約15年分の新聞記事×生成AI。情シス不在の地方企業が導入の壁を越える伴走支援

生成AIを自社に導入したいが、専任のIT担当者がおらず、現場に定着するか不安で踏み切れない——そんな悩みを抱えていませんか?

新潟日報社が設立した「新潟日報生成AI研究所」は、exaBase 生成AIを基盤に、過去15年分の新聞記事データを連携させた独自の生成AIサービスを開発しました。地域の金融機関をはじめ、事業規模を問わず多くの県内企業に導入されており、一般業務の効率化に貢献しています。

本サービスは、地域密着の新聞記事を辞書として高精度な情報収集を可能にするだけでなく、AIアレルギーを和らげる「地元の新聞社」ならではの安心感や、IT知識が少ない担当者に寄り添った伴走支援に最大の特徴があります。

本記事では、サービス開発の背景にある地方特有の課題意識から、記事データのチューニングにおける工夫、そしてつまずきやすい導入初期のサポート実態について、同社の小原さん、田辺さん、佐藤さんにお話を伺いました。

地方に生成AI推進のパートナーがいない。課題解決のために生まれた「新潟日報生成AI研究所」

Q. まずは皆様の自己紹介と、新潟日報社が「新潟日報生成AI研究所」を設立した背景について教えてください。

小原さん: 私は長年外勤で記事を取材して書く仕事をしてまいりました。新潟日報社として「新潟日報生成AI研究所」という子会社を設立し、現在はこの取り組みを推進しています。

田辺さん: 私は新潟日報社に入社して以来、長くシステム部門におりまして、数年前からはサブスクモデルの会員獲得や会員基盤の管理保守などを担当してきました。昨年(2025年)からこの新潟日報生成AI研究所に参画し、主に技術面をサポートしております。

佐藤さん: 新潟日報社として生成AI事業に参入することになった背景には、地域の明確な課題があります。生成AI企業はどうしても東京に集中しており、地方には導入を推進する地域パートナーがいません。パートナーがいないと、活用もなかなか進んでいかないという負の側面がありました。こうした課題を、我々新聞社のもつ情報や地域とのつながりと生成AIを連携させることで解決できないかと考えたのが出発点です。

2010年1月1日以降の新聞記事を辞書化。営業担当者のリサーチ業務を劇的に変える独自機能

Q. こちらのサービスは事業規模に関係なく利用できるとのことですが、2010年1月1日以降の新聞記事データを連携させることで、具体的にどのような価値を生み出せるのでしょうか。

佐藤さん: 本サービスの強みは、大きく分けて以下の表の通り二つあると考えています。

特徴 具体的な効果
地元新聞社が提供する安心感 「生成AIはすごいらしいけど、よくわからない」という心理的ハードルや抵抗感を下げるきっかけになる
新聞記事の辞書化 一般の検索では得られない詳細な企業情報(経営方針や人事情報など)を引用元付きで抽出できる

特に後者の「新聞を辞書として引ける」という機能は、非常に強力です。たとえば、県内の有名企業である亀田製菓様について生成AIで調べた場合、一般的なウェブ検索では最近のニュースが断片的に出てくるだけかもしれません。しかし本サービスでは、過去の新聞記事を検索し、「グローバルフードカンパニーへの展開」「株主還元方針」「次世代を見据えた組織人事の刷新」といった深い情報が、新潟日報の朝刊掲載日や見出しの引用元付きで出力されます。

これを若手の法人営業担当者が活用すれば、大きな武器になります。訪問時のアイスブレイクで「そういえば先日、御社の組織刷新のことが新潟日報に出ていましたね」と話題に出せば、お取引のご担当者様にも「この若い営業担当は新聞を読んでしっかり勉強してきているな」と高く評価していただけます。タイムパフォーマンス良く地域の深い情報をリサーチできるため、実は県内企業の若い営業担当者の方々にとても喜ばれている機能です。

1年単位のフォルダーによるRAG連携の最適解とプロンプトチューニングの重要性

Q. 膨大な新聞記事データをRAGとして連携させる際、データが多すぎると回答の質に影響が出ると思いますが、データのチョイスや設計においてどのような工夫をされていますか。

佐藤さん: 様々な検証を行った結果、1年間ごとにフォルダーで区切る形に着地しました。何十年分ものデータを一気に入れると処理しきれませんし、逆に期間を月単位などに短く絞りすぎると、今度は探している情報が新聞側に存在しないケースが出てきます。最適なバランスを探った結果が現在の年ごとフォルダーです。さらに新しい機能として、全体のデータからキーワードを抽出して出力をかける仕組みも開発中であり、今後もアップデートを続けていく予定です。

裏側の技術的なチューニング以上に重要なのが、ユーザーが欲する情報を引き出すためのプロンプトの工夫です。お客様から「新聞記事をうまく出力できない」とご相談を受けることも多く、そうした際は一緒になって検証を行っています。

たとえば以前、インフラ系の事業者様から「能登半島地震の影響で新潟市西区の地盤が液状化した状況を、県外にある本社に報告するための文章を作りたい」というご相談を受けました。かなり限定的なご要望でしたが、私がお客様のご意向を汲んでプロンプトを書き直したところ、しっかりと求める情報が出力されました。プロンプトは人とのコミュニケーションと同じで、「本社の人が視察に来るので、液状化の現状をまとめたい」と日本語で明確に前提条件などの指示を出すことで、出力の質は大きく上がります。

こうした一対一の対話の中で一緒に検証していくサポートは、大人数での研修会ではなかなか拾いきれない部分であり、地域に密着している私たちだからこそできることだと感じています。

Q. データベース上の記事データは、どのような頻度で更新されているのでしょうか。

佐藤さん: 当日の朝刊も含め、更新頻度は概ね3日毎です。毎日更新することも技術的には可能なのですが、新聞データベースから全データを出力できるのが、運用上の工程により午後3時頃となります。金融系の企業様などからは「朝の読み合わせに備えて、当日の朝刊データを即時反映してほしい」というニーズも頂いていますが、現状はそこまでは実現できていない状態です。

金融機関の導入を後押ししたセキュアな環境と一般業務での定着

Q. 実際に導入されている企業様の事例や、どのような課題が解決されているかをお聞かせいただけますか。

佐藤さん: 地域の金融機関様にも導入いただいています。金融機関の皆様は多くの機密情報を取り扱うためセキュリティ基準が非常に厳しいのですが、我々が基盤としている「exaBase 生成AI」は日本リージョンで完結して利用できる仕様になっており、LLM側に学習データとして残らない仕様になっています。また、万が一個人情報を入力してしまった場合でも海外越境を防げるという安心感が、弊社の製品の強みです。

ユースケースとしては特別なものではなく、メールの返信、アイデア出し、壁打ちといった一般業務の効率化として活用されているようです。具体的な時間削減効果の算出は難しい部分もありますが、導入直後に比べて社内での利用率は確実に高まっています。

導入初期の”UI変更の壁”を地元ならではの密なサポート体制で解消

Q. 地方の中小企業などでは、IT専門の担当者が不在のケースも多いかと思います。活用を定着させるためにどのようなサポートを行っているのでしょうか。

佐藤さん: 地方の中小企業では、ITに関する知識がほとんどない総務部門の方などが、ある日突然IT推進担当に任命されるケースが多々あります。そういった方々は、生成AIの高度な活用以前に、ツールの管理画面やUIが少しアップデートで変更されただけで「どうしたらいいか分からない」と困ってしまうことがあります。大企業であれば専門の情シス部門が対応できますが、中小企業ではそうはいきません。

だからこそ、「困ったときはとりあえず新潟日報の佐藤さんに電話しよう」と思ってもらえる窓口があることが、地域の皆様の安心につながっていると感じます。もちろん、より高度に使いこなしたいという企業様に向けてプロンプト研修なども提供していますが、実態としては「ここはこう操作するんですよ」といった非常に手前にある初歩的なサポートのほうが、地域の皆様にとっては重要であるケースも多いと実感しています。

全国展開と新規産業への参入。「生成AIで地域の可能性を無限大に」

Q. 今後のサービスの展望や、生成AI活用を広げていく上での目標についてお聞かせください。

佐藤さん: 現在、「地方新聞社AI研究会」という枠組みを立ち上げ、新潟発のこの取り組みを全国展開し始めています。すでに岩手県や栃木県などの新聞社でも販売が開始されており、地域での生成AI活用の輪が広がっています。

私たち地方新聞社は、県民の皆様との接点を非常に大切にしています。新聞の購読者が減少し、生活者との接点が減っていく中で、生成AIという新しい接点が生まれました。地域の課題を解決し、生産性向上に寄与できるサービスだと確信していますので、同じ課題を抱える全国の地方新聞社とタッグを組み、地方から生成AIを活用して地域を元気にするムーブメントを起こしていきたいです。

また、我々の理念は単にクラウドサービスを提供することだけではありません。健康寿命の延伸や農業といったフィジカルな分野でも生成AIを活用し、地域における新しい産業へ参入していくことも今期のテーマに掲げています。そうしたフィールドでの活用事例を、我々自身が身をもって地域に示していきたい。「生成AIで地域の可能性を無限大に」という覚悟を持って、これからも取り組んでいきます。

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