生成AIの活用が急速に広がる一方で、情報漏えい、誤情報、説明責任など、AI特有のリスクへの対応が企業に求められています。こうした中で注目されているのが、AIマネジメントシステムの国際規格「ISO/IEC 42001」です。本記事では、ISO/IEC 42001認証サービスを提供するドイツ品質システム認証株式会社(DQS Japan Inc.)営業マネージャー中村さんに、AIガバナンスの重要性や認証取得のメリット、導入企業の事例について伺いました。

DQSジャパンの実績と専門性:国際規格の市場導入をリードするプロフェッショナル
Q. まず、貴社の事業内容と中村さんのご経歴について教えてください。
中村さん:DQSジャパンは、1985年にドイツで設立されたマネジメントシステム認証機関DQSグループの日本法人です。DQSグループ全体では約2,500名の審査員を擁し、世界60か国に80以上の拠点を展開しています。これまで100か国以上で63,000件を超える認証登録を実施しており、品質、環境、情報セキュリティをはじめ、さまざまな分野の認証サービスを提供しています。近年は、サイバーセキュリティやAIといった新しい領域にも注力しており、AIマネジメントシステムの国際規格であるISO/IEC 42001についても、いち早く認証サービスを開始しました。
私自身は認証業界で22年以上の経験があり、これまで750社を超える企業の認証取得支援に携わってきました。また、企業の統合・合併、組織拡大や事業再編に伴う認証移行プロジェクトなども数多く担当しています。特に、新規規格の市場導入や立ち上げに携わる機会が多く、自動車業界の情報セキュリティ評価制度であるTISAX、自動車サイバーセキュリティ規格VCS、そして今回のISO/IEC 42001など、市場形成期にある規格の普及を推進してきました。AIガバナンスは今まさに企業経営における重要テーマになりつつあります。その中で、グローバルで蓄積された知見を日本企業の皆様にお届けし、安心してAIを活用できる環境づくりのために審査を通じてお役に立ちたいと考えています。
なぜ今「ISO/IEC 42001」が必要なのか?生成AI特有のリスクと認証・審査のポイント
Q. AIマネジメントシステム「ISO/IEC 42001」の認証サービスを提供し始めた背景には、どのような課題意識があったのでしょうか?
中村さん:生成AIをはじめとするAI技術の活用が急速に広がる一方で、企業には「どのようなルールでAIを利用するのか」「リスクをどのように管理するのか」が求められるようになっています。従来のISO 27001(情報セキュリティマネジメントシステム)は情報資産の保護を目的とした規格ですが、AIには情報セキュリティだけでなく、誤情報の生成、バイアス、透明性、説明責任など特有の課題があります。こうした背景から、AIを安全かつ責任ある形で活用するための国際規格としてISO/IEC 42001が発行されました。私たちも、企業のAIガバナンス構築を支援するため、早期にサービス提供を開始しました
Q. ISO/IEC 42001の認証サービスとは、一言で言うとどのようなもので、具体的に何を審査するのでしょうか?
中村さん:一言で表現するなら、「AIを適切に管理・運用するための仕組みが整備されていることを第三者が確認する認証」です。よく「AI技術そのものを評価する審査」と思われがちですが、そうではありません。ISO 42001では、
- AI利用に関する方針
- リスク評価の仕組み
- 責任体制
- データ管理
- 継続的な改善活動
などが適切に運用されているかを確認します。つまり、「どのAIを使っているか」ではなく、「AIをどのようなルールで管理しているか」を審査する規格です。
Q. 現在、どのような業界の企業が認証の対象となり、関心を持っているのでしょうか?
中村さん:ISO/IEC 42001は業種を問わず適用可能な規格です。AI開発企業はもちろん、生成AIを活用しているIT企業、クラウドサービス事業者、コンサルティング会社、翻訳会社、製造業など、さまざまな企業からお問い合わせをいただいています。最近では、自社でAIを開発していなくても、業務で生成AIを利用している企業がAI利用ルールの整備を目的に関心を持つケースも増えています。
ISO/IEC 42001の対象企業とDQSの強み:グローバルな知見でISO/IEC 42001審査サービスを牽引
Q. 国内に多数の認証機関がある中で、貴社ならではの強みはどこにあるのでしょうか?
中村さん:ISO/IEC 42001は新しい規格であり、国内で本格的にサービスを提供している認証機関はまだ限られています。当社の強みは、DQSグループのグローバルネットワークを通じて、海外の最新動向や審査ノウハウを早い段階から蓄積している点です。欧州ではAI規制やガバナンスに関する議論が先行しており、そうした知見を活かしながら、日本企業に対して実践的な審査サービスを提供できることが大きな特徴です。
認証取得までの期間・直面しやすい課題とは
Q. 実際に認証を受ける際、どのようなフローで進み、どれくらいの期間がかかるのでしょうか?
中村さん:まず、自社でどのようにAIを利用しているかを整理し、AI方針やリスク評価の仕組みなど必要なルールを整備します。その後、社内教育・内部監査・マネジメントレビューを実施し、審査に臨みます。期間は企業の準備状況によって異なりますが、既にISO 27001などのマネジメントシステムを運用している企業では比較的スムーズに進むケースもあります。実際に4か月程度で認証を取得された企業もあります。
Q. 準備を進める中で、企業がぶつかりやすい壁や課題はどのようなものがありますか?
中村さん:最も多いのは、「AIを誰がどのように利用しているのか」が組織全体で把握できていないケースです。生成AIの利用は各部門単位で進んでいることも多く、管理部門が実態を把握できていない場合があります。また、担当者だけが推進しても、現場の理解や協力が得られなければルール整備は進みません。AIガバナンスは一部門だけの取り組みではなく、組織全体で取り組むことが重要です。
早期取得のメリットとは?信頼性確保が事業成長の鍵
Q. 実際にいち早く認証を取得された企業様からは、どのようなフィードバックがありましたか?
中村さん:最初に認証を取得された企業様からは、「AIを活用したサービスを提供していく上で、取引先へ信頼性を示す重要な基盤になった」というお声をいただいています。その企業様は、AIを今後の成長戦略の柱と位置付ける中で、「AI活用が本格化する前に、まず適切なガバナンスの仕組みを整備したい」と考え、早期にISO/IEC 42001の取得を決断されました。
取得後は、AIを安全かつ責任ある形で運用していることを顧客や取引先に客観的に示せるようになり、特に金融関係のお客様をメインとしている企業のため、大変大きなアピールになっているそうです。
また、「ISOは管理や制約のためのものではなく、不確実性を減らし、安心して事業を成長させるためのツールである」という声や、AIガバナンスを単なるリスク管理ではなく、事業成長を支える基盤として活用していきたいという期待をお持ちです。
Q. その企業様が、このタイミングで早期に認証取得を決断されたのはなぜだったのでしょうか?
中村さん:AIを活用したサービスや事業を今後の成長戦略の中心に位置付けていたことが大きな理由です。AI市場は急速に拡大していますが、その一方で顧客や社会からは安全性や信頼性も求められています。そこで、「事業拡大の前にAIガバナンスの基盤を整備しよう」という判断をされました。変化の速い時代だからこそ、まず仕組みを整え、その後も継続的に改善していく考え方が重要だと評価されています。
「攻めのAI活用」と「守りのリスク管理」を両立。AIガバナンス構築に向けたメッセージ
Q. 今後、このサービスをどのように展開し、どのような企業に届けていきたいと考えていますか?
中村さん:AIは一部の先進企業だけのものではなく、今後あらゆる業界で活用が進んでいくと考えています。その中で重要になるのは、「AIを活用すること」だけではなく、「AIを適切に管理すること」です。私たちは、企業が安心してAIを活用できる環境づくりを支援し、AIガバナンスの普及を通じて社会全体の信頼向上に貢献したいと考えています。
Q. 最後に、認証の取得を検討している方へ向けてメッセージをお願いします。
中村さん:現在、多くの企業で生成AIをはじめとするAI活用が急速に進んでいます。これまでは「まず試してみる」という段階でしたが、今後はAIを事業や業務プロセスに本格的に組み込む段階へと移行していくでしょう。一方で、現場主導でAI活用が進んだ結果、企業として利用状況を十分に把握できていない「シャドーAI」の問題も顕在化しています。機密情報の漏洩やコンプライアンス違反、不正確な情報の利用、AIによるバイアスなど、企業が向き合うべきリスクは決して小さくありません。だからこそ、これからは単にAIを活用するだけではなく、「AIをどのように管理するか」が重要になります。
企業には、AI活用による競争力向上という「攻め」と、リスク管理による信頼性確保という「守り」の両立が求められています。そして、その両方を継続的に実現するための仕組みがAIマネジメントシステムであり、ISO/IEC 42001です。私たちは、AIを制限するためではなく、安心して活用し続けるためのガバナンス基盤づくりを支援したいと考えています。
DQSは世界60か国以上で認証サービスを提供し、AIガバナンスに関するグローバルな知見を蓄積しています。また、お客様にとって「パートナー」として伴走することを大切にしています。AI活用が企業の競争力を左右する時代だからこそ、「AIの管理」を経営課題として捉え、早い段階から体制整備に取り組んでいただければと思います。ISO/IEC 42001は、その第一歩となる国際的なフレームワークです。初めて認証に取り組む企業様でも安心して進めていただけるよう、丁寧なコミュニケーションを大切にしていますので、まずはお気軽にご相談いただければと思います。