ゲスト
認知症課題の解決に向け、AIネイティブな自律分散型組織を構築!
テオリア・テクノロジーズ株式会社 中沢さん・重山さん
テオリア・テクノロジーズ株式会社は「認知症との向き合い方を、テクノロジーで変えていく。」をミッションに掲げ、認知症のリスク低減から共生(ケア)まで支援する多角的なプロダクトを展開。
少ない人数で価値を最大化し、当事者や家族へより早く価値を届けるため、会社として「AIネイティブ」の組織を目指すことを決断。データサイエンティストの中沢さんを含む3人が共に、社内横断チーム「AI活用推進ギルド」を立ち上げ、プログラミング未経験者からエンジニアまで、全社的なAI活用の定着と劇的な生産性向上を実現している。


この事例のポイント
- アプリ提供だけでは現場に使われない壁を突破する方法: 「AIチームに頼む空気」を作らないよう、手を出さず口出しに徹する伴走支援を行い、バックオフィス担当者が自らアプリを作るチャンピオンケースを創出した
- エンジニアの生産性を倍以上に向上させる方法: コードを書く作業において、AIに任せる領域を見極め、人は上がってくるコードのレビューと「次に何をさせるか」の判断に集中する役割へのシフトを進めた
- 外部委託による高額なコストを削減する方法: AI活用による内製化を推進し、外部に委託していたタスクを社内で巻き取ることで、数千万円単位のコスト削減を実現した
エンジニアの生産性倍増と、数千万円単位の外部コスト削減を実現
Q. 貴社では全社的にAIを活用されているとのことですが、定量・定性的にどのような成果が出ているのでしょうか。
A. エンジニアの生産性が倍増し、数千万円単位のコスト削減を実現しました
重山さん: 大きく分けて3つの成果が出ています。1つ目は、エンジニアの生産性向上です。
各プロダクトは限られた人数のエンジニアで開発していますが、コード生成をAIに任せることで、少なくとも倍以上には生産性が上がっているという定性情報が現場から上がってきています。少人数でも、これまで以上のアウトプットを出せる体制が整いつつあります。
2つ目は、ビジネスメンバーの業務の変化です。
以前は営業先でプロトタイプを提示する際、必ずPdM/デザイナー/エンジニアの工数が必要でした。それが今は、BizDevのメンバー自身がAIを使ってプロトタイプを作成し、商談中にその場でブラッシュアップまで行えるようになっています。「エンジニアに依頼して、できあがるのを待つ」というプロセスが消え、ビジネスサイドのスピード感そのものが変わりました。
3つ目はコスト削減です。
これまで外部の協力会社に発注していたタスクを社内で巻き取れるようになり、規模感としては数千万以上のコスト削減効果が出ています。AI活用が、単なる業務効率化にとどまらず、企業のバリューチェーンそのものに寄与しています。
Q. 生産性が倍増したとのことですが、本来の専門職であるエンジニアの皆さんは現在どのようにAIを使っているのでしょうか。
A. コードは完全にAIに書かせ、人はタスクをレビューし判断する役割にシフトしつつあります
中沢さん: エンジニアはもう、AIなしでは仕事ができないレベルになっています。以前は自分の手でコードを書くことが主な仕事でしたが、今は人によっては十数並列でAIを動かしてコードを書かせ、上がってきたコードをレビューしています。「手で温かみのあるコードを書く」という仕事はどんどん減ってきています。作業自体はAIに任せ、AIが出してきたもののレビューや、「そもそもAIに何をやらせるのか」という判断・マネジメントが、現在のエンジニアの主業務になっています。
「使われない壁」を壊した、手を出さない伴走支援とギルドの立ち上げ
Q. 素晴らしい成果ですが、導入当初からスムーズに活用できていたのでしょうか。
A. 「AI活用ショーケース」を展開するも「業務直結には距離がある」と痛感し、有志のギルドを立ち上げました
中沢さん: 最初は、チャット機能も含む様々なLLMユースケースを手軽に体験できる『AI活用ショーケース』を内製開発し、メール添削や翻訳など多岐にわたる機能を通じてAIの力を感じてもらう場を設けました。しかし、皆さんの反応は「面白いけど、業務に直結するまでには距離がある」という声が一番多かったです。使う人は使うけれど、使わない人は全く使わないという属人化が進んでしまいました。
そこで去年の初夏頃、会社として「AIネイティブ」という方針を打ち出すと同時に、有志が集まって「AI活用推進ギルド」を立ち上げました。組織としてAIを活用しようと意思決定できたことが大きな転機でした。
Q. 現場に落とし込む中で、実務的な支援はどのように行われたのでしょうか。
A. 「AIチームに頼む空気」を作らないよう、手を出さず口出しに徹する伴走支援を行いました
中沢さん: 浸透させるには、オフィスで隣に座っている人が使っている姿を見せることが重要です。そこで、プログラミング未経験のバックオフィスの方にご協力いただき、日常業務をAIで変えていく伴走支援を行いました。
私たちが徹底したルールは「手を出さない」ことです。私たちが代わりに手を動かしてしまうと、社内に「AIチームに頼めばいい」という空気ができてしまいます。「あくまで手を動かすのはあなた自身ですよ」と口出しに徹した結果、その方は自分でAIにPythonの書き方を聞き、自らコードを書いてアプリを作るまでに成長しました。そういう人が隣のデスクにいれば「俺もやらなきゃ」と火がつきます。このチャンピオンケースの創出が、社内に自律的な活用を促す重要なポイントになりました。
また、全社でノーコードツールを使ったAIハッカソンを行いました。社員全員がAIアプリを作る場を設けることで最初の一歩を後押しし、結果としてプロダクトマネージャーがエンジニアなしでアプリのプロトタイプを作った事例なども出てきています。
ハルシネーション対策と、AIアクセラレーションチームによる基盤整備
Q. AIの利用が進む中で、ハルシネーション(もっともらしい嘘)のチェックなど、正しさの担保はどうされていますか。
A. システム的な参照情報の整備と、「AIを信じず人が判断する」という啓蒙を徹底しています
中沢さん: テストコードが書けない曖昧な領域では、最終的に人が「これ本当に正しいんだっけ?」と判断するしかありません。対策として、AIが参照しに行く情報をしっかり整備し、間違った情報を引っ張りにくくするシステム的な工夫をしています。
また、定期的な勉強会で「AIが出してきたことを信じない。判断は人がする」「そのまま完成品として出さない」という啓蒙活動を行っています。人の仕事は最終的な判断と責任を持つことだと明確に伝えています。
Q. 今後、組織としてさらにAI活用を推進していくための展望を教えてください。
中沢さん: これまでは個人の頑張りに依存している部分があったため、組織としてシステム的に使っていくために、この4月から新しく「AIアクセラレーションチーム」を立ち上げました。ユーザーのリテラシーが上がるにつれてAIが使うデータのバラつきが課題になってくるため、社内に溜まっているデータをAIがうまく活用できるような基盤整備をいち早く進めています。
今後の展望:社内人材の育成と、AIが繋ぐ個別化された体験
Q. 多くの企業がDX推進で悩んでいますが、外部コンサルタントの上手な活用法についてアドバイスをお願いします。
A. 外部コンサルとタッグを組んで、社内でAIを使いこなせる人材と文化を育んでいくべきです
重山さん: 結論から言えば、外部コンサルタントに丸投げするのではなく、「社内でAIを使いこなせる人材と文化を育てるための伴走者」として活用することが重要だと考えています。経営の立場から見ると、コンサルタントとは二人三脚で進めながら、会社の中に少しずつAI活用の文化を根づかせていく——そんな関わり方が理想です。
IT推進やAI導入を進めるうえで避けて通れないのが、自社の事業や業務に関するドメイン知識です。会社特有の業務プロセスや顧客との関係性を理解しないまま、ワークフローを自動化に置き換えるのは現実的ではありません。だからこそ、外部コンサルタントのパフォーマンスを最大限に引き出すには、依頼する側が会社の情報を適切にインプットすることが欠かせません。丸投げでは、コンサルタントの専門知識も宙に浮いてしまいます。
“AIを使いこなす組織”になるために
岩手県立大学の近藤教授は、2018年の論文で製造業におけるAI利活用について論じ、AIのインパクトを最大限に引き出すためには「AIを使いこなす」組織になる必要があると指摘しています。ここで鍵となるのは、外部コンサルタントの知識を「社内のケイパビリティ(能力)を育てるため」に使うという発想です。
Q. 最後に、AIを活用した先で、お客様にどのような価値を提供していきたいかお聞かせください。
重山さん: 私たちの役目は、認知症の課題をテクノロジーで解決することです。現在はプロダクトごとに単一の機能を提供していますが、今後はAIを含むIT技術を活用しながら、現時点では患者さんやご家族から見て分断されているテオリアのプロダクト体験を、ひとつながりのものへと滑らかにつないでいきたい。それが、私たちが目指す姿です。行動変容を促す伝え方や、一人ひとりに合わせたプロダクト提案など、UXを向上させていきます。
また、以前取材いただいた音声生成AI「わたしのラジオ」も、単なるツールではなく、一人ひとりの生活や関心に合わせた個別化された体験を生み出しています。AIだからこそ作れる個別体験は、人間の共感や感動に繋がり、心に残る。そして、行動変容へとつながっていく。そういった価値を生み出し続けていきたいと考えています。