多忙な現場を巻き込み全44領域でAI定着を進めるAX推進のリアル

ゲスト

全社44領域のAI定着を数ヶ月で実現したAX推進のプロフェッショナル
日本コロムビアグループ株式会社 AX推進室 室長 高橋さん、竹田さん

高橋さんはAX推進室の室長として、全社的なAI活用の旗振り役を担当。2025年9月のAIクリエイター向けコンテストを契機に、グループ8社・全44領域にわたる業務棚卸しとAI導入を推進。竹田さんは同室で高橋さんとともに、エバンジェリスト育成や現場支援を通じた全社AX推進に従事している。

▼高橋さん

▼竹田さん

この事例のポイント

  • 4〜5時間の業務を0.5時間に短縮する方法: GASやGoogle Workspace Studioで転記作業を完全自動化。外部から送られる様々なフォーマットのデータを自動読み込みし、必要なアウトプットまで生成する
  • 44領域の業務棚卸しを1ヶ月で完遂した方法: 共通業務の幹部分を推進室が事前整理し、各領域には枝葉のみを担当させることで現場負担を大幅削減
  • エバンジェリストを当事者化する仕組み: 研修を受けた後、各領域で2時間の勉強会を開催させることで、受け身から発信者へと意識を転換
  • 業務効率化をゴールにしない設計思想: 工数削減目標は一切立てず、新たに創出された時間で「新しい価値の創造」を目指すことを全社の最終目標に設定

各領域で8個のタスクを自動化。転記自動化と企画出しで実現した効率化

Q. 貴社ではAIを使ってどんなことを実現しているのか、活用の効果を聞かせてください。

A. 6月末までに各領域で8業務の自動化を実施

高橋さん: 現在はまさに各領域で具体的な効率化を実装している段階です。各領域に約40の効率化タスクリストがあり、これらすべてに優先順位をつけています。そして、「提示したリストの中から、6月末までに各領域で8個のタスクを自動化してください」という指示を出しており、それが徐々に形になり始めている状況です。

定量的な効果については、例えば「今まで4〜5時間かかっていた業務が、この改善によって0.5時間になります」といった工数削減の試算はすべて事前に算出し、全社員に提示しています。そのため、どの業務がどれくらい改善できたかは明確にわかる状態になっています。

Q. 具体的にはどのような業務で効率化が進んでいるのでしょうか。

A. 転記作業の完全自動化と、企画立案でのAI活用が代表例

高橋さん: 具体的なユースケースとしては、やはり「転記作業」が非常に多いです。外部のお客様から送られてくる様々なエクセルフォーマットのデータを、GASやGoogle Workspace Studioを使って自動で読み込み、必要なアウトプットを生成するところまでを自動化しています。

また、音楽レーベル特有の業務としては企画立案での活用が進んでいます。以前はゼロからアイデアを絞り出していましたが、情報漏洩の心配がない管理された環境下で、現在はターゲット層やアーティストの特性などの条件を入力し、AIを使って今後の企画案をいくつも自動生成させるというクリエイティブな領域での活用も進んでいます。

Q. 業務効率化によって、定量的な効果や成果のデータは、社内でどのように観測・評価されているのでしょうか。

A. 業務半減の余白を活かし削減目標ではなく新価値創造へ

高橋さん: 「工数を30%削減しましょう」といった削減そのものを目的にした目標は一切立てていません。私たちが真に目指している結論は、業務効率化によって新しく生まれた時間で、社員に「新しい価値の創造」をしてほしいということです。

以前は日々の事務作業に追われて着手できていなかった、新しい収益を生み出すビジネスや魅力的な企画を、AIによって空いた時間でどれだけ生み出せるか。それこそが私たちの最終的な目標です。現在は全社で効率化の実装が着実に進み、次なる挑戦に向けた余白が生まれ始めている段階です。今後、この創出された時間を活かして、各現場からどのような新しいアイデアやビジネスが飛び出してくるのか、私たち自身も非常に楽しみにしているフェーズです。

2025年9月のAIコンテストが全社AI導入の契機に

Q. どのような背景や理由があって導入を決定されたのでしょうか。

A. 2025年9月のAIクリエイター向けコンテストが導入の契機

高橋さん:  2025年3月に新社長となった佐藤の方針のもと、積極的なAI導入を進めておりましたが、一番の契機は、AIクリエイター向けのコンテストでした。具体的には、昨年(2025年)の9月に、生成AIを活用したクリエイターの方々を対象としたコンテストを開催したことが背景にあります。以前は社内でのAI活用について明確な方針がありませんでしたが、このコンテストを通じて、今後私たちがどのようにAIを活用していくべきかを真剣に考えるようになりました。この取り組みがきっかけとなり、現在は全社的なAX推進を行う部署を立ち上げ、本格的に導入を進めているというタイミングです。

44領域の業務棚卸しとGoogleツールによる効率化基盤の構築

Q. 最初の一歩として、一部の部署を限定したPoCから始めたのか、あるいは全社に一気にツールを展開したのか、どのようなアプローチで導入を進められたのでしょうか。

A. どちらでもなく、44領域の業務棚卸しとGoogleツールによる効率化

高橋さん: 一部でのPoCでも全社一斉導入でもなく、そのどちらにも当てはまりません。私たちが一番初めに行ったのは、全社の業務フローの棚卸しでした。具体的には、グループ8社の中から各領域の皆様を「エバンジェリスト」としてアサインし、AI推進を任せました。社内には全部で44の領域があるのですが、まずはその全44領域の業務フローをすべて可視化しました。

以前は各部署がそれぞれのやり方で業務を進めていましたが、現在は可視化した業務フローをもとに「ここを目指しますよ」という全社の旗を定義しています。その上で、今後それぞれの領域がAIを使ってどのように進化していくのかという「To Be」の姿を、全部一括で提示しました。これにより、自分たちの領域がAIを使うことでどういう世界観になるのか、そして何をすべきかが各領域で明確にわかるようになっています。

ツールに関しては、私たちはGoogle Workspaceを導入しているため、基本的にはGeminiをはじめとするGoogleの優秀な機能を活用していく方針を取りました。例えばGoogle Apps Script(GAS)やGoogle Workspace Studioなどを活用すれば、自動化は十分に行えます。そのため、まずはエバンジェリストの皆様にAIの基礎研修やGAS、Google Workspace Studioの研修を受けていただき、自分たちの業務を効率化・進化させるための土台作りを行っていただきました。

Q. 最近はCopilot的な機能追加のリーク記事なども出ており、より便利になりそうですが、この点はいかがでしょうか。

A. 今後の拡張を見据え現行Googleツールで基盤を構築

高橋さん: おっしゃる通りです。今後の機能の追加など、AIツールは日々より便利に進化していくと考えています。だからこそ、まずは現在の基盤であるGoogleのツール群をしっかりと使いこなし、将来的な機能拡張にも対応できるような体制を整えていくことが重要だと考えています。

共通業務の集約とエバンジェリストによる勉強会で多忙な現場を巻き込む

Q. 推進の過程でぶつかった困難や、社員からの反発などについて、具体的にお聞かせいただけますでしょうか。

A. 1ヶ月の短期間での業務棚卸し要求と横文字への抵抗感

高橋さん: 一番難しかったのは、社員の皆様が抱える既存業務とAI推進の両立です。先ほど業務フローを細かく可視化していただいたとお話ししましたが、実は「1ヶ月で提出してください」という非常に短い期日でお願いをしていました。担当する皆が通常の業務で忙しい中でこれをお願いしたため、かなり無理を強いてしまったなと私自身も心苦しく感じていました。

さらに、社員との認識をすり合わせる難しさもありました。以前は耳にしなかったようなIT系の横文字や、AI特有の使い慣れない言葉が多く登場したため、伝わる言葉選びや説明の仕方に非常に苦労しました。聞き慣れない専門用語はAIに対する大きなハードルになってしまうと実感した瞬間でした。

Q. 日常業務で忙しい中、初期育成の時間を確保し、短い期日通りに進めてもらうために、現場に対してどのような調整や声かけを行ってその壁を乗り越えられたのでしょうか。

A. 共通業務の整理とエバンジェリストによる勉強会の実施

高橋さん: 大きく2つのアプローチでこの壁を乗り越えました。1つ目は、全社で業務フローを作成する際、制作部門の方々と連携し、共通となる幹の部分を事前に整理したことです。例えば、音楽レーベルの制作業務は、扱うアーティストや部署が違っても、基本的な作業の流れは同じです。以前は各部署にゼロからフローを書き出してもらおうとしていましたが、それでは負担が大きすぎます。そこで、「ここは全社共通ですよね」という部分を先に整理し、「この領域の枝葉の部分だけを担当してください」と分担しました。これにより、現場の推進ハードルを大きく下げることができました。

2つ目は、受け身の研修ではなく、自ら発信して理解を深める仕組みを作ったことです。私たちはまずエバンジェリストの方々にAIの基礎研修を行いましたが、その後、「今度は皆さんが先生となって、各領域のメンバーに2時間の生成AI勉強会を開いてください」とお願いしました。人に教えるためには、事前に復習して自分がしっかり理解しなければなりません。このアウトプットを前提としたプロセスを挟んだことで、エバンジェリスト自身が当事者意識を持ち、各現場への浸透もスムーズに進むようになりました。

Q. その取り組みの中で、「これは全社に定着するかもしれない」と感じられた具体的な成功体験があれば教えていただけますか。

A. 3時間の研修で人事の転記とメール送信を完全自動化

高橋さん: 私の中での一番の成功体験は、2026年4月に行われたワークショップでの出来事です。現在、各領域には約40のタスクリストがあり、何をやらなければいけないかがダッシュボードで管理されています。私たちは今年、GASやGoogle Workspace Studio、Geminiを使って自分たちで業務効率化を行うことを目標にしています。

そこで、参加者であるエバンジェリストの方々に「自分たちのタスクリストにある業務を一つ、この3時間で実際に効率化してください」というワークショップを実施しました。すると、ある人事領域のメンバーが、これまで毎回手作業で行っていたエクセルの転記作業や、一人一人へのメール送信業務を、ツールを駆使して完全に自動化することに成功したのです。

以前は非効率で膨大な時間を奪われていた作業が、AIを使えば簡単に解決できること、そして何より「自分で調べて実装できるんだ」という成功体験をエバンジェリスト自身が体感できました。この瞬間を見たとき、「このやり方なら確実に前に進む」と強く確信しました。

Q. 導入当初は想定していなかった副産物や、数値には表れない社員の心境の変化といったメリットは何かありましたでしょうか。

A. Notion移行と全社員に芽生えたAIへの当事者意識

高橋さん: 以前は毎回パワーポイントやワードで作成していた資料を、現在は徐々にNotionに移行し、情報の可視化と整理を行いながら作成時間を大幅に削減しています。

そして、想定していなかった最も大きな副産物は、社員の心境の変化です。「自分たちにもAIを使いこなせるんだ」という自信が生まれたことが何より大きいと感じています。「自分たちにできるのだろうか」と不安に思っていた社員も少なくありませんでした。しかし、全社員がAIの教育を受け、実際にツールに触れて「こういう仕組みだったのか」「自分の業務でもできるな」と気づき、そして実際に「自動化できた」という体験を積むことができました。この成功体験を通じて、社員一人ひとりがAIを自分ごと化できたことが、組織にとって一番大きな変化だと思っています。

「1人n体」のAIエージェント構想と、日本の音楽業界を牽引する未来へ

Q. 最後に、今後の生成AI活用の展望や、その先に見据えている構想についてお聞かせいただけますでしょうか。

A. 自律分散型AIエージェントによる「1人n体」の世界を構想

高橋さん: 今後の展望として、私たちは「1人n体」という構想を掲げています。これは、これまで人間が行っていた業務を、自律分散型の複数のAIエージェントに任せ、一人ひとりが複数のエージェントを使いこなしながら事業を展開していくという考え方です。今年に関しては、まずGoogleの各種サービスをハックして自動化の基礎を固めていますが、将来的には各領域で様々なエージェントが誕生し、エージェント同士が連携して仕事を進める世界を目指しています。

また、既存の古いシステムを新しく刷新していく必要もあります。以前のシステムから脱却し、刷新された最新の基幹システムとAIエージェントがシームレスに連携して動いていく環境を作ることが、私たちの今後の大きな展望です。

Q. 最後に、この記事を読んでいるDX推進担当者の皆様へ向けて、メッセージをお願いいたします。

高橋さん: 私たちの根底にある思想は、日本コロムビアグループ全体として、この生成AIが盛り上がる「1億総クリエイター」の時代を牽引していくことです。現在は弊社に所属していない方であっても、生成AIの発展に寄与するクリエイターの皆様とともに音楽業界全体を盛り上げていきたいと考えています。そのために、権利侵害などの注意が必要な領域に対して、私たちが提供できるツールの開発なども進めています。社内の業務効率化を進める一方で、日本の音楽レーベルを牽引する存在として、広く音楽に関わる皆様にとって欠かせない会社になっていきたいと強く思っています。

竹田さん: 私からDX推進担当の読者の皆様にお伝えしたいのは、「現場のメンバーは、私たちが想像している以上に飲み込みが早い」という事実です。社内には、自ら想像を膨らませて何度も試行錯誤してくれる方が意外と多くいらっしゃいます。

そうしたポテンシャルを持つ方を発見するためにも、まずは「実際にAIに触ってもらう機会」と「AIを使えば自分の業務がどう良くなるのかを想像させる機会」を設けることが非常に重要です。以前は「AIに仕事が奪われるのではないか」と懸念する声もありましたが、現在はいかにして「AIは自分のパフォーマンスを上げるものだ」という前向きなマインドに変えていけるかが鍵だと日々痛感しています。私たちの取り組みが、少しでも皆様の参考になれば幸いです。

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