※この記事の内容は2026年1月時点での情報となります。
ゲスト
AIで「ゆとり」を生み出し、対面での住民サービスを向上させる牽引者!
つくば市 政策イノベーション部 デジタル政策課 工藤さん
つくば市は、スーパーシティ型国家戦略特別区域として最先端の技術を積極的に導入。
「住民の“今”の声をデジタル政策へ」という目的のもと、生成AIを活用して膨大な行政データや住民アンケートを可視化し、具体的な政策形成へと繋げるデータ分析プラットフォーム「つくシル」の構築・運用を推進している。
この事例のポイント
- 手作業による分類基準のブレという課題を解決する方法:1,500件の大容量データをAIで一瞬で処理し、客観的なエビデンスとして提示した
- 膨大な議事録の構造化の手間という課題を解決する方法:GCP上でデータ処理を自動化し、手作業ゼロで「一問一答」形式への分解・ベクトル化を実現した
- 正確性やセキュリティへの不安という課題を解決する方法:市長トップダウンの推進体制と、安全に試せる日常ツールの導入で現場の心理的ハードルを下げた
- ハルシネーションのリスクという課題を解決する方法:ガイドラインの策定と研修を実施し、最終的には行政の専門知識で内容を見抜く人材育成を進めた
1,500件の分析基準のブレを解消。合意形成のエビデンス抽出を一瞬で完了
Q. 生成AIを活用したデータ分析によって、定量・定性的にどのような効果や現場の変化がありましたか?
A. 人による分類基準のブレをなくし、1,500件の大容量データ分析を一瞬で終わらせて職員を解放した
工藤さん: 私たちは、住民の方々に「皆さんの意見を捨てずに活用している」という姿勢をしっかり見せたいと考えました。例えば、県から市へ移管された「洞峰公園」の活用事例では、県と市がそれぞれ実施した大規模なアンケートを生成AIで詳細に分析し、「住民の皆さんの希望はこうでした」と客観的なデータとして提示しました。これが、最終的な合意形成における強力なエビデンス(根拠)になります。
この1,500件規模のアンケートの自由記述分析は今回が初めての試みでしたが、一般的にこれだけのテキストを複数人で手分けして読み込もうとすると、「どの意見をどのカテゴリに分類するか」という基準が人によってブレてしまい、客観的なデータにするのが難しいという課題があります。
生成AIを活用することで、こうした基準のブレを無くせるだけでなく、地域の重要な合意形成が必要なタイミングで発生する突発的な大容量のデータ分析を、一瞬で終わらせることができます。職員が単なる「分析作業」から解放され、「分析結果をどう政策に活かすか」という本来の検討業務に時間を割けるようになったことが現場にとっても非常に大きな成果です。
GCPとGPTを活用。自動で一問一答に分解するフローをどのように整備したのか
Q. 具体的にどのようなツールやシステムを用いて、データの見える化や議事録の構造化を行っているのですか?
A. GCP上でGPTモデルを自動連携させ、手作業ゼロで議事録を構造化・検索できる仕組みを構築
工藤さん: 本システムはクラウド基盤としてGoogle Cloud Platform(GCP)、AIモデルとしてはGPT系のモデルを利用し、主に「議事録の構造化」と「利便性の向上」に活用しています。
議事録は膨大な文字起こしデータですが、定期的にシステムへ取り込まれ、GPT系モデルによって質問・回答の単位で自動的に構造化(質問者、内容、回答者、課題抽出などに分解・要約)されます。これらはすべて自動で処理され、職員の手作業はありません。
さらに、ユーザーからの質問時には、前処理済みかつベクトル化済みのデータから関連情報を検索・参照し、その結果に基づいて回答を生成(RAG構成)する仕組みになっています。単にAIモデルへ直接質問するのではなく、GCP上で整備されたデータ処理・検索・回答生成の仕組みを組み合わせることで、精度の高い質疑応答を実現しています。
これらをつくば市データ分析プラットフォーム「つくシル」として整理し、議論が盛んなテーマほど枠が大きく表示されるダッシュボードを構築しました。視覚的に「今、何が重要視されているか」が瞬時にわかるだけでなく、利用者の関心に合わせて関連する市の取り組みを提案するレコメンド機能も備えています。
市長トップダウンとガイドラインの策定。人や組織ではどのように推進をしたのか
Q. AI導入にあたっての組織的な壁や、セキュリティなどの不安の声はどのように乗り越えたのでしょうか。
A. 市長のトップダウンと身近なAI環境の配備で不安を払拭し、ガイドラインと研修でリスク対策を行った
工藤さん: 「住民の“今”の声をデジタル政策へ」という目的を掲げたものの、街頭での聞き取りや対面調査だけではどうしても特定の方々の声に偏りがちになります。そこで議事録などの既存データを活かそうと考えたのが始まりですが、導入初期には、自治体という組織特有の正確性やセキュリティ面に対する不安の声が少なからずありました。
その壁を乗り越えられたのは、市長を中心にデジタルガバメント推進本部等がトップダウンで生成AI活用を力強く打ち出し、全庁的な推進体制を敷いたからです。同時に、職員が身近に使える生成AIツールを導入し、日々の様々な業務の中で安全に試せる環境を構築したことで、現場の心理的なハードルも徐々に解消されていきました。
一方で、生成AIは非常に優秀ですが「ハルシネーション」のリスクがあります。対策として、安全に使うための「ガイドライン」を策定したほか、生成AIの特性や操作を学ぶ「職員向け研修」を実施しました。しかし嘘を見抜くには、最終的に行政のスペシャリストとしての経験や知識が不可欠です。AIに振り回されるのではなく、使いこなすためのリテラシー教育を「当たり前の人材育成」として進め、職員一人ひとりが行政の本質を理解している状態を目指しています。
今後の展望:AIで「ゆとり」を作り、行政の本質である「対面サービス」に注力する
Q. デジタル化が進む中で、これからの行政サービスはどう変わっていくべきだとお考えですか?
工藤さん: 行政サービスの本質は、人と人との対面による手厚いサービスにあると考えています。病院の診察がそうであるように、対面で手を差し伸べることこそが、住民の方々の満足度に直結します。
AIは、そうした人間にしかできない業務に注力するための「ゆとり」や「時間」を作るためのツールに過ぎません。つくば市は人口が急増しており、すべての要望にアナログだけで対応するのは限界があります。AIを活用して効率化できる部分は徹底して行い、そこで生まれた時間を住民の方々との対話に充てる。この両輪のバランスを保つことが、市長の掲げる「ともに創る」市政の実現に繋がると信じています。