利益率20〜30%改善とSaaS削減を達成。マーケティング業務における生成AI活用

ゲスト

AIツールを適材適所で使い分け、自社業務の自動化を牽引!
テクロ株式会社 天野さん、黒上さん

代表の天野さんがシンガポール国立大学、インド工科大学へ留学しデータサイエンスを専攻。生成AIの進化に伴い、社内の業務効率化やツール作成を主管し、約1年半前(2024年後半)からAI活用を開始。マーケティング支援やメディア事業を展開する同社にて、約1年で利益率20〜30%の改善を達成。

▼天野さん

▼黒上さん

この事例のポイント

  • 利益率20〜30%改善を実現する方法: 自動化できるレポーティングや転記作業にAIを全面導入し、浮いた時間を顧客との対話に集中させた
  • データのフィルタリングミスをなくす方法: 過去のスクリプトによるスプレッドシート自動化を廃止し、コーディングAIでAPIをつなぎ込んだ一元管理プラットフォームを構築した
  • デザイン業務におけるAI活用の切り分け方: 新たにデザイン領域にAI活用を推進するため、余白のズレなどAIの限界を認識しつつ、どこまでをAIに任せるかをキーマンである天野さんと黒上さんで毎月議論し、建設的に方針を決定している
  • 外部ツール一択で陳腐化を防ぐ方法: 内製化にコストをかけず、統合型の生成AIやコーディングAIなど、月額数千円のサブスクリプションを毎月見直しながら使い分けている

利益率20〜30%改善。約10個のSaaSツール間の往復時間も削減

Q. 社内での生成AI推進チームの体制について教えていただけますか。

A. データサイエンスの知見を基盤に、ビジネスサイドとエンジニアの連携による実質1.5名体制でAI推進を実施している。

天野さん: 弊社のビジネス領域は、マーケティング支援とメディア事業の2つが軸となっており、どちらも生成AIを業務に組み込んでいます。AI推進の専任チームを組んでいるわけではありませんが、私がビジネス周りの効率化やツール作成を主管し、エンジニアも開発面でサポートしてくれているため、実質1〜1.5名体制で動いています。

Q. 生成AIを活用した成果についてお伺いできますか。

A. 複数のSaaSを削減して作業の往復時間をなくし、自動化を進めた結果、利益率20〜30%の改善を達成した。

天野さん: 全体的なビフォーアフターとして、概算ですが利益率が20〜30%近く改善しています。業界で「SaaSの限界」が議論されることもありますが、極端な話、私たちが利用しているSaaSの一部はAIで代替可能なものもあると感じています。

以前はIT企業特有の課題として、全社で使っているSaaSが10個以上あり、ログイン画面を行き来してIDやパスワードを入力する時間が度々発生していました。現在は自社で使いやすいツールにできるだけ集約し、人間がツール間の移動や連携を考える時間を大幅に削減しました。SaaSの契約自体を減らしたことも含め、利益率の向上に直結しています。

Q. 工数削減などの具体的な効果と、全社でのAI利用状況について教えてください。

A. 自動化できる作業をAIに任せ、合計100名以上のメンバーへ展開し、顧客との対話時間を捻出している。

天野さん:レポーティングやSaaSからの転記作業など、自動化できる部分は全面的にAIへ移行しています。以前は手作業だった工程を自動化したことで、 毎月の1人あたりの労働時間である160時間のほとんどを、人間が本来注力すべきコア業務に使えるようになりつつあります。

弊社は社員に加えて業務委託の方も在籍しています。業務委託の方は担当業務が明確に決まっているため、早い段階からオペレーションの中にAIを組み込んで業務を進めていただいています。

Q. 各部署での具体的なAI活用業務と、主に使用しているツールについてお聞かせください。

A. マーケティング部門では企画の壁打ちを行い、カスタマーサクセス部門ではコーディングAIで開発を実施している。

天野さん: 主に顧客のマーケティング支援を担うカスタマーサクセス、自社のマーケティング、そして営業の部署で活用しています。カスタマーサクセスではお客様のサイト改修やオウンドメディア運用に携わることも多いため、コーディングに特化したAIを活用し、コンテンツ制作やデザイン、およびデータ集計と分析を行っています。

黒上さん:マーケティング部では自社コンテンツの企画・制作が中心のため、文章の草案作成や制作物の構成作りで活用しますね。また、僕を含めて企画の壁打ちなどで、自分にない視点を得るために生成AIを活用するメンバーが多いです。

スクリプトでの集計ミスから脱却:月3000円のAI導入で自動化を推進

Q. 生成AI導入のきっかけについて教えてください。

A. 低コストのAIツールを活用し、裏方業務を自動化して顧客との対話時間を確保することが不可欠だと判断した。

天野さん: これだけAIの進化速度が速い中で、IT業界にいる私たちがAIを取り入れないこと自体が、他社と大きな差を作られてしまうという強い危機感がありました。Claude CodeやChatGPT Codexの安価なプランなら月3000円程度で200時間ほど稼働してくれるわけですから、利益が出ないはずがありません。

私たちはお客様のコンテンツ制作の実行に限らず、マーケティング戦略の立案を含む伴走支援を行っているため、良い戦略を作るにはお客様と対話する時間をできる限り増やした方が良いと考えています。裏方の業務も重要ですが、それだけに追われては本末転倒。可能な部分はAIで自動化して顧客との対話に時間を使える会社のほうがお客様も安心かと思います。そのため、AIの社内実装は顧客満足度にも間接的な影響がある分、私たちにとって至上命題でした。

Q. カスタマーサクセス業務において、AI導入以前から抱えていたボトルネックについて教えてください。

A. 過去のスクリプトで自動化したデータ集計において、フィルタリングのエラーや不整合が多発していた。

天野さん: カスタマーサクセスでお客様のオウンドメディアのデータ集計をする際に、3〜4年前からずっと抱えていた課題がありました。以前は、デジタルマーケティングの様々なツールのダッシュボードにログインし、複数のデータを突き合わせてスプレッドシートにまとめる作業を、スクリプト(GASなど)を書いて無理に自動化していました。

しかし、取得したデータのフィルタリングが間違っていることが日常茶飯事で、どれが正しいデータなのか全くわからない状況に陥っていたのです。時間が奪われるだけでなく、データが不正確だとお客様への分析結果の報告や今後の運用方針まで誤ってしまうため、非常に大きな問題でした。

コーディングAIでAPIを連携し一元管理プラットフォームを構築

Q. スクリプトでの集計ミスという課題に対し、どのように新たなシステムを構築したのでしょうか。

A. コーディングAIに既存シートを読ませ、外部サービスのAPIを連携させた一元管理プラットフォームを短期間で構築した。

天野さん: この課題を解決するため、2026年2月末から4月上旬にかけて、お客様のプロジェクトを一元管理できる社内用プラットフォームを作りました。コーディングAIが進化し、API接続の構築が容易になったことが大きなきっかけです。自社で一からエンジニアを動かして作るよりも、圧倒的に速く安価にPoC(概念実証)が回せると判断しました。

作業手順としては、まずAIに「こういうものを作りたい」と相談ベースで持ちかけました。現状管理していたスプレッドシートの中身を可能な範囲で抽出して読ませ、設計を一緒に考えてもらったのです。そこからクラウドプラットフォームや別の有料ツールのAPIをつなぎ込んでいくフローを確立しました。

Q. AI導入にあたり、内製化ではなく外部のサブスクリプションツールを選択した理由について教えてください。

A. 進化の速度が速いため、内製化による陳腐化を防ぎ、最適な外部ツールを毎月使い分ける方針をとった。

天野さん: 私たちの会社規模もありますが、大規模言語モデルは月額のサブスクリプションで契約した方が確実に良いと考えました。進化の速度が凄まじく、大きなコストをかけて自社専用モデルを内製化してもすぐに陳腐化してしまうからです。

2025年1月に統合型の生成AIアシスタントがオフィスソフトに標準搭載されたことを機に本格導入し、汎用性の高い業務にはそちらを、エンジニアリングには専門のコーディングAIモデルを使い分けています。費用もアカウントごとに数千円、クラウドサービスの請求も少額で安価です。外部支援も入れておらず、誰かの業務を3時間ほど効率化できれば投資回収できるため、ROIを測るまでもなく、「成長のためにトライ」という自社のバリューもあり、外部ツールを積極的に活用しています。

Q. 業務別のハルシネーション対策と、AIに機密情報を学習させないための設定についてお伺いできますか。

A. データ集計はローカル環境で行い、SEOコンテンツは公的機関のソースに限定して目視確認を徹底している。

天野さん: データ集計に関しては、データを持ってきて分析しているだけなので、ハルシネーションは最初からそれほど懸念していませんでした。クローズドなローカル環境でAIのサーバーに上げているだけで、システムプロンプト等も使っていませんが、AIに学習させない設定にし、APIキーなど機密情報は絶対に入力しないよう徹底しています。

一方で、カスタマーサクセスで提供するSEOコンテンツ制作などはAIのみで制作するとハルシネーションが発生しやすいため、非常に気を使っています。まずブランド設定を入れてAIに作成させた後、AIによるダブルチェックツールを使用し、単純な誤字脱字や過去の指摘事項と同じ間違いがないかを確認します。また引用元を公的機関やプライム上場企業の調査データのみに限定し、さらにそのソースを人間の目視で辿るファクトチェック作業や、加筆する作業を行っています。

Q. 業務委託メンバーに対し、AIをどのように業務フローへ組み込み、情報共有しているのでしょうか。

A. APIを叩く開発済みツールとマニュアルを渡し、既存のフローにAIを自然と組み込めるように工夫している。

天野さん: 業務委託の方々へは、開発済みの社内ツールをお渡しし、「このツールを使ってこういう形で作ってください」というドキュメントマニュアルを用意しています。すでに存在していたフローの中にAIを組み込んで利用してもらうだけだったので、反発もなくシンプルでした。

情報のインプットに関しては、自社のコンテンツとお客様のコンテンツでデータベースを分け、必要なPDFファイルなどをアップロードできるようにしています。以前は文字を誤認識されることもありましたが、現在は統合型のAIがしっかりと識別してくれます。図解はまだ完璧に理解してくれないケースもあるため、資料自体をあえて文字を多めにして作るなどズレなく情報を読み込めるよう工夫も行っています。

外部研修に依存せず「習うより慣れろ」へ。AI適用範囲は毎月議論で決める

Q. 本格導入以前のシャドーAI対策と、全社横断的なAI活用フローの設計について教えてください。

A. 個人利用のノウハウ共有を起点とし、部署横断の全体設計は経営陣が主導して最適化を図っている。

天野さん: 1年半前(2024年後半)までは、温度感の高いメンバーが自らAIを活用している状態でしたが、その分シャドーAI(会社が把握していないITツールの利用)が起きやすく、セキュリティ上好ましくない面もあります。そのため、全員でナレッジを共有する目的で1年前から法人向けツールを導入し、「まずはテストしてみよう」と1on1で話し合いながら進めました。

課題として、マーケティングやエンジニアリングなど、部署ごとに最適なAIツールの基準・判断が毎月変わる点がありました。各部署の個別最適化は良いのですが、部署横断の自動化や全体の業務フローに関しては、方針がブレないようあえて私が全体設計やツール選定を行っています。

Q. 導入時の反発や、使い方がわからない社員に対してどのようにアプローチしたのでしょうか。

A. 大きな反発はなく、オフィスソフトへのAI統合により、自然な形で社員が活用を開始した。

黒上さん: 世間一般で聞くようなAIへの反発は、弊社では全くありませんでした。「どういう風に使ったらいいか」という相談が1〜2名から発生した程度で、そういったメンバーには「こういう感じでやったら良い結果が出たよ」と使い方を共有しました。個人レベルの最適化から自然と活用が進んだイメージです。

天野さん: 新しいものが出たらとりあえず触ってみる、探求心の強いメンバーが多いというテクロのカルチャーもあると思います。普段使っているオフィスソフトに、自然な形でAI機能が統合されたことで、シームレスにつながり心理的ハードルが下がったのも良かったです。

Q. 外部研修などは活用しなかったのでしょうか。また、AIの活用領域についてはどのように選定されているのでしょうか。

A. 基本的な操作研修をやめ、毎月全社でノウハウを共有しつつ、デザイン業務などの適用範囲を建設的に議論している。

天野さん: プロンプトの打ち方は、かつての検索エンジンの使いこなし方と同じで「習うより慣れろ」だと考えています。そのため、特別なマニュアル作成や研修よりも、毎月の全社会や1on1で「どう使っているか」のノウハウを一部共有しています。

現在、黒上と毎月熱心に議論しているのがデザイン領域へのAI活用とその課題への対処です。例えばプレゼン資料やバナーを作りたい時、デザインを踏襲させても余白がズレるなど、細部に課題が残ります。私は1年前より改善されたと思っていますが、デザインを得意とする黒上の専門的な視点では「まだまだブラッシュアップが必要だ」と。AIで完璧にできない部分を認識しつつ、どのレベルの業務ならAIで自動化していいのかを毎月建設的に議論しています。

ツールごとの利用率などの数値は特に計測していません。その代わり、人事評価の項目にAIの活用を含めています。評価に組み込むことで、どれだけ使っているかを確認し、継続的に生成AIが活用される仕組みを構築しています。

開発したAIツールをSaaSとして外販へ。私生活での活用が最大の近道

Q. 日々進化するAI技術に対するキャッチアップと、システムの改善サイクルについてお伺いできますか。

A. SNSや経営者間での情報をもとに、新しいモデルが出れば月1回ペースでテスト実装を繰り返している。

天野さん: 使い方や改善サイクルは全社統一ではなく、人によって異なります。私の場合、SNSで有識者をフォローしたり、経営者間で「こういう使い方をしてます」という情報交換をしたりしてキャッチアップしています。

最近は新しいコーディングAIの話題が多く、「こういうものが作れる」と聞けば、すぐ実装してみるというサイクルを毎月回しています。社内ツールに関してはテスト環境を作らずそのまま実装し、障害が起きてもすぐ直せばいいというスタンスで取り組んでいますね。少しでも外部に影響があるもの、セキュリティ面で不安があるものに関しては、検証環境を作ってテストしています。毎月実践しないと進化に追いつかないと考え、まず使ってみることを意識しています。

Q. 今後AIを活用して解決したい課題と、自社開発ツールの外部展開について教えてください。

A. 地域や業界によるAI活用格差を埋めるため、自社開発のAIプラットフォームを汎用SaaSとして外販していきたい。

天野さん: 今後考えているのは、社内で作ったものを汎用的なSaaSツールとして外部へ展開していく動きです。AIが活用されているIT業界や都市部と、AIが身近ではない業界やまだ触れたことのない企業とでは、業務効率の差が非常に大きくなっています。なかなか難しい面もありますが、もったいないとも感じます。

私たちが作っているツールは最先端の領域に達するよう試行錯誤している自負があるため、最新のAIモデルをうまく取り入れながら、お客様にもご利用いただけるようなツールを開発できれば面白いですし、効率化にも貢献できると考えています。もちろん、社内の効率化としてAIを業務フローに組み込む作業も並行して継続していきます。

Q. これからAI導入を検討する企業や担当者へのアドバイスについてお聞かせください。

天野さん: AIの何が良くてどう役立つかは、実際に触ってみないとわかりません。例えば私の友人に、中古ショップでブランド品の掘り出し物を見つけるのが趣味の人がいます。彼は個人のAIツールを活用して商品の写真を撮り、査定額を自動で出して効率化していました。その彼の会社にAIが導入された時、すでにプライベートで利用していた分活用を覚えていく速度は圧倒的でした。まさに「習うより慣れろ」です。

私生活の楽しいことにAIが使えるとなれば、絶対に習得速度は速くなります。私の持論としては会社がまだ導入していないなら、個人で少し試してみて、何ができて何ができないか、手触り感を持つことがおすすめです。企業内での活用ではセキュリティ要件を論じることも重要なため、すぐの活用は難しいとも思いますが、まずは個人で使って業務にどう活かせるか考えると、良いヒントがもらえるのではないかと思います。

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