RAGは著作権侵害になる?違法になるケースと法改正30条の4を解説

「社内の業務効率化のためにRAGを導入したいけれど、著作権的に問題ないのか不安…」

「Web上のデータを学習・参照させることは法律違反になるの?」

このように、生成AI活用における法的なリスク懸念を抱えている担当者の方も多いのではないでしょうか?

RAG(検索拡張生成)は、社内データやWeb情報を参照して回答精度を高める素晴らしい技術ですが、使い方を誤ると著作権侵害のリスクが生じる可能性があります。

本記事では、RAGの仕組みと著作権法の関係、具体的に「アウト」になるケース、そして企業が取るべき安全対策について詳しく解説しました。

生成AI導入支援を行っている弊社の知見をもとに、法的なポイントをわかりやすく整理しています。

安心してAI活用を進めるためのヒントとして、ぜひ最後までご覧ください。

そもそもRAG(検索拡張生成)における著作権の考え方

ここでは、RAGの基本的な仕組みと、日本の著作権法における位置づけについて解説します。

RAGは通常のAI利用とは異なり、「外部データの検索・参照」というプロセスが含まれるため、著作権の取り扱いには特有の注意が必要です。

AI技術の進化と法解釈のバランスを正しく理解することで、リスクを最小限に抑えたシステム設計が可能になります。

それでは、RAGと著作権の基本的な関係性から見ていきましょう。

RAGの代表的な活用方法である「ChatGPTを活用した社内文書検索」については、こちらの記事で詳しく解説しています。導入メリットや成功事例と合わせてご覧ください。

RAGの仕組みと著作権が関わる2つのフェーズ(入力と出力)

RAG(Retrieval-Augmented Generation)における著作権問題を理解するには、プロセスを「入力」と「出力」の2つに分けて考える必要があります。

まず入力フェーズですが、これはAIが回答を生成するために必要なデータを検索し、データベース(ベクトルDBなど)に蓄積する段階を指します。Webサイトの情報をクローリングしたり、PDF資料をテキスト化して保存したりする行為がこれに該当します。この段階では、他人の著作物を複製する行為が発生するため、著作権法上の適法性が問われます。

次に出力フェーズです。これはユーザーの質問に対して、AIが検索した情報を元に文章を生成し、画面上に表示する段階です。ここで生成された回答が、参照元の文章と一言一句同じであったり、創作的な表現がそのまま使われていたりする場合、複製権や翻案権の侵害となるリスクが生じます。

RAGは「学習」とは異なり、都度データを参照しに行く仕組みであるため、この入力と出力の双方向で権利関係をクリアにしておくことが求められます。特に2025年現在はGPT-5のような高度な推論能力を持つモデルも登場していますが、モデルの性能が上がっても、RAGの仕組み上の著作権リスク自体が消えるわけではありません。

EUではAI法(EU AI Act)により、汎用AIモデル提供者の義務などが議論されています。世界的な規制動向の参考として、こちらも合わせてご覧ください。 https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/guidelines-scope-obligations-providers-general-purpose-ai-models-under-ai-act

RAGは「学習」ではない?AI開発・学習との法的な違い

AIに関する法律の話になると「学習データとしての利用は原則OK」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは日本の著作権法において、AI開発のための学習(情報解析)は、原則として権利者の許諾なく行えるとされているためです。

しかし、RAGはこの「学習(トレーニング)」とは技術的な挙動が異なります。一般的なLLM(大規模言語モデル)の学習は、事前に大量のデータを読み込ませてモデルのパラメータ(重み)を調整する行為を指します。一度学習が完了すれば、元のデータそのものを保持しているわけではありません。

一方でRAGは、推論(回答生成)のタイミングで、外部のデータベースに保存されたドキュメントを直接「検索・参照」しに行きます。つまり、元の著作物がデータベース内にそのままの形で、あるいはベクトル化された状態で存在し続けていることになります。

この違いにより、RAGのデータベース構築が「情報解析のための利用」として認められるかどうかが重要な論点となります。単に学習させる場合よりも、RAGのほうが原文へのアクセス性が高いため、著作権法上の「享受」の目的に該当しないか、より慎重な判断が必要になるのです。

なお、米国における生成AIの学習と著作権に関する議論(フェアユース等)については、米国著作権局のレポートが参考になります。 https://www.copyright.gov/ai/Copyright-and-Artificial-Intelligence-Part-3-Generative-AI-Training-Report-Pre-Publication-Version.pdf

著作権法第30条の4はRAGにも適用されるのか

日本の著作権法第30条の4は、AI開発を促進するために設けられた条文であり、通称「機械学習パラダイス」とも呼ばれる強力な権利制限規定です。この条文では、著作物に表現された思想や感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない場合、必要な限度において著作物を利用できると定めています。

RAGにおけるデータベース化(ベクトル化して保存する行為)についても、基本的にはこの第30条の4が適用されると考えられています。検索効率を高めるための情報解析プロセスの一環として、データを蓄積することは法的に許容される可能性が高いです。

ただし、重要なのは「享受目的」がないことです。もし、RAGシステムが、ユーザーに対して元の新聞記事や小説をそのまま読ませることを主目的として作られている場合、それは情報解析ではなく、著作物の配信(享受)とみなされます。この場合、第30条の4の適用外となり、著作権者の許諾が必要になります。

つまり、RAG構築のためのデータ保存自体は適法となるケースが多いものの、最終的なアウトプットが「元のコンテンツの代わり」として機能してしまうと、適法性が揺らぐ可能性があるという点を理解しておく必要があります。

RAG利用で著作権侵害になる「アウト」なケース

ここからは、実際にRAGを利用していて著作権侵害とみなされる可能性が高い具体的なケースについて解説します。

著作権法上、侵害が成立するには主に「依拠性(元の作品を知っていたか)」と「類似性(元の作品と似ているか)」の2点が要件となります。

RAGの仕組み上、特定のデータを参照している時点で「依拠性」は認められやすいため、特に「類似性」と利用目的が重要な判断基準となります。

どのような出力や使い方がNGになるのか、詳しく見ていきましょう。

回答結果が元の文章とそっくりな場合(類似性)

最も著作権侵害のリスクが高いのは、RAGによって生成された回答が、参照元の文章と酷似している場合です。これを「類似性が認められる」状態といいます。

例えば、ニュース記事をデータソースとしてRAGに読み込ませ、「この記事の内容を教えて」と指示したとします。その結果、AIが出力した文章が、元の記事の本文をほぼそのままコピー&ペーストしたような状態であったり、語尾を少し変えた程度であったりする場合、これは新たな著作物ではなく、原著作物の「複製」とみなされる可能性が高くなります。

著作権法では、単なる事実やデータには著作権は発生しませんが、記事の構成や表現の工夫(創作性)がある部分まで似てしまうとアウトです。GPT-5などの最新モデルは長考(Thinkingモード)が可能になり、高度な要約や言い換えが得意になっていますが、プロンプトの指示出しによっては原文に近い出力をあえて行ってしまうこともあります。

RAGを利用する際は、原文の「表現」ではなく「事実情報」のみを抽出するように制御することが、類似性を回避するための重要なポイントとなります。

元の文章を知った上で生成させた場合(依拠性)

著作権侵害の要件である「依拠性」とは、既存の著作物に接し、それを参考にして作成したことを指します。偶然似てしまった場合は侵害になりませんが、知っていて似せた場合は侵害となります。

RAGのシステムにおいては、構造上この依拠性が「ほぼ確実に認められる」という特徴があります。なぜなら、RAGはユーザーの質問に関連する特定のドキュメントを意図的に検索し、それをプロンプト(指示文)に含めてAIに渡しているからです。つまり、システム側が元の著作物を明確に認識し、利用していることは技術的に明白です。

そのため、もし裁判などで争いになった場合、「たまたま似てしまっただけだ」という反論はRAGにおいては通用しにくいと考えられます。依拠性が前提となる以上、出力結果の類似性をどこまで低減できるか、あるいは「引用」などの適法な利用形態の要件を満たしているかが、よりシビアに問われることになります。

開発者や利用者は、RAGが常に「カンニングペーパーを見ながら回答を書いている状態」であることを意識し、そのカンニングペーパーの中身をそのまま書き写さないような仕組み作りを徹底しなければなりません。

著作権侵害の判断基準となる「依拠性」などの用語については、こちらの用語集でも詳しく解説されています。理解を深めるためにご参照ください。 https://www.hokutopat.com/glossary/6205

生成された回答を「享受」する目的で利用する場合

著作権法第30条の4が適用されるのは、あくまで情報解析や技術開発などのために利用する場合であり、著作物を「享受」する目的が含まれていてはいけません。「享受」とは、読み物として読んだり、映像として鑑賞したりして、その知的・精神的効果を得ることを指します。

RAGにおいても、この「享受目的」があるかどうかが適法性の分かれ目になります。例えば、有料の会員制ニュースサイトの記事をクローリングしてRAG化し、社員がそのRAGチャットボットを通じて、本来はお金を払わないと読めない記事の内容を全文閲覧できるようにしていたとします。これは明らかに、記事の内容を「享受」することを目的としており、情報解析の範疇を超えています。

また、小説や脚本などの創作性の高いコンテンツをRAGに取り込み、ストーリーを楽しめるような出力をさせることも同様にアウトです。ビジネス文書やマニュアルのような実用的な文章であっても、RAGを利用することで正規品の購入や契約が不要になるような使い方は、権利者の利益を不当に害すると判断される可能性が高いです。RAGはあくまで業務支援や検索補助のツールとして位置づけ、コンテンツそのものを消費する手段にしないことが重要です。

RAGが元の文章を「デッドコピー」してしまうリスク

デッドコピーとは、元の文章を一字一句違わずにそのまま複製することを指します。RAGシステムにおいて、プロンプトエンジニアリングが不十分であったり、利用するLLMの特性によっては、参照テキストをそのままユーザーに提示してしまう「デッドコピー」が発生するリスクがあります。

特に注意が必要なのは、ユーザーが「〇〇という資料の第3章を全部見せて」といった指示を出した場合です。これに対してAIが素直にデータベース内のテキストを全文出力してしまうと、それはもはや生成AIによる回答ではなく、単なる著作物の違法アップロードや送信と同じ行為になってしまいます。

また、引用の要件(主従関係や明瞭区分など)を満たさずにデッドコピーを表示することも著作権侵害になります。これを防ぐためには、システム側で一度に出力できる文字数を制限したり、プロンプト内で「原文をそのまま出力することを禁止する」といった制約(システムプロンプト)を厳格に設けたりする対策が不可欠です。

AIは指示されたことを忠実に実行しようとするため、著作権の概念を持たないAIに対して、人間側がブレーキをかける設定をしておく必要があります。

ニュースやWebサイトをRAGのデータソースにする際の注意点

社内データだけでなく、Web上の最新ニュースや専門サイトの情報をRAGに取り込みたいというニーズは多いでしょう。

しかし、インターネット上で公開されている情報だからといって、自由にRAGのデータベースに組み込んで良いわけではありません。

Webデータの利用には、著作権法だけでなく、利用規約やWebサイト特有のルールが絡んできます。

ここでは、外部データをRAG化する際に必ず確認すべき権利問題と注意点を解説します。

Web上のデータをクローリングしてRAG化するのは適法か

Web上のデータをクローリング(自動収集)してRAGのデータベースに取り込む行為自体は、日本の著作権法第30条の4に基づけば、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能です。これは、情報解析やAIの回答生成のための準備行為として認められる範囲が広いためです。

しかし、これはあくまで「著作権法上は直ちに違法とならない」という意味に過ぎません。著作権法でOKであっても、Webサイト側が利用規約(Terms of Use)でスクレイピングやクローリングを禁止している場合、その規約に同意して利用したとみなされれば、契約違反(民法上の不法行為)に問われるリスクがあります。

特に、ログインが必要な会員サイトや、画面上に明確に「AI学習禁止」「スクレイピング禁止」と掲げているサイトのデータを無理やり収集することは避けるべきです。法的な解釈は個別のケースによりますが、ビジネスとしてRAGを展開する場合、コンプライアンスの観点から、無断でのクローリングは慎重になる必要があります。

ニュースサイトや記事データベースを利用する場合の権利問題

ニュースサイトや専門記事のデータベースは、情報の鮮度と正確性が高いためRAGのソースとして非常に魅力的です。しかし、これらのコンテンツは新聞社や出版社が多大なコストをかけて作成したものであり、著作権で強力に保護されています。

多くの大手ニュースサイトや記事配信サービスでは、商用利用やAIへのデータ供給に関するガイドラインを策定しています。無断で記事データを大量に取得し、自社のRAGサービスを通じて第三者に提供するような行為は、著作権侵害はもちろんのこと、「不法行為」として損害賠償請求の対象になる可能性があります。

例えば、記事の見出し(ヘッドライン)だけであれば著作物性が否定されるケースもありますが、本文や要約を含めてデータベース化する場合はリスクが高まります。安全に利用するためには、ニュース配信会社が提供しているAPIを利用したり、法人契約を結んで正規のライセンスを取得したりすることが最も確実な方法です。コストを惜しんで無断利用することは、後の訴訟リスクを考えると割に合わない選択と言えるでしょう。

日本新聞協会などが公表している、ニュースコンテンツのAI利用に関する声明も重要です。権利者側のスタンスを理解する資料としてご覧ください。 https://www.pressnet.or.jp/statement/broadcasting/240717_15523.html

robots.txtで拒否されているサイトのデータ利用について

Webサイトの管理者・運営者は、「robots.txt」というファイルをサーバーに設置することで、検索エンジンのクローラーなどのアクセスを制御しています。このファイルに「Disallow(拒否)」の記述がある場合、サイト運営者は自動収集を拒否している意思表示をしていることになります。

法的に言えば、robots.txtを無視してクローリングしたからといって、直ちに刑事罰を受けるわけではありません。しかし、技術的な拒否措置を回避してアクセスを繰り返すと、サーバーへの負荷をかけたとして偽計業務妨害罪に問われたり、民事上の不法行為認定をされたりする恐れがあります。

OpenAIなどの大手AI企業も、GPT-Botなどのクローラーに対するrobots.txtの記述を尊重する姿勢を示しています。RAG用のデータ収集を行う際も、robots.txtを確認し、収集拒否の設定がされているサイトについては、データソースから除外するのが倫理的かつ安全な運用と言えます。

有料データベースや契約が必要なサイトを利用する場合のリスク

有料の調査レポート、論文データベース、業界専門ニュースなどは、利用にあたって必ず契約(利用規約への同意)が発生します。ここで重要なのは「契約は著作権法の例外規定よりも優先される場合が多い」という点です。

たとえ著作権法第30条の4で「情報解析目的の複製はOK」となっていても、利用規約に「AI学習への利用禁止」「複製・蓄積の禁止」と明記されており、その規約に同意してサービスを利用している場合は、契約違反となります。これを「オーバーライド問題」と呼ぶこともあります。

特に、IDとパスワードでログインする有料サイトの場合、規約への同意プロセスが明確であるため、契約の効力が強く認められます。社内で契約している有料データベースをRAGに連携させたい場合は、必ず提供元の利用規約を確認し、必要であれば担当者に問い合わせて「RAGでの社内検索利用」が可能かどうか許諾を得るプロセスが必須です。

RAG利用時に著作権侵害を防ぐための具体的な対策

ここまでの解説で、RAGには著作権リスクが潜んでいることがお分かりいただけたかと思います。

しかし、適切な対策を講じることで、これらのリスクを大幅に低減させ、安全に業務活用することが可能です。

技術的な設定から運用ルールまで、企業が導入すべき具体的な対策について解説します。

RAGの回答に「引用元」を必ず明記させる

最も基本的かつ効果的な対策の一つは、RAGが回答を生成する際に、情報の出所(引用元)を必ず明記させることです。どのドキュメント、どのWebページの情報を参照したのかをユーザーに提示することで、情報の透明性が確保されます。

著作権法上の「引用」の要件を満たすには、出典の明示が必要です。RAGのシステム設計において、回答文の末尾や該当箇所にリンクや文書名を自動挿入する機能を実装しましょう。これにより、ユーザーは回答がAIによる創作なのか、既存の情報を参照したものなのかを判断しやすくなります。

また、引用元を表示することで、ユーザーが必要に応じて原文(一次情報)を確認しに行く導線も作れます。これは情報の正確性を担保する上でも重要であり、万が一回答内容に誤りがあった場合のリスクヘッジにもつながります。

なお、生成AIの出力が不正確になる「ハルシネーション」への対策については、こちらの記事で具体的な方法を解説しています。ご参照ください。

原文のまま出力させず、要約や回答の生成に徹させる

類似性を回避するための技術的な対策として、プロンプトエンジニアリングが非常に重要です。システムプロンプト(AIへの基本指示)において、「参照テキストをそのまま出力してはいけない」「事実に基いて、あなたの言葉で要約・回答しなさい」「著作権に配慮し、表現を大幅に変更すること」といった制約を明確に与えます。

特にGPT-5やGPT-4o miniなどの高性能モデルは、指示に従う能力が高いため、このような制約を設けることでデッドコピーのリスクを減らせます。また、RAGの検索結果としてAIに渡すテキスト(コンテキスト)の量を調整し、全文ではなく必要な断片のみを渡すように設計するのも有効です。

出力形式としても、文章での回答だけでなく、箇条書きや表形式を指定することで、原文の表現(文章の創作性)との類似性を低くすることができます。

著作権侵害を防ぐためのプロンプトの設計についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。

入力データを選定する際のチェックリスト(ホワイトリスト化)

RAGのデータベースに入れる情報を無差別に収集するのではなく、権利関係がクリアなものだけを選定する「ホワイトリスト方式」を採用しましょう。具体的には、自社で作成したマニュアル、議事録、プレスリリース、および利用許諾が得られているパートナー企業の資料などに限定します。

インターネット上の情報を入れる場合も、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスが付与されているものや、政府・自治体が公開しているオープンデータなど、再利用が推奨されているソースを中心にするのが安全です。

入力データを選定する際のチェックリストを作成し、「著作者は誰か」「利用規約でAI利用は禁止されていないか」「個人情報や機密情報は含まれていないか」を都度確認するフローを業務に組み込むことを推奨します。

社内利用・社外提供それぞれの利用規約・ガイドラインを策定する

システム側の対策だけでなく、利用者側の行動を律するガイドラインの策定も不可欠です。社内利用(従業員向け)の場合と、社外提供(顧客向けサービス)の場合で、必要な規定は異なります。

社内利用の場合は、「生成された文章をそのまま社外に公表しない」「必ずファクトチェックを行う」「違法なサイトのURLを入力しない」といったルールを定めます。一方、社外にRAG機能を提供する場合は、サービス利用規約において「AIの回答の正確性を保証しない」「著作権侵害に関する免責事項」などを明記し、法的な防衛線を張っておく必要があります。

AI技術や法規制は変化が激しいため、ガイドラインは一度作って終わりではなく、最新の動向に合わせて定期的に見直し・更新を行う体制を作ることが望ましいです。

自治体における生成AIの利用ガイドラインの事例として、鹿嶋市の資料などが公開されています。策定時の参考資料としてお役立てください。 https://city.kashima.ibaraki.jp/uploaded/attachment/59486.pdf

RAGと著作権に関するよくある質問

最後に、RAG導入を検討している企業からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

現場での判断に迷いやすいポイントをピックアップしていますので、自社の運用と照らし合わせて確認してみてください。

社内ドキュメントだけをRAG化する場合も著作権の確認は必要?

はい、必要です。基本的には自社が著作権を持つ社内ドキュメントであれば問題ありませんが、注意すべきなのは「社内資料の中に、他社の著作物が紛れ込んでいないか」という点です。

例えば、社内研修資料の中にWeb記事のコピーが貼り付けられていたり、提案書の中に他社の調査レポートの画像が含まれていたりするケースはよくあります。これらをそのままRAG化して出力すると、間接的に他社の著作権を侵害してしまう可能性があります。特に画像内の文字を認識して回答する場合などは注意が必要です。

著作者から削除要請があった場合はどう対応すべき?

RAGのデータソースにWeb情報などを含めている場合、著作者から「自分の記事をデータベースから削除してほしい」という要請が来る可能性があります。この場合は、速やかに削除対応を行うのが賢明です。

法的に削除義務があるかどうかはケースバイケース(30条の4の適用範囲など)ですが、トラブルを長期化させたり、企業のレピュテーションリスクを高めたりすることは避けるべきです。RAGシステムを構築する際は、特定のデータをデータベース(ベクトルストア)から個別に削除できる機能をあらかじめ実装しておくことが重要です。

RAGシステム開発を外注する場合の責任の所在は?

RAGシステムの開発を外部のベンダーに委託する場合、著作権侵害が発生した際の責任の所在は、契約内容や侵害の原因によって異なります。

一般的には、システムそのものの欠陥(プロンプト設計ミスによるデッドコピーなど)であればベンダー側の責任が問われる可能性がありますが、投入したデータ(学習データ)に問題があった場合は、データを提供した発注者側の責任となることが多いです。

開発委託契約書において、知財侵害時の損害賠償責任や、保証の範囲(どこまでベンダーが責任を持つか)を明確に定めておくことがトラブル防止に繋がります。また、生成AI特有のリスクであることを双方が理解し、準委任契約の形態をとるなど、柔軟な協力体制を築くことも大切です。

【深層】「享受」の境界線はどこにある?文化庁の見解から読み解くRAGの法的リスク

今回の記事ではRAGにおける「享受」の目的が含まれると違法になる可能性について触れられていますが、実務上、どこまでが情報解析で、どこからが享受なのかの線引きは非常に曖昧です。ここで重要になるのが、文化庁が公表している「AIと著作権に関する考え方」における具体的な判断基準です。

文化庁の資料によれば、著作権法第30条の4はあくまで「著作物に表現された思想又は感情」を味わうことを目的としない場合に限定されています。RAGにおいて特に注意が必要なのは、出力結果が「要約」である場合です。単なるデータの抽出ではなく、元の文章の創作的な表現を残したまま要約した場合、それは「翻案」にあたり、ユーザーがその要約を読むことで元の記事を読んだのと同等の満足感(効用)を得られるならば、それは「享受」に該当すると解釈される可能性が高まります。

つまり、RAGが「答え」だけでなく「読み物としての価値」を提供してしまった瞬間に、適法性のラインを越えるリスクが生じるのです。開発者は、出力が代替的なコンテンツになっていないか、常に厳しく監視する必要があります。

引用元:

文化庁著作権課「AIと著作権に関する考え方について(周知・啓発資料)」令和6年3月

文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方(素案)」令和6年1月

【盲点】利用規約は法律よりも強い?「契約優先の原則」とオーバーライド問題

多くの企業が見落としがちなのが、著作権法と利用規約(契約)の優先順位です。日本の著作権法第30条の4は「機械学習パラダイス」と呼ばれるほど柔軟な権利制限規定ですが、これはあくまで「著作権法上は侵害にならない」ということに過ぎません。

経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」などでも示されている通り、当事者間で有効に成立した契約(利用規約)がある場合、その契約内容は原則として著作権法の規定よりも優先されます。これを「オーバーライド問題」と呼びます。

例えば、ある有料データベースの利用規約に「解析目的であっても、当社の事前の書面による承諾なくデータを蓄積・利用することを禁ず」と明記されていた場合、ユーザーが「同意」ボタンを押して利用している以上、著作権法30条の4を盾にして契約違反を免れることは困難です。RAGのデータソース選定においては、法律の条文だけでなく、各サイトのTerms of Service(利用規約)を精査することが、法的防衛の最重要ラインとなります。

引用元:

経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」

内閣府 知的財産戦略本部「AI時代の知的財産権検討会 検討における論点整理」

まとめ

企業がRAG(検索拡張生成)などの生成AI技術を導入する際、今回解説したような著作権法や利用規約に関する複雑な権利処理は避けて通れません。しかし、法務確認やデータ選定の厳格な運用は、現場にとって大きな負担となり、DX推進の足かせとなることも事実です。

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