開発期間を従来の3年から10ヶ月へ短縮。全社AI基盤の内製化と営業行動管理の手法

ゲスト

全社1,000名規模のAI基盤をわずか5名で内製開発するDX推進のトップ
インパクトホールディングス株式会社 執行役員 DX推進本部長 林さん

消費者とメーカーを繋ぐ店舗・店頭回りの販促支援を祖業とする同社にて、エンタメ、インフラDX、HRの3領域すべてのDX化と生産性向上を推進。約2年前(2024年頃)から生成AIの活用に着手し、2024年10月に全社向けAI基盤「Colabot(コラボット)」をリリース。今年(2026年)に入ってからはバイブコーディングを取り入れ、わずか5ヶ月で自社システムの5割を完成させるなど、圧倒的なスピードで社内のAIインフラ整備と営業行動管理の自動化を牽引している。

この事例のポイント

  • 従来の3年かかる開発工数を10ヶ月に短縮する方法: バイブコーディングを導入し、5名のエンジニアチームで開発。各個人が1つのアプリを開発するアジャイル体制を採用し、生産性を劇的に向上させた
  • AI基盤のセキュリティ懸念の払拭と独自認証の構築: AIの学習利用を懸念する声に対し、3つのLLMをAPIで繋いだ入力データが学習に利用されない自社システム「Colabot」を提供。1アカウントあたり数千円かかるコストを抑えつつ、OIDC認証も内製して全社導入を実現した
  • 入力の手間をなくし、営業の行動情報を自動蓄積する設計: 営業担当者がSFAに入力しないという壁を越えるため、自社開発のカレンダーや会議ボットを連携。Web会議の議事録要約を自動で紐付け、工数ゼロでデータを集めるプロセスを確立した
  • 利用率50%を達成した「AI活用推進委員会」の役割: ITリテラシーが高くない組織の中で、グループ約10社から総勢20〜30名の推進委員を選出。週1回の事例共有や勉強会を通じて、否定的な層へのサポートを行い組織を巻き込んだ

3年かかる開発を10ヶ月に短縮。1,000名規模の議事録工数もゼロに

Q. 生成AIの本格導入後、どのような定量的・定性的な成果が得られましたか。

A. バイブコーディングによる開発の大幅短縮に加え、会議ボットや音声テキスト変換により、現場の定性情報をデータ資産化しつつ大幅なコスト削減を実現

林さん: 自社システムの基盤開発において、バイブコーディングの導入が非常に強力な推進力となりました。厳格なルールに基づく基盤構築にはおよそ3年かかっていたはずですが、今年に入ってからわずか5名のエンジニアチームで開発を進め、およそ5ヶ月で全体の5割を完成させるという驚異的なスピードを実現しています。従来のスピード感とは比較にならないほどの成果です。

また、一般社員の業務においても会議のあり方が根本から変わりました。我々が開発した会議ボットが主要なWeb会議ツールに自動で参加して音声をテキスト変換し、要約した内容をカレンダーに自動で返してくれます。議事録をとるという行為自体がなくなり、参加者全員が議論に集中できるようになったため、会議の効率と質が圧倒的に高まりました。

さらに、営業活動などの現場仕事においても大きな変化がありました。音声テキスト変換の精度が向上したことで、これまで担当者次第でブラックボックス化していた現場での会話記録などを定性データとして蓄積できるようになり、非常に価値のある資産となっています。

内製化のコストメリットも大きく、普通なら市販のツールを使うであろうOIDC認証基盤まで自前で作ったことで、1アカウント数千円かかるところを大幅に抑えつつ、厳格なセキュリティを実現しました。案件管理ツールでもAIにデータをサマライズさせ、アドバイスをもらう補助的な役割として機能させています。

「AIの自動化によるシンギュラリティ」を確信し全社推進を即決

Q. AI活用に着手された直接の背景や動機について教えてください。

A. 店舗販促支援の3領域で生産性向上を推進する中、AI同士がエージェント化する未来を確信し、全社推進を即決

林さん: AI活用に着手した最初のきっかけは、ChatGPTが登場した時でした。自分が質問したことに対し情報を高い精度で返し、自分よりも圧倒的な情報量を持っていることに驚愕し、すぐに「いずれ生成AI同士が会話をしてエージェント化していくだろう」と直感しました。「率先して進めなければ絶対に生き残れない」という危機感から、できる限りのことを先にやろうと決意し、早い段階から強烈にAIを社内に浸透させる努力を始めました。

Q. 導入当初、解決したかった具体的な課題はありましたか。また、社内での本格的な業務活用がスタートした時期について教えてください。

A. 当初は明確な課題よりもAIの進化検証を優先し、PR目的の自社システム実装を経て、2024年後半から社内AIシステム「Colabot」を展開

林さん: 実は、導入当初に解決したかった明確な課題は特にありませんでした。当時は生成AIが何に使えるのかがまだわからず、大量のデータを投げ込めば素晴らしいサマリーが返ってくる理想的なシステムだと思って試したものの、初期はそこまで期待通りの成果が出なかったのです。しかし、日進月歩でバージョンが上がるたびに読み込み量もクオリティも向上していくため、将来的には劇的なブレイクスルーをもたらす技術だと確信していました。

最初に実務へ組み込んだのは、我々が提供しているクラウドPBXという電話システムへの音声テキスト変換機能の実装でした。当初は精度に課題があり手探りでのスタートでしたが、世の中に対して「当社はAIを活用しています」とPRしていかなければ企業の価値が毀損してしまうという危機感があり、まずは外部向けのソリューションとしてAIを取り入れるところから動き出しました。

その後、社内への本格的な展開は、2024年7月に全社へAI活用の案内を出したのが始まりです。同年10月から11月頃には、誰でも生成AIが使える環境として「Colabot」を自社開発してリリースし、まずはボットを作ってヘルプデスク的に共有できる仕組みからスタートさせました。

バイブコーディングの1人1アプリ体制と入力工数ゼロの自動記録基盤

Q. 複数のAIモデルが存在する中、全社員が活用できる環境をどのように低コストで構築し、どのような体制でシステムを開発していったのでしょうか。

A. 複数のLLMをAPIで繋いだ従量課金の自社システムを開発し、バイブコーディングの特性に合わせた1人1アプリのアジャイル体制を採用

林さん: 生成AIが加熱してきた約2年前の段階では、Gemini、ChatGPT、Claudeのどれが最も強いのかが拮抗しており、1つに決めきれませんでした。そこで、すべてを使えるようにしようと考え、「Colabot」という基盤を自社開発しました。従業員全体で1,000名を超える規模のため、APIで繋いで従量課金制にすることで、使わない人の分の無駄なコストを発生させず、誰でも生成AIを利用できる環境を構築しました。

開発体制については、現在チームでの開発を行っていません。バイブコーディングはチーム開発が非常にやりにくいという特性があるため、1人のエンジニアが1つのアプリを作るという体制をとっています。各自がスケジュールを立てて開発し、完了したらすぐにPoCを始め、現場から要望を受け取って改修を入れるというアジャイル的な流れで開発を進めています。

Q. 営業活動のデータを集める仕組みとして、どのようなシステム連携を行いましたか。

A. 独自のカレンダーや会議ボットを連携して行動情報を自動記録し、認証基盤の内製化とMCPのような仕組みで機密情報を守りながらデータを活用

林さん: これまでSFAなどの営業行動管理ツールは、入力に工数がかかるため運用に乗らないという大きな課題がありました。これを解決するため、仕事の起点となるカレンダーを自社開発しました。そこに国税庁の法人データや大手名刺管理サービスの情報を連結させ、さらに主要なWeb会議ツールに参加する会議ボットを繋ぎ込むことで、「誰が・いつ・どこで・何の話をしたか」が自動で記録されます。みんなに工数をかけさせず、いつの間にか記録が取られている動線上の仕掛けを作りました。

セキュリティ面では、いくらシステムが増えても管理が煩雑にならないよう、OIDC認証というシングルサインオン基盤まで自前で開発し、共通の業務アカウント一つで全てログインできるようにしています。外部に機密情報を保有されるリスクを排除し、自社で無制限に活用できるようにしました。現在は学習用のLLMを作るのではなく、MCPのようなイメージで、テキストで質問するとAIがカレンダーなどの自社データを取りに行って回答する仕組みを整えています。

情報漏洩の懸念を独自システム開発と推進委員会の伴走で突破

Q. ITリテラシーが高くない組織において、初期段階からどのようにメンバーを巻き込んでいったのでしょうか。

A. 「AI活用推進委員会」を発足して地道な勉強会を実施し、学習データに利用されない独自システムを提供することで心理的ハードルを下げた

林さん: 弊社の社員は元々ITリテラシーが高いメンバーばかりではありませんでした。「生成AIなんて」と思っている人もいる中で、グループ会社約10社から総勢20〜30名を集め、「AI活用推進委員会」を発足しました。各社に担当をつけ、当初は週に1回の全体会議で事例を共有し、状況に合わせた教育を行っています。

AIに否定的な方々が最も懸念していたのは、「会社の機密情報が外に漏れるのではないか」ということでした。その不安を排除するために開発したのが「Colabot」です。「この自社システムならAIの学習に使われないので、企業秘密を入れても問題ないですよ」と案内することで、AI活用に対する心理的なハードルを大きく下げることに成功しました。

Q. 社員の年齢層や職種によってAIの受け入れ方に違いは見られましたか。

A. 若手や企画・営業職は積極的に活用する一方、ベテラン層への浸透に課題は残るが、潜在的な利用を含めれば目標の7割に到達

林さん: 職種で言えば、プランニング担当や資料作成が多い営業のメンバーは年齢に関係なく非常によく使ってくれていますし、新卒などの若い世代ほど積極的に触ってくれています。一方で、長年既存のフローで業務を行ってきたベテラン層ほど、今までのやり方や価値観からの転換が難しく、活用が浸透しにくいという実態があります。

我々はITベンチャーではないのでKPIとしては全社の活用率7割を目指していました。実際のColabotの活用結果としては半数程度にとどまっていますが、半数の社員が使ってくれていると考えれば、一つのボーダーは超えられたと捉えています。それに、「実は個人でAIツールを使っていました」という潜在的な層も含めれば、目標の7割には到達しているのではないかと考えています。

現場のデータを握るインフラ基盤となりSaaSの死を乗り越える

Q. 今後の展望と、経営層やDX担当者へのメッセージをお願いします。

林さん: 今後やりたいことの最終ゴールは、集めたデータを経営判断に直接活かすことです。開発しているシステム群を運用し、組織のボトルネックを可視化して的確な改善に繋げることで、今後いかに仕事や稼働が増えても耐えうる生産効率を最大化していくのが1つ目の展望です。

また、昨今「SaaSの死」と言われていますが、我々もSaaSを提供している立場としてネガティブには捉えていません。重要なのはインフラ基盤になることです。全国のラウンダーが登録してくれる現場のレポートなど、他社にはないリアルなデータとノウハウを無駄にせず活用できればSaaSであっても生き残れます。

経営層の方々には、積極的なAI活用推進をしなければうまく活用している企業に勝てなくなるという強烈な危機感を持っていただき、臆することなく突き進むべきだとお伝えしたいです。また、DX推進を担当されている方々は「上司が理解してくれない」という苦悩があると思います。ぜひ我々の事例を上司に説明し、「こんなことをやっている企業があるのだから、我々もやらなければ」という説得の材料として使っていただければ嬉しいです。

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