競争力強化のためにAIやロボットを導入したものの、期待通りの出力が得られない、現場で思ったように動かないと悩むDX担当者の方は多いのではないでしょうか。
株式会社APTOは、AIの品質と精度を根本から左右する「学習/評価データ」の開発を行うことで事業会社を支援しています。既存の生成AI基盤モデルの安全性を劇的に向上させるなど、高品質なデータセット提供、データ収集からファインチューニング、受託開発までを網羅的にサポートしています。
同社はテキストや画像だけでなく、ロボットを自然言語で動かすための「VLA(ビジョン・ランゲージ・アクション)データ」の生成や、合成データの活用、用途に応じたAIの安全性(ガードレール)の綿密な設計など、最先端のアプローチで社会課題の解決に取り組んでいます。
本記事では、AIが現場で使われなくなるという課題意識から出発した開発背景、ロボティクス領域における独自のデータ収集手法、導入時のハードルとなる空間設計の問題、そして企業のAIデータパートナーとしての展望について、同社COOの狩野さんに伺いました。

「期待通りに動かないAI」への課題感がデータプラットフォーム開発の原点
Q. 貴社の事業概要と、プロダクト開発の背景にある課題意識について教えてください。
狩野さん: 弊社は主にAIデータに軸足をおいたビジネスを行っており、データの開発・収集・アノテーションから、データプラットフォーム「harBest」の提供まで、データから精度向上のご支援をしています。単にデータを収集するだけでなく、モデルのファインチューニングや受託開発など、データに係るあらゆる面からサポートしているところが特徴です。

弊社が創業以来長く感じている課題として、企業が高いコストをかけてAIやロボットを導入したにもかかわらず、実際に使ってみると求めている成果が出ない、思ったように動いてくれないという現実があります。せっかく競争力を維持するために導入したのに、現場で使われずにコストだけが無駄になってしまうケースをよく耳にします。
そのような事態を防ぐために、お相手の組織と二人三脚で質の高いデータを作り、繰り返し精度検証することが重要です。私たちは、社会課題を解決するために必要なAIデータを開発し続ける企業でありたいと考えています。
「VLAモデル」から「合成データ」まで。ロボティクス領域における3つのデータ生成手法
Q. 昨今ロボティクス領域に注力されているとのことですが、その背景と具体的なデータ作成の取り組みについて教えてください。
狩野さん: 産業に貢献することを考えた際、ロボティクス領域は非常に魅力的でした。介護や農業などの一次産業をはじめ、明らかに人材不足で困っている現場をAIの力で支援したいというのが大きな理由です。
AIはディープラーニング、画像、自然言語、マルチモーダル、ロボティクスと進化してきましたが、ロボットの目にもカメラがついています。そこに自然言語での推論を回し、アクションを起こす。2020年の創業からAIデータの開発を続けてきた弊社としては、この「Vision-Language-Actionモデル」の流れは技術的に当然の帰結であり、日本の産業構造においてもロボティクスの果たす役割も大きく、私たちが注力可能な領域だと捉えています。注力しています。
ロボット領域のデータ収集は、具体的に3つのステップで進めています。1つ目は、Imitation learning(模倣学習)と呼ばれるデータ収集です。弊社ではOpenArmというロボットをメインに行っていますが、事業会社で必要とされる作業をロボットで再現し、作業者の頭にカメラをつけて動作を録画、最後に作成したデータをシミュレーション環境で拡張して学習させる取り組みです。

現場導入のリアル——ロボットファーストな空間設計という新たな課題
Q. お茶摘みなどのプロフェッショナルな現場にロボットを導入する際、どのようなプロセスや課題があるのでしょうか。
狩野さん: その道におけるプロフェッショナルな方々の動きをトレースして学習させることも検討したいですが、別の視点でも検討を進めたいですね。出来上がったプロダクトを現場にどう落とし込むかという先々の設計も重要になります。
たとえば、農家さんが作業しているビニールハウスは、人間が動くために最適な設計がされています。ロボットが動くために作られた幅や大きさではない空間に無理やりロボットを入れても、最もパフォーマンスを発揮できるかというと効果は期待できそうにないですよね。
そのため、今後は「ロボットファースト」な空間設計も重要です。わかりやすい例で言えば、日本の企業のオフィス空間の通路なんかは非常に狭いですよね。ロボットが通ること前提に作られていませんので。ロボットのパフォーマンスを最大化することを意識すると、ハードウェアや土壌の環境づくりも含めた大きなプロジェクトになるため、現在も総合商社のデベロッパー部門の方々などと多面的に議論を進めています。実際、ビルに導入されているセミヒューマノイドも、人間ファーストで作られた空間ではどうしても動きが悪くなってしまいます。これは設計上当たり前のことなのです。
アカデミアと実証実験を往復する開発体制が最大の差別化ポイント
Q. 多くの企業がAIやロボティクスに参入する中で、貴社の強みや独自性はどこにあるのでしょうか。
狩野さん: 私たちの強みは、最先端の研究と社会実装のサイクルを高速で回している点にあります。
具体的には、自社のラボを持ち、社会課題を解決するためにAIロボティクスデータ開発の実証実験を繰り返しています。そして、人工知能学会や言語処理学会などのアカデミックな場で自分たちの研究開発の発表を行い、そこで得た知見から事業転用できるものは自社でデータを作って提案/製品化しています。地道な実証実験とアカデミックな研究発表を繰り返し、自社のラボでデータを生み出し続けている開発体制そのものが、我々の最大の強みだと考えています。
ユーザーや文脈で変わる「安全性」の定義。用途に合わせたガードレール設計
Q. データの安全性についても高い精度を出されていると伺いました。どのような取り組みをされているのでしょうか。
狩野さん: はい、モデルの安全性向上については日本で有数の精度を出すことに成功しています。先日、Alibaba社が出している「Qwen」というモデルに私たちのデータを学習させたところ、安全性が大きく向上したという発表も行いました。
ただ、安全性の担保というのは非常に奥が深い問題です。ビジネスの現場では、コンテキストによってAIがどう答えるべきかが変わってきます。一例ですが、、製薬会社の社員が薬の研究開発の過程で、あえて毒性のある物質の作り方や実験室での開発方法を聞く必要があるかもしれません。その時にAIが全く答えられないようでは、ビジネスの現場で役立てられているとは言えないですよね。今後は専門的な用途のために、安全性をカスタマイズできるモデルのニーズも増えていくと思います。
別の身近な例ですと、幼稚園児がアニメを見て「僕もクマと散歩に行きたい」とAIに聞いた際に、「山形の山奥に何時に行けば出会える可能性があります」と答えてしまうようなリスクも防がなければなりません。ユーザーが誰であるかを判定するのは難しいため、用途に合わせて安全性の基準を細かく調整したモデルやデータセットを開発・提供が求められています。ゆくゆくは、AIの学習データを作ること自体が免許制になるような未来もあるかもしれません。
AIデータ開発を通じて信頼できるAI社会実装を目指す
Q. 最後に、今後の展望についてお聞かせください。
狩野さん: 先々は、農業などの一次産業のように明らかに人が足りなくて困っている現場や、社内の特定の部署にリソースがなくて困っている企業に対して、質の高いデータを提供して課題を解決していきたいですね。AIやロボットのVLAデータを作る作業というのは、お客様と密にコミュニケーションをとり、課題の本質を深掘りして、実際に現場で実機を動かしながら進めるという非常に地道なものです。
自社にAIの専門家がいなくても、私たちと必要なデータを構築していくことで大きなビジネスインパクトに繋げていきたいですね。また現在、Hugging FaceというAIデータセットのプラットフォーム上に私たちのデータやモデルのサンプルを公開しており、ダウンロードしていただくことが可能です。さらに自社のラボでは実際にロボットを置いており、見学や実機に触れていただくこともできますので、ぜひ多くの方にデータ品質の重要性を体感していただきたいですね。
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