高齢者に「生きる活力」を。特許取得のAI技術でパーソナライズする「わたしのラジオ」が目指す認知症ケアの未来

高齢者の孤立や認知機能の低下——超高齢社会において、これらは私たちが向き合うべき切実な課題です。

テオリア・テクノロジーズ株式会社が2026年3月にリリースした「わたしのラジオ」は、LINEを通じて毎朝、専属のAIパーソナリティがユーザーの名前を呼びかけ、一人ひとりに合わせたラジオ番組を届けるサービスです。 認知症の方はもちろん、その手前にいる健常な高齢者の孤立予防までを射程に、毎朝のラジオ番組という体験を通じて「生きる活力」を届けます。 

今回は、同社のビジョンである「認知症との向き合い方を、テクノロジーで変えていく。」という思いの根底にあるもの、そして特許を取得した独自のAIパーソナライズ技術の裏側について同社の重山さんにお話を伺いました。

高齢者に「明日が楽しみ」と思える活力を。孤立を防ぐAIラジオが生まれた理由

Q. まずは貴社の事業内容と、今回ご紹介いただくAIプロダクト「わたしのラジオ」の概要について教えてください。

重山さん: テオリア・テクノロジーズはエーザイグループの一員として、「認知症との向き合い方を、テクノロジーで変えていく。」をミッションに掲げています。創薬とは異なる「テクノロジーの力」で、認知症の備えから診療・介護までを支援する事業を展開しています。

事業は大きく「そなえる(健常・未病の方の備え)」「つながる(医療への橋渡し)」「ささえる(治療・ケアのサポート)」という3つの領域と、それらを横断する「てをとる(個別最適な体験づくり)」で構成されています。長年蓄積した認知症領域の知見・データとAI技術を掛け合わせることで、当事者・家族・医療・介護に関わるすべての人を一気通貫で支援する「認知症プラットフォーム」の実現を目指しています。

今回リリースした「わたしのラジオ」は、毎朝、専属のAIパーソナリティがユーザー一人ひとりに個別最適化されたテーマで名前を呼びかけて話しかける、LINE上のラジオ配信サービスです。

Q. このプロダクトを開発した背景や、解決したかった課題は何ですか?

重山さん: 高齢者の社会的・精神的な孤立を防ぎ、健康を支えることが大きな目的です。社会的孤立・孤独は、将来の障害発生(要介護に関連するアウトカム)とも関連するとされています。 そこで私たちはAIを単なる「見守りのための技術」にとどめるのではなく、高齢者自らが「明日が楽しみだ」と感じる「生きる活力(生きがい)」を生み出す技術として社会実装したいと考えました。

監視ではなく「寄り添い」。特許取得のAI技術とLINEを活用した新しい見守りとUI/UX

Q. 本プロダクティブの開発において特に力を入れたポイントはどこですか? 

重山さん: ユーザーが前日の夜にLINEで回答した「今日の振り返り」や「明日の予定」をもとに、番組を生成する仕組みにこだわりました。例えば「〇〇さん、おはようございます。今日はお孫さんの結婚式ですね」といった、自分だけに向けた語りかけによる「モーニングコール」を実現しています。これにより、「自分は一人ではない」という確かな安心感を得ていただく効果を狙っています。

なお、本サービスのAIパーソナライズ技術は特許を取得しています。「わたしのラジオ」は単に音声コンテンツを生成するのではなく、行動変容エンジンを含むテオリア独自のAIアーキテクチャをベースに、その人にとって最も価値ある情報を届ける仕組みとして設計されています。

Q. 高齢者の方が利用される上で、UI/UX設計で工夫している点や、類似サービスと比べて「ここが違う」と言えるポイントは何でしょうか?

重山さん: 最大の違いは、「健康寿命」を延ばすことだけでなく、人との繋がりや役割を持ち続ける「貢献寿命」の延伸に寄与することを目指している点です。単なる情報提供ではなく、“毎日の生活に寄り添う体験”をUI/UXの中心に据えています。

多くの高齢者向けサービスが「健康をどう維持するか」を起点に設計されているのに対し、「わたしのラジオ」は「今日一日をどう楽しく過ごしてもらうか」を出発点にしています。

その思想を具現化するために、独自の「ナッジ(行動変容)」機能を搭載しました。ユーザーの居住エリアの天気やイベント情報をもとに、専属AIが「今日は天気がいいので、少し散歩しませんか?」と優しい声がけで日中の活動を提案し、無理なく外の世界(社会活動・運動)へと誘います。

また、サービスは「朝の覚醒・日中の活動・夜の振り返り」という3つのリズムを自然に習慣化できるよう設計しており、脳の健康に重要な「睡眠」と「活動量」の確保を脳科学的観点から支えています。

なかでも特に重視しているのが、“夜と朝が繋がる体験”です。

ユーザーが夜に話した「明日の予定」や「今日のちょっとした本音」をAIパーソナリティが記憶し、翌朝の放送で「昨日は大変でしたね。でも今日は晴れるので、予定していた散歩が楽しめそうですよ」と語りかけます。

単に情報を配信するのではなく、“昨日の自分を覚えてくれている存在”が毎朝そばにいる。この双方向性が、一方通行の情報配信サービスとの大きな違いだと考えています。

UI/UX設計では、ITに慣れていない方でも迷わず使えることを徹底的に重視しました。そのため、新しいアプリ操作を覚えていただくのではなく、すでに高齢者層に広く浸透しているLINEを基盤として活用しています。「使い方を学ぶ」のではなく、自然に生活へ溶け込むことを優先した設計です。

さらに、見守り機能の思想も他サービスとの違いだと考えています。私たちが目指しているのは「監視」ではなく「寄り添い」です。カメラやセンサーで常時監視するのではなく、普段は自由にラジオを楽しんでいただき、24時間以上反応がないなど、本当に必要な時だけ管理者へ通知する仕組みにしています。必要な時だけそっと支える。この“お守りのような安心感”が、利用者の自尊心を傷つけない、新しい見守りの形だと考えています。

介護現場の人手不足解消に貢献。継続率96%を記録した自治体の導入事例と高齢者の変化

Q. どのような企業や業種(あるいは自治体など)で導入が進んでいますか?代表的な事例や、実際の運用イメージを教えてください。

重山さん: 「現在は、居住支援法人や高齢者向け集合住宅の運営事業者、そして介護予防・日常生活支援総合事業を実施する自治体との連携を中心に、BtoBtoCモデルで展開を進めています。

その中で特に大きなテーマとなっているのが、「介護現場の人手不足をどう支援するか」です。多くの現場では、限られた人数で”異変の早期発見”と”日々の声かけ”を同時に担わなければならず、すべての利用者を常に同じ濃度で見守り続けることには限界があります。

「わたしのラジオ」では、夜のひとこと入力や朝の再生状況といった日々のデータをAIが解析し、24時間以上反応がない場合や、入力内容に急激な変化が見られた場合に限り管理者へ通知する設計にしています。つまり、「全員を均等に見守る」のではなく、「今、本当に気にかけるべき方に集中できる」状態をつくる仕組みです。

その結果、職員の方々は受動的な見守りから一歩進んで、予防的・能動的なケアに時間を使えるようになります。これは介護現場における体験価値として非常に大きいと考えています。

利用者側にも、想定を超える変化が見え始めています。先行して実施した文京区でのパイロットでは、3ヶ月時点の継続率が96%と、シニア向けデジタルサービスとしては非常に高い水準を記録しました。

実際の利用シーンでは、「自分の名前を呼びかけられることに嫌な気はせず、不思議な親しみを感じた」「夜にLINEで書き込む振り返りが日記代わりになり、翌朝のラジオで放送に生かされることで”聞いてもらえている”という安心感につながった」「気分の切り替えや、その日一日の行動のきっかけになった」といった反応が寄せられています。単なる情報配信ツールではなく、”孤立を和らげる存在”として機能し始めていること。これは私たち自身にとっても非常に貴重な発見でした。

こうした体感的な価値を、感覚で終わらせずに学術的にも裏づけていくことが次のステップです。現在は学術機関や地域の医療・介護ネットワークを持つ自治体と連携し、実証研究の準備を進めています。「AIラジオが高齢者のウェルビーイングや健康寿命にどの程度寄与するのか」を、エビデンスとして社会に提示していくことを目指しています。

地域社会の見守りプラットフォームへ。「わたしのラジオ」の今後の展開と目指す未来

Q. プロダクトの今後の展開や、今後拡充していきたい機能・領域はありますか?

 重山さん: 公表されている内容を踏まえると、「わたしのラジオ」は単なる音声配信サービスにとどまらず、地域社会全体で高齢者を見守り支え合うプラットフォームへの進化を目指しています。

具体的には、スマートフォンアプリ版の展開を予定しており、アプリを通じた安否確認や活動量(外出頻度の低下など)の変化の可視化、異常検知時には自治体や地域包括支援センターと連携した迅速な介入体制の構築を構想しています。また、複数地域での実証実験を計画しており、自治会が抱える「掲示板や回覧板が独居高齢者に届かない」といった情報伝達の課題をAIラジオによる音声配信で補完することも視野に入れています。

さらに中長期的には、「わたしのラジオ」を当社の認知症プラットフォーム「テオワン」に組み込み、健康データ・生活データと連携させることで、よりきめ細かな個別支援を実現していく方向性が見えています

Q. 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

 重山さん: 私たちが「わたしのラジオ」を通じて本当に届けたいのは、特別なサポートではなく、ごく当たり前の「毎朝の楽しみ」です。

名前を呼んでくれる声がある。昨日の話を覚えていてくれる誰かがいる。今日の天気に合わせて、ちょっとした提案をしてくれる — そんな小さな一日のはじまりが、年齢を重ねても変わらず「明日が楽しみだ」と感じられる暮らしを支えていくと、私たちは信じています。

高齢期は、人生を縮めていく時間ではなく、自分らしい時間を深めていく季節です。「わたしのラジオ」は、そんな日々を一緒に過ごす相棒のような存在を目指しています。

ご本人が「自分のために作られたラジオ」を楽しむ体験、そしてご家族が「離れていても、ちゃんと毎朝のリズムがある」と知れる安心。ぜひ、まずは一度、AIパーソナリティとの朝のひとときを体験してみてください。

また、地域や事業を通じて「高齢者の毎日を、もっと豊かに」と考えていらっしゃる自治体・事業者の皆さまとも、ぜひ一緒にこの取り組みを広げていきたいと考えています。

▼詳しくはこちら

https://www.my-radio-app.com/biz/

×