark」の新機能開発において、1ヶ月という短期間で60〜70%の工数削減
南舘さん: AI活用の定量的な成果として最も大きいのは、2月にリリースした結婚式費用のシミュレーションサービス「mieruupark」の「費用カルテ」という新機能開発において、60〜70%の工数を削減できた点です。
開発体制としては、エンジニア1名、デザイナー1名、そして開発ディレクション全般を行うディレクター1名の計3名で進めました。従来であれば2ヶ月強かかっていた開発が、今回は1ヶ月程度で実現できています。活用しているAIツールについては、主流なものをいくつか検証しながら使っている段階です。開発フェーズにおいては、主に設計から実装までの工程と、開発後の品質確認に用いるテスト仕様書の作成においてAIを活用したことがメインのユースケースとなっています。
Q. 既存機能の開発以外にも、AIを活用して定量的な効果が出た事例はありますか。
A. 従来1年弱を要していた新規サービス開発を、AI活用により約5か月で実現
南舘さん: はい、もう一つ新規サービス開発の事例があります。全くゼロから新たなサービスを立ち上げるプロジェクトにおいて、AIを活用する前提で開発を進めました。従来、同規模の新規サービス開発には1年弱の期間を要していましたが、今回はAIを活用することで約5か月での実現を達成しました。正確な差の計測は難しいものの、期間としては大幅な短縮につながっています。
「創って作って売る」サイクル加速へ、エンジニア組織でAI活用を本格推進
Q. AIを活用するきっかけとなった背景や、当時ボトルネックとなっていた課題について教えてください。
A. デザイン経営導入を機に、社会のITシフトに追いつくための開発スピード向上が急務に
小笠さん: 当社では2021年頃から全社的に「デザイン経営」を本格導入し始めました。その中で、いきなり完璧なプロダクトを作ってリリースするのではなく、多少粗い状態でも早く世の中に出し、お客様からフィードバックをいただくという思考を取り入れました。社内ではよく「創って作って売る」という言葉を使うのですが、このサイクルをいかに早く回せるかが重要になっています。しかし、社会全体のITシフトが進む変化の早さに対して、我々のスピードアップがなかなか図れず、サイクルを早く回しきれていないという課題が顕在化していたのです。限られたリソースの中でやっていく分、動きが慎重になってしまう傾向もありました。そこで、この「リソース不足」や「スピードの壁」というボトルネックを打破し、「創って作って売る」サイクルを圧倒的に早く回すための一つの手段として行き着いたのが、AIの活用でした。
Q. 具体的にいつ頃から本格的な取り組みを始められたのですか。
A. 昨年(2025年)末より本格導入し、エンジニア組織全体でAI活用を推進
南舘さん: エンジニア全体として本格的に取り組み始めたのは昨年末の12月頃です。それ以前から個人単位で活用するメンバーはいましたが、組織としてAI活用を推進する方針を明確にしました。当時は、開発スピードの向上や工数削減を実現しながら、より多くの価値をユーザーへ届けるために、AIを開発プロセスへ本格的に組み込む必要があると考えていました。そのため、エンジニア組織全体で日常的にAIを活用する開発体制の構築に取り組みました。
全社ガイドライン策定とマークダウン統一による、リスク回避とAI協働の確立

Q. データ整備やAIを使える環境を作るためのフローはどのように構築されたのでしょうか。
A. 全社ガイドラインを策定し、新規ツールやデータ利用時は生成AI推進室への確認を徹底
南舘さん: AI活用の推進を行う組織「生成AI推進室」が中心となってAI活用におけるガイドラインを策定しています。 どのようなユースケースの場合に使えるか、あるいはどのような情報は入れて良くないかといったルールを細かく丁寧に全社へ提供しています。その上で、何か新しいツールを使いたい、新しいデータをAIで活用したいとなった場合は、必ず生成AI推進室に一度確認を入れるフローを徹底しています。全社共通のガイドラインを基盤としつつ、実際のデータ活用は事業部ごとに分けて実施することで、入れてはいけない情報やリスクのあるツールを会社として回避する仕組みを担保しています。
Q. AIに対して精度の高いアウトプットを出してもらうために、プロンプトやデータの読み込ませ方で工夫されていることはありますか。
A. ドキュメントをマークダウン化し、AIが勝手に判断せず人間に解釈を仰ぐルールを徹底
南舘さん: AIと一緒に共同作業していくにあたり、人が用意するドキュメントもAIが読み取りやすいようマークダウンに寄せて準備をしています。また、事業に合わせた意思決定ができるよう、我々として守りたいルールを情報として整理し、参照・読み込ませて使える仕組みも一部導入しています。プロンプトの工夫としては、世の中のベストプラクティスに沿って、指示を書きすぎず必要最低限にし、役割を明確にしています。特にハルシネーション対策として、「AIが勝手に判断しない」ことを強く意識しています。解釈できないものは勝手に出力せず、まず人間に判断を仰ぐよう指示出しを行っています。さらに、AIと会話をしながら我々の要件を深掘りし、整理した上でアウトプットしてもらうというフローを実践しています。
情報入力の不安をガイドラインで突破し、AI前提の工数見積もりで利用を定着

Q. 初期段階ではどの層からアプローチを始め、組織的な巻き込みにおいてどのような施策を実施されたのでしょうか。
A. 生産性向上の重要性が高いエンジニアと営業を優先し、全社的な推進体制を構築
小笠さん: 当初は各職種のAI感度の高いメンバーが自主的に使い始めていたのがスタートでした。組織全体としては、まずエンジニアと営業に向けた活用から整備を推進しました。この2つの部署は入り口と出口の関係にあり、全社的に生産性を上げる重要性が高かったからです。営業はレポート作成やファクトデータの編集作業が多く、変数が少なく実行しやすいという背景がありました。エンジニアはミッションが多く、開発スピードが上がらないとリリース日が伸びてしまうという経営課題があったため優先しました。グループ会社であるサイバーエージェントでのエンジニア活用事例が多かったことも後押しになりました。ただ、リテラシーにはバラツキがあったため、各部門に推進責任者を配置し、部門ごとのAI推進ロードマップを作成・運用する体制を組むことが、足並みを揃える上で非常に重要でした。
Q. セキュリティ面の懸念や個人的な不安など、推進する上で一番難しかった場面はどのようなものでしたか。また、それをどう乗り越えたのでしょうか。
A. カルチャー面での反発はなく、情報入力に対する不安の壁をガイドライン整備で解消
小笠さん: 実は、大きな壁や導入における反発というのは一切ありませんでした。2021年からデザイン経営が根付き、早く出して早く直す文化が強かったため、手段としてAIを使うことへのハードルを感じる社員はいなかったのです。比較的新しいもの好きなメンバーが多く、エンジニアもどんどんやってみたいという姿勢でスムーズでした。ただ、実際に使い始めると、「この情報を入れていいのかな」「使い方は合っているのかな」という不安の声が他部署含めて上がりました。この「やりたいけれどできない」という壁に対しては、先ほど申し上げたガイドラインの整備によって乗り越えることができました。現在直面している壁としては、スピードと質のバランスです。早く作ることはできても、そのコードが長期的な運用に耐えうるクオリティになっているかについては、まだチューニングが必要だと感じています。
Q. 一過性のブームで終わらせず、継続して使われる状態を保つために意識的に行っていることはありますか。
A. リリース日の目安を決める際、AIを最大限活用する前提で工数出しと期日相談を実施
小笠さん: 継続の理由として大きいのは、開発のリリース日の目安を決める際に、AIを使える前提、あるいはどんどん使う前提で工数出しをしてもらっていることです。従来の開発フローのまま出すのではなく、「いつまでに出したいんだけど、どう進める?」と相談し、現場からの「であればこういうAIの活用の仕方がありそうです」という提案をもとに、相互に期日を決めていくという流れを作っています。
開発フロー高速化と費用透明化を通じた、ウエディング業界全体の課題解決
Q. 貴社が自社内の開発組織として取り組んでいきたい課題や、AI活用の目標について教えていただけますでしょうか。
南舘さん: 部分的なAI活用においては成果が生まれていますが、開発サイクル全体でのAI活用においては伸び代があると考えているため、今後は開発全体のフローにおいてAIを活用し、生産性全体を上げていきたいと考えています。世の中の変化が早まっている中、しっかりと追従してサイクルを高速化していく必要があります。また、会社の方針として、クリエイターにはただ物を作るだけでなく、事業成長をリードしていってほしいという思いがあります。AIを活用することで、クリエイター自身がしっかりと事業成長を牽引していけるような組織状態を作っていくことが、開発チームとしての大きな目標です。
Q. 業界全体を見据えた「おもてなしオートメーション」というビジョンについてもお聞かせください。
小笠さん: 「mieruupark」では、カップルが結婚式場の見学前に、希望する条件に合わせて費用のシミュレーションができる機能を提供しています。例えば、料理や衣装の内容を変更した場合に費用がどのように変わるのか、60名と80名では総額がどの程度変動するのか。具体的な費用感を来館前に把握できるため、プランナーへの質問もより具体的になり、自分たちに合った結婚式のイメージを深めながら見学に臨むことができます。
業界からは「来館前に高額な費用を見せたらキャンセルされるのでは」という声もいただきましたが、実際にはカップルの納得感が醸成され、来館キャンセルはほぼ起きていません。現在、費用透明化にご共感いただいた導入企業は150式場を突破し、2万5千ユーザー以上にご利用いただき、メディア掲載も加速しています。当社は20年間クチコミサイト等で業界の皆様と歩んできましたが、今後は「おもてなしオートメーション」という広い領域で付加価値を作り、AIの力も活用しながら、社会に届くサービスを提供していきたいと考えています。