ゲスト
コンテンツ制作の付加価値を見極め、AIによる内製化を牽引する起業家!
株式会社イノーバ 代表取締役CEO 宗像さん
富士通、楽天、ネクスパス(現トーチライト、博報堂DYグループ)を経て、株式会社イノーバを設立。ペンシルバニア大学ウォートン校でMBAを取得。現在はデジタルマーケティング支援やAI活用ノウハウの提供、eコマース事業などを幅広く展開している。

この事例のポイント
- メルマガの開封率が低いという課題を解決する方法:生成AIを活用し、以前は17%を下回っていた開封率を3〜4倍に向上させた
- 既存システムとのシームレスな統合を実現する方法:Google Workspaceと相性の良いGeminiを基本とし、API連携の弱さからChatworkを廃止してSlackへ移行した
- 現場のプロンプトスキル不足という課題を解決する方法:Claude Codeを熟知するWeb制作バックグラウンドの副業人材を先生役に据え、スキルの見直しを図った
メルマガ開封率が3倍以上に向上。副業人材のスキルリストも自動生成
Q. AIの導入によって、定量・定性的にどのような効果や成果が得られましたか?
A. 17%未満だったメルマガの開封率が3〜4倍に向上し、社内人材のスキル可視化によるプロジェクト編成も実現
宗像さん: わかりやすい成果は、メルマガの開封率が劇的に向上したことが挙げられます。生成AIを活用することで、メルマガの文面バリエーションを作成するスピードが格段に上がり、施策における試行錯誤の回数を大幅に増やすことができました。その結果、AI導入前の平均開封率は17%を下回っていましたが、現在では3倍から4倍近くにまで達しており、明確な効果を感じています。他の施策を含めた効果測定の面でも、人数がそこまで多くないため各部署がどんな使い方をしているのかは割と見えており、全社的な手応えを掴みやすい状態にあります。
また、業務効率化以外のユニークなユースケースとして、社内の人材のスキルセットを可視化し、部署横断でのプロジェクト編成に役立てています。当社では社員が担当部署以外の領域でも得意なことややりたいことを実現できる仕組みを推進しているのですが、「誰がどんなスキルを持っているのか」「どんな仕事が頼めるのか」といった情報を、「Karpathy LLM wiki」と呼ばれる手法を用いて生成AIで自動的にリスト化しています。これにより、経験やスキルベースで高いパフォーマンスを出すためのプロジェクトを柔軟に組めるようになりました。
「作る」から「企画」へ。付加価値シフトの危機感から2ヶ月で全社展開を決断した背景
Q. 生成AIを本格的に導入した背景や、全社展開へ踏み切った理由について教えてください。
A. コンテンツ制作の危機感から導入し、外注を内製化できる水準に達したと判断して2ヶ月で全社へ展開
宗像さん: 導入は3年前(2023年)くらいからです。当時、Claudeの日本語がかなり精度が良くなってきていた時代で、生成AIの可能性に気づき、早めに使っていこうとなったのがきっかけです。
弊社はもともとコンテンツ制作の会社なので、以前は制作そのものに時間をかけていました。しかしこれからはChatGPTなどの生成AIを使えば「作る」ことはすごく楽になり、企画や戦略、ディストリビューションが重要になります。製造業におけるスマイルカーブの考え方にかなり近く、作るところからどうやって違う部分に付加価値をシフトさせるのかが重要であり、そこをやりきれないと会社が潰れるかもしれないという強い危機感がありました。
導入から2ヶ月ほどで全社展開にした最大の理由は、生成AIの性能がコンテンツ制作の部分を外注ではなく内製に切り替えられる基準を超えたと思ったためです。「だったら使った方がいい」と判断し、緻密なROIの計算などはせず、感覚値で一気に進めました。
Geminiを基本としClaude Codeで補完。AIの活用フローをどのように整備したのか
Q. 社員の皆さんはどのようなツールを使い、どのような業務フローでAIを活用されているのでしょうか。
A. Google Workspaceと相性の良いGeminiを基本としつつ、API連携の強いSlackへ移行して業務を統合
宗像さん: AI推進専任のチームは置かず、活用のガイドラインやルール決めは情報システム部門に持ってもらっています。その上で、活用の促進や推進については私がリードしながら各部署と連携して進めています。AIは全部署で使っており、GeminiやClaude、ChatGPTなどさまざまなパターンを試しました。現在はGoogle Workspaceとの相性の良さからGeminiを基本としつつ、不足する部分をClaude Codeなどのエージェンティックなツールで補って併用しています。
具体的な作業フローとしては、お客様向けのコンテンツ制作の土台やミーティング用の資料作成などでAIを活用しています。インプットするデータは、ケースバイケースで多岐にわたるため一概には言えませんが、例えばSEO目的で検索キーワードや検索回数などのデータを読み込ませてレポートのベースにするなど、各自が元となるテキスト情報や不足しているデータをAIに読み込ませています。
そこから構成案を作り、最終的にスライドに落とし込むまでのフローも目的によって様々ですが、基本的には「①データをAIに解釈させる」「②その内容を基に、AIにグラフ化や資料化をさせる(構成を作らせる)」といった手順を踏み、最終的な形に仕上げていくような使い方です。当社はテキスト情報を扱うケースが多いため、事前の複雑なデータ加工や整形はあえて行わず、そのままAIに投げてアウトプットを出してもらうシンプルな使い方が中心です。
また、特に効果を感じているのが、ManusやClaude Codeなどのエージェント型ツールの活用です。一般的なチャット型AIのように人間が細かく指示を出し続けなくても、エージェント型AIであれば自律的に作業を進めてくれます。そのため、最初の指示を渡すだけで、あとはAIに任せておけば「完成度8割」レベルの資料をあっという間に仕上げてくれます。この手軽さとスピードには非常に大きな効果を感じています。
また、ツールの選定基準として既存業務とのシームレスな統合を重視しています。当社はGoogle Workspaceを全面採用しているのでGeminiに寄せたという背景があります。また、ChatworkはAPIがSlackよりも弱いため、全社でSlackに乗り換えました。Botを活用して返信をSlackで受け取るなど、API連携を重視した結果です。
プロンプトの壁と外部研修の失敗。人や組織ではどのように推進をしたのか
Q. 全社に推進する上でぶつかった壁や、それをどう乗り越え定着させたのか教えてください。
A. プロンプトの壁は社内の知見者を「先生役」に抜擢して見直し、自発的に学ぶ社風によって定着させた
宗像さん: 推進にあたっては、いくつかの壁に直面しました。1つ目は、社員のプロンプトエンジニアリングスキルのばらつきです。AIからの出力結果が毎回異なったり、意図した通りの回答が得られなかったりといった課題が生じていました。これに対しては、LLMの仕組みやプロンプト作成のコツをまとめたマニュアルを用意したことに加え、全社的な勉強会を複数回実施しました。さらに、導入初期にはプロンプトライブラリを整備して社内共有することで、全社のスキル底上げを図りました。こうした地道な取り組みの結果、現在では社員が一通りのスキルを身につけ、ライブラリが不要になるほどに成長しています。
2つ目は、制作工程の短縮に関するハードルです。通常、ディレクター、デザイナー、コーダーという順序を踏みますが、AIを活用して一気にコーディングまで工程をスキップさせようとしたところ、現場への適応に難しさを感じました。そこで、Web制作のバックグラウンドを持ち、実務で「Claude Code」を高度に使いこなしている社内人材を推進のリード役に抜擢しました。現在、そのメンバーを中心に、どの工程をどう見直すべきか具体的な検証を進めている最中です。今後の方向性としては、Agentic(自律型)なツールを活用して資料作成をさらに効率化したり、自社でのプログラム開発を推進して、確実性が求められる「決定論的な処理」と「生成AI」をうまく組み合わせたりしていく形が、ひとつの理想の姿ではないかと考えています。
教育面においては、外部のAI研修を導入したこともありました。しかし、当社では日頃からの情報共有によってすでにスキルが高まっていたため、受講した社員からは「内容の8割は既に知っていることだった」という声が上がり、結果として期待した効果が得られないという失敗もありました。
全社展開において後ろ向きな反発は特にありませんでしたが、産休や育休から復帰した社員が環境の変化に戸惑わないよう、過去のAI関連資料はすべてクラウドドライブに格納し、いつでもキャッチアップできる体制を整えています。当社はリモートワークが中心のため、「短時間で効率よく働こう」という意識が根付いています。この組織文化こそが、AIが全社に定着した最大の要因だと考えています。
今後の展望:高額なSaaSツールからの脱却と、オープンソースへのシフト
Q. AIが日々進化する中で、今後のAI活用の展望をどのようにお考えですか。
A. 米国のトレンドを冷静に見極め、高額なSaaSからオープンソースへのシフトによるコスト最適化に挑戦
宗像さん: 今後の展望としては、業務内容をシビアに見極め、付加価値を生まない工程は徹底的に自動化を進めていきます。さらに一歩踏み込み、AIを活用した自社でのソフトウェア開発にも本格的に取り組んでいきたいと考えています。
これから生成AIの活用を進める企業の担当者様にお伝えしたいのは、「米国の最新トレンドに対して、半歩引いた視点から冷静に見極めること」の重要性です。例えば最近のUber社では、「エンジニアが膨大なトークン(コスト)を消費してAIを活用しているにもかかわらず、ユーザーへの付加価値向上に繋がっていない」として、AI活用の方針が見直された事例があります。米国企業は良くも悪くもファーストペンギンとして先行実証を行ってくれますが、その動向をそのまま鵜呑みにしてしまうと本質的な目的を見失いかねません。常に批判的な視点を持ち、自社に最適な形で取り込む姿勢が求められます。
最後に、現在当社では自社サービスの開発を進めていますが、AIがこれほど高度なコードを記述できる時代において、高額なSaaSツールへの依存から脱却し、オープンソースへのシフトを通じてコスト最適化を図るという新たな挑戦を行っています。こうしたオープンソース化によるコスト削減の取り組みにご興味のあるお客様や、パートナーとして共に挑戦していただける企業様がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけいただきたいと考えております。