「有給休暇の申請方法は?」「育休を取りたいんですが、どんな手続きが必要ですか?」「今年の年末調整はいつから始まりますか?」
こういった問い合わせが毎日のように人事部門に届いている、という企業は少なくありません。しかも、まったく同じ内容の質問が毎年繰り返されているケースがほとんどです。
人事担当者にとって、問い合わせへの対応は「やるべき仕事ではあるが、本来業務ではない仕事」です。採用・評価制度の設計・人材配置・労務処理といった業務に集中したいのに、問い合わせ対応に時間を取られてしまうという形になっています。
本記事では、人事部門の社内問い合わせが抱える課題の本質を整理したうえで、具体的な解決策と実際の効率化事例を紹介します。
人事の社内問い合わせ対応におけるよくある5つの課題
課題①:人事に同じ問い合わせが何度も届く
人事への問い合わせのなかで最も多いのが「同じ質問が何度も問い合わせされる」というケースです。
有給休暇の申請方法、育休・介護休業の手続き、社保の加入・変更手続き、年末調整の書き方についての質問が毎年繰り返されています。
担当者は「去年も同じ説明をした」と感じながらも、答えないわけにもいかないため、消耗感や業務負荷が積み重なっていきます。
課題②:イベントのたびに社内問い合わせが急増する
人事部門には、問い合わせが集中する「山場」が年間を通じて複数あります。
4月の新入社員受け入れ・異動シーズン、賞与支給時期、10〜11月の年末調整、1〜3月の人事評価・昇降格などです。これらのタイミングは問い合わせが増加する傾向があります。
本来最も準備や本来業務に集中すべきタイミングに、社員からの問い合わせ対応が重なり、業務負荷が増えてしまいます。
課題③:問い合わせ対応で人事の本来業務が後回しになる
採用戦略の立案、評価・等級制度の設計、人材配置・タレントマネジメント、組織開発は、人事部門にしかできない、経営に直結する業務です。
しかし、それらが後回しになってしまい、有給の残日数確認や申請書の書き方案内に時間を使っている状況では、人事部門の本来の価値が発揮できません。
業務負荷による疲弊も溜まっていくため、少人数体制の人事部門においては、問い合わせ対応を効率化することが喫緊の課題といえます。
課題④:ナレッジが属人化し蓄積されない
「この手続きの細かい例外はAさんに聞かないと分からない」という状態になっている人事部門は多くあります。
育休取得時の社保手続きの例外対応、過去の労使協定の経緯、特定の雇用形態における有給付与のルールを把握した対応といった業務知識はベテラン担当者の頭の中にあり、引き継ぎ資料にも残っていません。
担当変更や退職のたびにナレッジが失われてしまい、学習コストが繰り返されます。
課題⑤:就業規則・マニュアルが読みづらく、結局人事へ問い合わせが集中する
有給・育休・社保などの基本的な手続き方法は、就業規則や社内ポータルサイト内に掲載されています。
しかし、「ページ数が膨大で読みづらい」「自分の求めているポイントがどこに書いてあるか分からない」といった課題から「直接聞いた方が早い」という結論に至り、担当者への問い合わせが発生してしまいます。
網羅的なマニュアルや手順書があっても解決しないのは、問い合わせを行う社員が「自分の疑問点に対してピンポイントかつ高速で回答が得られること」を求めているからです。ここにミスマッチが生じています。
人事の問い合わせ対応における理想状態とは
前のセクションで整理したとおり、人事への問い合わせが減らない原因はフローの構造にあります。どのような状態になれば理想的と言えるのかを整理します。
①従業員が人事に問い合わせず自己解決できる環境
「就業規則を探すより人事に聞くほうが早い」という状況が常態化している場合、「調べればわかる」状態を作ることが必要です。
具体的には、社内のチャットボットに「育休 手続き」と入力すれば30秒で手順と必要書類が返ってくる、あるいは社内ポータルを検索すれば年末調整の記入例が出てくるといった環境を整備することで、人事に問い合わせる必要がなくなります。
②人事の誰が答えても同じ回答が返ってくる
「以前Aさんに聞いたときと、Bさんに聞いたときで手続きの説明が違った」という状態になると、更なる確認問い合わせを招きます。
理想的な状態は、誰が答えても同じ回答が返ってくることです。そのためには、回答のもととなる情報が一箇所に集約され、制度改定のたびにその情報が更新されている仕組みが必要です。
担当者の頭の中ではなく、システムやドキュメントに情報が蓄積されている状態が理想です。
③問い合わせ内容・件数が定量的に把握できている
目の前の問い合わせ対応に精一杯であるため、現状「何の問い合わせが多いか」を定量的に把握できている担当者の方は少ないのではないでしょうか。感覚的に「育休の質問が多い気がする」とは思っていても、正確なデータがないため対策を講じることができません。
理想的な状態は、問い合わせの内容・件数がデータとして蓄積されていることです。「先月は有給関連が40件、育休関連が20件」といったデータが見えれば、「育休FAQをもっと充実させよう」「年末調整は10月頭にリマインド通知を送ろう」という具体的な改善アクションにつながったり、優先順位付けができるようになります。
人事への社内問い合わせを減らす3つの解決策
解決策①:人事向けの社内FAQチャットボットを構築する
よくある質問をチャットボットに学習させ、社内チャットツールから即時回答できる環境を作ります。
社内FAQチャットボットのメリット:
- 24時間・即時回答(担当者が不在でも対応可能)
- 回答が一貫しており、担当者によるバラつきがない
- 問い合わせ件数・内容がデータ化され、FAQ改善のサイクルが回る
- 年末調整・入社シーズンの繁忙期でも対応負荷が増えない
問い合わせ量が多い・年間を通じて山場がある・担当者数が少ない。こうした条件に当てはまる人事部門には特に有効です。
解決策②:人事FAQページ・社内Wikiを整備する
有給・育休・社保・年末調整などのテーマ別に、手順・必要書類・締め切りをまとめた専用ページを社内ポータルやNotionなどに作成します。
現時点でガイドを整備している場合は、発生する問い合わせや課題別に内容を細分化して掲載することも有効です。
ただし「探す手間」は依然として残るため、社員の自己解決率はチャットボットより低くなります。
解決策③:人事への問い合わせフォームを一本化する
メール・Slack・口頭・電話など、バラバラな問い合わせ経路をフォームに集約します。
対応漏れを防ぎ、履歴管理・優先度付けが可能になります。ただし、担当者へ届く問い合わせの数自体は減りません。対応効率化のための施策として位置付けるのが正確です。
結論として、先述の課題の解決と業務負荷の削減を最も実現することができるのは、社内FAQチャットボットです。 他の解決策も組み合わせることでより効果が高まりますが、まず取り組むべきはチャットボットの導入です。
問い合わせ対応を効率化した社内FAQチャットボット導入事例
ここからは、社内FAQチャットボットを導入し、自社・自組織の問い合わせ業務を効率化した事例を紹介します。
Taskhubマガジンで実施した独自取材に基づく情報のため、ぜひご覧ください。
事例①:人事・総務への電話・メール問い合わせをAIで一次対応【奈良県生駒市】
奈良県生駒市では、職員が人事・総務・契約といった担当部署に電話やメールで問い合わせていたフローを、生成AI「自治体AI zevo」の導入によって自己解決に変えました。RAGを活用し、庁内規程や業務マニュアルをAIが参照しながら回答できる環境を構築。400名以上の職員(全職員の約50%)が登録し、約100名が毎日活用しています。
デジタルイノベーション推進課の南さんは以下のように述べています。
「電話やメールで担当部署に確認しなくても、AIに質問するだけで必要な情報を得られるようになりました」
また、業務全体への影響についてもこう語っています。
「様々な業務において時間が大幅に削減されていることは間違いありません」
詳しい事例はこちら
生成AIの活用は、今や多くの企業や自治体にとって避けては通れないテーマとなっています。しかし、導入したツールが思うように使われず、活用推進に苦心している組織も少なくありません。そんな中、奈良県生駒市では、特別なトップダウン施策ではなく、職員[…]
事例②:RAG活用の社内FAQで700名展開・3,200時間削減【サッポロホールディングス株式会社】
サッポロホールディングス株式会社では、RAG技術を活用した社内FAQシステムを構築し、自然言語で社内情報を検索・回答できる環境を整備しました。段階的なPoCを経て、フェーズ2(2024年2〜7月)では本社700名への展開を実現。e-learning完了率99%、初期利用率74%という高い定着率を達成し、約3,200時間の工数削減を実現しています。
DX企画部 グループリーダーの浜本さんは以下のように述べています。
「検索ではうまく見つけられなかった情報の発見が容易になり、工数削減と回答精度向上に繋がっています」
サッポロホールディングス株式会社は、DX推進の一環として、「働き方の変革」を支える生成AIの全社的な導入と活用に積極的に取り組んでいます。その特徴は、段階的な実証実験(PoC)による効果検証、全社員の99%が受講した教育体制、そして利用状況[…]
人事での社内問い合わせチャットボット導入でよくある質問
チャットボット導入を社内で提案すると、以下のような質問が出ることがあります。
あらかじめ回答を準備しておきましょう。
Q1. 「導入コストが高いのでは?」
A. 社内問い合わせ用のチャットボットは、概ね月額数万円〜が相場です。人事担当者が問い合わせ対応に費やしている時間を人件費換算し、社内チャットボットの費用と比較をすることで、どちらの方がコスト削減につながるのかを可視化し、定量的につたえることが必要です。
Q2. 「誰がFAQを登録・更新するのか。運用負荷が心配」
A. 専任担当者はほぼ不要です。ノーコードの管理画面で更新できるツールが多く、月1回程度の棚卸しで十分なケースがほとんどです。初期FAQは既存の問い合わせ履歴から抽出できるため、0から作る必要もありません。
ただし、月1回ペースでの情報更新は必須です。制度改定後に情報が更新されないまま放置されると、チャットボットが使われなくなり元の状態に戻ってしまいます。
更新・点検の運用フローはあらかじめ整えておくようにしましょう。
Q3. 「社内の人事情報を外部クラウドに載せてセキュリティは大丈夫か?」
A. 前提として、法人向けのチャットボットとして提供されているツールの多くは、入力情報を学習しない設計となっています。また、提供形式としてもクラウド型・オンプレ型・社内設置型など選択肢があります。
運用面では、個人情報を含む人事データは原則FAQに載せず、制度・手続きのルール情報のみをチャットボット化する運用が一般的です。まずは「何の情報をFAQ化するか」の線引きを整理したうえで、要件に合ったツールを選定することが重要です。
Q4. 「チャットボットが答えられない質問はどうなるのか?」
A. 「担当者にエスカレーション」フローをあらかじめ設定しておけば、複雑な質問や個別相談だけを人が対応できます。全件を担当者が受ける現状よりも、問い合わせのトリアージが自動化されることで対応品質が上がります。
まとめ
人事部門の社内問い合わせが減らない原因は、個人の努力や注意喚起では解決できない業務構造の問題です。
解決するためには、従業員が自己解決できる環境を作ることが重要です。そのための最も効果的な手段が、社内FAQチャットボットの導入です。
まずは人事への問い合わせのなかで頻度の高いものをTOP20〜30件ピックアップし、何をチャットボット化していくのかから始めてみましょう。「有給・育休・社保・年末調整」の4テーマに絞るだけでも、相当数の問い合わせをカバーできるはずです。
