AIツールを導入したものの、現場での活用が進まず形骸化してしまっている。そんな悩みを抱えるDX担当者は多いのではないでしょうか。
スパイスファクトリー株式会社が提供する「Spice AI Enablement」は、人材・基盤・組織の三位一体でAI組織化を支援するサービスラインです。AI駆動の人材を創出する人材育成研修、組織課題を解決しながらAI駆動の組織変革を行うAI戦略コンサルティング、そしてレガシーシステムを次世代基盤へ変革するAIモダナイゼーションを展開しています。
AIによる組織変革は単なるツール導入で終わらせないことを、スパイスファクトリーは重視しています。特定のAIツールの使い方だけでなく、ツールに依存しない普遍的な人間のスキルや、AIの利用を阻害しない環境や文化作りが重要であり、組織・基盤の整備を一体で進めることで、組織全体のAI駆動を後押しするのが特徴です。
本記事では、同社でTOPS部門の泰さんに、AI推進において企業がつまずきやすいリアルな課題、プロダクトの根底にある設計思想、そして導入企業を「AIが当たり前の世界」へと導くための具体的な支援体制について伺いました。

「360° Intelligence Firm」として企業のAI推進を支援
Q. まずは、貴社の事業内容と泰さんの自己紹介をお願いいたします。
泰さん: 私はスパイスファクトリー株式会社の創業メンバーとして立ち上げに携わり、長年会社の技術領域を統括してきました。2025年までCTOを務め、2026年からはTOPSと呼ばれるチームでPrincipal Engineerとして所属しています。TOPSは全社の技術戦略・基盤・組織・文化を横断的に支え、「技術で事業と人の可能性を最大化する」ことをミッションとしており、その活動の一環で社内外における組織のAI駆動化の取り組みを推進しています。
弊社は2026年3月に、設立10周年を迎えました。もともとはWebシステム開発やデザイン、プロジェクトマネジメントなど、デジタル領域のプロフェッショナルとして事業を展開してきましたが、2026年4月に「360° Intelligence Firm」という事業内容[1] に再定義しました。デジタル領域であれば企画から開発、UI/UXの取り組み、その後の運用保守やサービスのグロースまで、一気通貫でお任せいただけるのが強みです。

特にAI領域やデザインには注力しています。また、開発部門だけでなくコーポレート部門も含めて、社内全体にアジャイルの手法が共通言語として浸透しています。2025年3月には大手総合システムインテグレーターである株式会社DTSと資本業務提携を行い、我々が強みとする最上流の企画・体験設計から超大規模開発まで、幅広く協業できる体制を整えています。
AI導入の失敗は「人材・組織・基盤」の不一致から起こる
Q. 「Spice AI Enablement」の概要と、サービスの背景にある課題意識について教えてください。
泰さん: サービスの背景として一番大きかったのは、クライアントから「組織におけるAI推進や定着」についてのご相談が非常に増えてきたことです。ご相談の内容も「AIで業務効率化を図ることを目的としたAI機能の開発」や「AI推進を担うチームからの研修のご相談」など多岐に渡ります。
例えば「AIを使いたいから、とりあえずRAG(検索拡張生成)を構築してほしい」というご相談をよくいただきます。しかし、RAGを社内の基盤として整えたとしても、それを使える人材がいなければ意味がありません。また、RAGに入れるデータが必要なのに、組織が縦割りになっているせいでデータが共有されないとなれば、それは組織の課題にもなります。逆に、AI基盤はしっかり整っていてツールを次々と導入しているのに、現場が全く追いついておらず、AIを扱う人材が成熟していないケースもあります。
このように、人材・組織・基盤の3つの観点でどれか1つ[2] でも欠けてしまうと、AI推進が思うように進まないケースが多く見られます。そこで、お客様に対して三位一体でご支援できる仕組みとして立ち上げたのが「Spice AI Enablement」です。

我々はこれを「AI駆動3軸モデル」としてお伝えしています。人材の育成、組織の改善、基盤の整備、これら3軸へのアプローチがバランスよく推進されることで、AI駆動組織として成熟していくという考え方がサービスの根幹にあります。
組織の現在地を測る「AI活用成熟度モデル」
Q. 組織の現在地を見極めるためのフレームワークについて、詳しくお聞かせいただけますか。
泰さん: お客様とお話しする際、「AI活用成熟度モデル」という指標を用いて、組織の現在地について目線合わせをしながら今後の方向性を決めています。この5段階のモデルを活用することで組織現状に合わせて適切なアプローチをご提案することが可能になります。

1段階目は「個人活用」です。AIを検索ツールの代替として使ったり、一問一答のやり取りや会議の要約など、個人のタスクに閉じて活用している状態です。具体例を挙げると「AIに何を頼めばいいかわからない」という声も多いフェーズです。そうした場合は「どんな業務をAIに任せられるかを知ること」を目的としたプロンプトワークショップを通じて、個人のAIスキルを底上げしていくといったアプローチをとります。
2段階目が「チーム活用」です。チーム内でGPTsなどのツールやナレッジを共有し、「AIでこんなこともできる」というコミュニケーションが活発になっている状態です。ここでは「特定の人のノウハウがチームに広がらない」といった課題が出てくることがあるので、その場合は「個人の資産をチームの標準に変える」プロンプト共有ワークショップなどを組み合わせ、全社へ展開できる形に整えていきます。
3段階目は「組織活用」です。AIの活用ルールやガイドラインが組織全体で明文化・仕組み化され、共通のツールやスキルなどが標準として運用されている状態を指します。チーム内の自発的な共有にとどまる2段階目と異なり、制度やワークフローとして標準化されているのが特徴です。この段階では「AIに慣れてきたが、AIを前提に仕事を組み直すところまでは進まない」というケースもあるので、そうしたときは「AIを使う」から「AI前提で業務を設計する」へのマインドセット転換を、研修とコンサルティングの両面から促していきます。
4段階目が「AI駆動業務」です。業務フロー自体においてAIを前提に再設計し、人間が判断すべきポイントを明確に絞った上で、大部分のプロセスをAIが担う状態です。既存の業務フローにAIを差し込む3段階目とは異なり、AI前提の業務設計という質的な転換が起きています。例えば既存のシステムアーキテクチャがAI活用の足かせになっているケースもあるので、その場合はAI前提のアーキテクチャへの移行や、人間の役割を創造的な判断・意思決定へシフトさせる組織設計まで含めて支援します。
最後の5段階目がAIの「自律化」です。AIが定型業務を自律的に担い、人間は創造的な判断に集中する状態で、エージェント同士が協調しながら業務を進めていける段階です。ここでは複数のAIエージェントが自律的に動くからこそ、その品質や倫理面をどう統制するかが新たな論点になるので、人間の役割を実務の遂行か2らエージェントの監督・ガバナンスへと移していく組織設計をご支援します。
この「AI駆動3軸モデル」と「AI活用成熟度モデル」[3] をベースにしながら、自社の現在地を知り、何にどれだけ投資して成長させていくべきかを体系的に考えていくプロセスをご提案しています。
ツールに依存しない普遍的なスキルを育むオーダーメイドのAI研修
Q. 同じくAI活用支援や教育を行っている企業と比べて、貴社ならではの強みはどこにあるのでしょうか。
泰さん: 大きな特徴は、サービス名にもある「Enablement」という概念を取り入れている点です。これは単に「知識やツールを提供して終わり」「システムを導入して終わり」ではなく、組織が自らの力で成果を生み出し続けられる「自走状態」になるまで、伴走しながら共につくり上げるアプローチを指します。元々は作業療法分野で使われる概念なのですが、我々はベンダー依存になるような支援や、一方通行で形式ばった研修を行うのではなく、コーチングや促進、傾聴、励ましなど、当事者の主体性を尊重しながら多様な形で組織と関わりプロセスを組んでいきます。
我々の人材育成は、まずヒアリングやコンサルティングのご支援を通して組織を理解することから始まり、最終的にオーダーメイド/セミオーダーメイドで研修を構築します。
ここで重要なのが、『AI』ではなく『人』にフォーカスした研修設計です。これが我々の強みでもあります。
先ほどのお話でも挙げさせていただいた通り、個人活用のレベルを上げる場合、その状況を紐解いていくと「AIに何を頼めばいいかわからない」という課題が見えてくることがあります。その場合はAIに業務を渡すための体系化ワークショップとして企画を行うといったアプローチを行います。このようにAIではなく人の創造性や考え方にフォーカスしてAIを自然に活用できる研修を構築していきます。
もう一つの強みは、AI研修の専門トレーナーではなく、現場で実際に開発やプロジェクトマネジメント、デザインなどでAIを使っている現役メンバーがワークショップを担当することです。体系的な研修だけでなく、AI駆動の現場で培った失敗や成功事例まで、生きたナレッジをお届けすることが可能です。また、コンサルティングも並行して[4] ご支援させていただくことで、組織課題やコンテキストを把握することが可能になります。これにより研修を進めながら「こういう業務をやっているなら、こんなRAGがあった方が良い」と、コンテキストに基づいたシステム構築のご提案や開発の伴走まで一貫して行える体制を整えています。
AIはコードを読み、人間は現実を読む。独自のAIツールと「Human-in-the-Loop」でレガシーシステムを刷新
Q. もう一つの柱である「AIモダナイゼーション支援サービス」の具体的な特徴についても教えてください。
泰さん: 経済産業省の『DXレポート』で「2025年の崖」として指摘されているように、レガシーシステムが日本の経済損失を数兆円発生させてしまう懸念があります。また、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の『企業IT動向調査報告書2019』によると、IT予算の8割が既存システムの維持に消えてしまっている現状があり、新しいAIの取り組みやデータ活用への挑戦を諦めてしまっている企業は少なくありません。
レガシーシステムを刷新すべきか使い続けるべきかわからない、担当者が退職して仕様書もなくメンテナンスできない、保守運用費用といった守りのIT予算だけが肥大化する、といった課題を解決するために立ち上げたのがこのサービスです。
特徴的な点は、我々が独自開発したAIモダナイゼーションツールです。このツールは、既存システムのソースコードを分析し、リバースエンジニアリングで仕様書や設計書、業務フローなどのドキュメントを自動生成します。手作業で数ヶ月かかるような調査とドキュメント作成が、2週間程度で完了してしまうほどのスピードと精度を持っています。
ただし、ソースコードからだけでは分からない情報も存在します。そこで我々は「Human-in-the-Loop(人間とAIの協調)」の要素を積極的にツールへ適用しています。AIがソースコードを分析して出た不明点をリスト化し、UXデザイナーやエンジニアが現場の方にヒアリングを行って情報を収集し、その結果を人間がAIに戻していく。このループを回すことで、「AIはコードを読み、人間は現実を読む」という形で精度の高い分析とビジネスドメインの解析を行っています。
そして、UXデザイナーが業務分析を行い、エンジニアが技術的にシステムを見つめ、既存業務のあるべき姿を再定義した上で、最終的に「ここはシステムを刷新すべき」「ここは刷新せずにAIエージェントやAPIを作った方が良い」といった、次世代基盤としてシステムを再定義するための最適な道筋をご提案しています。
これらのご提案や生成されたドキュメントを元に、ビジネス上の投資判断ができる材料として活用いただくことが可能です。
組織内でAIエバンジェリストを育成し、現場起点のAI利用の活性化
Q. 実際の導入企業ではどのような課題があり、支援を通じてどのような成果が生まれたのでしょうか。
泰さん: ある会社様ではサーバインフラの移行・刷新に併せてAI活用も加速したいというご相談がありご支援をさせていただきました。組織へのChatGPT導入支援も合わせ、AI駆動に向けたコンサルティング支援に入らせていただいています。
我々はまず1ヶ月間しっかりと時間をかけ、各部署への業務ヒアリングやAI活用状況のアンケートを行い、対話を重ねました。現場にはAI感度の高い方と苦手意識のある方が混在していたため、まずはChatGPTの機能を使いながらプロンプトの扱い方などの勉強会を実施し、洗い出したユースケースに対して「こういうAIツールが作れます」と実際に見せていく活動を行いました。
そして重要だったのは、クライアントの組織内に「AI推進チーム」を作り、各部門に「AIエバンジェリスト」を立てたことです。これにより現場起点でのAIナレッジの共有や業務適用を行える体制を構築しました。外部からコンサルタントとして一方的なセミナーやレクチャーを行うことは、現場の方からの理解や共感は得られづらいものです。最終的に業務を最も理解し、AIを適切に適用できるのは現場の方々です。
そこで、AI感度が高く現場業務を知り尽くしている方をエバンジェリストに任命し、彼ら主体で現場にAIツールを作って見せたり、活用を促す役割を担ってもらいました。我々はその推進チームと連携し、ナレッジ共有やユースケース洗い出し、技術調査や勉強会企画など状況に合わせて伴走する形をとりました。その結果、多くのユースケースに対して現場起点でAIに関するディスカッションやAIツールが数多く生み出される結果となっており、現在では各部門のKPI達成といった成果に直結するAI利用の推進を進めています。
AIが「当たり前」になる世界へいち早く企業を導く
Q. 今後サービスを展開していく上で、どのような構想や展望を描かれていますか。
泰さん: 私はAIが仕事の中心にあることが「当たり前」の時代が始まっていると考えています。これはパソコンが普及した歴史と同じです。パソコンが一般に普及していない時代は、紙とペンや電卓で仕事をする人がたくさんいました。それがOA化の過渡期を経て、今では誰もが当たり前のようにパソコンを使い、「パソコンを使えるから特別だ」とはならない社会になっています。
AIの普及も今まさに過渡期にあります。少し前まではAIエンジニアがいないと無理だと言われていたものが民主化され、同時に「AIに仕事が奪われる」といった声も聞かれます。しかし、これもパソコン普及期に言われていたことと同じです。最終的に行き着くのは、資料作成を頼まれたら当たり前のようにAIで作り、人間がそこから価値を生み出す仕事をする、「AIがないと仕事にならない世界」です。
我々が目指しているのは、人材育成やAI駆動の組織づくりを通じて、お客様がこの「普及後の世界」にいち早く適応できるよう伴走することです。いち早くAIが当たり前の環境に適応できた企業は、より多くの価値を生み出し、新しいサービスを作り出して社会を変えていくことができるはずです。我々の支援を通じて、そういった社会への貢献を広げていきたいと考えています。