「LangChainを使ってRAGを構築したいけれど、公式ドキュメントが難しくて挫折した…」
「RAGの仕組みはなんとなく理解できたが、Pythonで具体的にどう実装すればいいのか分からない」
生成AIの開発において、このような悩みを抱えているエンジニアの方は多いのではないでしょうか?
LangChainとRAGを組み合わせることで、社内データに基づいた回答をするAIや、専門知識を持ったチャットボットを効率的に開発できますが、その構成要素は多岐にわたり、学習コストが高いのも事実です。
本記事では、LangChainとRAGの基礎概念から、主要モジュールの役割、そしてPythonを用いた具体的な実装ステップまでを網羅的に解説しました。
上場企業様向けに生成AIを活用したシステム開発・コンサルティングを行っている弊社が、実務で培ったノウハウをベースに解説します。
これからRAG開発に挑戦する方にとって、必ず役立つ内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
LangChainとRAG(検索拡張生成)の基礎知識
まずは、LangChainとRAGの基本的な概念と、それらを組み合わせる意義について解説します。
- LangChainの役割と特徴
- RAG(検索拡張生成)の仕組み
- LangChainでRAGを構築するメリット
これらを理解することで、なぜこの技術スタックが現在のAI開発においてスタンダードとなっているのかが見えてきます。
それでは、一つずつ見ていきましょう。
LangChainとは?LLMアプリ開発を効率化するフレームワーク
LangChainは、大規模言語モデル(LLM)を利用したアプリケーション開発を効率化するためのオープンソースフレームワークです。
通常、OpenAIのGPT-5などのLLMを単体で利用する場合、APIにテキストを投げて回答を得るだけですが、実際のアプリケーションではそれだけでは不十分なケースが多々あります。
例えば、長い文章を要約したり、過去の会話履歴を記憶させたり、外部の検索エンジンと連携させたりといった複雑な処理が必要です。
LangChainは、こうした「LLMと他の機能を連携(チェーン)させる処理」を抽象化し、簡単に実装できるようにしたツール群です。
PythonやJavaScriptで提供されており、プロンプトの管理、メモリ機能、エージェント機能など、LLMアプリ開発に必要な部品がすべて揃っています。
これを利用することで、エンジニアはゼロから複雑なロジックを組むことなく、レゴブロックを組み合わせるように高度なAIアプリケーションを構築できるのです。
ちらはLangChainの公式ドキュメントです。最新の仕様や変更点についてはこちらをご確認ください。 合わせてご覧ください。 https://python.langchain.com/
RAGとは?外部データを活用して回答精度を高める仕組み
RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)は、LLMが学習していない外部データを参照して、回答の精度や具体性を高める技術です。
LLMは膨大な知識を持っていますが、「学習データのカットオフ日以降の情報」や「社内規定などの非公開情報」については回答できません。
無理に回答させようとすると、もっともらしい嘘(ハルシネーション)をつく可能性があります。
RAGでは、ユーザーの質問に対して、まず関連するドキュメントを外部データベースから検索(Retrieval)します。
次に、検索で見つかった情報とユーザーの質問を合わせて、LLMにプロンプトとして渡します(Augmentation)。
最後に、LLMがその情報を元に回答を生成(Generation)します。
この仕組みにより、AIは常に最新のニュースや、特定の業務マニュアルに基づいた正確な回答が可能になります。
まさに、LLMに「カンニングペーパー」を渡して試験を受けさせるようなイメージです。
こちらはRAG(検索拡張生成)の基礎理論を提唱した原典論文です。理論的背景を深く知りたい方はこちらをご確認ください。 合わせてご覧ください。 https://arxiv.org/abs/2005.11401
LangChainを使ってRAGを構築するメリット
LangChainを用いてRAGを構築する最大のメリットは、実装の標準化と効率化にあります。
RAGをゼロから構築しようとすると、PDFの読み込み、テキストの分割、ベクトル化、データベースへの保存、検索ロジックの実装など、多くの工程を個別にコーディングする必要があります。
LangChainには、これらの工程に対応するモジュール(部品)があらかじめ用意されています。
例えば、PDFを読み込むためのローダーや、主要なベクトルデータベースとの接続コネクタなどが標準装備されているため、数行のコードで複雑な処理を実現できます。
また、モデルの差し替えも容易です。最初はOpenAIのモデルで開発し、コスト削減のために別のモデルに切り替えるといった場合でも、コードの修正は最小限で済みます。
さらに、LangChainのエコシステムは非常に活発で、新しい技術や手法(例えばGraphRAGなど)がいち早くライブラリに取り込まれるため、常に最先端の技術を享受できる点も大きな魅力です。
RAG構築に必要なLangChainの主要モジュール
LangChainを使ってRAGを構築する際には、いくつかの重要なモジュールを組み合わせる必要があります。
- Document Loaders(データの読み込み)
- Text Splitters(テキストの分割)
- Embeddings & Vector Stores(ベクトル化と保存)
- Retrievers(情報の検索)
- LCEL(処理の連鎖)
ここでは、それぞれのモジュールがどのような役割を果たしているのかを具体的に解説します。
Document Loaders:PDFやWebなどあらゆるデータを読み込む
RAGの第一歩は、AIに参照させたいデータを読み込むことです。これを担うのがDocument Loadersです。
ビジネスの現場には、Wordファイル、PDF、Excel、CSV、Webページ、Notionのドキュメントなど、多種多様な形式のデータが存在します。
これらを一つひとつPythonの標準ライブラリで解析するのは非常に骨が折れる作業です。
LangChainのDocument Loadersは、これらの多様なデータソースに対応した専用のローダークラスを提供しています。
例えば、PyPDFLoaderを使えばPDFを、WebBaseLoaderを使えば指定したURLのWebページを、テキストデータとして簡単にプログラムに取り込むことができます。
また、単にテキストを抽出するだけでなく、メタデータ(ファイル名や作成日など)も同時に取得できるため、後の検索精度向上に役立てることも可能です。
データソースが何であれ、LangChainを通すことで統一された形式(Documentオブジェクト)として扱えるようになるのが大きな利点です。
Text Splitters:LLMの制限に合わせてテキストを適切に分割する
読み込んだドキュメントは、そのままでは長すぎてLLMに渡せないことがよくあります。
また、長すぎるテキストは情報の密度が薄まり、検索精度を下げる原因にもなります。そこで必要になるのがText Splittersです。
このモジュールは、長いテキストを意味のあるまとまり(チャンク)ごとに分割する役割を持ちます。
単純に文字数で区切るだけでなく、句読点や改行コード、段落などを考慮して、文脈が途切れないように分割する工夫がされています。
代表的なものにRecursiveCharacterTextSplitterがあります。これは、まず段落で分けようとし、それがだめなら文で、それでもだめなら単語で、といった具合に、再帰的に適切な区切り位置を探します。
適切なサイズに分割されたチャンクは、後のベクトル検索において「ユーザーの質問に最も近い部分」をピンポイントで見つけ出すために非常に重要です。
チャンクサイズの調整はRAGの精度を左右する重要なチューニングポイントの一つです。
Embeddings & Vector Stores:データをベクトル化して保存・検索する
分割されたテキスト(チャンク)を、コンピュータが計算可能な形式に変換し、保存する仕組みがEmbeddingsとVector Storesです。
Embeddings(埋め込み表現)モデルは、テキストを数百から数千次元の数値の配列(ベクトル)に変換します。
このベクトル化により、コンピュータは言葉の意味的な近さを数学的な距離として計算できるようになります。
例えば、「猫」と「子猫」のベクトルは近く、「猫」と「車」のベクトルは遠くなるといった具合です。
Vector Stores(ベクトルデータベース)は、このベクトル化されたデータを高速に検索・保存するための専用データベースです。
Chroma、FAISS、Pineconeなどが有名で、LangChainはこれらとスムーズに連携できます。
ユーザーが質問をした際、その質問文も同様にベクトル化され、Vector Store内で「距離が近い(意味が似ている)」チャンクを瞬時に探し出します。
これがRAGにおける「検索」の正体であり、テキストの一致ではなく意味の一致で検索できる理由です。
Retrievers:ユーザーの質問に関連する情報を抽出する
Retrieversは、Vector Storeに保存されたデータから、ユーザーの質問に関連する情報を効率的に取り出すためのインターフェースです。
基本的にはVector Storeの検索機能を利用しますが、LangChainのRetrieverはそれ以上の高度な機能を提供します。
単に類似度が高い順にデータを取得するだけでなく、様々な検索アルゴリズムを適用することができます。
例えば、MultiQueryRetrieverは、ユーザーの質問から複数の異なる言い回しの検索クエリを自動生成し、多角的に検索を行うことで、検索漏れを防ぎます。
また、EnsembleRetrieverを使えば、キーワード検索(BM25など)とベクトル検索(意味検索)を組み合わせて、両方のいいとこ取りをしたハイブリッド検索も実現可能です。
さらに、検索結果の多様性を確保するためのMMR(Maximum Marginal Relevance)という手法もサポートしており、似通った情報ばかりが集まるのを防ぐこともできます。
Retrieverの設定次第で、RAGの回答品質は劇的に変化します。
こちらはCohere Rerankを用いた検索精度の改善効果について解説した記事です。 合わせてご覧ください。 https://aws.amazon.com/jp/blogs/machine-learning/improve-rag-performance-using-cohere-rerank/
LCEL(LangChain Expression Language):処理をチェーンとして繋ぐ
LCEL(LangChain Expression Language)は、これまで解説した各モジュールを繋ぎ合わせ、一連の処理フロー(チェーン)として定義するための記法です。
以前のLangChainでは、Pythonのクラスや関数を使ってチェーンを定義していましたが、コードが複雑になりがちでした。
LCELを使用すると、UNIXのパイプライン(|)のような直感的な構文で、処理の流れを記述できます。
具体的には、「プロンプトのテンプレート」|「LLM」|「出力パーサー」といったように、左から右へとデータが流れていく様子をそのままコードで表現できます。
RAGの場合であれば、「Retriever」から取得したドキュメントと「質問」を組み合わせてプロンプトに入れ、それをLLMに渡す、という流れを簡潔に記述可能です。
この記法により、可読性が高まるだけでなく、ストリーミング出力や非同期処理、並列実行などの高度な機能も簡単に実装できるようになります。
現在、LangChainでの開発においては、このLCELを用いた実装が標準となっています。
【ハンズオン】LangChainを用いたRAGの実装ステップ
ここからは、実際にPythonコードを用いてRAGを構築する手順を解説します。
- 環境構築
- データの読み込みと分割
- ベクトル化と保存
- Retrieverの設定
- プロンプト作成とLLM実行
- RAGチェーンの実行
今回は初心者でも試しやすいように、無料でも利用可能なツールやモデルを想定しつつ、実務レベルの構成を紹介します。
環境構築:必要なライブラリのインストールとAPIキーの設定
まずは開発環境を整えます。Pythonがインストールされた環境(Jupyter Notebookなど)を用意し、必要なライブラリをインストールします。
pip install langchain langchain-openai chromadb pypdf
ここでは、LangChain本体に加え、OpenAIとの連携用ライブラリ、ベクトルDBとして手軽に使えるchromadb、PDF読み込み用のpypdfをインストールします。
また、APIキーの設定も必要です。
OpenAIのモデルを使用する場合、環境変数にOPENAI_API_KEYを設定します。
最新のモデルを利用するためにも、OpenAIのアカウント設定ページからAPIキーを取得しておきましょう。
セキュリティの観点から、コードに直接キーを書き込むのではなく、.envファイルなどで管理することを強く推奨します。
ステップ1:独自データを読み込み、チャンク(分割)処理を行う
最初のステップは、RAGの知識源となるドキュメントの読み込みです。
今回は例として、社内マニュアルのPDFファイルを読み込む想定で進めます。
PyPDFLoaderクラスを使用してPDFをロードし、pagesという変数に内容を格納します。
次に、RecursiveCharacterTextSplitterを使用して、読み込んだテキストを適切なサイズに分割します。
チャンクサイズ(chunk_size)は1000文字程度、オーバーラップ(chunk_overlap)は200文字程度に設定するのが一般的です。
オーバーラップを設定することで、文章の切れ目で文脈が失われるのを防ぎます。
分割されたそれぞれのチャンクは、LangChainのDocumentオブジェクトとしてリスト形式で保存され、次のステップでベクトル化される準備が整います。
ステップ2:Embeddingモデルでデータをベクトル化しDBに保存する
テキストを分割したら、それをベクトル化してVector Store(今回はChromaを使用)に保存します。
Embeddingモデルには、OpenAIのtext-embedding-3-smallなどが高性能で安価ですが、用途に合わせて選択してください。
コードでは、Chroma.from_documentsメソッドを使用します。このメソッドに、先ほど分割したドキュメントのリストと、Embeddingモデルのインスタンスを渡すだけで、ベクトル化とデータベースへの保存が一括で行われます。
この処理は、データ量によっては時間がかかる場合がありますが、一度DBに保存してしまえば、以降は永続化(persist)されたデータを利用できるため、毎回実行する必要はありません。
ローカル環境にDBファイルが作成され、そこに知識が蓄積されていくイメージです。
ステップ3:Retrieverを設定して関連ドキュメントを検索する
データベースの準備ができたら、そこから情報を引き出すためのRetriever(検索機)を作成します。
作成したVector Storeインスタンスから.as_retriever()メソッドを呼び出すことで、簡単にRetrieverオブジェクトを生成できます。
この際、検索の挙動をカスタマイズするパラメータを設定できます。
例えば、search_kwargs={“k”: 3}と指定すれば、類似度の高いドキュメントを上位3件まで取得するようになります。
また、検索タイプ(search_type)として、通常の類似度検索(similarity)や、多様性を重視するMMR検索(mmr)を選択することも可能です。
まずは基本的な設定で試し、回答の精度を見ながら調整していくのが良いでしょう。
ステップ4:プロンプトテンプレートを作成しLLMへ渡す
次に、LLMへの指示書となるプロンプトテンプレートを作成します。
ここでは、「以下の文脈(context)に基づいて、質問に答えてください」という指示とともに、検索された情報とユーザーの質問を埋め込む場所を作ります。
そして、利用するLLMモデルを定義します。
ここで重要なのがモデルの選定です。最新のOpenAIのモデル構成では、用途に合わせて使い分けることが推奨されています。
2025年8月にリリースされた最新の「gpt-5」は、複雑な推論が必要な質問に対して、思考時間を自動で調整し高精度な回答を生成します。
一方、コストを抑えたい場合や、単純な要約タスクなどでは「gpt-5-mini」や「gpt-5-nano」を選択することも可能です。
RAGの用途が専門的な分析ならgpt-5を、定型的なQ&Aならgpt-5-miniを選ぶなど、API呼び出し時のモデル名を適切に設定しましょう。
RAGに特化したプロンプトの作成方法については、「ChatGPTでRAGのプロンプトを作成する方法」で詳しく解説しています。 合わせてご覧ください。
ステップ5:RAGチェーンを実行して回答を生成する
最後に、これまでの全ての要素をLCELを使って一本のチェーンに繋ぎ、実行します。
チェーンの定義は以下のようになります。
chain = ( {“context”: retriever, “question”: RunnablePassthrough()} | prompt | llm | StrOutputParser() )
この記述により、「質問を受け取る」→「Retrieverが関連情報を検索」→「プロンプトに情報を埋め込む」→「LLMが回答生成」→「文字列として出力」という一連の流れが自動化されます。
あとはchain.invoke(“あなたの質問”)を実行するだけで、社内データに基づいた回答が返ってきます。
これで、基本的なRAGアプリケーションの完成です。
これを出発点として、Web UIを付けたり、参照元を表示させる機能を追加したりと、アプリケーションを拡張していくことができます。
RAGの精度向上と応用:LangGraphやローカルLLMの活用
基本的なRAGが動くようになったら、次は精度の向上や、より複雑なタスクへの対応を検討しましょう。
- LangGraphによるエージェント化
- LangGraphを使った具体的なRAG構築
- ローカルLLM(Ollama)での運用
- 精度が低い場合の改善ポイント
ここでは、一歩進んだRAG開発のための技術トレンドとチューニング手法を紹介します。
LangGraphとは?エージェント機能でより複雑な処理を実現する
LangGraphは、LangChain上に構築された、より高度なAIエージェントを作成するためのライブラリです。
通常のLangChainのチェーンは、A→B→Cという一方通行(DAG)の処理が得意ですが、実際の業務では「検索結果が不十分なら別のキーワードで再検索する」といったループ処理や条件分岐が必要になることがあります。
LangGraphは、こうした循環的なフロー(サイクル)をグラフ構造として定義できるように設計されています。
これにより、AIが自律的に判断して行動する「エージェント」を構築しやすくなります。
例えば、ユーザーの質問が曖昧な場合に聞き返したり、Web検索と社内DB検索を使い分けたりといった、人間のような柔軟な対応が可能になります。
こちらはLangGraphの公式ドキュメントです。エージェントワークフローの具体的な記述方法についてはこちらをご確認ください。 合わせてご覧ください。 https://langchain-ai.github.io/langgraph/
LangGraphを使ってRAGエージェントを構築する方法
LangGraphを用いてRAGを構築すると、「Self-RAG(自己修正RAG)」のような高度なシステムが実現できます。
具体的には、LLMが生成した回答に対して、別のLLM(あるいは自分自身)が「この回答は質問に答えているか?」「事実に即しているか?」を評価するフローを組み込みます。
もし評価が低ければ、検索クエリを修正して再度ドキュメントを検索し、回答を作り直すというループを回します。
実装においては、StateGraphというクラスを用いて、ステート(現在の状態)とノード(処理単位)、エッジ(遷移ルール)を定義します。
少しコード記述量は増えますが、単方向のRAGに比べて、ハルシネーションの低減や回答精度の向上が劇的に期待できるため、実用レベルのアプリ開発では主流になりつつあります。
Ollamaなどを使ってローカルLLMでRAGを動かす方法
セキュリティの観点から、社内データをクラウド上のAPI(OpenAIなど)に送信したくないという企業も存在します。
そのような場合に有効なのが、Ollamaなどを用いたローカルLLMでのRAG構築です。
Ollamaを使えば、Llama 3やMistralなどの高性能なオープンソースモデルを、自分のPCや社内サーバー上で手軽に動かすことができます。
LangChainはOllamaとの連携もサポートしており、ChatOllamaクラスを使用することで、OpenAIのモデルと同じような感覚でコードを書くことができます。
Embeddingsモデルもローカルで動作するもの(Hugging Face上のモデルなど)に変更すれば、インターネットに一切接続しない、完全オフラインのセキュアなRAG環境を構築することが可能です。
機密情報を扱うプロジェクトでは、この構成が非常に重宝されます。
こちらはLangChainとOllamaの連携方法について解説した公式ドキュメントです。 合わせてご覧ください。 https://python.langchain.com/docs/integrations/llms/ollama/
RAGの回答精度が低い場合のチューニングポイント
「RAGを作ってみたけど、思ったような回答が返ってこない」という場合、いくつかの見直すべきポイントがあります。
まず、「チャンクサイズ」です。小さすぎると文脈が切れ、大きすぎるとノイズが混じります。データ特性に合わせて調整が必要です。
次に、「検索アルゴリズム」です。キーワード検索とベクトル検索を併用するハイブリッド検索を導入することで、固有名詞の検索精度が上がります。
また、「元データの質」も重要です。PDFが画像化されていて文字が正しく読み取れていない場合などは、OCRの精度を見直す必要があります。
さらに、前述したLangGraphを用いた「推論・検証ループ」の導入や、プロンプトエンジニアリングによる指示の明確化も効果的です。
精度向上は一発で解決するものではなく、これらの要素を一つひとつ検証していく地道な作業となります。
LangChain×RAGの具体的なビジネス活用事例
技術的な解説の最後に、LangChainとRAGが実際のビジネス現場でどのように活用されているか、具体的な事例を紹介します。
- 社内ナレッジ検索システム
- 専門分野特化型チャットボット
- ECサイトのレコメンデーション
自社の課題に当てはめながら、活用のイメージを膨らませてください。
RAGは社内データを安全かつ正確に活用するための技術です。 「ChatGPTに社内データを学習させる方法」の記事も参考にしてください。
社内マニュアルやナレッジベースの検索システム
最も一般的かつ導入効果が高いのが、社内ドキュメントの検索システムです。
多くの企業では、業務マニュアル、規定集、過去の議事録などがファイルサーバーやクラウドストレージに散在しており、必要な情報を探すのに時間がかかっています。
RAGを活用すれば、「交通費の申請方法を教えて」とチャットで聞くだけで、経費精算規定のPDFから該当箇所を引用して回答してくれるシステムが作れます。
これにより、バックオフィス部門への問い合わせ件数を削減し、社員が本来の業務に集中できる時間を増やすことができます。
特に、情報の更新頻度が高い組織において、常に最新のドキュメントを参照できるRAGの強みが活かされます。
こちらはAIアシスタント導入により大幅な業務効率化を実現したAir Indiaの事例記事です。 合わせてご覧ください。 https://www.microsoft.com/en/customers/story/1750059518785857549-airindia-microsoft-teams-travel-and-transportation-en-india
特定業界の法律や規制に対応した専門チャットボット
法律、医療、金融など、専門知識が求められる業界でもRAGは活躍しています。
例えば、膨大な法令データや判例を学習・参照させた「法務アシスタントAI」です。
契約書のチェックや、特定の法律解釈に関する質問に対して、根拠となる条文を提示しながら回答を生成します。
LLM単体では「もっともらしい嘘」をつくリスクが高い分野ですが、RAGによって「どの資料の何ページに基づいているか」という出典を明示させることで、信頼性を担保できます。
専門家が最終確認をする前の「一次調査」をAIに任せることで、業務効率を大幅に改善できる事例が増えています。
ECサイトにおける商品レコメンデーション
BtoCの領域では、ECサイトの接客チャットボットとしての活用が進んでいます。
従来のような「選択肢を選んでいくタイプ」のボットではなく、ユーザーの曖昧な要望(「キャンプ初心者なんだけど、家族4人で使えるおすすめのテントはある?」など)に対して、商品データベースをRAGで検索し、最適な商品を提案します。
商品スペックだけでなく、レビュー情報やブログ記事なども知識源として取り込むことで、「設営が簡単だと評判です」といった、ベテラン店員のような補足説明も可能になります。
これにより、ユーザーの購買意欲を高め、コンバージョン率の向上に貢献します。
LangChainでのRAG開発に関するよくある質問
最後に、LangChainを用いたRAG開発において、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- バージョンの更新対応について
- 対応データ形式について
- 他モデルの利用について
開発中のトラブルシューティングや、導入前の検討材料としてお役立てください。
LangChainのバージョン更新でコードが動かない場合は?
LangChainは開発スピードが非常に速く、頻繁にアップデートが行われます。そのため、ネット上の古い記事のコードがそのままでは動かないことがよくあります。
特に、インポートパスの変更やクラスの廃止は日常茶飯事です。
エラーが出た場合は、まず公式ドキュメントの「Migration Guide」を確認しましょう。
また、LangChainは現在、コア機能(langchain-core)とコミュニティ機能(langchain-community)への分離を進めています。
非推奨の警告(DeprecationWarning)が出た場合は、指示に従って新しい記述方法に修正することをお勧めします。
最新の情報をキャッチアップし続けることが、LangChain開発の宿命とも言えます。
どのようなデータ形式(PDF, CSV等)に対応していますか?
LangChainのDocument Loadersは、主要なデータ形式のほぼ全てに対応しています。
PDF、Word(docx)、Excel(xlsx)、CSV、PowerPoint(pptx)などのOffice系ファイルはもちろん、HTML、Markdown、JSONなどのテキストファイルも読み込めます。
さらに、YouTubeの字幕、Notion、Slack、Discord、Google Driveなどの外部サービスから直接データを取得するローダーも用意されています。
もし標準で対応していない特殊な形式であっても、Pythonでテキストを抽出するロジックさえ書ければ、それをLangChainのDocument形式に変換してRAGに組み込むことは容易です。
OpenAI以外のモデル(Claude, Gemini等)も使用できますか?
はい、可能です。LangChainの最大の特徴は、特定のモデルに依存しない「中立性」です。
OpenAIのGPTシリーズだけでなく、GoogleのGemini、AnthropicのClaude、Amazon Bedrockなどの主要な商用LLMに対応したクラスが用意されています。
コード内のモデル定義部分(例えばChatOpenAIをChatAnthropicに)書き換えるだけで、簡単にモデルを切り替えることができます。
「推論は賢いClaude 3.5 Sonnetを使い、単純作業はコストの安いGPT-5-miniを使う」といったように、適材適所でモデルを使い分ける構成も、LangChainならスムーズに実装できます。
あなたのRAGは「もっともらしい嘘」をつく?Gartnerが予測するAIプロジェクト失敗の衝撃的理由
LangChainを使えばRAGは簡単に作れる、そう思っていませんか?実は、安易な実装はプロジェクトの失敗を招く危険な罠かもしれません。ガートナー社の衝撃的な予測によると、2025年末までに生成AIプロジェクトの少なくとも30%が、概念実証(PoC)後に放棄されると言われています。その主な原因は、データ品質の悪さやリスク管理の不備です。この記事では、多くのエンジニアが陥る「とりあえず作ったRAG」の落とし穴と、成功するプロジェクトだけが実践している思考法を、信頼できるデータを元に解説します。
【警告】「とりあえず実装」が招くハルシネーションの罠
チュートリアル通りに作っただけの「Naive RAG(単純なRAG)」は、実務レベルでは使い物にならないことが多いのが現実です。検索精度が低いままLLMに情報を渡すと、AIは誤った情報を元に、自信満々で嘘をつく「ハルシネーション」を引き起こします。
これは、開発者が思考停止して「動くものを作る」ことだけを目的にしてしまった結果です。この状態が続くと、以下のようなリスクが生じます。
- 信頼性の失墜: 誤った回答を繰り返すAIシステムは、ユーザーから見放され、二度と使われなくなります。
- コストの増大: 精度向上のための改修に追われ、当初の想定を遥かに超えるリソースが必要になります。
- プロジェクトの凍結: ビジネス価値を証明できず、Gartnerの予測通り、プロジェクト自体が解散に追い込まれます。
便利なフレームワークに頼るあまり、本質的な「精度」や「実用性」への視点が抜け落ちてしまう可能性があるのです。
引用元:
Gartner社は、生成AIプロジェクトの30%が2025年末までに放棄されると予測しています。その理由として、データ品質の低さ、不十分なリスクコントロール、コストの増大、不明確なビジネス価値などが挙げられています。(Gartner Press Release, “Gartner Predicts 30% of Generative AI Projects Will Be Abandoned After Proof of Concept By End of 2025”, July 29, 2024)
【実践】トップエンジニアが実践する「評価ファースト」の開発思考
では、成功するエンジニアはどのように開発を進めているのでしょうか?彼らはコードを書く前に、まず「評価(Evaluation)」の仕組みを設計しています。ここでは、実務で成果を出すための3つの視点をご紹介します。
視点①:作成よりも「採点」を優先する
RAGの品質を感覚で語るのは危険です。Ragasなどの評価フレームワークを導入し、「検索されたドキュメントは適切か」「回答は事実に即しているか」を数値で監視できる環境を最初に構築しましょう。
これにより、改善のサイクルを客観的なデータに基づいて回せるようになります。
視点②:エコシステムの「巨人」に乗っかる
ゼロから全てのロジックを組むのは非効率です。LangChainやLangGraphのエコシステムは日々進化しており、最新の論文で発表された手法(GraphRAGなど)が次々とライブラリ化されています。
自分のコードに固執せず、コミュニティの知見や既存のモジュールを柔軟に取り入れ、組み合わせる力が求められます。
視点③:AIを「魔法」ではなく「確率」として扱う
AIは魔法の杖ではありません。確率的に単語を繋げているに過ぎないことを理解し、必ず「間違える」ことを前提にシステムを設計します。
例えば、回答の根拠となったソースを必ず提示させる、ユーザーからのフィードバック機能を実装するなど、AIのミスを人間がカバーできる運用フローを含めて設計することが、プロジェクト成功の鍵となります。
まとめ
企業はDX推進や業務効率化の課題を抱える中で、RAGのような生成AI技術の活用が急務となっています。
しかし、本記事で解説したように、自社でゼロからRAG環境を構築し、本番運用に乗せるには、高い技術力と継続的なチューニング、そしてセキュリティ対策など、極めて高いハードルが存在します。
そこでおすすめしたいのが、Taskhub です。
Taskhubは日本初のアプリ型インターフェースを採用し、200種類以上の実用的なAIタスクをパッケージ化した生成AI活用プラットフォームです。
複雑なLangChainの実装やRAGのチューニングを行わなくても、社内ドキュメントを活用したQ&Aやレポート作成など、高度な業務を「アプリ」を選ぶだけで、誰でも直感的に実行できます。
しかも、Azure OpenAI Serviceを基盤にしているため、データセキュリティが万全で、機密情報を扱う企業でも安心して導入可能です。
さらに、AIコンサルタントによる手厚い導入サポートがあるため、「技術的なことはわからないが、業務を効率化したい」という企業でもスムーズにスタートできます。
エンジニアのリソース不足に悩むことなく、すぐに業務変革を実現できる点が大きな魅力です。
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